第33話 シナリオ5 追憶の旅・風 飛ばない翼人① クラス委員 ホクト視点
早朝、私は毎朝の日課のために小さな木の家の前に降り立った。
鍵を取り出し開錠。そのまま家に上がり込む。
「おはよー。シェリー起きてる~?」
友人に呼びかけるが、答えが返ってくるとは期待していない。
朝に弱い友人はきっとまだ夢の中だ。
リビングには雑多に本が積まれている。
その本の森の一角に毛布にくるまって一人の少女が寝息を立てていた。
本を胸に抱いて幸せそうに眠っている
私は眠っている少女・梟の翼人であるシェリーに近づき、毛布を引っぺがした。
「起きろー!」
「うぅ……」
シェリーは唸りながら目を覚ました。
顔をこちらに向けると、目を細めて挨拶をしてきた。
「おはよー。ホクト……」
「はいおはよう」
私は毛布と一緒に飛んできたメガネを空中でキャッチ。
大鷹の翼人である私にとって、この程度の芸は余裕。
シェリーにメガネを手渡す。シェリーはド近眼でメガネがないと何も見えないのだ。
「ほら着替えて。早くしないと遅刻するよ」
「……学校行きたくない……」
「そんなこと言わないで。私も一緒に行くからさ」
「うー……」
シェリーはメガネをかけるとのそのそと起き上がった。
「ほら、ご飯は作っておくから着替えるんだよ」
勝手知ったる他人の家。
台所で手早く朝食を作り終えると、着替えたシェリーが顔を出した。
「できたよ。食べよ」
「ん」
二人でご飯を食べる。山盛りのソーセージと卵焼き。うん、今日は火加減上手くできた。
食事を終えると私は洗い物。洗い物を終えてリビングに戻るとリビングでまた本を読んでいる姿を発見した。
「はい没収」
「あああ……」
本を取り上げるとシェリーは悲しそうな声を上げた。
「出発します」
「はーい……」
カバンを手に学校へ出発。一緒に歩き出す。
私と二人で話しているときシェリーは普通だ。むしろ私よりも饒舌と言っていい。
だが、時々空中を飛んで学校に向かう同級生たちに追い抜かれる。
そのたびにシェリーは口をつぐむ。
「ねえ、ホクト」
「うん?」
「私に遠慮しなくていいからね。私と一緒にいるとホクトまで悪く見られちゃう」
「そんなことないよ。大丈夫。それよりさ……」
シェリーは私の大切な友達。言いたい奴には言わせとけばいい。
私は話を再開させながらシェリーの姿を改めて観察する。
並んで歩くシェリーの背丈は私よりちょっとだけ低い。それでも翼人としては大柄な方だ。
シェリーの外見で最も特徴的な部分は髪の長さだ。後ろ髪はお尻よりも下まで伸ばしているし、前髪も目を隠すまで伸びている。サイドの髪も伸ばしているので、顔の輪郭はほぼ分からない。
その上に大きなビン底メガネをかけている。
昔は活発な子だったが、ある時から自分の容姿を隠すようになった。
何があったのか正確な事情はわからないが、何か大きな心境の変化があったことは間違いない。
今は私以外にはどことなく卑屈な態度で接するようになった。
「宿題はやったの?」
「やってない」
「どうして?シェリーならすぐでしょ?」
「そんなことする時間があったら本を読む」
「……そう。ほどほどにね」
言っても無駄だと分かっているのでこれ以上何か言うつもりはない。
ただ、私も委員長として、宿題を集める者として小言を言わざるを得ない立場なのだ。
「……学校についたらちゃんとやる。少し待って」
「はいはい」
シェリーの頭なら宿題なんて数分で終わる。ギリギリにならないと本気を出さないのは悪い癖だと思う。
私たちはそのままおしゃべりしながら学校に入っていった。
教室にて、シェリーはすぐに宿題を取り出し、あっという間に終わらせた。
宿題を私に手渡すと、直後、机から分厚い本を取り出して読み出した。
これは、授業が始まるまではこのままかな……
午後、学校に外からの訪問者が来るみたいで、一部教師の授業が自習になった。
それ以外に特記事項はなし。今日も平和な学校生活だった。
放課後、帰宅前に学級日誌を書き終えた私に同じクラスの男子が話しかけてきた。
「委員長。今から時間ある?」
「?何か用ですか?」
「助けて欲しいことがあって……体育館に来て欲しいんだ」
私は周りを見回した。シェリーがコソコソと帰ろうとしている。
「少し待ってください」
私は男子に断りを入れてシェリーに近づく。肩をつかんで捕獲。
「ぴっ!」
「シェリー、待ちなさい」
「先に帰る」
「だめ。いっしょに来なさい」
そこで男子が割り込んできた。
「ごめん。シェリーさんはちょっと……。委員長にお願いしたい」
「……わかりました」
この言葉で察しました。いつものアレ(告白)でしょう。
自分で言うのも何ですが、私はよく呼び出されます。今回も角が立たないよう、この男子の気持ちを配慮して穏便に断ることにしましょう。
ほらみろという雰囲気のシェリーにすこしむっとしました。
「ここで待ってなさい」
「えー?今日中に読みたい本が……」
「待ってて!本はここで読んでて!」
私は不満いっぱいという感じのシェリーに念押しし、男子のもとへ。
「お待たせしました」
「大丈夫。……こっち」
男子の先導により体育館へ。
男子は体育館の奥、体育倉庫の中に入っていった。人目につかないところ、ですか。
倉庫の奥に進む男子についていく。奥まで行くと、男子が振り返りました。
想像していたのとは違うニヤニヤした表情で私をじろじろ見てきます。そしてそれ以上の動きがありません。
「ここで何を?」
「すぐに分かるよ」
男子は変わらずニヤニヤしています。これまで私を呼び出して来た男子たちとは違う空気感。嫌な予感がしたところで、倉庫の扉が閉まりました。
振り返ると、入口には数人の男子。そのうち何人かは評判の良くない男子です。
「……何のつもりですか?」
「俺達、委員長と仲良くなりたいんだよ」
笑いながら近づいてくる男子たち。
倉庫内で囲まれて、逃げ場はありません。
大声で助けを呼びますが、周りの男子たちの笑みは消えません。だれかが来る様子もありません。
「無駄なんだよなぁ」
「っ」
男子の一人が持っている小さなハンドベル。特殊な道具なのか、召喚獣なのかはわかりませんが、どうやらあれが元凶のようです。何かしら、外部との連絡手段を断つ能力を持っているのでしょう。
私は自分の召喚獣を呼びました。徹底抗戦です。
多勢に無勢。私は奮闘したものの不思議な術で体の自由を奪われ、今は両手両足をそれぞれ男子に抑えつけられて床に大文字で固定されています。
「梃子摺らせやがって」
「……」
口には猿轡をかまされていて言葉を発することができません。精一杯の抵抗で睨みつけます。
「いつまでその強気が持つか楽しみだ」
リーダーと思われる男が気持ち悪い笑みを浮かべながら私を見下ろしています。
私を押さえている男子たちのニヤニヤした表情が生理的に無理です。
こんな卑劣な奴らになんで絶対に屈しない!
私は目をしっかりと開いたまま、男の手が私の制服にかかるのを見ていました。
翼人:比較的数が多い亜人。背中に翼をもつ人。飛べる。
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