第16話 シナリオ2 臥薪嘗胆③
この国では12才から15才が中等学校に通うことになっている。
俺が暮らすこの町には中等学校は1つだけ。全校生徒は千人を超える。
年中何かしらのイベントが起きている学校だが、最高学年の生徒にとって一番大きいイベントは武闘祭である。
港町特有?の血の気の多い住民が多いこともあり、生徒の腕っぷしの序列を白黒はっきりさせる武闘祭は、この町で生きていく男には避けて通れない。
基本的にはほぼ全員が参加し、トーナメント方式で争うことになる。
個人戦とチーム戦があり、チーム戦では1チーム3人以下と規定されている。高レア召喚獣持ちは個人戦を、低レア召喚獣持ちはチーム戦に参加することが多い。
両方に参加することも可能。
今年の注目は何といってもSクラス召喚獣持ちのアラタ。次点がAクラス召喚獣持ちのタクミだ。
ナギサとミヨはBクラス召喚獣持ちであり個人戦に出た場合かなり善戦する、というか入賞するレベルだが、どちらも個人戦には出ていない。
ふたりでチーム戦に出るらしい。
俺?Fクラス召喚獣持ちは大人しく不参加にしたかったが、諸事情がそれを許してくれない。
仕方ないから誰かとチーム戦に出ようと思っていたところ、アラタから声がかかった。
全力でアラタに寄生して生きていくつもりの俺が、二つ返事で承諾したのは言うまでもない。
例えアラタの力であったとしても、武闘祭で上位入賞すれば、俺の家に対する顔もたつ。
召喚祭以降、アラタは俺に何かと気を遣ってくれる。
Fクラス召喚獣を呼ばせてしまった負い目があるのかもしれない。
放課後の学校、部活に所属していない俺は、授業が終わればすぐに家に戻る。
この日は野暮用があり放課後少し残っていた。その用事も終わり、今から下校。
「じゃあ、後で」
「おう。また」
アラタに挨拶をして別れる。
下駄箱まで来たところで声が聞こえる。
「うわ、コバンザメ野郎だ」
「相変わらずシケた顔してんな」
「……」
振り向かなくても分かる。ライリとルクレ。
人呼んでラリルレコンビ。まぁ、俺がそう呼んでるだけですが。
「おい、Fラン。無視すんじゃねーよ。聞こえてねーのか?」
「雑魚は耳も雑魚なのか~?」
「……」
俺は徹底的に無視。
浮遊眼の視線を向けることすらしたくない。
こいつらはCクラス召喚獣持ち。低レア召喚獣持ちに対して横柄な態度を取る奴らだ。
そこそこ実力があるのが腹立たしい。
アラタたちと一緒のときには絶対にこんな態度はとらないが、俺一人だとこんな風に嫌がらせ行為を繰り返してくる。
普通に考えたらアラタの友人である俺に手を出さない方がいいと思うのだが、バカなのかひたすら絡んでくる。
タクミ派というわけでもないし……何か別の理由があるのか?
「武闘祭に出るんだってな。せいぜいアラタに守ってもらうことだな」
「コバンザメ野郎にはお似合いだぜ」
「……」
俺は靴を変えて学校を出ていく。
ラリルレコンビは外までは追ってこなかった。
「こんにちはー」
一旦家に荷物を置いた後、俺はボクデン爺さんの道場へとやってきた。
奥に上がると、先に準備をしていたアラタがこちらを見て声を掛けてきた。
「遅いぞ、トオル」
「時間ピッタリだ。そっちが早い」
「5分前行動だ」
「お前は俺のオカンかよ……」
アラタのおかげで俺が無事に学校生活を送れているという意味で、アラタが俺の保護者というのはあながち間違いでもない。
「今日は武闘祭の作戦会議だ。さっさと済ませよう」
「作戦会議って、そんなに話すことあるか?俺はそんな役に立てないと思うから、足を引っ張らない程度に頑張るけど」
「それじゃダメだ」
アラタは真面目な表情で俺に説教する。
「トオル、お前はこの武闘祭で活躍しなければいけない。俺のおまけなんかじゃなくて、お前自身が強いことを周囲に認識させろ」
「無茶いうなよ……俺の召喚獣はFだぜ。まともにやって勝てるわけない」
「無茶じゃない!」
アラタは真面目な表情を崩さない。
「俺は知ってる。お前があの日から毎日訓練してることをな。努力は必ず結果となって表れる。今回の武闘祭で、だ」
「……」
「……それに、知ってるだろう?武闘祭の伝統を。俺の親友は、ミヨとナギサがチーム戦に出た理由が分からないほど馬鹿ではないと思っているぞ」
「……ああ、分かってる……」
武闘祭の翌日は舞踏祭。
そこには伝統がある。気になる子を、一緒に回ろうと誘うのだ。
舞踏祭を一緒に回ろうという誘いは、一種の告白。相手が承諾した時点で成立だ。
そして、基本的に誘う者は誘われる者よりも武闘祭で上位でなければならない。
由来の分からない何十年も続く伝統であるが、無視できないイベントだ。
俺は幼馴染に好意を抱いている。舞踏祭を一緒に回りたい。
そのためには、上位に食い込む必要がある。幼馴染たちは競争率が高いのだ。
今はアラタがいるから周りは牽制し合っており、表立って手を出されないだけ。
この舞踏祭でアラタの相手が決まれば、幼馴染たちは明確にフリーとなる。
抜け駆けする奴が出てくるかもしれない。
「……今日も絡んできた奴らがいる。少なくともあいつらには負けられない」
「あいつらは万が一にも可能性はないが……本気を見せるのは今だせ」
「ああ……!」
やってやる。そう決意したところで真後ろから声が聞こえた
「うむ。青春じゃのう」
バッと振り向くと、そこにはボクデン爺さんが立っていた。
馬鹿な。俺はアラタと話しながら浮遊眼で周囲を警戒していた。
さっきまで、そこに爺さんがいるとは認識できていなかった。
「爺さん、盗み聞きはよくないぜ」
「偶然聞こえただけじゃよ」
とぼける爺さん。
この爺さん。もう還暦を越えているというのに、鬼のように強い。
アラタもまだ本気の爺さんに勝ったことはない。理不尽の塊みたいな存在だ。
「お主も色を知る年か。50年前を思い出すのう。儂も舞踏祭では美女を侍らせて熱い夜を過ごしたものじゃ……」
「いやですわぁ。お爺さんたら。恥ずかしい」
誰もいない空間から声がした、と思ったら、一瞬の後、そこにはお婆さんが立っていた。
ボクデン爺さんの奥さん、タエ婆さんである。
「……見事な隠形術ですね……」
アラタの額に冷汗が浮かんでいる。
こちらをチラ、と見たアラタに対し、俺は首を横に振った。
浮遊眼の視界で見ていたはずなのに、そこに婆さんが立っているという認識を持てなかった。
気配の殺し方が半端ない。この老夫婦、俺たちとはレベルが違う。
「おばあちゃんもトオルちゃんを応援していますよ。頑張って」
「はい!」
「ほっほ。ではこれから武闘祭までにやることを教えるぞ」
「はい!!」
俺はボクデン爺さんとの修行を開始した。
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