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第21話 シナリオ3 謎の少女① 王女・サクナ視点

王宮の自室にてくつろいでいると、多くの人が近づいてくる気配を感じました。

これは、イサナ姉様ですね。珍しく私の部屋を目指しているようです。


側に控えていたシズカも反応しましたが、私が手を上げると緊張を解きました。


私の部屋の扉の前まで来たと思ったら、すぐに扉を開けて入ってきました。

最初に顔を見せたのはカルマです。


「カルマ様。部屋に入る場合はノックをお願いいたします」


椅子に座る私の隣に立つシズカが直立不動のまま抗議するが、カルマは完全に無視。


カルマに続いてイサナ姉様が入ってきました。

ツカツカと私の目の前のテーブルに近寄ると、バン!と腕を叩きつけます。

置いてあったカップやスプーンがカチャカチャ音を立てました。


「サクナ、やってくれたわね」

「まぁ、イサナ姉様。何のことでしょうか?」

「分かっているのよ。私が見つけたAクラス召喚獣持ちを引き抜いたでしょう。なに?喧嘩売ってるの?」

「ああ、もしかして……先日出かけた町でお会いした方のことでしょうか?」


イサナ姉様はお怒りのご様子。

怒った顔も素敵です♡


私の熱い視線に気づかず、イサナ姉様は怒りをエスカレートさせています。


「私とは距離を置きたいという手紙が来たわ。貴方の差し金でしょう!」

「どうしてそう思われるのですか?」

「手紙の端々に貴方の存在を匂わせる記載があるのよ。上手く取り込んだものね!」


イサナ姉様はカルマが取り出した手紙をひったくると私に見えるようにテーブルに投げ捨てました。


「まぁ……」


手紙を手に取りざっと目を通します。

そこには、イサナ姉様の力になれないということが、謝罪と共に記されていました。


その中には、守りたい人ができ、その人の敵になるようなことは出来ないという旨も記載もあります。これは、私のことでしょうね。


「なるほど。姉様は殿方を奪われてしまったのですね。お可哀想に……」

「白々しい!」


気持ちを逆なでするような返答をした私に対して、イサナ姉様の怒りが高まるのを感じます。カルマなどは私に対して明確な敵意を放ってきます。


シズカがいつでも動けるような姿勢に変わりましたが、大丈夫。姉様たちはそんなに短絡的な思考の持ち主ではありません。

私に手をあげれば自分たちがどうなるかは理解しているので、この程度のことで暴発したりはしません。


「フン!調子に乗るもの今のうちよ!」


笑みを消さない私に業を煮やしたのか、イサナ姉様は捨て台詞を吐くと180度向きを変え、そのまま私の部屋を去ろうとします。


「姉さま。お手紙をお忘れですよ?」


私の問いかけに、イサナ姉様も取り巻き達も無反応。この手紙はもう不要ということでしょうか。


扉を開いて出ていこうとする姉様に最後に声をかけます。


「姉さま、お時間あるときに姉妹水入らずでお茶会でもいかがでしょうか?」

「……」


無言のまま、姉様たちは去っていきました。残念です……

姉様たちが十分に部屋から離れたのを確認したところで、シズカが動きました。


壁際の机に近づくと、手を机の裏に伸ばします。

引き抜いたとき、その手には小さなボタンのようなものが乗っていました。盗聴用の道具ですね。


姉様取り巻きのメイド達。そのうちの一人がさりげなく近づいて仕掛けていったようです。

自身に注目させておいて意識をそらせつつ盗聴道具を仕込む。なかなか楽しいやり取りですね。


私が頷いたのを確認し、シズカは手の上のボタンを粉砕します。ボタンの残骸をゴミ箱に捨てると、シズカは私の側に戻ってきました。


「サクナ様、最後のお誘いは悪手かと」


シズカが私に苦言を呈します。


「そうね。怒った姉様が素敵で、ついつい意地悪してしまったわ」

「……その子供のような好意表現、止めないといつか痛い目を見ますよ」

「それは困るわね」


シズカのお小言を聞き流しながら、改めて放置された手紙に目を落とす。


間違いなく、先日会ったAクラス召喚獣持ち・タクミさんからイサナ姉様に向けた手紙です。

読み終えると、シズカへと手渡します。


「拝見します」


シズカが目を通している間、私はお茶をのんで一服です。ああ、冷めてしまいました。


「筆跡も間違いなさそうです。先日のAクラス召喚獣持ちによるものと考えてよいかと」

「タクミさん、よ」


訂正した私に対しても、シズカは嫌悪感を隠しません。あんなにお可愛い方なのに。

シズカはタクミさんの普段の態度を知っているので、友好的にはなれないのでしょうね。まぁ、無理強いするつもりはありません。


「内容はまともですね。あの者がこんなまともな手紙が書けるとは思っていませんでした」


辛辣ですね……


「これで、アラタ殿の目論見通りということでしょうか」

「そうね。タクミさんは姉様から距離を置く。私はタクミさんを手に入れ、アラタさんはタクミさんの従者を懐柔。タクミさんはアラタさんに強く出られなくなった。全て予定通りよ」


登場人物は誰も損をしていないのがポイントですね。現時点ではイサナ姉様が一人だけ損しているようにも見えますが、アラタさんが後々回収する予定なので問題なしです。


「ではサクナ様、次の段階へ進みますか?」

「ええ。先日届いたアラタさんからの手紙。あの内容は眉唾物ですが、もし本当なら王国の一大事です。調査はした方がいいでしょう」


あの町のお祭りの夜。応接室でタクミさんとの時間を過ごした私もとへ、数時間後、アラタさんが戻ってきました。


同時にタクミさんの従者二人も戻ってきましたが、明らかに様子がおかしかったですね。

英雄色を好むとも言いますし、そこには文句を言うつもりはありません。


まぁ、タクミさんは自身が色々といっぱいいっぱいで従者の態度の違和感には気づいていなかったみたいですが。


そういえば、この愛すべきメイドの事情はどうなっているのかしら?


「あのお祭りの日、シズカはお目当ての殿方との逢瀬はどうだったの?」

「会っておりません」

「えぇ?影もいたのだし、私は大丈夫だから会いにいけばよかったのに」

「私の本務はサクナ様の護衛です。その任務をほっぽり出して好き勝手に行動することはゆるされません」

「そう?そんなに堅く考えなくてもいいのよ?」


私は頭の固い友人に溜息をつきます。

こちらの進展はまだ時間がかかりそうです。


私はシズカに頼んで棚からレターセットを取ってもらうと、タクミさんに手紙を書き始めました。やってもらうことがありますからね。


「しかし、アラタさんは凄い方ですね。あんな昔の文献から、あの宝珠にあんな意味があることを突き止めるとは」

「はい。彼が味方でよかったと思います。敵に回したくはないです」


手紙を書きながらつぶやくと、シズカが私の言葉に同意しました。


「シズカがアラタさんと本気で戦うとして、勝てる?」

「難しいです。差し違えるつもりでやれば足止めはできる、というところです」

「Sクラス召喚獣の力は破格ってこと?」

「いえ、逆です。彼は召喚獣に頼らない戦い方を知っています。その上でSクラス持ちなのが厄介なのです」


王宮でも有数の実力者であるシズカの言葉です。以前アラタさんと試合したこともありますし、信用してもいいでしょう。


「ともかく、私は受入のために手を回します。シズカ、貴方のお父上にも色々とお願いすることになるから、よろしくお願いするわね」

「御意に」


シズカはタクミさんからの手紙を暖炉にくべた。手紙はすぐに灰になりました。

万が一変な証拠が残っていてはまずいですから。


代わりに私が書き上げた手紙を渡すと、それを持ってシズカは部屋を出ていきました。

鬼が出るが、蛇がでるか、ですね。


今後はシナリオ毎に投稿予定です。

興味持っていただいたのであれば、ブックマーク、評価いただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。


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