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rain :weathers

作者: 夕凪蒼
掲載日:2021/02/28


     * rain *



 雨が降っていた。

 窓から見える景色は、全てがモザイクにかけられているよう。ここ最近で一番の大雨。降り終わるのはいつになるだろう。

  「灯夜くん、お腹すいたー」

僕を呼ぶ声がしている。今日は起きてくるのが早い。雨の音があの人を目覚めさせたのだろうか。

  「はやくー」

さっきまで透明になれていたのに。泥と混ざり合い、水たまりに濁りが生まれた。


 朝食の準備が終わった。いい加減慣れたので、ケガをすることもない。

  「さすがだねぇ。おいしい~」

と言いつつも、僕が作った朝食を半分以上残して、あの人は席を立った。もったいないので、残りはお昼に僕が食べる。

  「お腹いっぱい食べちゃうと、仕事が出来なくなるから」

いつもの言い訳。あの人はただ僕と一緒に居たくないだけだ。僕も一緒に居たいとは思わない。


  「じゃあ、私もう仕事行くからね。もしどこか行くなら戸締り

しておいてね」

何故、僕はあの人と暮らしているのだろう。

 僕には記憶がなかった。気づいたらあの人とこのアパートで暮らしていた。あの人が誰なのかも知らない。母親にしては若すぎると思う。しかし、姉と言えるほど、僕の顔はあの人に似ているだろうか。


 いつの間に寝てしまったのだろうか。リビングのソファで目を覚ました。部屋から出してきた覚えはないが、毛布が掛けられていた。

  「えっと~。こうでいいんだっけ」

キッチンの方からあの人の声がする。身体を起こしてみると、頭が少しボーっとする。

  「もうちょっと、水が多い方がいいのかなぁ。熱っ!」

危なっかしい。ご飯なら僕が作るのに。

 キッチンの方へ歩いていこうとしたが、足元がフラフラする。身体を支えながら、歩いていくとあの人が僕に気づいた。

  「あー、起きてきちゃダメだって。キミ熱あるんだから」

そう言うと、僕は抱えられ、ソファに戻されてしまった。

 そのまま、あの人が危なっかしく何かを作っているのを聞きながら、定まらない頭で少し考え事をしてみた。いつも料理なんてしないのに、何をしているのだろう。僕が熱を出した? あの人はそんなに優しかったっけ?

 そもそも、あの人は僕とどんな関係なのだろう。

 僕は、いったい、誰なのだろうか。

  「出来たよ~。ちょっと焦げたかもだけど、風邪にはこれ! お粥!」

 思考を遮って、あの人がお粥を持って来た。

  「熱いから気をつけて食べてね~」

僕は何も言わず、お粥を見つめた。

  「食欲無くても、食べなきゃ。はい、あ~ん」

  「自分で食べられる」

食べさせようとしてくるあの人から、スプーンを奪って、お粥を口に入れる。

  「……苦い」

  「ありゃ、やっぱ焦げてたか」

焦げてるし、水の量がおかしいし、味付けも薄い。梅干しとか入れないと栄養もしっかり取れない。

  「……でも、おいしい」

初めてだったからなのか、それとも失くしたはずの記憶から懐かしさを覚えたからなのか。誰かが作ってくれたご飯はすごく温かかった。

  「あは、良かった」

 雨の音はさっきよりも小さくなっていた。

 思ったよりも早く、雨は上がるのかもしれない。


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