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第10話 シナリオ1 王女の危機③

「そっちのガキは捕まえろ。女のガキどもも役に立つ。最後のガキはどうでもいい。見せしめで痛めつけてもかまわん」

「へへへ。怪我したくなければ大人しくしろ」


作戦会議の翌日。俺たちは4人そろって街はずれ、岩場の海岸線にやってきた。


ちょうど町から影になっている場所へ俺たち4人が踏み入れて間もなく。現れたのは、どこからどう見ても浮浪者一歩手前のごろつき集団。


各々手には刃物や鈍器を持っており、眼がイっているというか、正気を失っているような感じ。もしもいきなり囲まれて襲われていたら、パニックになっていたかもしれない。


だが今回は完全に対策済み。みんな心の準備もできているので大丈夫。


……いや、撤回。ミヨはビクビク怯えている。

ナギサがさりげなく庇っている。こういうことが自然とできるところ、イケメンだよなぁ。女だけど。


ということで、俺も余裕っぽい雰囲気で一歩前にでる。


「アラタの予知、すげぇな。ドンピシャかよ」

「……まぁね」


事前に打ち合わせしていた通り、アラタも俺の隣に来る。


「雑魚に用はない。さっさと失せろ」


アラタが見得を切る。

この言葉は決して強がりなどではない。


俺たちが、相対するごろつきどもに負ける道理は何もない。


アラタは普段から鍛えているし、素でも強い。

加えて召喚獣もSクラス。鬼に金棒だ。


後ろの二人もBクラス召喚獣持ち。本気を出せばかなり強い。

俺?Fクラス召喚獣持ちです……。あ、でも4人の中で一番背が高いぜ!


俺たちは各々武器を取り出す。


「何っ!?」


ごろつきどもが驚きの声を漏らした。


無理はない。俺たちが釣り具用の袋から取りだしたのは対人戦を想定したしっかりとした武器だった。

自衛のためのナイフくらいしか持っていないと思ったのか?残念でした!


「チッ!お前ら、相手はガキだ!一斉にかかれ!」


奥にいる男が周囲の仲間に命令した。あいつがリーダーか。

その言葉に従い、数人のごろつきが襲い掛かってくる。


「……」


アラタは召喚獣を簡易形態から通常形態に戻すことすらしなかった。


岩場という足場の悪さを利用してタイマンの状況を作り出し、一人ずつ木刀で打ち据えている。

襲い掛かってきた男たちは、腕があらぬ方向に曲がってしまったもの、岩場に体を打ち付けて動けなくなるものなど、戦闘不能者が続出している。


ちなみに、俺はアラタから一歩引いたところで、召喚獣を使って周囲を警戒している。


「ナギサ、防御頼む」

「うん」


俺の言葉に呼応し、アラタと俺の前に薄い水の膜ができあがった。ナギサの召喚獣・海姫による防御術である。


直後に、敵の召喚獣による攻撃。

風の刃と炎の矢が水の防壁によって防がれた。


先ほど号令をかけた男の左右にいる男たちによる攻撃だったが、残念。俺はちゃんとそちらも警戒していたのだ。


「来い……」


襲い掛かってくる男を悉く撃退したアラタが、自分の召喚獣を呼んだ。


Sクラス召喚獣・亜神塊。50センチ程度の人魂状の召喚獣から炎の矢が放たれる。


「なっ?」


風の刃を放った男が攻撃を受けて炎上。もがきながら海へと飛び込んだ。

これで目の前の残りは二人。


「残りふたり」


アラタがゆっくりと詰め寄る。


「ナギサ!ミヨ!」

「うん!」


そのタイミングで、俺は後ろの二人に合図を送る。


直後、俺たち4人に防御術が張られ。ミヨの召喚獣・絡繰腕が金属製の拳で背後の岩を殴りつけた。

海の中からの石つぶてによる攻撃が防がれ、岩に擬態していた敵の召喚獣が破壊された。


最初から隠れていた男は二人。俺の召喚獣の視界でそちらも監視していたのだ。

撤退しようとしたリーダーともう一人の男は接近したアラタに殴られて足をあらぬ方向へと曲げていた。気を失っているようだ。


岩に擬態していた召喚獣を持つ男はダメージを受けて倒れている。

召喚獣でミヨの攻撃を防ごうとしたものの、巨腕による一撃はその防御を貫通し、後ろにいた召喚者にまでダメージを与えたのだ。


ただ一人残った海の中に潜んでいた奴は沖へと逃げている。

そいつも俺の召喚獣の視界でとらえている。逃がすつもりはない。


アラタが懐から取り出した笛を吹いた。


すると、遠くから二人の大人の男性が近づいてくる。

いかつい顔をした、アラタの護衛の二人である。


「若、大丈夫でしたか?」

「こういうことはこれっきりにしてほしいです……」


二人はそれぞれアラタを心配していた。


「すまないが、もう一戦ある。こいつらの見張りを頼む」

「それは構いませんが……」

「俺たちのことを知っているような口ぶりだった」

「わかりました。どこの手のものか、吐かせましょう」


二人は手早く、周りに転がって唸っているごろつきどもを縛り上げていく。


「トオル、逃げて行った奴はどっちへ行った?」

「向こう。これから行こうとしている方向だ」


アラタは真剣な顔で呟いている。


「タクミ達が先に行ったのに、そっちではなく俺たちを狙ってきた?イサナ様を狙っていたわけではないのか?」


予知夢と微妙に異なったみたいだ。


「アラタ、大丈夫か?」

「……トオル、この先の入江、船の近くに何人いるかわかるか?」

「ちょっとまってくれ」


俺は浮遊眼を直系1メートルほどにすると、上空へと移動させる。

遠隔操作の練習がここで役に立つ。


邪魔な岩場の上に飛ばした召喚獣の視界を通して様子を確認する。漂着した船の近くに10人くらいが見えた。


「10人いる。……タクミ達がいるぞ。側にいるのは……きっとサクナ様だな。あの特徴的なお顔。きっとそうだ。というか、何だあの集団」


よくもまああんな容姿の人間を集めたな、という集団になっている。


「タクミ達とイサナ様たちの様子はどんな感じだ?」

「友好的?仲良さそうな感じだ。シンパシーを感じてるのか?……ちょっと待て!アレ、さっき逃した男だ!」


談笑している様子の一団に、ずぶ濡れの男が何か報告している。


それを聞いて、タクミ達が動き始めた。


「男が話して、タクミ達が何か言ってる。奴ら、グルなんじゃないか?」

「……好都合だ。これからタクミ達の相手をする」

「わかった」


アラタの言葉に従い、一旦俺は召喚獣を戻す。

アラタはこれまで黙っていたナギサとミヨに労いの言葉をかけていた。


「二人とも、良かったぞ。ナギサの防御術も、ミヨの一撃も凄かった」

「へへ。まぁね~」

「アラタくんのアドバイスのおかげだよ!」


興奮している様子。無理もない。


普通に街中で生活していると、召喚獣を使った戦闘行為を行う機会はほぼない。

俺たちが対人で召喚獣を使ったのはこれが初めてだ。


高レア召喚獣の能力を存分にふるえる機会を得て、ふたりは高揚していた。


「よし、油断せずにいくぞ」

「ああ」


歩き出そうとしたアラタに、護衛の二人が声をかけた。


「若、怪我なんでしないでくださいよ」

「お気をつけて」


護衛二人は一旦ここで待機。

縛り上げたごろつきを監視しつつ自警団に連絡して引き渡し、その後再び護衛に戻る予定だ。


アラタは二人に手を振ると、俺たちを先導して歩き始めた。


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