第20話 シナリオ2 臥薪嘗胆 ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ2 公式ストーリー
イサナ王女を連れ戻しに来た近衛騎士団に全く歯が立たず、己の無力さを悟った主人公は、修行を開始する。
それは、今度こそ大切なものを守るという決意の表れだった。
数年後、たくましく成長した主人公は、その実力、スマートな容姿、両方で街で有名になっていた。
それが面白くないのが、街を牛耳るアラタ達。
小さい頃から何かと因縁をつけてくる相手だが、主人公たちはこの数年、それをうまくかわしていた。
しかし、ある日、主人公の逆鱗に触れる事件が起きる。
それは、イサナ王女から託された宝珠の盗難である。
主人公たちはアラタ達を糾弾するが、証拠がないと一蹴され、学園の武闘祭で決着をつけることになった。それはアラタ達の思惑通りであった。
街を自由にするアラタ達は主人公を公開リンチにしようとしていたのだ。
今のままでは勝ち目はない。
主人公が藁をもすがる思いで頼ったのが、過去、イサナ王女に同情的だったヒジリだった。
チーム戦が行われる日にはヒジリが到着していなかったが決勝戦は一対一での決着を望んだアラタによって無効試合とされる。
翌日、到着した近衛騎士団らの立会いの下、個人戦でアラタを下す主人公。
負けたアラタ達の抗議はヒジリらによる公正な判定により却下された。
見事、劣勢を跳ね返して優勝を決めた主人公たち。
喜びもつかの間、主人公はヒジリからある依頼を受けるのであった。
上記が、俺、ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ2のあらすじである。
シナリオ2では、3年という月日で成長した主人公が、町の有力者を見返すことになる。
社会的に弱い立場の主人公であるが、王女の息のかかった近衛騎士が立ち会うことによって公正な勝負を実現し、実力で町を牛耳るライバルたちを下すことになる。
このシナリオ通りに進めようとすると、問題点がいくつも出てくる。
いちばんの問題点が、俺たちとタクミの実力差だ。
3年前、召喚獣を得た時点でのスタートラインは同じだが、現在は俺たちの方がタクミ達3人よりも確実に実力が上だ。
俺たちが師事した人物は街の道場主であるボクデン老夫婦。
この二人、実は知る人ぞ知るゲーム中最強キャラである。仲間にはならず、イベント等で明示的にストーリーに関わることもないが、ある手順を踏むことで、条件付きで戦うことができるモブキャラだ。
戦う場合、味方が全員カンストレベルで対策を用意していないとまともな勝負にならないというバランス崩壊っぷり。
そんな人物に頼み込んで特別な修行をつけてもらうことに成功した。
適切な指導と上手い食事。今の俺たちはゲーム中盤に必要な程度の強さを身に着けているはずだ。
一方でタクミは正規のやり方(武術系の部活で汗を流す)で強くなろうとしている。
堅実な方法だが、指導者、環境面で劣るのは仕方ない。
タクミ達も何か理由をでっちあげてボクデン爺さんたちの修行を受けさせようと思ったこともある。だが結局、ゲームの流れを考慮し、タクミの修行案は却下した。
ゲームの進行上、シナリオ1の次はシナリオ2。そして、シナリオ2の主人公たちのレベルは、シナリオ1の最後と同じ。つまり、3年修行したというト書きはあるのに、ゲームとしての数字上は何も強くなっていないのだ。
これをどう解釈すればいいのか。本当に迷った。
熟考の上で、俺はタクミ達をパワーレベリングしないことにした。
ゲーム通り進めたいという理由もあるが、一番大きい理由は、その方が俺の目的にとって都合がいいと思ったからだ。
俺の目的?それは……
そこまで考えたところで、部屋の外から俺を呼ぶ声が聞こえた。
入室を許可すると、扉を開けて幼馴染たち3人が入室してくる。
トオル、ナギサ、ミヨ。3人はスーツやドレスで着飾っていた。
今は舞踏祭の夜の部。
学校ではなく、町の祝祭会場を貸し切った上で食事が用意され、参加者はそれを食べながら思い思いに過ごしている。
俺はこれからの出来事に備えて一旦休憩用の部屋に引っ込んでいた。幼馴染たちが探しにやってきたようだ。
「アラタ、ここにいたのか。お疲れさん」
「トオルか……本当、疲れたぜ」
「チーム戦と個人戦、両方で優勝だからな。そりゃ囲まれるさ。幼馴染として鼻が高いぜ」
俺は昨日の個人の部で優勝した。決勝戦の相手はタクミ。実力を反映した順当な結果だ。
ゲームの正規シナリオと違うって?そこは大目に見て欲しい。
茶化してきたトオルに、俺もいじり返す。
「お前こそ、Fクラスなのにチーム戦優勝だろ?前例にないことだぜ。どんな気分だ?」
「最高の気分だ」
トオルはナギサとミヨを両手で抱き寄せた。
「あのラリルレコンビは当日夜に逃亡中のところを発見されて補導。前科持ちとして保護観察処分。一方の俺は不利な状況を覆して勝利の上、両手に花だ。ざまぁみろ」
「調子に乗ってると足をすくわれるぞ?過剰なおごりは周囲から反発を招く」
「分かってる。その辺はわきまえてるさ。それより、そっちは大丈夫なのか?」
「計画通り。これから王女と謁見だ」
俺の答えに対して、ミヨが言う。
「アラタくん。頑張ってね」
「ミヨ……」
「もう!私のことはいいの!自分のことだけ考えて」
「おう」
ミヨには2年前に想いを告げられたが、俺はその場できっぱりと断った。両家を巻き込み一時的に気まずい雰囲気になったが、なんやかんやあって元の仲の良い幼馴染という関係に戻った。
「頑張ってこいよ」
「おうよ……時間だ。言ってくる」
応援を背に休憩室を出る。
ミヨとナギサは、俺がこれからサクナ様との勝負にでると思っている。
それは半分正解で、半分間違っている。俺が今から何をするつもりなのか、正しく理解しているのはトオルだけ。なのだが、俺はふたりの誤解を解くつもりはない。
いざ、向かうは来賓用の応接室だ。
応接室の扉をノックすると中から入室を許可する声が聞こえた。
扉を開けて中に入ると、既に役者はそろっていた。
奥に座るのはサクナ王女。傍らにはいつぞや会ったメイドが一人立って控えている。
王女の正面で居心地が悪そうにしているのはタクミといつもの従者二人。アザミとシオンだ。
「こちらへどうぞ」
メイドの勧めに従い、椅子に座ったところでサクナ王女が口を開く。
武闘祭入賞者に対する当たり障りのない称讃の言葉のあと、俺をちらりと見ると、タクミに向けて語り始めた。
「今回皆さんをお呼びしたのは、入賞者の皆さまを慰労したいと思ったからです。アラタさんとは親しくさせていただいているので、特にタクミさんから色々とお話をきかせていただきたく。よろしいでしょうか?」
「はい」
タクミの声は硬い。
イサナ王女派のタクミにとってサクナ王女は間接的に敵である。(サクナ王女にはイサナ王女に敵対する気持ちなどないのだが)
通常、ただの港町のお祭りに対して王女が来賓として来ることなんてない。
にもかかわらずサクナ王女はやってきた。タクミは、俺がサクナ王女の威を借りて無理難題を突き付けてくるとでも思っているのだろう。
それは正解だ。
「タクミさん、お二人で話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……」
タクミは答えに迷っているようだ。俺の方を気にしている。後押しのために俺は提案した。
「私は席をはずします。お二人で話し合えばよいかと」
「ありがとう。……シズカ、貴方も席を外してもらえる?」
「承知しました」
王女自らがお付きのメイドを下がらせる。その場の流れに逆らえず、タクミも了承。従者であるアザミとシオンに席を外させる。
サクナ王女とタクミだけが部屋に残り、その他の人物は廊下へと出た。
「では、私はここで待機します」
メイドのシズカはそのまま応接室のドアの脇に直立不動で待機。ここで不審者に目を光らせるようだ。
軽く頷くと、俺は視線を目的の人物たちに向ける。
「おい、そこの二人」
俺は廊下の端でなにやら話をしていたアザミとシオンに向かって声をかける。
ビクっとした二人のうち、背の高い方、アザミが返事をした。
「……何か?」
「この部屋の中で、何が起きているか、知りたいか?教えてもいいぞ」
「「……」」
二人は無言。主人であるタクミが心配だが、俺の言うことを信じていいのか分からない、ってところか。
俺が二人に近づくと、気圧されるように半歩下がる二人。
そのまま二人に接近し有無を言わさず肩を抱く。
「そうだな……そこの部屋で話をしようか」
「「……」」
廊下の端にある休憩室に二人を押し込む。
準備は万全。この部屋は防音だし、奥には横になれるようベッドもある。抵抗された場合を想定して、様々なアイテムも用意しておいた。
後ろ手に鍵を閉めると、不穏な空気を感じたのか、アザミとシオンの二人は俺の手を振りほどく。
背の高いアザミが背の低いシオンを後ろに隠して庇っている。
この二人、俺に対して何かと厳しい態度をとるが、それは主人であるタクミの言動をフォローするため。他の同級生たちに対する接し方は丁寧で、進んで困っている人の手伝いをするなど、本来は優しい性格だ。
つまり、俺にとっては美少女(世間一般的にはブス)かつ性格も素晴らしい子たちだ。
わざわざサクナ王女と結託して作った、一晩誰の邪魔も入らないこの状況。俺は目の前の二人の少女と親しい関係になりたい。
ちなみに、タクミは今頃応接室でサクナ王女のアプローチを受けている。悪いようにはならないはずだ。
俺は二人に向かって歩き出した。
こんな感じでシナリオ3以降も続きます。




