第19話 シナリオ2 臥薪嘗胆⑥
控室に戻る俺とアラタに、ナギサとミヨもついてきた。
ナギサが俺の左腕にくっついて離れない。柔らかい感触が凄く幸せです。
とはいえ、友人たちの眼前である。節度を保たねば。
「な、いったん離れてくれよ」
「え~?少しくらいいいじゃん。私の事嫌いなの?」
「好き」
「私も好き……」
いい感じの雰囲気になりそうなところで、アラタとミヨから釘を刺された。
「おい。二人とも。この後決勝戦があるの忘れてないだろうな?」
「そうだよ!ずるいよ!ハレンチだよ!」
唇を尖らせたナギサを左腕にくっつけたまま、俺はアラタに答えた。
「すまん。……アラタ、例の薬の影響は?俺はまだ無理そうだ」
「俺もまだダメだ」
「例の薬?何かあったの?」
ナギサが質問してきたので答える。
「俺たち、薬を盛られたらしい。アラタは召喚獣を呼べないし、俺はコイツを簡易形態から通常形態へ戻すことができないんだ」
「え?本当?大丈夫?」
「とりあえず召喚獣を呼べない以外の影響は出てない」
「ちゃんと調べた方がいいよ!毒が回ったりしたら大変だし!」
捕まれた腕を揺さぶられる俺。
「次がお前らだったし、逃げるわけにはいかなかったんだよ」
「トオル……」
「またこの雰囲気、いいかげんにしなさい!」
ミヨに怒られた。
「ちゃんとお医者さんに診てもらおうよ。……あれ?ということは、さっきアラタくんが召喚獣を使わなかったのは、わざとじゃなかったってこと?」
「そうだ」
驚くナギサとミヨに対し、アラタが答えた。
まぁ、驚くよな。
「私たち、警戒しすぎて自滅しちゃったんだね。最初から全力で行けば勝てたかもしれなかったのか……」
「召喚獣のパワーで押し切られたら負けてたかもね」
ミヨが悔しそう。
まぁ、俺たちが召喚獣を使えなくなっているなんて想定できないだろうし。
アラタの召喚獣を知っていれば、慎重にもなるから仕方ない。
そう考えていると、控室の扉がノックされた。
「どうぞ」
アラタの返事の後、大人が二人入ってきた。一人はアラタの護衛をしている人。もう一人は白衣を着ていた。
護衛の人は肩から大きなバッグを下げていた。
「若、ご要望の物です」
「ご苦労さま。良く間に合ってくれた」
護衛の人がバックから取り出し、アラタが受け取ったのは小瓶に入った茶色い液体。
「封印解除の薬。普通に暮らしていたら知る機会はない薬さ」
「そんなものがあるのか」
「そもそも封印状態を引き起こす薬が禁制品で、持ってるだけで捕まる代物だ。例外として特殊な病気の処置に使用されるから、病院の薬を譲ってもらえるようお願いした」
白衣を着た医師のおじさんが口を開く。
「先に体の状態を確認させていただきます」
「あ、はい」
アラタと俺は医師の診察を受ける。
「間違いない。抗召喚薬による症状です。由々しき事態ですね……」
「何か問題が?」
「いえ、あなたがたの話ではなく……まずは封印解除薬を飲んで安静にお願いします」
小瓶に入った薬をそれぞれ飲む。見た目とは違って甘ったるい。
「解除薬の効果は数分で現れるはずです」
そのまま1分ほど待機したところで、再び医師が口を開く。
「召喚獣を呼んでください。どうですか?」
「うん。戻ったみたいです。呼べるようになりました」
アラタの目の前に小さな人魂が浮かぶ。
俺も浮遊眼の大きさを変えられるようになった。
「ふう。これで決勝は何とかなりそうだな」
俺の呟きに対し、医師が反応した。
「医者としては決勝戦の参加辞退を勧めます」
「ドクターストップですか?」
「万が一ということもあります。念のため精密検査をされた方がよいと判断します」
医師の強い口調に、俺はアラタに視線を向けた。
アラタは少し考えた上で返事をした。
「不戦敗ではなく、無効試合ということにできますか?」
「……事情を話せば可能だと思います。今回の大会の主催者や来賓に事態の重大性を伝えれば、恐らくは」
「お願いします。不戦敗になるのであれば、決勝に出ます。負けるわけにはいかないので」
「分かりました。では、そのように」
医師は出て行った。
「大丈夫でしょう。先ほど盛られた薬についての分析も出ていました。悪いようにはなりませんよ」
残った護衛のおじさんのフォローにもアラタは軽く頷くのみで、何か考えているようだった。
しばらくすると、医師と一緒に大会関係者と思われる人物が控室に入ってきた。
大会関係者の名札を付けた人が告げる。
「決勝戦は無効試合とし、今回は例外的に両チーム優勝扱いとします。また、3位決定戦も中止。本日の試合は全て終了です」
武闘祭チーム戦での優勝が確定した。
「よし!」
「おめでとー」
思わずガッツポーズした俺に周囲のみんながパチパチと拍手してくれる。
複数チームの優勝とはいえ、武闘祭で優勝したというのは重要な意味を持つ。
実力があることをアラタのおかげとはいえ証明できたのだから。Fの逆襲である。
「お二人はこれから病院までお願いします。精密検査をします」
医師の先導に従い、控室から出る。
ナギサがついてこようとしていたが、ミヨに引きはがされた。
「私たちはこっち。表彰式に出なきゃ」
「うー……終わったらすぐそっちに行くからね」
「俺らの分も代理で貰っといてくれ」
「了解!」
二人に後のことを任せ、俺たちは競技場の出口へと向かう。
その場で手を振って別れると、俺はアラタに小声で話しかけた。
「これでよかったのか?」
「今日やらないといけないことは全部やった。明日の個人戦に俺が出て優勝する。それで今回もミッションコンプリートだ」
アラタの言葉に安心し、俺たちは病院へ向かった。
病院で精密検査を受け終わった頃にナギサ達がやってきた。
俺たちが競技場を去って以降のことは、表彰式に出た二人に聞いた。
決勝戦で戦うはずだったタクミ達のチームは随分と抗議したようだ。
相手がいないのだから不戦勝だ、と。
確かにその通りだよなぁと思ったが、選手間で薬を盛った、盛られたという前代未聞の事件と、大会関係者に強いパイプを持つ幼馴染たちの親の影響もあり、その抗議は却下された。
というかうやむやのままに両者優勝扱いになった。
タクミは明日の個人戦で決着をつけると鼻息が荒かったらしい。
「あの興奮した様子、トオルたちにも見せたかったよ」
「想像できるわー」
相槌をいれた俺に、ナギサ達は続ける。
「私たちにまで因縁着けてきてさ。Fクラス召喚獣持ちに負けるなんて雑魚だとか、八百長したんだろうとか。腹が立ったよ」
「私も、殴ってやろうかと思った。あ、もちろん、そんなことしてないよ!」
シュッシュ、とパンチの真似をするミヨに対し、アラタは冷静だ。
「まぁ、向こうにとっては優勝にケチが付いたわけだし。怒るものむりないよ」
「そう?アラタくんは優しいね」
「別にそういう訳じゃない。……それより、薬を盛った奴らはどうだった?」
「詳しい話は何もなし。どうしたんだろうね?」
ラリルレコンビから事情を聴きだしてないのだろうか?
みんなして頭に疑問符を浮かべる。
そうこうするうちに、病院に幼馴染各々の親たちがやってきた。
俺とアラタの親は分かるが、ナギサとミヨも?
親だけでなく、いかつい大人の人も数人。
何かが起こった?
「みんな、今日は注意して帰るように」
アラタの護衛をしているタケルさんが注意を促す。
「首謀者と思われる学生二人が逃亡した、以前、町の外で知らない男たちといるところをみたという証言もある。薬も非正規のルートで入手したようだし、念のため警戒してほしい」
「逃げたんですが!?」
「面目ない。自警団が責任もって保護するので、それまでは警戒お願いします」
「明日は中止ですか?」
「現時点では中止になっていない。今夜中に片付けば明日は予定通り実施」
「……」
アラタが大人しいということは、予定通りになるということ。
今夜中にあの二人が捕まるのか……
それ以上の情報はなく解散。迎えに来た母と共に家路につく。母は終始上機嫌だった。
夕飯のおかずが豪華だったのは気のせいではない。
弟や妹の俺を見る目も何だか朝とは違って見える。
風呂に入って横になった俺は、二日後の舞踏祭で何をするか考えているうちに眠りに落ちていた。
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