第28話 シナリオ4 記憶を求めて②
アイギス様を保護した翌週、彼女は学校に転入してきた。
転入したのはアラタのクラス。
転入生紹介時は愉快なことになったらしい。……おっと、こんな言い方をするとアラタにぶん殴られてしまうな。
アイギス様は、その内面はともかく、外面という点では、あまり、よろしくはない。
アラタはアイギス様の容姿を気に入っているようだが、それはアラタが特殊な趣味(ブス専)だからである。
どう見ても自分たちよりも年下に見える、特徴的な見た目の少女が自分たちのクラスに転入してきたということで、アイギス様を前に、クラスメートの反応は3つに分かれたらしい。
まずは、転入生に積極的に絡みに行くタイプ。いわゆる陽キャタイプだ。
次に、遠巻きに見るタイプ。興味はあるけど行動には移さないタイプだ。
最後に、虚無タイプ。転入生にそもそも興味を抱かないタイプだ。
最初のタイプは一人。アラタだけだったらしい。
ほとんどが2番目のタイプ。まぁ、あの見た目な上、アラタが実質アイギス様をクラスメートからガードしてるようなものだからなぁ。
どうしても話題にはなる。
ちなみに、容姿を貶すような輩がいてもおかしくはなかったが、アラタが睨みをきかしていたので、少なくとも教室内でそういう意見は見られなかったとのこと。
「で、俺達は何故呼ばれたんだ?」
放課後、俺とナギサ、ミヨの3人はアラタの招集に応じ生徒会室にやってきた。
応接用ソファーに座った俺達の目の前に、アラタとアイギス様が並んで座っている。
「アイギスさんに町を案内してもらえないか?本来は俺が案内するつもりだったんだが、どうしても外せない用事ができたんだ。適当に町をぶらつきながら俺の家までアイギスさんを送ってほしい」
「俺は構わないが……」
今日はボクデン爺さんの指導予定は入っていない。文芸部活動の予定はあったが、今日やらなければいけないことでもないし、延期しても大丈夫。
ミヨも頷く。
一方、ナギサは申し訳なさそうに告げた。
「あたしはこれから部活があるから……ゴメンね」
今日は運動部に出る予定だったので、そちらを優先する、と。
「トオル、ミヨ、アイギスさんを頼む。くれぐれも怪我などさせないように」
「分かってるって」
「お世話になります」
アイギス様は笑顔で俺達に頭を下げた。
見た目はともかく、この素直な感じ、悪い気はしない。
生徒会室でアラタと別れ、アイギス様は下校する俺たちについてきた。
荷物はもう持っているので、そのまま玄関へと向かう。途中でナギサは体育館の方へ向かっていった。
俺の後ろにミヨとアイギス様が並んで歩いている。
「ミヨ様、宜しくお願いします」
「ミヨでいいですよ」
「では、ミヨさんで。アラタさんもアラタさん、なので。……トオルさんもトオルさんでいいですか?」
「ええ。アイギス様」
「アイギスさん、です」
「わかりました。アイギスさん」
かなりフレンドリーに接してくれる。アイギスさんの性格に加え、アラタの友人という属性のおかげで初期好感度が高いみたいだ。
下履きに履き替えて学校を出る。
周りにはちらほらと下校する学生たちもいるが、こちらをチラチラ見ているような気がする。
ミヨとアイギスさんはこの町について話しながら歩いている。
何処のお店が美味しいとか、どこにどういった施設があるとか。
アラタが相手では話せない、同年代の女子とでないと話せない話題もあるだろう。俺としては千年前の世界と今の世界の差なんかを聞いてみたいが、今はミヨに任せるべきだと判断した。
俺は二人の話に聞き耳を立てつつ、話には混ざらずに周囲の警戒に努める。
俺の召喚獣・浮遊眼はこういう時便利だ。こちらに対して何かアクションしようとしている人物がいればすぐに分かる。
こちらを向いてひそひそ話をする程度、かわいいものだ。
1人、こちらに向かってこようとする人物がいたが、どこからともなく現れたガタイのいいお兄さんに連行された。
自警団の皆さんはこの瞬間もアイギスさんを護衛している。ご苦労さまです。
ちょっと寄り道して町の商店街へ。ミヨは入口にある総菜屋のおばちゃんに早速声を掛けられた。
「ミヨちゃん、寄って来な~」
「おばさん。こんにちは~」
ミヨの実家は商店街の顔役。ミヨは商店街ではアイドル扱いされている。
アイギスさんを連れて店頭へ。
「おや、この子は?二人の友達かい?」
「ええ。転入生のアイギスさんです。この町は初めてなので案内しているの」
「そうかいそうかい。じゃあ、お近づきの印に、これをどうそ」
おばちゃんは俺達3人に一つずつコロッケをくれた。
「つらいこともあるかもしれないけど、頑張ってね」
「??はい、ありがとうございます??」
アイギスさんは疑問符を浮かべながら腰を折って丁寧にお礼を言った。
そんなアイギスさんに、おばちゃんは優しい目。これは、アイギスさんの容姿を不憫に思ったのかな……?
お礼を言いつつ、店頭を離れる。
少し歩くと、今度は別のお店の人に声を掛けられる。
ここはミヨのホームグラウンド。アイギスさんを紹介するのにもってこいだ。
結局、商店街を抜けるまでに俺とアイギスさんの両手は頂き物でいっぱいになった。
ミヨは自分の家をスルーし、アラタの家までついてくるようだ。
ミヨとアイギスさんは上機嫌で話をしている。
「ふふ。いっぱいもらったね」
「はい。皆さん、いい人ばかりです」
「みんなアイギスさんの味方だからね。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
分かったことがある。
商店街のおばさん、おじさん達にとって、アイギスさんの容姿が特徴的なことなど、大した問題ではないのだ。そんなことより、礼儀正しいお嬢さんでミヨの知り合いという属体の方がよっぽど重要。
……もしかして、アラタは俺にこれを教えたかったのか?
俺がアイギスさんに対し、容姿を根拠に軽く見ていることを見抜き、商店街の大人たちの反応を見せて俺にもっと大人になれ、と言いたかった?
転入初日にもかかわらず、帰宅時に自分が付き添わず、俺とミヨをアイギスさんの帰宅エスコート役に選んだ不自然さも、この目的のため……?
もしかしたら、こうなることを予知していたのかもしれない。
「アラタにはかなわないな……」
「ん?急にどうしたの?」
「いや、アラタは凄いなって改めて思ったんだ。色々考えてる」
「家でも私にすごく優しいんですよ」
アイギスさんもアラタに好印象をもっている様子。
良い関係を築けているのは何よりだ。




