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第15話 シナリオ2 臥薪嘗胆②

俺は、日課となった朝のジョギングをしていた。

海岸沿いを走った後、人目のつかない場所で召喚獣の練度を上げるための訓練をしつつ体をクールダウン。


俺ももうすぐ15才。

相棒であるこの召喚獣・浮遊眼を得てから3年が経過している。


この3年で、幼馴染たちとの関係も含め周囲の環境は大きく変わった。



最も大きく変わったのはアラタだ。


元々町長の息子ということで特別視されていたが、Sクラス召喚獣を得てから、周囲のアラタに対する認識は大きく変わった。有力者の息子から未来の英雄へ。

町長の付属品ではなく、一人の人間として認められたということだ。


召喚祭直後は多くの勧誘があったそうだが、ある出来事の後からその勧誘はぷっつりとなくなった。


その出来事とは、この国の第一王女・イサナ様がこの町の外れに漂着し、それを第二王女・サクナ様が迎えに来た事件である。

サクナ様とのやり取りの結果、数年の猶予期間を得たらしい。


当時、この猶予期間になにをするのか聞くと、こんな答えが返ってきた。


「召喚獣の練度とレベルを上げる。Sクラス召喚獣とはいえ、初期状態では弱い。レベル上げは必須だ」


アラタの予知では3年は大きな事件が起きないということだった。


……実際はそれなりに大変な事件が何度か起きた。

それもアラタに言わせると大したことがない事件だったようだ。まぁ、町のみんなは無事に生活できているし、結果的には大きな影響なく終わったからな……。


話を戻そう。

アラタに、具体的にどう修行するのか問うと、ある人に師事すると言い出した。


過去、町で小さな道場を開いていたボクデン爺さん。

アラタは召喚祭の半年前から爺さんに弟子入りを希望していたそうだが、断られ続けていた。もう引退したからと。

そこに、S召喚獣を得た事実と、町長と自警団長の推薦状を使い、ようやく弟子入りが許可された。


アラタは俺たち幼馴染3人も一緒に弟子入りを打診してくれていたらしく、俺たちは各々爺さんから修行をつけてもらえることになった。


幼馴染たちは自分の召喚獣や才能にあった技術を学び、長所を伸ばしている。


そんな中、どうも俺は大した才能がなかったらしく、基礎の走り込みと型や素振りの練習がメインになっている。

俺も何か一つ得意な種目が欲しいなぁ。


ちなみに俺は、低レア召喚獣にもかかわらず、腐らず真面目に勉学に取り組んでいるということで大人からの評価はそれなり……だと思う。


高レア召喚獣を得て調子に乗っていたり、低レア召喚獣だったためにグレてしまった子供よりは手がかからない子、そういう評価である。

本人的にはあまりうれしくはないが、大人受けは悪くない。



海の中の魚たちを浮遊眼の眼を通して観察していると、誰かがやってきた。

ジャージに身を包んだ幼馴染・ナギサである。


「おはよ」

「おは~」


ナギサは術が得意な召喚獣を得たこともあり、普段は術の威力や精度を上げるための訓練を行っている


が、本来活発な性格のナギサは何かと体を動かしたがるため、学校では運動部に所属しており、朝練の一環でジョギングをしているという状況だ。


「トオルは相変わらず早いね」

「このくらいやらないと、お前らに追いつけないからな」


Fクラス召喚獣でBやSについていくのは大変なのだ。継続は大事。


自分の上に浮かぶ浮遊眼を見上げる。

相変わらずデカい。


浮遊眼は瞳を下に向け、俺とナギサを視界に収める。

鏡もないのに自分のことが見える。この感覚もいい加減慣れた。


「ん」


いつも通り、俺が指を上に向けると、浮遊眼が能力を発動する。

見た目では、俺が浮遊眼の特殊能力を使ったことはまずわからない。


「そっか。……じゃ、また学校で」

「おう」


ナギサはいつものようにジョギングを再開して走り去った。

十分に離れたところで、俺は呟いた。


「……きょうもスポブラか。健康的でよろしい」


ナギサの後ろ姿を観察していた浮遊眼が能力を解除する。


これも日課。誰にもバレてはいけない。

万が一発覚しようものなら、絶交されそうな日課。


幼馴染の下着チェックである。


今日のナギサは上下長袖の運動着だった。

上からの浮遊眼の視線を警戒してか、ここに来る直前で上着のジッパーをしっかりと上に上げたことも知っている。ああ見えてガードが堅い。


なのに何故下着の形が分かるのか。


答えは簡単。俺の浮遊眼は暗視能力ではなく透視能力を得たのだ!





1年ほど前のこと。


俺は、召喚獣の練度を上げるための訓練を続ける中で、集中すると視線の先の人の服が透けることに気が付いた。

といっても、無制限にくっきりはっきり服が透けるわけではない。濡れた白シャツの下に色物を着ていると、肌に張り付いた部分は下の服の色が透けることがある。あの感覚に近い。


上着の影を通して、その下にきているものの形がなんとなくわかるという状態だ。最初は上着の影が偶然そう見えているのだと思っていた。本当に透視しているらしいと分かったのは、自警団の皆さんが各々違った場所の服の下に得物を隠しているのが、ぼんやりとした影として見えたからだ。


このことに気づいたときの俺の思考が予想できるだろうか?


この浮遊眼がFクラス召喚獣だということは一瞬どうでもよくなった。

俺は神に感謝した。この召喚獣を与えてくれてありがとう!


思春期真っただ中でそんな能力を得てしまった俺がどういう行動をとったか、ここでは多くは語らない。俺は色々やらかしてしまった。黒歴史である。


最初は黒い影の塊が見えるだけだった透視能力も、今だとある程度正確な形としてとらえることができるようになった。スポブラとオシャレブラの違いが分かる程度には練度が上がっている。


俺の召喚獣の透視能力を知っているのはアラタともう一人だけだ。ナギサやミヨにも隠している。


透視能力を持つ召喚獣というのは、俺とアラタが調べた限り存在しない。

俺の召喚獣は浮遊眼ではない、という可能性もあると思ったが、アラタの見解は違った。


「浮遊眼がそんな能力を持っていたとして、素直に回りに能力を明かすと思うか?俺なら絶対に秘匿する。世間に認知されていないヤバい能力があるからと言って、トオルの召喚獣が浮遊眼ではないとは言えない」

「でも、アラタの召喚獣が未だに俺の召喚獣をコピーできてないぜ?Fクラスではないんじゃないか?」


アラタの召喚獣はナギサやミヨの召喚獣をコピーできるようになっていた。

だが、俺の召喚獣は未だコピーできない。


アラタは首を振って答えた。


「‘亜神塊’のコピー対象はDクラス以上らしい。EクラスやFクラスは雑魚過ぎて逆にコピーできないことが分かった」

「マジ?」

「本当だ。試した」

「てことは……俺は確実に……」

「Fだな。いや、もしかしたらEかもしれないぞ」

「Eか」


Fよりはマシ、かもしれないが……

絶句した俺に対してアラタは肩を叩いてきた。


「ドンマイ!」

「……」


無言で殴りかかる俺の拳を、アラタは事もなげに片手で受け止めた。


「と……さっきのは冗談だが、実際、その透視能力は色んな意味でヤバいな。死ぬ気で秘匿しろよ」

「当然!」


鼻息荒い俺に対して、アラタは何やら考えているようだった。


「トオル、俺も、俺の秘密を一つ打ち明ける、聞いてくれるか?」

「?なんだ?」

「真面目に聞いてくれ。実は……」


アラタの口からでてきたのはうすうす感じていた内容だった。

その日から俺とアラタはこれまでよりもさらに堅い絆で結ばれた。




1年前のことを思い出していると、別の足音が聞こえてきた。


ジョギング途中と思われるミヨが近づいてくる。立ち止まったミヨは汗だくだった。


「よう。珍しいな。どうした?」

「……はぁ。……トオル君、おはよう。……はぁ。……もうすぐ武闘祭でしょ?私も体力底上げしようと思って」

「あぁ、確かにそうだな……」


武闘祭までもうすぐ。練習を始める時期か。


「トオル君は毎日ここで訓練してるの?」

「まぁ、晴れた日は大体な」

「ふーん。私もそうしようかな……?」

「三日坊主にならないようにな」

「ひどい!」


そんなやり取りの後、ミヨは去っていった。

ミヨが見えなくなったころ、おれは呟く


「ふむ。……ミヨは今日も下に着ているのか。残念」


今の俺が透視できるのは服一枚。2枚以上の服を重ね着されると役に立たない。

ああ、夏が待ち遠しい。

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