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第9話 シナリオ1 王女の危機②

あの召喚祭から一週間、俺はアラタにアドバイスされた通り、召喚獣の練度を上げる訓練を続けていた。


訓練場所は先日、幼馴染たちが集まった秘密の場所。

うちの農業小屋がある海沿いの崖上である。


この場所からは海岸や灯台が一望できる。

そこを行き来する人たちを、一人一人召喚獣を使って観察している最中だ。


あの日、アラタは練度を上げる方法について教えてくれた。


「多くの人や物を観察することで練度が上がる。ただし、同じ物を何度も観測しても意味はない。その点で、人を観察することは練度を上げるのに最適だ。人は時々によって容姿や姿勢が変わるからな。例え同じ人でも、別の日に観測すれば経験値が入る」


学校が終わった後はここに来て、魔力の続く限り日没まで訓練している。


街中や放課後の学校など、ここよりも人が多い場所で訓練しない理由はいくつかある。


一番大きい理由は、そんなことをすれば、自分の召喚獣が浮遊眼であり、レア度が低いことを自分からアピールするようなことになるからだ。


この訓練は召喚獣を通常形態で行う必要がある。

人目に付く場所で、10メートル近い通常形態は目立ちすぎる。Fクラス召喚獣だとバレてしまう。


召喚祭の翌日以降、学校では、自分がどういった召喚獣を得たかというのが話題に出なかった日はない。


一般的に、高レア召喚獣を得たものは積極的に自分の召喚獣のレア度を誇り、召喚獣を簡易形態にして過ごす。一方で低レア召喚獣を得た者はその話題をなるべく振らず、召喚獣を呼び出さずに過ごす。


俺の幼馴染たちは高レア召喚獣を得たものの、それを自分から誇ることはなかった。

とはいえ、アラタはこの街で初めてのSクラス召喚獣持ち。その噂はあっという間に広がった。


そうなると、アラタといつもつるむメンバーについても興味を抱かれる。


俺はFクラス召喚獣持ちだということを必要な人以外には明かしていないが、召喚獣を簡易形態にして過ごしていない時点で、周囲からは残念な結果だったと予想されているだろう。


同級生たちの間に一生変わらない明確な上下関係が生まれ、俺は下とみなされている。結構、いや、かなりつらい。


そんな中、幼馴染たちの態度が変わらないことは救いになっていた。

あいつらのためにも、俺は役に立ちたい。


この一週間真面目に訓練を続け、召喚獣の練度は上がったと思う。

今日、とうとう新しいことができるようになったのだ。


新しい能力を使いたくてうずうずしていると、こちらに向けて誰かが坂道を上って来ていることに気づいた。


あれは、ナギサとミヨだ。


「おー、やってるね。トオル」

「トオル君、こんにちは」

「ナギサ、ミヨも。訓練は順調か?」


ふたりとも表情は明るい。答えを聞く前に状況を察することができた。


「順調順調。アタシの海姫は強くなったよ。できることが増えた」

「私の絡繰腕も、器用になったよ。アラタくんのアドバイス凄いね」


俺は頷いて見せた。


「俺も、召喚獣の遠隔操作ができるようになったぜ」

「遠隔操作か。どれくらい?」

「30メートルまで移動できる。ほら」


実際に簡易形態の浮遊眼を色々と動かしてみる。


「トオルくんの召喚獣は道具型?生物型?どっちなの?」

「見た目は生物型だけど、意思みたいなものは感じないし……道具型かな?」


ミヨの質問に答える。

この一週間、自分の召喚獣・浮遊眼についての資料を調べたものの、あまり役に立つ情報はなかった。


顔の向きに依存しない視界を得ることができる。ただそれだけの召喚獣。

過去には暗視能力を持つ浮遊眼もいたらしいが、公式情報ではなく噂のみ。


結局分かったのは、俺の浮遊眼は規格外にデカいということだけ。


「道具型召喚獣を遠隔操作できる人ってあまりいないし、あんなに距離があるのにそれだけ自由に動かせるのってすごいと思う」

「そうそう。自信もちなよ」

「さんきゅ」


ミヨとナギサがフォローしてくれる。泣きそう。

涙が出る前に、さりげなく話を逸らす。


「それよりも、アラタはまだ来ないのかな?」

「まだ時間があるし、そのうち来るでしょ。アラタも大変よね」

「そうだな……」


アラタは召喚祭以来、毎日びっしりとスケジュールが入っている。


それも仕方ない。Sクラス召喚獣を引いたらそうなることは予想できる。


アラタには既に色々な団体からオファーが来ている。

騎士団への体験入団だったり、魔導研究所への見学だったり。


Sクラス召喚獣持ちというのは、そこにいるだけで状況を変えるだけのポテンシャルを持つ。なので、様々な陣営が自分たちの仲間にしようと、アラタを取り込もうと画策している。


幸運だったのは、アラタの父親が町長であったことだ。

有象無象の申し出は町長権限である程度弾いているらしい。


とはいえ、どうしても断れない相手からの要望なんかもあって、アラタはこの一週間、そういう申し出に対応していた。


俺たちとは学校でしか話ができていない。


先週の話だと、今週末にちょっとした事件が起こるんだっけ?

今日はその内容を話してくれるんだろうか。


「アラタが来るまで、訓練してるよ」

「じゃああたしも!」

「私も!」


結局、1時間後にアラタが来るまで、俺たち3人はその場で訓練を続けた。




「すまん、遅れた」


一時間後にやってきたアラタは開口一番に謝罪を口にした。


遅れたとは言っているが、そんなことはない。

俺たちが早過ぎただけである。


「ううん。気にしないで」


3人の気持ちをミヨが代弁してくれた。


微笑んだアラタは俺たちを納屋の中へ入るように指示した。


全員が納屋に入ると、アラタは大きなため息をつく。


「はぁ、面倒なことばっかりだ」

「お疲れさん」

「大変そうだね……」

「こんなに大事になるとは、思ってなかったよ……」


アラタは椅子に座ってぐったりした様子だ。


ゆっくりさせてあげたいが、聞いておかないといけないことがある。


「外にいるのは知り合い?」

「……わかるのか?」

「俺の召喚獣は視力がいい。知らない人が二人、後ろにいたぞ」

「……放っておいて構わない。親父が着けた護衛さ。Sクラスにもなると、誘拐・脅迫しようとするような輩までいるらしい。勘弁してほしいぜ」


そうか、そういう対策も必要なのか……


「俺はまだ召喚獣の力を使いこなせていない。出る杭が伸びる前に打ちたい奴らは多いってことさ」

「大変だな……」


アラタは意地悪い表情を見せた。


「今の内に謝っておく。お前らにも迷惑かける」

「?」

「俺がダメなら周りから。お前らに対してちょっかい出す奴らも出てくるかもしれん」

「マジで?」


「とくにトオル。気をつけろよ。お前の召喚獣のレア度が低いことは、調べる奴が調べればすぐわかる。与しやすいと狙われるかも」

「勘弁してくれよ……」


この一週間の出来事に心当たりがある。本当に、面倒なことは御免こうむりたい。


「お前らにちょっかい出すことは俺が許さない。そう公言してるから、表立って何かする奴は少ないと思う。だけど、気を付けてくれ」

「わかった」


そこまで言うと、アラタは俺たちを近くにくるようジェスチャーで示した。

ソファーやクッションから立ち上がり近づく。


近づいたところで、アラタが小声で話し始めた。


「外の護衛に聞かれないように話す。よく聞いてくれ。明日の出来事だ」

「……」

「……」

「……」


俺たちは真剣に、アラタの話に耳を傾けた。


「明日、街はずれの岩場に一隻の船が漂着する。そこに乗っているのは我らが姫さまだ」

「我らが姫?サクナ様?」

「違う、イサナ様だ」

「なんだ。そっちかよ」

「なんだとは何だ。イサナ様も姫さまだろ」

「確かにそうだ」


アラタは少しむっとした表情。何か気に障ったか?

すぐに真面目な表情に戻ったアラタは話を続けた。


「イサナ様たちの近くに野盗が現れる」

「野盗がイサナ様を狙うのか?その野盗を、俺たちが何とかするとか?」

「そこまでは正解だ」

「そこまではって、続きがあるのか?」


アラタは言葉を区切った。これは、何か悪いことを考えている時の顔だ。


「野盗は俺たちで追い払う。が、俺たちはその後イサナ様に喧嘩を売る」

「は?」

「そこに、タクミ達がやって来る。俺たちはタクミ達に負けたふりをして撤退する。それでミッションコンプリートだ」


ワクワクが止まらない、そんな雰囲気のアラタに、俺たち3人は何も言えなかった。


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