第43話 シナリオ6 追憶の旅・火 温泉街の熱血漢⑤
ユノタマ二日目の朝。
俺は本日一緒に回ることになるメンバーとビュッフェスタイルの朝食を取っていた。
広い朝食会場の端の方でナギサ、ホクトさんと共に丸テーブルを陣取り、お祭りのパンフレットを広げる。
ここに来る前にフロントで入手したパンフレットにはイベントの時間と場所が記載されていた。
指定された催しは全部で4つ。それぞれ入賞者には賞金と豪華景品が用意されている。
・金魚すくい
・射的
・くじ引き大会
・アスレチックレース
前の3つは町の中心部にある広場、特設会場で午前中に実施される。
午後のアスレチックレースはこの町を舞台にした大がかりなもので、これがメインイベント。午前3つの賞金額を合わせたものよりもこの1レースの賞金額の方が大きい。
二人の視線を集めつつ、俺が説明する。
「4人チームで全競技に参加申し込み済。レースは4人全員のリレー方式だから全員参加。午前の競技は代表者1名が参加することになる」
「射的と金魚すくいは分かるけど、くじ引きって何するの?」
「ええと……温泉に浮かぶ数多のボールの中から一つを選ぶ。そのボールの中に数字の書かれた札が入っていて数字が大きいチームが入賞、だってさ。数字が書かれていない札が入っていれば残念賞。確かに運のゲームだな」
「なーるほど」
パンフレットの説明を読み上げたところで、ミヨが皿を持って戻ってきた。召喚獣の腕も使って一人で4つの皿を持っている。なかなか便利だ。
「取って来たよ~」
俺の皿にはスクランブルエッグとソーセージにクロワッサン。
普段、実家の朝食は、自家製野菜とご飯とみそ汁という組み合わせばかりなのでこういう時は全然違うものを食べてしまう。あるあるだと思います。
注目すべきはホクトさん。ソーセージや肉が山盛りになっている。
山盛りお肉を次々と胃袋に送り込む様子を見つつ、俺は提案した。
「午前中の競技、参加希望はある?」
「私は金魚すくいかな~得意だし」
ナギサの声に頷く俺とミヨ。魚系には強いのがナギサだ。
「んぐ……。私は射的なら多少の自信があります」
「へぇ。じゃあ射的はホクトさんにお願いしようかな」
「お任せください」
となると、残りのくじ引きは俺か?
「くじ引きはトオルくんが出る?それとも私?」
「トオルは引きが弱いから、ミヨの方がいいかもよ?」
「おい。お前今何見て言った?」
ナギサが俺の浮遊眼をチラ見したのは分かってるぞ。口笛吹いて誤魔化そうとしても無駄だ。
「分かった。俺が出る」
「いいの?」
「ああ。俺の本当の運を見せてやる」
ということで午前の参加者が決定した。あとは午後のレースについて。
「コースの情報も詳細に書いてある。ご飯食べたら、広場へ向かう前にコースの下見をしよう」
街の名所がそのままコースの一部になっている。
午前の競技開始まで、観光も兼ねて少し散策するくらいの時間はある。
「総合優勝はホテル無料宿泊券。準優勝が宿泊半額割引券で3位が10%割引券。使う部屋に条件はなし。スイートルームでも使えるみたい」
伝統を守りつつ町おこしを目的とした祭り。雑誌の記載以上に盛り上がりそうだ。
食事を終え、朝食会場を出る。そこそこ長居してしまったが、その間アラタたちチーム一行は来なかった。予知情報、聞いときたかったんだけどな……。
「第8回 ユノタマ祭りを開催します!」
特設ステージの上、この町の町長さんが開会を宣言するのを、ステージ前に集まった参加者は聞いていた。
参加するのは全30チーム。
もともとは28チームのところを、前日に2チームねじ込んだことでキリの言いチーム数になっていた。これ、絶対最初から仕組まれてたな……
最初の競技、金魚すくいが開始される。
60秒間にすくった金魚の数で順位が来まる。なお、この競技では召喚獣を利用することは禁止。術を使うのも禁止。
あくまでも生身の技術を競うことになっている。
5チームずつまとめて行われ、俺たちのチームはチーム番号29なので6ラウンド目に競技を行う。なお、チーム番号30はアラタ達のチーム。
「よーし、久しぶりに本気を見せるよ!ちょちょいのちょいで優勝よ!」
「頑張って、ナギサちゃん!」
ミヨの応援を背にステージに上がるナギサ。アラタのチームは早速登場のイブリスくん。
腕まくりしてポイを構えるナギサは凄く真剣な表情だった。
司会進行役のお姉さんが
「では最終ラウンドです。これまでの最高記録は25匹。果たしてこの記録は破られるのか!?早速カウント始めます。3,2.1.開始!」
一斉に動き出す参加者たち。全員ものすごいペースですくっていく。
ナギサが凄いのは知っていたが、他の4名も負けてはいない。1,2秒で一匹捕まえている。
「あっ」
20秒程度で声を上げた参加者がいる。目に見えてペースダウンし、優勝争いからは脱落だ。
「残り10秒です!」
司会のお姉さんの声に追い込みをかける残り4人の選手たち。いい勝負だ。
「3,2,1.終了です!ポイを水から出してください」
係員によって集計され、結果が公表される
「結果発表です。1位は……チーム番号29!記録は33匹です。おめでとうございます!」
本当に1位を取った。
網元の娘は伊達ではない。魚の扱いはお手の物ということか。
発表を聞いて、チームの女子3人はぴょんぴょんしながら喜んでいる。見ていて楽しい。
「2位は……チーム番号30!記録は28匹です。おめでとうございます!」
アラタのチームも順調に2位。
イブリスくんもかなりの腕前だった。
「次の競技では負けない!」
気合を入れ直している。……次の競技も彼がでるのだろうか?
競技を終えると、各チームにポイントが入る。
1位のチームに10ポイント、2位のチームに9ポイントと入っていき、10位以降はゼロポイント。
4つの競技を全て終えた時ポイントで総合成績が決まる仕組みだ。
「30分後に次の競技を始めます。参加者の皆さまは10分前までに集合願います」
司会のお姉さんの言葉に、周囲の観客は散らばっていく。
ナギサが俺に向き合って胸をはる。
「どんなもんよ」
「凄い。マジで優勝するとは」
「むふー」
俺の左腕に抱き着いてくるナギサを受けとめる。
「あ、私も」
どさくさ紛れに逆の腕に抱き着いてくるミヨ。
「労ってくれてもいいんだよ。あ、あんなところにリンゴアメがあるね」
「分かった分かった。奢るよ」
「私も!」
俺たちは短い自由時間を利用して会場周辺の出店を散策することにした。




