第32話 シナリオ4 記憶を求めて ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ4 記憶を求めて 公式ストーリー
家に連れ帰った幼女は、自分の名前以外の記憶を全て失っていた。
少女の名前はアイギス。
主人公たちのやさしさに触れ、アイギスは徐々に人間らしい感情を表すようになった。
穏やかな日々を過ごすアイギスと主人公たち。だが、その平穏な日々は長くは続かなかった。
きっかけはイサナ王女からの手紙。
アイギスのことを聞きつけたサクナ王女が、物珍しさからアイギスを強引に自分のものにしようとしたのだ。
ヒジリ達近衛騎士がアイギスを奪おうとしたのもの、成長している主人公たちは奮戦した。アイギスも共に戦ったが、自力に勝るヒジリ達にじわじわと追い詰められていく。
とうとう主人公も倒れ、アイギスが攫われようとしたとき、その場にイサナ王女が現れる。
主人公から相談を受けていたイサナ王女は、アイギスの記憶を取り戻すヒントを古い書物から見つけ出していたのだ。
アイギスは古の巫女であり、王国各地に点在する古の祠にて順番に宝珠に祈りをささげることによって、王国に繁栄をもたらす。
イサナ王女によって解読されたその情報を基に、王命によって祈りの旅に出る旨が主人公たちに伝えられる。
パーティにヒジリが加わり、主人公、アザミ、シオン、アイギス、ヒジリの5人は各地を回る旅を始めるのであった。
上記が、俺、ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ4のあらすじである。
シナリオ4では、アイギスが封印の記憶を思い出し、旅に出るまでの経緯が描かれるはずだった。
しかしゲームとは異なり現状アイギスは封印に関する知識を覚えている。サクナ王女に依頼して一芝居打つ必要もない。
アイギスは4つある封印の祠の場所すら覚えていた。ゲームでは必須だった、各封印の祠を見つけるための謎解きは不要ということだ。封印の効力が切れる期限までに各封印を回って儀式を進めるだけ。楽勝だ。
そう思っていた時がありました。
「アラタ、トオルが攫われた!」
生徒会室に飛び込んできたのはナギサ。
一緒にお茶をしていたアイギスが目を丸くしている。
ナギサは俺達のそばまで速足で近づいて来た。
鬼気迫る様子の友人に向き直り質問する。
「どうした?攫われたとは穏やかではないな」
「あいつら、ライリとルクレが通学路で急に襲い掛かってきて、気づいたらトオルがいなかったの!」
「は?なんだと?」
あの二人は謹慎処分中。
俺達に接触禁止令まで出ており、次何かトラブルを起こそうものなら今度は重い処分が下る。
奴らがそんなリスクを冒すとは考えていなかった。そこまで馬鹿な奴らではない。ナギサが言ったことが本当なら何か裏にある。
「二人は今どこに?」
「わからない。ほんの一瞬、トオルから目を話したらトオルは消えて、直後にあいつらも逃げた。絶対にあいつらだ!」
「ミヨはどうした?」
「自警団事務所。私はアラタを呼びに来た」
ナギサが俺を呼びに来た理由は何となくわかる。
この事象を俺が予知していないか確認にきたのだろう。
「すまん、俺にも分からん」
あからさまに肩を落とすナギサ。
アイギスが俺達を見ながらオロオロしている。
「だが、事件なのは間違いない。……アイギスさんすいません。今日のお茶はこれで終わりとさせてください。急用ができました」
「私もお手伝いします」
「お気持ちは嬉しいですが危険です。本当の狙いは貴方かもしれない。自警団まで送りますので、そちらで待機いただきたい」
イサナ王女が何か仕掛けて来たという可能性もある。
アイギスは自警団に保護してもらった方がいい。
後片付けも早々に、俺達は自警団事務所へと向かった。
自警団事務所は多くの人が出入りしていた。
ミヨが先に連絡に来ているはずだが、どんな説明をしたのだろう?と思っていたら様子がおかしい。
受付女性を捕まえて話を聞く。
「すいません」
「若!?ご無事でしたか!」
「?私は大丈夫ですが友人が事件に巻き込まれたようです。念のため、アイギスさんを保護してもらいに来ました」
応答してくれた女性は建物の奥に俺達を案内し、現状について説明を始めた。
「よいタイミング、いや、悪いタイミングかもしれません。……実は先ほど脱走者がでました。先日皆さんが捕まえてきた男女です」
「え?」
「自警団は脱走者の確保に走り回っています。人手が足りていないんです」
自警団長のハンゾウとミヨが近づいてきた。
「巫女様を狙っている男女の脱走です。巫女様が無傷でここまでこれたのは運が良かった」
「そうですね。だが、トオルが巻き込まれた」
「聞いてます。そちらにも手を回していますが、いまのところ手掛かりは何も……」
ハンゾウは真面目な顔になってその場にいた自警団員に指示を出す。
「ボクデン爺さんたちにも知らせて協力をお願いするんだ。巫女様はタエさんと一緒にいた方がいい」
この町最強の夫婦に応援依頼。これは町をあげての捕り物になるな……
結局、トオルの行方が分かったのは翌日の夜中になってからだった。
タエ婆さんがトオルの召喚獣を見つけて駆けつけ、トオルは九死に一生を得た。
ライリとクルレは捕縛された。これだけの事件の加害者だ。重い罰が課されるだろう。
脱走した男女はボクデン爺さんが見つけたようだが、自爆したということだった。
俺はその場にいなかったから分からないが、あの男女がそう簡単にくたばるとは思えない。
ゲーム中でもしぶとさには定評のある敵で、後半に出番がある。
恐らくは何か道具を使って逃げたのだと思う。
病院でトオルの無事を確認し家に戻って来ると、アイギスの様子がおかしい。
トオルからフードの女のことを聞いて、わずかに動揺したのを俺は見ていた。
「アイギスさん、どうかしましたか?」
「アラタさん……」
アイギスはためらいつつ口を開いた。
「今回の件、私のせいかもしれません」
「アイギスさんの?」
「私には、姉がいます。今回の事件は姉が起こしたのかも……」
姉というと、巫女ケラウノスのことか?まさか巫女アダマスの方ではないだろう。
「封印の巫女である私が未来で目覚めたときに守るため、二人の姉も同時に眠りについていました。そのうちの一人、ケラウノス姉様が、先ほど話のあったフードの女の人かもしれません」
「……なにか根拠が?」
「明確な根拠ではないですが、フードで顔を隠す点、捜索されても姿が見えない点、登場人物がなにか操られているようで不自然な点、どれもケラウノス姉様の仕業だとしたら納得がいくんです。姉様たちは私を守るために私と同じく長い眠りについていました。私が目覚めたということは、姉様たちも目覚めたはずです」
「なるほど。詳しく話を聞かせてください」
俺はアイギスから巫女ケラウノスについての話を聞いた。
ゲーム上、ケラウノスは中盤の山場で初めて姿を見せるキャラクターだ。
こんな序盤に出てくる人物ではない。
「姉さまはちょっと抜けてるところはありましたが、凄く優しくて、真面目なんです。こんな事件を起こすなんて」
俺は中腰になり、泣きそうなアイギスを抱きしめた。
「あっ……」
「泣かないで」
アイギスの耳元で囁く。
「俺はアイギスさんの味方です」
身体を話し、目線の高さを合わせてアイギスに語りかける。
「ケラウノス様がアイギスさんの味方であるなら、敵対する理由はありません。何が目的かは分かりませんが、今回失敗に終わったのであれば、再び何か接触を図ってくるでしょう。お互いゆっくりと話をすればきっと誤解は解けます」
「はい……」
「私も微力ながらお助けします。頑張りましょう!」
「はい」
多少元気になったか?
「トオルさんには全てを話して謝らないといけませんね」
「後で一緒に行きましょう。……さて、お昼ごはんにしましょうか」
キヌに食事の準備をお願いしようと踵を返したところで、背中に抱き着かれる感覚があった。
「アイギスさん?」
「少しだけ、このまま……」
俺はアイギスが落ち着くまで、しばしその体勢で固まっていた。
数分後、アイギスは俺から離れた。
俺はアイギスに向き直り、提案した。
「そうですね……もうすぐお昼です。今日はいい天気ですし、庭で軽食を取りましょう。美味しいお菓子もありますよ」
目の端で、キヌが動いたのが見えた。俺と目が合って頷いた彼女のことだ。きっと庭に昼食を持ってきてくれるだろう。
俺はうなずいたアイギスの手を取り一緒に庭へと歩き出した。
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