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第4話 召喚の儀式④

同級生に囲まれるアラタを遠巻きに眺める俺とナギサ。

言葉もなく立っていたが、今日は召喚の儀式の日。成人への第一歩。お祭りの日だ。


広場にはテーブルとその上に飲み物がいくつも置かれている。

ナギサが声を上げた。


「トオル。向こう行こ!喉かわいた。何か飲みたい」

「ナギサはいつもそうだ」

「ちょっと、私が食いしん坊みたいな言い方しないでよ」

「実際食いしん坊だろ?」


気分を害された様子のナギサを置いて、俺はテーブルへ向かって歩く。


「はぁ…‥もぅ……」


ナギサも諦めたようについてきた。



飲み物をちびちびと飲んでいると、広場に入ってくる見知った姿を見つけた。


「お、ミヨが来たぞ」

「え?本当?どこ?」


指差した先、ミヨがキョロキョロしながら広場に入ってくる。


「おーい!ミヨー!こっちー!」

「ナギサちゃーん!」


こちらを見つけたミヨが駆け寄ってくる。


「どうだった?ミヨ?召喚獣は?」

「うん。Bだったよ!ナギサちゃんは?」

「私もB!一緒だー!」

「一緒だねー!」


手を取り合い、ぴょんぴょんはねる二人。興奮していることは一目瞭然。

しばらくすると飛び跳ねることに疲れたのか、ミヨは落ち着きこちらを向いて聞いてきた。


「トオルくんは?」

「俺はF」

「……え?」


急転直下、オロオロしだすミヨ。

いや、この光景、さっき見たし。


「気にするな。FはFでもただのFじゃない。極めてBに近いFだ。キヨカズさんもそう言ったから間違いない」

「……EとDとC、3つも飛ばしているんですけどそれは……」


ミヨはおずおずとツッコミを入れてくれた。


「まぁいいじゃない。本人がそう言ってるんだし。それよりアラタよ」

「アラタくん?そういえばどこ?」

「あそこ」


ナギサに示された方向を見たミヨは察したらしい。


「もしかして、A?」

「S」

「S!?」


そのリアクション、さっき俺がやった。


一気にテンションを上げたミヨ。そんなミヨを、ナギサはアラタのもとへと連れて行こうとしたところで、広場にアナウンスが響く。


「本年の召喚の儀式は終了しました。町長より訓示があります。皆さん、静粛に」


波が引くように、広場のざわつきが失われていく。

広場に面した、神殿のテラスに町長の姿が見える。


静まった広場に向けて、町長は訓示を語り出した。




町長の訓示はとくに言うことなし。

この町の発展がどうとか、国の繁栄がどうとかいうのは、今の俺にとっては正直どうでもいい内容である。


町長はアラタがSクラス召喚獣と契約したことは知っていたと思うが、それを自慢するような文言は何もなかった。そういう公私の区別がきっちりしているところ、いいですよ。町長。



訓示が終わると解散。


アラタは人の輪から解放されて、俺たち3人のもとへやってきた。


「よう」

「よう、おめでとう。S」

「嫌味か貴様っ!ってそんな場合じゃない」


軽い挨拶のジャブをかわしたが、どうもアラタは急いでいるようだった。


「俺はこれから用事がある。さっさと片付けて夕方には秘密の場所に行くから、みんな、絶対来てくれよ!」

「ちょっと待て。もう少しくらいいいだろ」

「すまん。無理」


アラタはそのまま神殿の中に走っていった。


「……だと。どうする?」

「行くしかないでしょ。私は一旦家に帰るけど、みんなはどうする?」

「私もお母さんたちに知らせたいな」


二人は自分がどんな召喚獣を得たのか、家族に話したいのだろう。召喚獣のレア度がBというのは十分凄いことなのだ。


「よし、じゃあここで解散!また夕方!」

「バイバイ!」

「またね~!」




二人と別れた俺は、一人、家に向かって歩き出した。

ただし、そのまま帰るのではなく少し遠回りする道を選ぶ。そうして俺は実家の畑にやってきた。

召喚の触媒となった石をアラタと一緒に見つけた畑だ。


海が見える丘の斜面にある、周りになにもない開けた畑は、巨大な召喚獣を呼び出すにも都合がいい。


(来い‥…)


自分の魔力がごっそりと削られるのを感じる。魔力と引き換えに、巨大な球体が姿を現した。


直系は10メートル近く。真球ではなく、ほんの少し前後に長い楕円形。一見すると黒い皮に覆われている巨大な球体だが、瞼に当たる部分がひらくと、それは確かに目であることが分かる。


「凄い……」


召喚獣による効果はすぐに表れた。

浮遊眼が見ている光景が認識できる。


眼球が向いているのは海。

肉眼では黒い点にしか見えない水平線の彼方に浮かぶ船が、その船に掲げられた旗の文字までくっきりと認識できる。


「…………」


海に背を向けてみた。

肉眼では見えていない海の光景が見える。何とも言えない奇妙な感じだ。


体の向きを色々と変えて確かめると、浮遊眼の視野角は肉眼よりも少し広い。250度くらいだとわかった。


(逆を向いてたら死角なし。見張り番にはもってこいの召喚獣か……)


その後、いくらか浮遊眼の能力を調査したのち、この巨大な目を小さくすることにした。


召喚獣は、存在するだけで召喚者の魔力を消費する。そこで、その能力がフルに必要なとき以外は、簡易形態にして連れ歩くのが常識となっている。


簡易形態になると、全体的に小さくなり魔力消費はほぼゼロ。

今もガンガン魔力が消費されているのが感じられる俺の召喚獣にとって、簡易形態は必須だ。


(小さくなれ……小さくなれ……)


俺の意思に従い、浮遊目はスイカ程度の大きさにまで縮んだ。


(もっと小さくなれ……もっと小さくなれ……)


さらに指示すると、握りこぶし程度の大きさに縮んだ。これ以上は縮めない。

肩の上でふよふよと浮かぶ握りこぶし大の眼。まぁ許容範囲だろう。魔力消費もほぼゼロだし、これで良しとする。


縮んだ結果、浮遊眼の能力は落ちたが、それでも肉眼よりは何倍もいい。

とはいえ、普段の生活でその視力が必要となる場面はなかなかないだろう。


トオルは浮遊眼を休ませることにした。


(これからよろしくな)


浮遊眼はゆっくりと眼を閉じた。

肩の上にゆらゆら浮かぶ黒い球体を連れて、俺は家へと歩き始めた。

興味持っていただいたのであれば、ブックマーク、評価いただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

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