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第34話 シナリオ5 追憶の旅・風 飛ばない翼人②

「あぁ、自由っていいなぁ……」


俺は病院のエントランスを出たところで立ち止まった。


いつも左肩の上に浮かんでいた浮遊眼は、今は右肩の上に浮かんでいる。

体の怪我はほぼ治ったが、後遺症として残ってしまったものもある。それが、右目の視力低下だ。


捕まっていたときに受けたダメージは深刻で完治は難しいとのことだった。

浮遊眼を使えば代用できるのは幸いだった。


側では弟が俺の入院セットを馬車に積み込んでいた。

俺は振り返り、母親と共に見送りの看護師さんにお礼を言う。


「お世話になりました」


あの日から1週間。今日は待ちに待った退院日だ。

薄味の食事にはもう飽きた。今日は濃い味のものが食べたい。




実家に帰って自室でくつろいでいると、呼び鈴がなった。

母親が対応したようだが、しばらくして複数人の足音が聞こえて来た。


「よう、元気か?」


扉を開けて入ってきたのはアラタ。ノックも何もしなかったぞ。まぁいいけど。

低いベットに背もたれて床に座る俺は、目の前のちゃぶ台に読んでいた本を置いて侵入者を見上げる。


アラタに続いて幼馴染たち。そしてアイギスさんが入ってきた。

俺はアラタに返答した。


「まぁまぁだ。普通に生活できる程度には回復した」

「それはよかった。コレ、俺達からの見舞い品だ」


アラタの手には紙袋。なんだが甘い匂いがする。


「果物は食べ飽きただろ?病院では出ないものを持ってきた」

「ありがたい……ま、座ってくれ」


クッションを渡すと、やってきた4人がちゃぶ台を囲んで座り込んだ。ナギサとミヨが俺を挟み、アラタとアイギスさんが正面という配置だ。


ちゃぶ台の上にはお土産が並べられた。お菓子、団子、饅頭、肉まん。食べ物ばかり。

皿に盛られたおはぎもあった。

何となく、商店街で売っているものとは違うように見える。


「これは?」

「私たちが作った。食べて」


ナギサが皿をこちらに押してくる。ミヨも頷いていた。二人で作ってくれたのか!

早速実食。甘さもちょうどいい。さすが俺の嫁(予定)。


アラタたちは部屋の床、敷物の上に座りこむと持ってきた見舞いの品を開けて早速食べている。俺に持ってきたものを自分たちで食べるのか……。まぁいいけど。



小腹を満たしたところでアラタが話を始めた。


「早速だが、トオルの体調が戻ったら遠出をしたい。各地の封印を巡る。場所はアイギスが知ってる」


皆の注目を集めたアイギスさんが口を開く。


「封印は4箇所あります。それぞれ火、水、風、土の封印と呼んでいます。まずは、この町から一番近い風の封印へ向かうのがよいかと。風の渓谷と呼ばれる場所です」

「風の渓谷……」


そんな場所があるのか?


「アイギスは風の渓谷といったが、現在は嵐の渓谷という名前だな。この地図を見てくれ」


アラタが広げたのはこの国の地図。

そこまで詳細なものではないが、街の場所や街道、主な山などは記載されている。


「ここだ。王都とこの町を結ぶ街道の北に行くとアイギスが眠っていた社。逆に街道の南に行くと嵐の渓谷だ」

「変な印があるけど、これは?」

「渓谷周辺には翼人が集落を作っている。その印だ」


背中から翼を生やした亜人が翼人。

この町にも少数だが住んでおり、比較的仲良くやっている種族だ。同級生にもいる。


「1000年前の最初の封印時、風の封印を守護するのは勇者の仲間だった翼人の一族でした。今もその役目が継承されているかはわかりませんが、そうであれば話は早いですね」

「サクナ様にお願いして翼人の集落に連絡を取ってもらったらどうだ?」


権力や大人の力は適切に使うべきだ。


「アイギスの存在が伝承されていれば再封印の儀式を行うのに障害はないと思う。俺からサクナ様にお願いしてみる」


アラタが天井を見上げて言葉を止める。

一旦みんなが黙ったところで部屋をノックする音が聞こえた。


「はーい」

「みんな、飲み物よ」

「あ、ありがとうございます」


母親が人数分のお茶を載せたお盆をもって立っていた。

ドアの近くにいたアラタがお盆を受け取り、台の上に置いた。


「おかわりが欲しければ言ってね」


母親はそのまま戻っていった。しばしモグモグタイムが続く。

そういえば、聞いておきたいことがある。


「アイギスさん、残り3つの封印の場所は分かる?」

「はい。このあたりと、このあたり、最後はこの辺りですね」

「随分遠いね……」


地図の上に指を置いたアイギスさん。

火の封印は南の山脈の中。水の封印は王都の北に浮かぶ島。土の封印に至っては王都を挟んでこの町の反対側。片道数日はかかる場所だ。


「大丈夫です。時間がかかるのは最初の移動だけです。封印の地にはポータルが設置されていますので」

「ポータル?」


アイギスさんの補足に、ミヨがオウム返しする。


「あ、えーと……なんと言ったらいいのか……そうですね……門のようなものです」

「「「???」」」


理解できない俺達に対し、一人だけ理解したらしいアラタが補足してくれた。


「ポータルというのは、特定の場所に一瞬で移動できる門だ。王国各地に存在する門の間を一瞬で移動できると思ってくれればいい」

「例えば……風の封印から火の封印まであっという間に移動できる、ということか?」


俺は地図の上で風の封印の場所から火の封印の場所まで指を移動させる。

この間には山脈もあれば川もある。歩きやすい街道を選んで順調に進めば二日。直線的に移動しようとしたら山中を歩くことになり1週間はかかる。というか遭難する。


「そうだ」

「マジか。1000年前の技術すげぇ」

「ただ、ポータルを使うには条件があるんです」


アイギスさんが補足した。


「使用する際に封印の巫女がいないとだめです。また、一度はその場に行き、巫女がポータルを起動させる必要があります。起動して巫女の情報を登録しないとそのポータルは使えません」

「帰りは楽だが、行きは大変ということだ」

「なるほど……」


俺が感心していると、ナギサが質問した。


「最初に風の封印に行くのは、そこのポータルを起動させて、風以外の、遠くの封印から風の封印まで一瞬で戻れるようにするってことね?」

「そうだ」

「でも、そのポータルって公にしていいの?」

「正直迷ってる。あまりにも有用な技術だから、不特定多数に知られるのは避けたい。実は拠点はアイギスが眠っていた社にしようと思っていた。社にもポータルはあるし、風の封印よりも社の方がこの町から近い。周囲に人気はないのも、ポータル技術を隠すには好都合。だが……」

「今はそう思ってない?」


ナギサの質問に俺が口を挟む。


「社には不審者が出たぜ。自爆したけど」

「そう。社は危険かもしれない。どこから情報が洩れていたか分からない以上、また襲われる可能性もある。場所が割れているし、人目がないというのは危険な目にあった際に助けがないということでもあるからな」

「じゃあどうする?」

「……翼人とうまく友好関係を築けた場合、最初は風の封印を拠点にした方が色々な面で安全な気もしてる」

「危険は承知していますが、まずは社のポータルを起動に行きませんか?宝珠がないと結界は通過できませんし、ポータルが多いに越したことはないです。ケラウノス姉様のこともありますし」


アイギスさんの提案に一同頷く。……ナギサとミヨから特にコメントがないということは、アイギスさんのお姉さんであるケラウノスさんのことを別途聞いていたんだな。


「社までの道は街の予算で整備してもらうことになった。いずれ安全な道ができれば自警団に社を警備してもらうこともできる。親父にお願いするつもりだ」


アラタは俺達の様子を確認し、これまでの話を総括した。


「俺はサクナ様に連絡して、翼人の集落に対し王族の伝手で融通を図ってもらう。サクナ様から返事を待っている間、トオルの体調が戻り次第、まずはアイギスが眠っていた社に向かいポータルを起動する。サクナ様が翼人に話をつけてくれたら風の封印へ向かい封印強化儀式を実施。その後ポータルを起動させて社に移動。町に戻る。こういう予定でどうだ?」

「意義なし」


全員の考えが統一されたところで、アラタとアイギスが顔を見合わせて頷き立ち上がった。


「どうした?」

「今後の方針も決まったし俺達はここで帰る。あんまり長居しても悪いしな」

「なんだよ、そんなことないぞ。ゆっくりしていけよ」

「お前はよくても、両脇の二人はそうではないみたいだぞ」


ナギサとミヨに顔を向けると、あからさまに視線を逸らされた。


「3人で話したいこともあるだろ?俺はそこまで野暮じゃない」


アラタはアイギスさんの背に手をそえつつ、部屋の扉を開けた。


「じゃあな。また明日。学校で」

「また明日」


扉が閉まると、両脇の二人が近寄ってくる。

その後、俺は二人が作った大量のお菓子を食わされることになった。

入院中はあんなに食べたかった甘味だが、当分食べなくていい、と思えるくらいに。

そろそろタイトル要素を回収したい……

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