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第35話 シナリオ5 追憶の旅・風 飛ばない翼人③

あれから2週間。俺達は襲撃を受けていた。


「おいアラタ、サクナ様が話をつけてくれてるんじゃなかったのか?」

「手紙にはそう書いてあった。どういうことだろうな?」

「聞きたいのはこっちだよ」


馬車の御者台とその脇で会話する俺達に、少し離れたところからクレームが入る。


「お前ら!真面目にやれ!」

「はいはい」

「わかりました~」


叱咤の声を上げたのはタクミ。

俺達は嵐の渓谷の近く、翼人の集落へ続く道を馬車で進んでいる際中に翼人達に襲われていた。


先週ポータル起動のためにアイギスさんが眠っていた社に立ち寄った際には襲撃はなかった。

こっちで襲われるとは思わなかった。


ナギサとシオンが防御術で味方を守り、タクミとアザミ、ヒジリさんが襲撃者たちに相対している。

翼人達は空中を自由に移動し、上空から矢を放ってくる。正直うざい。


ヒジリさんの召喚獣・機動要塞が撃ち落としているが障害物を盾にされる等、野生の獣や野盗とは違い相手も訓練されているのが分かる。上手く連携してくるのでなかなか梃子摺っている。

とはいえ、襲撃者とこちらの力量差は明白。時間はかかったものの敵を全て排除することができた。


タクミの召喚獣も遠距離攻撃用の術を覚えたようで、召喚獣が剣を振るうとそこから直線状に斬撃が飛んでいる。ただ、燃費が悪いのか数発で息が上がっていた。


「こいつら何者だ?」

「翼人の集落の奴らでしょう。……オイ、起きろ!」


気絶している翼人の一人をヒジリさんが起こす。

目を覚ました翼人は暴れたが、拘束されていて逃げられないと悟り大人しくなった。


「お前らは何者だ?どうして俺達を襲う?」

「貴様らこそ、今更我らに何の用だ!1000年前の呪いを再び持ち込むのか?封印の巫女などもはや必要ない!」

「……どうやら色々と誤解があるようだが……」


アラタも困り顔。

翼人はそこそこ美人のお姉さまだが、口から出てくるのは俺達やアイギスさんを罵倒するような言葉ばかり。正直萎える。


「どうしよう」

「……」


困り顔のアラタと悲しそうなアイギスさん。


そこに、新手が現れた。

道の先から翼人達の集団が現れる。


「また敵か!?」


タクミが臨戦態勢に入るが、どうも様子がおかしい。

近づいてきた一団には敵意は見えなかった。


俺達に近づくと周囲で横たわる先ほど襲ってきた翼人達に気づき、リーダーと思われる年配の男性を筆頭に皆馬を降りて膝をついた。


「巫女様方ですね。お迎えに上がるのが遅くなり、誠に申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。こちらの方々は?」

「……お恥ずかしながら、我々の種族も一枚岩ではありません。巫女様たちは不要だと論じる者たちもおります。そういった一部の過激派です」


リーダーの指示で部下たちが気絶した翼人達を回収していく。


「で、貴方は?」

「申し遅れました。私は嵐の渓谷の守備隊を率いる者です。巫女様を街までお連れいたします」

「それはご丁寧にどうも」


タクミの返答にトゲがあるのも当然だ。

こっちが勝ったから良かったものの、負けていたらどんな目にあっていたことか。


一方のアイギスさんはにっこりと笑み?を浮かべた。

この中では一番幼い容姿だが、なんとなく母性を感じる。1012才は伊達ではない。


「わかりました。よろしくお願いします」

「はい」


馬車に乗り込むアラタとアイギスさん。

馬車をタクミとヒジリさんの乗る馬で挟み、それを翼人の警備隊が先導する形で俺達は翼人への集落へ移動を開始した。



翼人の集落は俺達の町とは見た目からして違っていた。

平野に建物が並ぶのではなく、大きな木が立ち並びその木の上にツリーハウスがいくつも存在していた。

空中回廊が整備され、地面に降りずに移動することもできそうだ。

勿論、木々の間に普通に地面に立っている建物も多い。


先導されて到着したのは、ひときわ大きな木に寄り添うように立つ大きな建物だった。


「ここは?」

「立派な建物だね。宿屋って感じでもないし……」

「役場かな?」


両脇のナギサ達と小声で話していると先ほどの隊長さんが近づいてきた。


「町長がご挨拶します。こちらへどうぞ」



隊長さんに先導されてアラタを先頭に建物の中へ移動。

思った通り、この建屋は役場だった。


会議室でこの町の偉い人達と会談。といっても基本的にはアラタとヒジリさん、時々アイギスさんがやり取りするのみ。俺達は後ろで置物のようにおとなしく待機。

タクミが時々自己主張しようとするのが少し鬱陶しい。


先方の話だと、この町の封印は少し離れた遺跡の中にあるらしい。

で、その封印を守る一族が存在した、と。


「その一族の方は今どちらに?」


ヒジリさんの質問に対し、町長が答えた。


「なにぶん、古い話でして。封印の一族と呼べるような者は残っておりません。この町の住人には皆一族の血が混ざっておりますが、儀式を補助できるほど濃い血筋のものは残っておらず」

「補助は出来ないと?」

「勿論、協力はいたします。ですがどこまでお力になれるかは分かりません」

「そうですか……」


ヒジリさんの声色は残念そうだ。

そこに、アラタが声を上げた。


「補助する方はこちらで指定させていただけますか?」

「それは構いませんが……」


町側としては、補助員を出すことは聞いており、事前に候補となる人物の選定もしていたみたいだ。

困惑する町長に対し、アイギスさんがアラタの言葉を補足した。


「私は封印の一族を判別することができます。私の封印術を補助いただくので、相性のいい方を選ばせていただきたい。この町で都合の良い方がいないか調べさせてください。見つかった方に儀式を手伝っていただきたいと思います」

「おぉ、巫女様はそういったことも可能なのですね!問題ありません。町としても協力いたします」

「ありがとうございます」


いくつかのやり取りの後、俺達は役場の外に出た。

外で待っていた隊長さんに、今度は近くの宿屋に案内してもらい、そのままチェックイン。


もう夕方。今日はゆっくりして明日協力者を探すのかと思ったら、アラタから招集がかかった。戦える恰好でロビーに集合。


集まっているのは俺、アラタ、ナギサ、ミヨ、そしてアイギスさん。

一旦馬車に戻る。この馬車は防音、傍聴対策もされている。秘密の会話に都合がいい。


「どうした?秘密の会話とは穏やかじゃないな。ヒジリさんやタクミ達は?」


俺の質問に対し、アラタが答えた。


「今からこのメンバーで町の学校へ向かう。あの4人は別行動だ」

「学校?何しに?」

「協力者を確保に行く」

「……戦闘になるの?」


ナギサの質問。俺もそこは気になる。


「予知ではその可能性がありそうだ。用心した方がいい。相手は武装した翼人の不良共だ」

「うへぇ……」

「協力者が放課後不良共に襲われる、というのが予知内容だ。疲れているところ済まないが、行くぞ」

「りょーかい」


先ほどもらったこの町の地図に印をつけ、俺は馬車を出た。

ナギサと共に御者台に登り出発させる。


さて、協力者はどんな人物だろうね。


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