第26話 シナリオ3 謎の少女 ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ3 謎の少女 公式ストーリー
町の近くにあるさびれた祠の調査。
それが、試合を公正にジャッジする対価として、主人公たちがヒジリから依頼されたことだった。
宝珠を持つものは定期的にその祠に宝珠を奉納する必要がある。
王女は幼い頃に母親から聞いたことを思い出し、自分に変わって主人公たちに奉納をお願いしようとしたのだ。
出会う野盗やモンスターを討伐しながら祠へ向かうと、その祠は長い間手入れされていなかったのか朽ち果ててしまっていた。
そこで宝珠の力を解放すると、祠は消え、その場には神殿が現れた。
神殿の中心、クリスタルの中にいたのは一人の幼女。
主人公が近づくと、宝珠は光を放ち、クリスタルが消失。
幼女を受け止めた主人公は、幼女をそのままにしておくこともできず、自分たちの家へと連れ帰る。
翌日目を覚ました幼女は自分の名前をアイギスと名乗ったが、それ以外の記憶を何も覚えていなかった。
主人公はアイギスを保護することにした。
上記が、俺、ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ3のあらすじである。
シナリオ3では、物語の重要人物にして正ヒロインのアイギスが登場。
主人公とアイギスの出会いが描かれることになる。
アイギスは1012才のキャラクター。決して未成年ではありません。
正直言って、シナリオ3に特筆すべき内容はない。
封印されていた巫女が目覚めて主人公と同居するようになるストーリーと、戦闘ステージがいくつか。
戦闘時の敵は野盗と獣。今の俺達には余裕だ。
ということで、行きの馬車の中では、アザミとシオンを両脇に座らせて少し遊んでみた。
ミヨの眼を気にして必死に耐える二人に対して色々と悪戯するのは楽しい。
ミヨは気づかないふりをしていたが、あれは気づいていたな。
二人の主人であるタクミは、自分の従者達が俺に懐柔されつつあることに未だ気づいていない様子。いや、うすうす気づいているのかもしれないが、今はサクナ様にご執心だからこっちに気を回す余裕がないのかな。
ダークサイドルートに入る条件が着々とクリアされている。
タクミは、俺がサクナ様とはただの友人だということを知って、多少上から目線というか、余裕のある振る舞いをするようになった気がする。
今日だって、ヒジリさんからサクナ様の様子を聞きたいという理由で、自分だけ馬を用意していた。ちょうどいい、この二人は行き帰りの時間を使って躾ける。
宝珠をキーとした神殿の出現、その中で眠る巫女・アイギス。
そこまでは予定通りだった。
想定外だったのは、その後の戦闘。
「アラタ!正面だ!何かいる」
トオルが大声を出したとき、俺は気づいていなかった。
正面に一人の男が姿を現す。ゲームで見覚えがあるキャラクターだ。
しかし、この段階で出てくる奴じゃない。どうして、今、ここにいるんだ?
厄介な能力持ちの敵だが、想像以上に容易に無力化できた。
擬態能力がトオルの浮遊眼にあっさり看破されたせいだ。
その後出てきた女も、本来であればシナリオ中盤に出てくるキャラクターだった。
この時点で戦って、捕まえてよかったのか?
本筋に影響するようなキャラクターではないとはいえ、ゲームのシナリオから徐々に乖離しているのは確かだ。
気にはなるが、取りあえずは大人しくしてもらおう。自警団に引き渡したので、牢屋に幽閉されていれば悪さは出来ないし、自警団の尋問でなにか情報が得られれば儲けものだ。
今はアイギスへの対処の方が重要なのだ。
アイギスは病院で意識を取り戻した。これはゲームと同じ。
ただし、その後の展開は違った。
アイギスは自分の役割、魔王の封印を強化する巫女である、ということを覚えていた。
ゲームと明らかに異なる状況だ。
アイギスは、目覚めたとき名前以外の全ての記憶を失っているはずなのだ。
主人公との日常のやりとりやサクナ王女による悪い意味での介入によって断片的に記憶を思い出す。それがシナリオ4なのだが、既に過去の記憶を思い出しているとは。
その場の話し合いで、アイギスを上手く自分の家で面倒を見るように持っていけた。
一旦これで様子をみようと思う。
正ヒロインと一つ屋根の下で暮らす。
本来はタクミの家に居候することになるアイギスだが、ここだけはゲームと異なるとしても譲るつもりはない。
一つ屋根の下ゆえに発生する種々のイベントが、ゲーム上はアイギスの攻略には不可欠だったからだ。
イベントスケジュールも把握している。
まずは、学校転入イベントが次のシナリオ4で語られることになる。アイギスの記憶は既に戻っているし、何より、この世界はゲームと美醜が逆転している。シナリオ4は波乱の展開だろうな……
今、俺は自分の家で待機している。
病院で幼馴染たちと別れた俺は、家に戻るとメイド達に空き部屋の掃除を指示する。
早ければ今日の昼過ぎにも、アイギスは俺の家にやって来る。
アイギスに部屋を案内する。これがシナリオ3で立てるべきフラグである。
ピンポーン
呼び鈴が来訪者を告げたのは昼すぎだった。想定よりも早い。
「巫女様、どうぞ」
「失礼します」
父の秘書が案内を務め、アイギスがリビングへと入ってきた。
俺は立ち上がり、歓迎の意を示す。
「ようこそ。巫女様。どうか自分の家と思っておくつろぎください」
「ありがとうございます」
アイギスの返事を聞き、俺は秘書に声を掛ける。
「部屋へは私が案内します」
「わかりました。若、宜しくお願いします」
秘書は戻っていった。
俺はアイギスに声を掛ける。
「巫女様、お部屋に案内します。どうぞこちらへ」
無駄に広い我が家である。2階の角部屋をアイギスの部屋として用意したので、そちらへ向かう。
部屋の近くへ来たところで、部屋から受入準備を終えたメイド達が出てきた。
「若、掃除は終了しました。どうぞご使用ください」
「ありがとう。……巫女様、この部屋です」
メイドが開いた扉にアイギスとともに入る。
アイギスと二人で部屋に入ると、俺達に続いて一人のメイドがついてきた。この部屋を掃除していたメイドたちのうちの一人。
「必要なものがあれば、この者にお申し付けください。巫女様のお世話をさせてもらう者です」
「巫女様、よろしくお願いいたします」
我が家を信頼してもらうためにも、有能なメイドをアイギスの世話係につける。能力的にも、人格的にも申し分ない人物だ。
「宜しくお願いします」
アイギスはお礼を言ったのち、部屋の確認を始めた。
「私はこれで失礼いたします。御用の際はそのベルで及びください」
俺の目配せを受けてメイドが退室し、部屋の中は俺とアイギスの二人だけになった。
アイギスはタンスを開く。
「わ、服もこんなに……」
「サイズを見繕って用意させていただきました。不都合な点や、欲しいものがあれば遠慮なく先ほどのメイドまでお願いします。もちろん、私に言ってくださっても構いません。お食事も用意しますので、好き嫌い等ありましたらおっしゃってください」
「何から何まで、ありがとうございます」
ペコリ、と頭を下げるアイギス。
最初の案内はこの程度でいいだろう。
「では、巫女様、私はこれで失礼します」
去ろうとしたとき、アイギスから声がかかった。
「あの!」
「?はい?」
アイギスは俺の眼を見ながら言った。
「その、巫女様というのは他人行儀ですし……アイギス、で構いません」
「……では、アイギス様、と」
「アイギス、です」
「……アイギスさん、で」
「はい、それでお願いします。勇者様」
「私も勇者様というのは……アラタでかまいません」
「アラタ様」
「呼び捨てでよいのですが……」
「では、アラタさんで」
にっこり笑うアイギス。思わずこの場で抱きしめたくなったが、理性を総動員してこらえる。
まだだ。この子を攻略するためには色々とやるべきことがある。
「アイギスさん、一旦私はこれで。……あ、私の部屋はこの部屋の斜め向かいとなっています。なにかありましたらどうぞ」
「はい。ありがとうございます、アラタさん」
アイギスの部屋から退出する。
自室に戻り、俺は先ほどの会話を思い出す。
お互いの呼び方を巫女様、勇者様から名前呼びに変えるのが、アイギス攻略の最初のフラグ。
次のシナリオ4で立てる予定のフラグが、もう立ってしまった。
これなら、次のシナリオでアレが出来るかもしれない。
俺はひとりほくそ笑んだ。
シナリオ3終了です。
雑記を挟みシナリオ4に進みます。




