第11話 シナリオ1 王女の危機④
俺たちは海岸沿いに岩場を歩いている。
もう少し歩くと岩場が終わり、砂浜が現れる。
その先は小さな湾になっており、陸側からは崖になっているため。その砂浜に到達するためにはこの岩場を通るしかない。
知る人ぞ知る砂浜である。
俺たちは、ナギサの父親であるキヨカズさんからこの場所を教えてもらい、時々泳ぎに来たりしている。
俺たちがその砂浜にたどり着いたとき、そこには小さな帆船が漂着していた。
船の上には豪華な身なりの女の人。周りには……メイドさんか?
全員の容姿が微妙なのはどういうことだろう?
イサナ様は自分に似た女性をメイドにしているのか?
砂浜にはタクミ達3人と、先ほど襲ってきたごろつき一人が立っている。
タクミ達3人がこちらに向かって歩いてきた。
こちらはアラタを先頭に歩く。
二人の距離が5メートほどになったとき、タクミが声を上げた。
「止まれ!」
その声に俺たちは立ち止まる。
「それ以上近づくと、攻撃する。さっさと立ち去れ」
「……何を言っている?近づいたら駄目な理由があるのか?」
「お前に説明する必要はない」
「話にならん」
アラタは船の近くにいる男を指さした。
「あいつはさっき俺たちを襲った奴らの仲間だ。引き渡せ」
「その必要はない」
「……聞こえなかったのか?それとも理解できていないのか?そこにいる男は野盗の仲間だ。自警団に引き渡す必要がある」
「うるさい!…………アザミ、シオン、構えろ」
タクミは自分たちの取り巻きふたりに向けて臨戦態勢をとるよう言った。
その言葉に従い、取り巻きは斧とロッドを取り出しやがった。がっつり戦闘用の武装だ。
タクミ自身は持っていた剣を鞘から抜いた。アレ、刃がついてないか?
「口で負けて手を出すなんて、カッコ悪い!」
ナギサが後ろからヤジを飛ばす。そうだ、言ってやれ!
「うるさい!俺たちは正義だ。お前たちは俺に負けるんだ!」
半ばヤケになったようなタクミの叫びの後、タクミ達は攻撃を仕掛けてきた。
「来い!」
タクミの前に出現したのは金属の全身鎧を纏った人形。ただし、首から上がない。
Aクラス召喚獣・首無騎士王。タクミは何とAクラス召喚獣持ちになっていた。
騎士王は剣を抜き、アラタへと斬りかかる。
アラタは金属芯の木刀を使い、その攻撃を余裕の表情で捌いていた。
「まだまだだな」
「死ね!」
穏やかではない口調のタクミ。あの剣も本物っぽいし、万が一本当に怪我させたらどうするつもりなんだろう?
まあいい。俺もお役目を果たさなければ。
タクミはアラタと一対一の勝負をしたいのか、タクミの取り巻きのふたりはそちらに加勢する様子はない。
ということは、こちらにやって来るということだ。
アザミとシオンの二人もそれぞれ召喚獣を呼び出していた。
アザミがBクラス召喚獣・炎猿。シオンがBクラス召喚獣・聖天使。
事前に召喚獣の情報を得て、当然対策もしてある。
本来であればナギサとミヨで完封できる相手だが、あえて俺が前衛となり二人の盾として攻撃を受ける。当然、ナギサに防御術をかけてもらったうえで、だ。
防御術に阻まれた攻撃を、浮遊眼の動体視力でギリギリに見切りながら、向こうの攻撃が防御術を貫通している風を装う。
何度がそんな演技をした後、俺は膝をついた。
「トオル!」
「トオルくん!」
ナギサとミヨが俺の名前を呼ぶ。俺の演技は大根だが、ナギサとミヨは迫真の演技。女子ってすげえ。俺の行動の違和感が中和できればいいなぁ。
「Fクラスの雑魚が。引っ込んでろ!」
タクミが調子に乗っている。お前の召喚獣の攻撃はアラタにかすりもしていないのに、自分よりも格下だと思っている俺に対してはデカい態度だな!
とはいえ、タクミがAクラス持ちで俺はFクラス持ちなのは事実。
というか、俺の召喚獣のレア度を知っているとは。誰から聞いた?腹が立つやら悲しいやら。複雑な気持ちだ。
そんな俺の気持ちとは関係なしに、状況は変化する。
「トオル!チッ……お前らは一旦引け。俺もすぐに戻る」
「アラタ……すまん……」
俺はダメージを受けているふりをしつつ、じわじわと後退する。
アザミとシオンは追撃しようとしてくるが、奴らの攻撃は召喚獣によるものも含めて、全てナギサとミヨの召喚獣によって防がれた。
そのままじわじわと距離を取り、岩場の影に隠れた時点で状況終了。
向こうも、タクミから見えない範囲にまで追ってくるつもりはないようだ。
こちらに来ないことを確認しつつ、演技を止める。
「で、これからどうするんだっけ?」
「撤退して、護衛のおふたりがいるところでアラタくんを待つんだよ」
ナギサの質問にはミヨが答えた。
「トオル、アラタはどう?」
「全然余裕。大丈夫」
アラタだけが敵の真ん中に取り残された、という状況であるが、俺たちはアラタが負けるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
事実、俺の浮遊眼はタクミ達3人に囲まれても危なげない様子のアラタの姿を捉えている。
そのうち、首無が消えた。召喚獣を維持できなくなったのだ。
Aクラスは強力だが、その分魔力消費も多い。まだ召喚獣を得て1週間のタクミにとってはスタミナ的に厳しいのだろう。
アザミとシオンにも全く同じことが言える。
3人の召喚獣は消え、肩で息をしているのに対し、アラタは余裕の表情だ。
「…………」
アラタが何か言っている。
悔しそうなタクミが、ハッとした表情に変わった。砂浜に立ち尽くしたままうつむく。その表情は見えない。
「…………」
アラタはさらに何か話すと、自分を囲む3人をそれぞれ確認し、その後、船の上にいるイサナ様?に向けて一礼した。
その後、踵を返してこちらに戻ってくる。
タクミたち3人は隙だらけのアラタに何もせずに見送っていた。
浮遊眼を戻すとしばらくしてアラタが戻ってきた。
「余裕だったみたいだな」
「あいつらに負けるわけがないだろ」
ドヤ顔でいうアラタ。
「そういえば、最後何を言ったんだ?」
「あの男を引き渡さないなら、自警団がここにやってきて後ろにいる人ともども捕らえる。それでもいいのかってことを言ってきた」
「ふーん。お忍びなら大事にしたくないってことかな」
「そういうことだ」
そのままアラタは街の方へ向き直った。
「もういいのか?」
「ああ。やることはやった。あとは自警団に任せる……みんな、今日はありがとう」
俺たちはアラタの後を追いかける。
「気にしないで。私たち友達でしょ」
「そうそう」
「トオルなんて、やられっぷりがわざとらしすぎて面白かったよ」
「うるせぇ」
俺たちは4人で街へと歩き出した。




