第17話 シナリオ2 臥薪嘗胆④
本日は武闘祭1日目。チーム戦が行われる日だ。
「「頑張って(ね)!」」
家を出るとき、弟妹から応援の言葉をもらった。
弟は今年の召喚祭でCクラス召喚獣を得ているのに兄を馬鹿にしない。出来た弟だ。兄は嬉しいぞ。
町の競技場には参加する生徒のみならず、お祭り好きの住民たちが集まって来ていた。
そこかしこに屋台が出店している。
人をかき分けて選手控室に向かうと、アラタは既に部屋で待っていた。
「おはよう」
「おはよ」
アラタは戦闘服にいつもの木刀。
刃引きの剣は使ってもよいことになっているが、あくまでも木刀で試合をするとのこと。
俺も動きやすい服装をし、武器として短槍を模した木棒を持ってきた。
軽くて丈夫な、ボグデン爺さんオススメの一品である。
「今日の対戦相手だ」
アラタが渡して来たのはトーナメント表。
俺たちの名前は端に記載されていた。
「一回戦はシードで2回戦目からか。Sクラス召喚獣持ちがいるから妥当なとこか」
反対側の山のシードはタクミ達のチーム。
あいつも同級生唯一のAクラス召喚獣持ち。まぁ納得の構成だ。
「タクミ達とは決勝戦で戦うことになる。で、その前に当たるのがあいつらだ」
改めてトーナメント表を確認する。次に探すのは幼馴染たちのチーム。
「順当にいけば準決勝か。3回勝てば当たるな」
「あいつらも今日のために頑張ってた。きっと準決はあいつらだ」
「あとは……まぁいいか」
「高レア召喚獣持ちは明日の個人戦に出てるから、今日注意する奴らはそれくらいだろう。ただ、油断はするなよ。足をすくわれるわけにはいかない」
「わかってる」
そうこうするうちに試合時間になった。
アナウンスがかかる。
「次は、2回戦最終試合。選手は入場ゲートまでお越しください。繰り返します…」
「初戦だ。いくぞ」
「おう」
俺たちは控室を出て、試合会場へと向かった。
結論を言うと、初戦と次の試合は全く問題なく勝利した。
アラタがいる時点で、相手チームの選手たちは全体的に腰が引けている。
どうせこちらに勝てないと思っている相手チームに対して、アラタが一人ずつ戦闘不能にしていくという簡単な作業だった。
2回とも相手チームは3人構成だった。
二人がアラタの相手をし、もう一人が俺の相手という割り振りで、アラタには勝てないからせめて俺を倒して一矢報いる、という思考だったようだが、肝心の俺と対峙した相手が弱すぎだ。
俺に有効打を与えることができずに、二人を倒したアラタが俺の応援に来てそのまま終了という流れで試合が決まった。
控室に戻りながら次の試合について話をする。
「次は準々決勝か。この調子なら問題ないな」
「あいつらに当たる前に負けるわけにはいかない」
「その意気だ。トオル。……俺はトイレに行ってから戻るから、先に戻ってくれ」
「わかった」
アラタと別れて控室に戻る途中、嫌な奴と遭遇した。
「よう。コバンザメ」
「……」
ラリルレコンビの片割れ。ルクレだ。
無視して横を抜けようとしたら邪魔をしてきた。
「アラタに守ってもらわないと何もできないのか?雑魚が」
「道をふさぐな。どけ」
「は?生意気なんだよ!どいてくださいお願いします、だろうが!」
態度がでかい。ちょっと高レア召喚獣持ちだからといって調子にのるなよ。
俺より背が低いくせに。
「どけ」
「いやだね」
「……」
イライラが爆発しそうになったとき、後ろから声がかかった。
「トオル?どうした?」
「っチ」
アラタが近づいてきたことで、ルクレは舌打ち。
いつもだったらこのまま消えるのだが、ルクレは動こうとしない。
「何か用か?」
「次の試合相手に挨拶に来たんだよ」
ルクレの言葉に、アラタは冷静に返す。
「そうか。それはどうも。じゃあ挨拶も済んだし、これでいいな」
「……フン」
ルクレが道をあけた。道の先、曲がり角からラリルレコンビのもう片割れであるライリが出てきた。
こちらに近寄ってくる。
俺たちはライリを無視してすれ違い、向こうもこちらに突っかかってくるようなことはなかった。
そのまま控室に戻り、扉を閉めたところで一息ついた。
「すまん。助かった」
「あいつ、どうしようもない奴だな」
「……次の相手はあいつらかー。嫌な気分だ……」
テンションが下がる。
「逆に考えれば、ようやく、目に物見せる機会がきたということだ。ボコボコにしてやろうぜ」
「……そうだな。よし、次の試合は俺も前に出る」
「大丈夫か?」
「負けるつもりはない。けど、万が一のときは頼む」
「わかった」
部屋に用意されていた飲み物を飲み、静かに試合に備える。
「次は、準々決勝最終試合。選手は入場ゲートまでお越しください。繰り返します…」
「いくぞ」
「おう」
アナウンスを聞き、俺たちは控室を出た。
試合会場はオープンスペース。
1階は選手や関係者のみが入れるエリアで、周囲の2階席から観客が応援する。
先ほどまでの試合とは異なり、観客の数が多い。
順々決勝にもなると注目を集めるのは分かるが、明かに何か他の理由がありそうだ。
試合前の整列。
目の前の二人はニヤニヤしていた。
一礼の後、試合が始まる。
ポジション的に、アラタはライリを、俺はルクレを相手にすることになる。
最初に動いたのはライリだった。
かかしのような召喚獣を呼び出し、アラタに向けて攻撃術を放つ。
アラタはそれを召喚獣による防御術で無効にする、と思いきや、術が体に当たる直前で回避した。
「アラタ!」
「おかしい。召喚獣を呼べない。これは封印のステータス異常?どうして?」
アラタはライリの術を回避しながら何かつぶやいている。
「おら、雑魚が!よそ見してていいのか?」
ルクレが襲い掛かってくる。手には巨大なハンマー。
あれが奴のCクラス・道具型召喚獣だ。
重厚そうな見た目と異なり、ハンマーはまるで小さなトンカチであるかのように素早く振り下ろされる。
木棒で受けると棒が軋んだため、慌てて力を逸らせる。
まともに受けるのは良くないな……
距離を取って離れた俺に対して、ルクレはニヤニヤ気持ち悪い顔を向けてきた。
「頼みのアラタも助けには来れないぜ。残念だったな!」
俺は何も答えず、肩の上の浮遊眼の眼を開いた。
これで俺の視力と視界は格段に上がった。
ハンマーを振りかぶりながら突っ込んでくるルクレ。
速度の乗った一撃をギリギリで避ける。
ハンマーは何度も俺を襲うが、避ける、避ける、避ける。
木棒を使って防御するまでもない。浮遊眼の能力を発動した俺には、この程度の攻撃を回避することなど造作もない。
「逃げんじゃねぇ!」
俺に攻撃が当たらないのにじれたのか、ルクレは一度離れるとハンマーを上に掲げた。
「死ね!」
ハンマーが淡く光った後、これまでよりも一段早いスピードで突っ込んでくる。
「お前がな」
俺はその一撃を回避すると同時にルクレのあごに一撃を入れる。
ルクレはハンマーを振り下ろした体制から、そのまま時が止まったように体を硬直させ、そのまま真横に倒れた。
完全に気を失っている。戦闘不能判定だ。
ジャッジの宣言の後、観客から歓声が沸き上がり、アラタたちもこちらの状況に気づいたようだった。
激高したライリがターゲットを俺に変え、炎の礫を放つ。
広範囲にばら撒かれた礫を木棒を使って全て防ぐ。
アラタが頷いたので、そのままライリに接近。ろくな回避行動を取らなかったライリを殴り倒し、倒れこんだ眼前に木棒を突きつける。
「そこまで!」
審判が俺たちの勝利を宣言した。
観客席から拍手が聞こえる。低レア召喚獣持ちでもやるときはやることを示せただろうか。
俺は一礼して競技場を後にした。