黒瀬さんはツンデレでヤンデレでドSで黒髪ロングで巨乳で高身長で腐女子なクールビューティー
「アラ戸波君、今日も低血圧なゾンビみたいな顔してるわね」
「いや黒瀬さん、ゾンビにそもそも血圧は――って、痛でででででででで!?!?」
サークル棟前での出会い頭に黒瀬さんが、針みたいに鋭いピンヒールの踵で俺の足を踏んできた。
「ちょっと黒瀬さん!? 踏んでる踏んでるって!?!? このままだと俺の足が魔貫光〇砲で貫かれたラディ〇ツみたいになっちゃうよ!?」
「フフ、冗談が言えるならまだ余裕があるわね。戸波君はいつもイイ悲鳴を上げるから、ついイジメたくなっちゃうわ」
「いやそういうの暴力系ヒロインって言って、最近のWeb小説の世界じゃ蛇蝎の如く嫌われてるんだよ!?」
「別にWeb小説の読者に好かれたくて生きてる訳じゃないから気にしないわよ」
「相変わらずメンタルオリハルコンで出来てるね!?」
「フフ、まあ戸波君の面白い泣き顔も見れたし、今日はこのくらいで勘弁してあげるわ」
黒瀬さんは男である俺と然程変わらない目線で不敵に微笑むと、やっと足を離してくれた。
マ、マジで足に穴が開くかと思った……。
黒瀬さんは女性なのに身長が170センチくらいあるし、胸部にも「ご立派ァ!」な夕張メロンを二つも抱えてらっしゃるので、それなりに体重もあると思われる(本人に言ったら今度こそラディ〇ツにされそうなので死んでも言わないが)。
しかも流れるような長い黒髪に、通行人の誰もが振り返る程の美貌を兼ね備えているので、パッと見はワ〇ピースの女性キャラにしか見えない。
多分ドМな男からしたら、黒瀬さんは理想の女王様なんだろうな……。
お、俺は断じてドМじゃないから、その限りじゃないけどね!?
黒瀬さんとはこの肘川大学で、同じサークルの一員になったことがキッカケで仲良くなったのだが、こうして事あるごとにイジメられているのでほとほと困っている。
重ねて言うが俺は断じてドМではない(と、思う……)。
「晴樹~、オレもう今日は疲れたよ~」
「ぬおっ!? 耀司!? 重たいからもたれかかってくんなよ!」
いつの間にか幼馴染の出雲耀司が背後に立っており、俺に全体重を預けてきた。
耀司も耀司で身長が185センチもあるうえ、高校時代はバスケ部だったせいもあって所謂細マッチョ体型なのでこれまた重い。
更に顔もドが付くくらいのイケメンで成績も優秀という、少女漫画のヒーロー役かよってくらいのチート野郎だ。
そんな耀司だが、何故か国立大学の推薦を貰っていたにもかかわらず、俺と同じくこのFランの肘川大学に入学してきたというよくわからない一面もある。
まあ、耀司は子供の頃からちょっと天然で気まぐれなところがあったので、俺みたいな凡人にはその思考は理解出来るはずもないが。
「あー、晴樹の身体あったけー。赤ちゃん抱っこしてるみたい」
「全然嬉しくない感想をありがとう!」
「…………」
「――!」
――まただ。
何故か耀司が俺の身体に接触してくるたびに、いつも黒瀬さんは獲物を目の前にした猛禽類みたいな眼で俺達を凝視してくる。
い、いったい何だっていうんだ!?
マジで怖いんですけど!?
「と、とりあえず部室行こうぜ。会長も待ってるだろうし」
因みに耀司も俺と同じサークルの一員だ。
「フゥ、そうね」
「部室まで晴樹がおんぶしていってー」
「俺はお前のお母さんか!? 自分で歩け!」
「…………」
「――!」
また黒瀬さんが俺達をガン見してる――!
進〇の巨人のモブの気持ちがよくわかるぜ――!
「にゃー。三人共遅いにゃ! 今日が何の日かわかってるのかにゃ!」
「す、すいません会長。ちょっといろいろあって……」
部室に着くと、どう見ても小学生くらいにしか見えない、頭に猫耳カチューシャを着けた女性がプンプンしていた。
だが、こう見えて彼女は我らが文芸同好会――その名も『萌沼』の会長である。
立派に20歳を超えているので、飲酒だって出来ちゃうのだ!(絵面がヤバいが)
「戸波君をイジメていたら遅くなりました」
「そんなドヤ顔で言うことかな!?」
「晴樹で暖を取っていたら遅くなりました」
「もう7月だけどね!?」
「にゃははは。仲が良いのは結構だけどにゃ」
今ので仲が良いという結論に至る会長もどうかと思いますけどね!?
「――いよいよ来月は『ニャッポリート』の新刊発売にゃ! みんな気合を入れるんにゃよ!」
ニャッポリートというのは、俺達萌沼が同人イベントで定期的に販売している同人誌の名前である。
同人誌というと二次創作が多いイメージがあるかもしれないが、ニャッポリートは一次創作だけを集めた合同誌だ。
「それでは早速新刊の打ち合わせを始めるにゃ。――トナミンは今回は何を書くつもりかにゃ?」
「え、えーと、いつも通りラブコメの短編小説をと思ってます」
「うんうん、トナミンの短編は安定した人気があるからにゃ。よろしく頼むにゃ」
「は、はい、頑張ります」
とはいえ、まだネタは全然浮かんでないんだけど……。
「イズモンは何を書くのかにゃ?」
「オレは今回は、ギャグ漫画の読み切りを描いてみようと思ってまーす」
「にゃんと!? やっぱイズモンは読めない男にゃ……。まあ、楽しみにしてるにゃよ」
ギャグ漫画!?
前回は滅茶苦茶重い、ドシリアスなバッドエンドの漫画を描いてたのに……。
耀司は作風が非常に幅広く、その分当たり外れが大きいのだが、そんなところもある意味天然の耀司らしいと言える。
「――さて、そして本命のクロセンにゃが、今回も『ブレイズル』の最新話ということでいいかにゃ?」
「はい、そのつもりです」
まあ、黒瀬さんはそうだろうね。
ブレイズルはニャッポリートの看板漫画とも言うべき作品で、ブレイズルという伝説の傭兵集団の活躍を描いた、本格派ファンタジーだ。
悔しいがとても同い年の人間の描いた作品とは思えないくらい面白く、ゆくゆくは出版社から商業漫画化のオファーが来るのではないかとさえ言われている。
これも才能の差ってやつなのかもな……。
「そして最後はこのにゃたし。もちろん今回もWeb小説批判エッセイを書くにゃ!」
「ま、またですか会長!?」
会長はいつも昨今のWeb小説に対する暴言エッセイばかり書いており、そのたびにSNSが炎上するというのが半ばお約束になっている。
だが本人もそれを面白がっている節があり、これまたメンタル激強だなとつくづく思う。
こうして改めて見ると、俺以外の萌沼メンバーは三人共変人ばっかだな……。
「よーし、新刊の方針も決まったことで、ここからはみんなで一狩りいくにゃ!」
「ははは、結局はそれが目当てでしたか……」
会長は意気揚々と携帯ゲーム機を取り出した。
――こうして俺達四人は、暫し某大人気の狩りゲーに興じたのであった。
「にゃー! また死んでしまったにゃー!」
「ド、ドンマイです会長」
が、残念ながら会長はアクションゲームが絶望的に下手だった。
そもそも手が異様に小さいので、ボタンも押しづらいんだろうな。
「ううー、トナミンー、慰めてほしいのにゃー」
「ははは、はいはい」
いつもながら差し出された会長の頭を撫で撫でする俺。
絵面だけ見れば完全に事案ド真ん中だが、合法ロリなので大丈夫!(迫真)
「――――」
「――!」
その時だった。
肌が焼かれそうになる程の殺意が、黒瀬さんの方から立ち上った。
ヒエッ……まただ!
何故か俺が会長の頭を撫でるたびに、黒瀬さんは殺意の波動に目覚めた人みたいな形相で睨んでくる。
俺何かやっちゃいました!?
「おっと、もうこんな時間かにゃ。じゃあ、今日はそろそろお開きにするにゃ」
「は、はい」
「はーい」
「あ、すいません、私ちょっと、このままここでネーム描いていきます」
黒瀬さん……!?
「ふむふむ、クロセンは相変わらず真面目だにゃー。でも、あまり今の内から根を詰過ぎないようににゃ? 本番はこれからにゃんだからにゃ」
「はい、心得てます」
「……」
さっきは才能の差なんて言ったけど、結局そんなのは俺の言い訳で、本当は俺と黒瀬さんの差は単純に努力の差なんだろうな。
黒瀬さんの右手はいつもペンだこまみれだし、おそらく見えない部分で血の滲むような鍛錬を積んでいるに違いない。
これといった目標もなく毎日ダラダラと生きてる俺とは提灯に釣り鐘だ。
そういう意識も含めて才能だと言ってしまったら、それまでなのだろうが……。
俺達三人はテキパキと原稿の用意をする黒瀬さんだけを残し、部室を後にした。
「あ、俺部室にスマホ置いてきちゃったかも」
「にゃ? もー、トナミンはドジっ子だにゃー」
「晴樹はドジっ子だにゃー」
「会長の真似すんな耀司。ちょっと部室行ってくるんで、二人は先に帰っててください」
「にゃー。バイバイにゃートナミン」
「バイバイにゃーハルキン」
お前まで変なあだ名で俺を呼ぶなよ耀司!
「黒瀬さん、入るよー? ――!」
一応ノックしてから部室に入ると、俺の声も耳に入っていないのか、黒瀬さんは一心不乱にペンを走らせていた。
おお、鬼気迫る勢いだな……。
……ん?
でもあの黒瀬さんが描いてるキャラ、ブレイズルのキャラじゃないっぽいけど……?
し、しかもよく見ると、男同士が裸で抱き合ってる絵じゃないかあれ……!?
それに、心なしかキャラデザが、俺と耀司に似てるような……。
ま、まさか――!
「――!!」
「――!!」
その時だった。
俺の気配に気付いた黒瀬さんと、バッチリ目が合った。
「……や、やあ、ちょっとスマホを忘れちゃってさ。あははははは」
「……見たわね?」
「――!」
幽霊のような顔でツカツカと詰め寄ってきた黒瀬さんは、俺の顔を両手で左右から鷲掴みにしてきた。
そして鼻と鼻が付きそうなくらいの距離で俺のことを睨んでくる。
ち、近い近い近い!?
大分距離感が近いよ黒瀬さん!?
――ぬぬっ!?
しかも黒瀬さんの「ご立派ァ!」な夕張メロンが、容赦なく俺に押し当てられている――。
「い、痛でででででででで!?!?」
更に更に、またしてもピンヒールで足を踏まれた。
上は夕張メロン、下は魔貫光〇砲で、天国と地獄が同時に押し寄せてきて昇天しちゃいそう――!!(迫真)
「どうなの? 正直に答えてちょうだい。見たんでしょ、私の漫画?」
「み、見ました! でも、悪気はなかったんです! 許してくださいッ!」
尚も夕張メロンと魔貫光〇砲の波状攻撃は続く――!
「絶ッッ対にこのことは誰にも言っちゃダメよ? ――言ったらどうなるか、わかるわよね?」
「ヒエッ……!」
黒瀬さんの瞳は、この世の闇を全て混ぜ合わせたかのような色をしている。
こ、怖えええええ!!!!!
「い、言いません! 絶対誰にも言いませんから!」
「本当ね? 約束よ?」
「ハイ! 約束します! 神に誓いますッ!」
だからもう許してくださいッ!
「あと、私の前では出雲君ともっとイチャイチャするのよ?」
「え? は? ……え?」
どさくさに紛れて何言い出すの黒瀬さん!?!?
やっぱ黒瀬さんって……!
「あと……」
「っ!?」
まだ何かあるの!?
「……会長の頭は、撫でちゃダメ」
「……え?」
途端、黒瀬さんは頬を赤らめ、瞳を潤ませながらそう呟いた。
そ、それって、もしかして……。
「どうしても撫でたいんだったら…………私の頭を撫でなさい」
「――!!」
やっと俺のことを解放してくれた黒瀬さんは、スッと頭を俺に差し出してきた。
黒瀬さんッ!?!?!?
黒瀬さんってそんなキャラだったっけ!?!?!?
「……どうしたの、早く撫でなさいよ」
「あ、はい……」
頭を撫でることを強要されるって、なかなかないシチュエーションですよね奥さん(奥さん?)。
とはいえ、これ多分、俺が撫でなきゃ終わんない感じだよなぁ……。
よ、よし、撫でるぞぉ。
大丈夫大丈夫、俺は黒瀬さんの頭を撫でるだけ。
何もやましいことはない。
ないったらない。
撫でるぞ撫でるぞ撫でるぞ撫でるぞ――。
「にゃー、これはマズい現場を見てしまったにゃー」
「晴樹、後で俺の頭も撫でてほしい」
「「――!!!!」」
何故か会長と耀司が、部室の扉を少しだけ開けて隙間からこちらを見ていた。
うわああああああああああああああああああ。