第38話 シナリオ5 追憶の旅・風 飛ばない翼人 ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ5 追憶の旅・風 飛ばない翼人 公式ストーリー
王国各地にある古の祠を巡る主人公たち。
祠は、火、水、風、土の4つが存在する。
だが、その祠がどこにあるのかアイギスも覚えていなかった。
封印の場所が分からない。途方に暮れる一行に対し情報を与えたのはイサナ王女だった。
風の祠が嵐の渓谷にあるかもしれない。
始まりの町から北へ進んだところにある嵐の渓谷には、少数部族の翼人が暮らしている。藁にも縋る思いで渓谷へと向かった一行は翼人から手荒い歓迎をうけた。
移動力が高く統率のとれた翼人に梃子摺る一行だが、アイギスの説得により休戦。
翼人の若き知恵者シェリーを助けたこともあり、シェリーが案内人となり、封印の地を案内してもらえることになった。
無事に封印の儀式を終えた一行は、過激派の翼人たちの襲撃を受ける。
地形の高低差を巧みに利用する翼人たちに対し、主人公隊は苦戦。
味方唯一の翼人であるシェリーにこの事態を突破する期待がかけられるが、シェリーは首を横に振った。
不幸な墜落事故で両親を亡くしたシェリーは飛ぶことに恐怖を覚えるようになっていた。その分、本に傾倒したことで部族でも有数の頭脳を得るにいたったものの、この状況では役に立てない。
自身の無力を嘆くシェリーに主人公は語る。
諦めなければ、努力は実を結ぶと。
主人公は、夜中にシェリーが飛行練習しているのを見ていたのだ。
勇気を出して飛んだシェリーのおかげで窮地を脱した主人公一行。
過激派を下して無事集落へ戻った主人公たち一行は、一泊して町に戻ることになった。
街に戻る際、シェリーがついてくると言い、族長はこれを許可。
主人公たち一行は心強い仲間を得た。
上記が、俺、ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ5のあらすじである。
最初の封印である風の封印に関するイベントの途中で、味方の軍師的役割を担う翼人・シェリーが仲間に加わる。
翼人はゲーム中では編成必須キャラクターと言ってよい。
S-RPGで障害物や段差をある程度無視して移動できるのだから、様々な場面で役に立つ。
シナリオ上必ず加入するシェリーのステータスは凡庸。防御関連パラメータが高めで、ゲームデザイン上は、敵をバッタバッタと倒すようなエースキャラではなく、軍師キャラを想定していたと思われる。
たしかにゲーム1週目ではシェリーは戦闘では役に立たないが、2週目以降は話が変わる。
シナリオとは無関係のフリーバトルと一週目で集めたレベルアップアイテムでシェリーのレベルを上げ、クリア特典のアイテムを装備させれば、早い、堅いキャラの出来上がり。
防御特化型の召喚獣のため、殲滅力は他キャラに劣るものの、単独で放置してもなかなか落ちないバッファー兼避雷針と考えれば、価値は高い。
ゲームではシェリーとの出会いは放課後の学校。
主人公たちが協力者を見つけるために訪れた翼人の学校で、不良たちに襲われているのを助けるのがきっかけとなる。
そう思って学校に行ったところ、シェリーを教室で確保することができた。
その場でシェリーの口から出た親友の名前がホクト。最初は嘘だろと思った。
このホクトというキャラクター、コールワールド中では敵役である。
不良たちをけしかけてシェリーを襲うシナリオ5の中ボス。それがホクトだ。
トオルにホクトの確保をお願いした後、改めてシェリーに話を聞いてみると、ゲームとは違いシェリーとホクトは親友らしい。
シェリーの両親が亡くなる事故はホクトの両親が仕組んだ、というシナリオだったはずだが、この世界では違うようだ。
シェリーとホクトの外見はゲームと同じ。
すなわち、美少女だったシェリーはこの世界ではブス。ブスだったホクトはこの世界では美少女と認識されていることになる。
シェリーが襲われるイベントの代わりにホクトが襲われるイベントが発生したとみるのが妥当だろう。
ただ、これだけではまだ完全には安心できない。
ホクトは学校での襲撃失敗を親の権力を使ってもみ消し、封印の儀式後に過激派たちを率いて攻めてくる。ホクトの行動に裏がある可能性はあるのだ。
助けた翌日、早朝に宿屋のロビーに降りると、シェリーとホクトが俺達を尋ねてきていた。
早速近寄ると、ホクトの方が積極的に話しかけて来た。
「昨日はありがとうございました。あの、昨日私を助けていただいた方に改めてお礼をと思いまして……」
「ああ、トオルのことですか?もうすぐ降りてくると思いますよ」
二人とともに、ロビーの端から移動できる食事処へ移動。
ロビーが見渡せる位置にあるテーブルに陣取る。注文を取りに来た店員に飲み物を注文する。
「果物ジュース3つお願いします」
「あ、すいません。お金は私たちが出します」
「気にしないでください。わざわざ訪ねてきてくれたのですから、これくらいは」
「いえ、そういうわけには……」
ホクトが財布を取り出そうとしたので止めつつ別の話題に誘導する。
「では、この街の名物というかおすすめの食べ物教えてください。このジュースはその報酬です」
「ありがとうございます……そうですね、このクリムベリーはオススメですよ。足が早くてこの街周辺でしか取れない果実です。美味しいですよ。ぜひ食べてみてください」
「いいですね」
ジュースを持ってきた店員さんにクリムベリーを3人分注文。
クリムベリーが出てくるころ、トオルがロビーに姿を見せた。
「あ」
目ざとくトオルを見つけたホクトが小さく声を上げた。
俺は手を上げてトオルを呼び寄せる。
「えっと……?」
「昨日はありがとうございました」
「あ、うん」
立ち上がり深々と腰を折った二人を前に困惑しているトオル。
ナギサにもお礼を、ということなのでトオルを俺の隣に座らせて4人で世間話をする。
話ながらホクトのターゲットをトオルに誘導。トオルの武勇伝を多少の誇張込みで吹き込む。
同時に俺はシェリーへのアピールも忘れない。
都合よくトオルが下りて来たので、話に加わらせる。あんまりやりすぎるとミヨやナギサに恨まれるから、加減が大事だ。
儀式後の過激派たちの襲撃は起きなかった。
ホクトは白だと思っていいだろう。
このシナリオでやるべきことはほぼ達成したものの、一つ重要なことが未達成だ。
それは、シェリーが飛べるようになる、ことだ。
現在シェリーは両親の事故のトラウマにより飛ぶことができない。
本来のシナリオでは、過激派たちの襲撃から逃れるためにそのトラウマを克服し飛ぶという場面があるのだが、襲撃イベントそのものが発生していない。
飛べないからと言って今後のシナリオに不都合が出るということはないが、それでも正規シナリオから乖離していることは間違いない。
この点は何とかして対応する必要がある。
さて、街を出る前にシェリーとホクトを仲間に誘うことにした。
面食らった顔をしていたが、ホクトの方が乗り気で、シェリーはホクトが行くなら、という感じだった。
親御さんの説得には、王女からの手紙と、Sクラス召喚獣持ちという立場をフル活用。
町の有力者であるホクトの親はすぐに首を縦に振った。
出発前にトオルとひと悶着あったが、結果は変わらない。
帰りの馬車の中、シェリーはアイギス、シオン、アザミらと少しずつ仲良くなっているようだった。
同じ悩みを持つ仲間だと思っているのだろう。女の子がキャッキャウフフしているのを見るのは眼福である。
ちなみに、ホクトは馬車の外でトオルの横を飛んでいる。
あっちはあっちで上手くやっているようだ。
俺は心の中でシェリーと関係を深める作戦を考えながら、皆の会話に相槌をうった。
本来のゲームシナリオから少しずつ乖離していきます。




