第12話 シナリオ1 王女の危機⑤
街に戻ると、何だか騒がしい。
「港に、王都からの船が着いたらしい」
「へぇ。こんな時期に何しに来たんだ?」
「さぁなぁ。ずいぶんゴツそうなやつらだったが……」
通りで麺の屋台を出していたおっさんが、注文している客とそんな話をしているのが聞こえた。
アラタに促され、俺は召喚獣を上空へ移動させて遥か先の港で何が起こっているかを探る。
港には大きな軍船が係留され、そこからガタイのいい一団が上陸している。
「何が見える?」
アラタの問いに対して俺は答えた。
「でっかい船。あれは……海軍?それにしては……水兵って感じじゃない。騎士団っぽいぞ?」
アラタは俺たちにだけ聞こえるよう、小声で答えた。
「イサナ様を連れ戻しに来た王都の騎士団かも」
「それも予知?」
「違う。予知できたのはイサナ様が王都からの使者に連れ戻されることだけ。それがいつで、港にいるのが本当に連れ戻しに来た騎士団かどうかは分からない」
「ふーん」
「自警団事務所へ行こう。あの野盗どものことを教えないと」
アラタの先導に従い、俺たちは街の中心部に向けて移動を始めた。
街役場の近くに自警団の事務所がある。
「すいません」
扉を開けて建屋に入る。
中には多くのガタイのいい大人の男の人と受付のお姉さんがいた。
俺たちに気づいた受付のお姉さんが話しかけてくる。
「あら、アラタくん。どうしたの?」
「すいません。また、襲われました」
「また?まだ懲りない人がいるのね……」
召喚獣を得てから一週間、アラタは毎日のように似たような事件にあっている。自警団の人たちとはもう顔見知り。この類の騒動にも慣れてしまった。
「で、今度はどこ?」
「海岸です。街はずれの岩場を歩いているときに囲まれました」
「タケルさんたちは?」
「襲ってきた人数が多くて、その場で縛り上げて監視しています」
「わかったわ。ありがとう」
タケルさんは護衛の二人のうちの一人の名前だ。
男の人たちに、今回襲われた場所の詳細を教えると、数人が野盗どもを確保するために事務所を出て行った。
護衛の二人が戻ってくるまでここで待機、というところで窓際の椅子に座ったところで、事務所に一人の人物が入ってきた。
「ごめんください」
入ってきたのは全身鎧を着こんだ男性。
首の上もすっぽりと金属兜で覆われており、様子が見えないが、声から男だと判断できる。
受付のお姉さんが応答した。
「はい。どちら様でしょうか」
「王都近衛騎士団の者です。ご協力をお願いできないかと参った次第です」
「まぁ、では、こちらへどうぞ」
「いえ、ここで結構です」
ヒジリと名乗った鎧騎士は身分証を見せると、そのまま話を始めた。
「この辺りで小型帆船を見ませんでしたでしょうか?王都の港から出向した船が行方不明になっており、捜索しているのです」
「帆船ですか……。特徴などはありますか」
「特徴はですね……」
鎧騎士が上げた特徴を聞いて、俺たちは気づいた。
「なあ、あの人が言っている帆船って……」
「ああ、当たりだな」
アラタは立ち上がり、鎧騎士の方へと歩いていく。
「すいません」
「……はい、なんでしょうか?」
子供に対してもヤケに腰の低い騎士さんだ。
「僕たち、その帆船をみました」
「本当ですか?どちらで見ました?」
「街はずれの入江です。……案内しましょうか?」
「お願いします!」
そこにお姉さんが割り込む。
「ちょっと待って。アラタくんにはここにいて欲しいんだけど」
「先ほど野盗に襲われた場所のすぐそばです。ちょうどいいですし」
「……わかった。私も行きます」
お姉さんがついてきてくれることになった。
騎士さんは仲間の騎士を5人連れてきた。
仲間の騎士さんたちは顔を出していた。一人だけフルフェイスなのが違和感ある。立ち振る舞い的に、この人が部隊長っぽい。階級が上がるとフルフェイスになるのかな?
騎士さんたちを入江まで案内しながら、俺はアラタと小声で話し合う。
「なぁ、本当に連れて行ってもいいのか?」
「この騎士さんは迎えに来ただけだ。大事にはならないさ」
そこにお姉さんが割り込んでくる。
「何々?秘密の話?お姉さんにも教えてよ」
「ダメです。男同士の秘密です」
「ちぇー」
アラタがきっぱりと断る。お姉さんは残念そうだが、再度話を蒸し返すようなことはしてこなかった。
予知能力については幼馴染4人以外には秘密なのだ。
俺は、再度入江に向かうというこの展開は教えてもらっていなかった。だが、アラタが自信ありげに言っているということは問題ないのだろう。
野盗どもを捕まえている岩場では、重装備の騎士さんたちを連れて戻ってきたことで、護衛の二人はびっくりしていた。
そのまま脇を抜け、岩場を過ぎ、目的の船を目指す。
入江が見え、船が目に入った騎士さんたちが声をあげる。
「隊長、あれは!」
「ああ!間違いない。少し破損しているようだが、乗員も無事そうだ……君たち、案内ありがとう。ここまでで大丈夫だ」
騎士さんたちがこちらに向き直る。
こちらを気遣っているようで、何となくあの船に近づいてほしくないような言い方だった。
俺たちはおとなしくその場で立ち止まり、騎士さんたちだけが船に近づいていく。
「あいつ、どうするつもりだろう?」
船の前にはタクミ達が陣取っている。
こちらを睨んでいるように見えるのは間違いではないだろう。
俺たちが大人を呼んできたと思っているに違いない。
タクミ達は騎士さんたちの前に立ちふさがって……あ、召喚獣を出した。
と思ったら、部隊長らしいフルフェイスの騎士さんひとりにあっさりと鎮圧された。
そりゃ、荒事のプロに勝てるわけないよね。
部下の騎士さんがタクミ達を拘束し、部隊長さんがイサナ様と何か話をしている。
しばらくたって、部隊長さんが戻ってきた。
「ありがとう。君たちの協力のおかげだ。協力してもらって申し訳ないが、この件についてはあまり公言しないでほしい」
「分かりました」
一緒にいた自警団のお姉さんが答える。
「君たちも、いいかな?」
「わかりました。秘密にします」
アラタが俺たちを代表して返答した。
俺たちも頷く。
「事務所まで送るよ」
「いえ、結構です。護衛も戻りましたので」
アラタの護衛ふたりがこちらに向かってきているのが見える。
「護衛?」
「……先日、高レア召喚獣を得たので……」
「ああ、なるほど。君も大変だね。でも、それも今だけさ。力を着ければそう言った妨害は排除できる。研鑽あるのみだ」
「はい、ありがとうございます」
急に親身になってアラタにアドバイスする部隊長さん。
この部隊長さんも苦労したのかもしれない。
俺たちは自警団の人たちと一緒に街へと戻った。
帰り道、ナギサとミヨは笑顔だし、アラタも嬉しそう。
色々と初めての出来事が多い日だったが、楽しかった。