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第41話 シナリオ6 追憶の旅・火 温泉街の熱血漢③

アラタは次の目的地を告げた。


「二つ目の封印は火の封印。王国の南、ユノタマだ」


聞いたことがある。

年配の方が選ぶ一度は訪れたい観光地。温泉街として有名だ。


「来週末、王都を経由してユノタマに向かう。1日での移動は大変だから、王都で一泊する。王都での宿はサクナ様にお願いしてある」

「王都!楽しみだなぁ」


ナギサの声がいつもより高い気がする。興奮しているようだ。

田舎者にとって王都は憧れ。気持ちは分かる。


「残念だか観光するような時間はないぞ。夕方到着したら宿で寝るだけだ」

「それでも、王都のホテルに泊まれるんだよ?どんなところか想像するくらいいでしょ?」

「まぁ、期待はできるよな……って、また話がそれてるぞ。封印の話だ」


アラタの視線を受け、アイギスさんが口を開いた。


「火の封印は山の中、洞窟内にあります。元々はユノヤマという町で、そこの源泉近くに封印の祠が作られたんです」

「1000年で名前がユノヤマからユノタマに変わったのか」

「ええ。なつかしい響きです」


ミヨが興味ある、という様子でアイギスに質問を投げる。


「アイギスも1000年前に温泉に入ったの?」

「はい。当時は温泉街というわけではなく、小さな小屋があるだけでした。源泉から流れ出るお湯を渓流の水と混ぜ合わせて……自分用の温泉を自作して入るんです。当時の仲間の一人が湯治のために滞在していました」

「湯治って歴史長いんだね」


ナギサが感心している。


「今は湯治よりもエンタメ的な温泉街としての方が有名だ。シェリーさん、例の本を」

「はい」


シェリーさんが少し大きめの雑誌を取り出した。

【れれべ増刊号 一度は行きたい温泉特集】


「旅行本じゃないか」

「1か月前に発行された最新版だ。この情報は役に立つ」


テーブルの上に雑誌を広げる。


ユノタマは堂々のランキング第1位。

前半に特集ページが組まれている。


温泉街の地理、食事処、特産品。

一番ページを割かれていたのは、当然ではあるが温泉について。

温泉宿も掲載されていた。


「ユノタマホテル。有名なところだよね」


街でもっとも大きくて立派なホテル。大浴場の大きさも桁違いで毎日のように何かしらのショーイベントが開催されていることが掲載されていた。


「やり手の先代社長が規模を急拡大、数年前に引退し跡を継いだ現社長の元で経営は安定。現社長は有名なマジシャンでもある……凄い人たちがいるもんだね~」

「うわ、社長すごいイケメンだ。お金持ちでイケメンって最強じゃん」

「雰囲気は違うが、状況はアラタに似てるな」


社長の写真はたれ目の二枚目系イケメン。

キリっとした王子様系のアラタとはちょっと違う。


苦笑したアラタは続ける。


「王族の伝手を使ってユノタマホテルに宿を取った。街のお偉いさん達との会合にはきっとこの人もでてくるだろう」

「ほんと?サインもらわなきゃ」


ミヨとナギサは盛り上がっている。


「で、重要なのは封印の場所だ」


アラタは付録の地図のページを開く。


「ええと、川の位置と山の位置から考えると……この辺り、だと思います」


アイギスさんが示したのは街はずれ。とはいえ、風の封印にように町の外にあるのではなく、町の中だ。

近くには温泉宿があるようだが、特にその宿に関する情報等は【れれべ】には書かれていない。地図には旅館の名前だけが記載されていた。


「温泉宿の名前は希望館か。封印の近くってことは、もしかすると勇者の仲間の子孫が経営してたりするのかな?」

「お、鋭いなトオル」


アラタが俺の呟きに反応した。


「俺の予知だと、この小さな宿にいる少年が封印に重要な役割を果たす。具体的には火の封印における巫女のバックアップが、この宿の人物になる、はずだ」

「へー。1000年も封印を守ってたんだ。凄い忠義心だね」

「勇者に対する忠義なのか、将来訪れるであろう巫女のためなのか、単純に温泉が気に入ったのかは分からないが、何十代にもわたってその場で暮らすっていうのは確かに凄い」

「……私にとってはほんの少し前のことですが、そうですよね。1000年意思を繋ぐのは凄いことなんですよね。ありがたいです」


しんみりした様子のアイギスの頭をアラタがぽんぽん叩く。

ナチュラルにそんな行動を取れるとは、アラタ、いつのまにそんなテクニックを……!?


「んんっ!」


そんなアラタに対して咳払いをしたのは……シェリーさん!?

もう彼女に手を出したの?


色々とアラタの悪事が垣間見れるが、とりあえず触れないことにした。


「で、ユノタマについてからの予定は?流れとしては前回と同じ?」

「基本的にはそうだ。街の重要人物に話を通してから火の封印にて儀式を行う。その際、巫女のバックアップとして件の少年には協力を依頼する」


特に異論はない。頷くのみ。


「ん?」


雑誌を手に取って読んでいたミヨが声を上げる。


「どうした?」

「ちょっと気になることが……ねぇアラタくん。ユノタマに向かうのは来週末だよね?」

「そうだが」

「来週末、温泉街でお祭りがあるみたいだよ。観光客も増えるんじゃない?」

「気づいたか。そうだ。きっと人で溢れてるだろう」

「だったら、日にちずらした方がいいんじゃない?」

「いや。それはできない」


アラタはきっぱりと否定した。


「今は詳しくは言えないが、祭りのタイミングでユノタマに行くことが重要なんだ。そのつもりで日程を調整している」

「むむ」

「人が多いと不審者の判別なんかも大変なのはその通りだ。だけど、その分楽しいこともある。期待してくれ」

「ま、アラタがそういうなら大丈夫だろ」


俺の言葉にミヨも頷いた。


「そういうことだから、来週迄に各自遠出の準備をしておくように。王都で1泊、ユノタマで2泊。帰りはポータルを使うから、必要なのは3泊分。あと、防寒着と動きやすい服装を忘れるな。それなりの標高にあるから寒いぞ」


そこで作戦会議は終了。


もう少しゆっくりしていくという皆を置いて、俺は一足先にナギサと二人でアパートを出た。ミヨの家はすぐそこだし、アラタの家もここから近い。一方で俺達二人の家はここから少し遠い。暗くなる前に帰るためには仕方ない。


外は薄暗くなっていた。もう夏が終わり秋の気配が近づいている。

手を握ると嬉しそうにするナギサを家まで送る。

帰り道、旅行用品を一緒に買いに行く約束をした。温泉旅行、楽しみだ。


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