rain :weathers
* rain *
雨が降っていた。
窓から見える景色は、全てがモザイクにかけられているよう。ここ最近で一番の大雨。降り終わるのはいつになるだろう。
「灯夜くん、お腹すいたー」
僕を呼ぶ声がしている。今日は起きてくるのが早い。雨の音があの人を目覚めさせたのだろうか。
「はやくー」
さっきまで透明になれていたのに。泥と混ざり合い、水たまりに濁りが生まれた。
朝食の準備が終わった。いい加減慣れたので、ケガをすることもない。
「さすがだねぇ。おいしい~」
と言いつつも、僕が作った朝食を半分以上残して、あの人は席を立った。もったいないので、残りはお昼に僕が食べる。
「お腹いっぱい食べちゃうと、仕事が出来なくなるから」
いつもの言い訳。あの人はただ僕と一緒に居たくないだけだ。僕も一緒に居たいとは思わない。
「じゃあ、私もう仕事行くからね。もしどこか行くなら戸締り
しておいてね」
何故、僕はあの人と暮らしているのだろう。
僕には記憶がなかった。気づいたらあの人とこのアパートで暮らしていた。あの人が誰なのかも知らない。母親にしては若すぎると思う。しかし、姉と言えるほど、僕の顔はあの人に似ているだろうか。
いつの間に寝てしまったのだろうか。リビングのソファで目を覚ました。部屋から出してきた覚えはないが、毛布が掛けられていた。
「えっと~。こうでいいんだっけ」
キッチンの方からあの人の声がする。身体を起こしてみると、頭が少しボーっとする。
「もうちょっと、水が多い方がいいのかなぁ。熱っ!」
危なっかしい。ご飯なら僕が作るのに。
キッチンの方へ歩いていこうとしたが、足元がフラフラする。身体を支えながら、歩いていくとあの人が僕に気づいた。
「あー、起きてきちゃダメだって。キミ熱あるんだから」
そう言うと、僕は抱えられ、ソファに戻されてしまった。
そのまま、あの人が危なっかしく何かを作っているのを聞きながら、定まらない頭で少し考え事をしてみた。いつも料理なんてしないのに、何をしているのだろう。僕が熱を出した? あの人はそんなに優しかったっけ?
そもそも、あの人は僕とどんな関係なのだろう。
僕は、いったい、誰なのだろうか。
「出来たよ~。ちょっと焦げたかもだけど、風邪にはこれ! お粥!」
思考を遮って、あの人がお粥を持って来た。
「熱いから気をつけて食べてね~」
僕は何も言わず、お粥を見つめた。
「食欲無くても、食べなきゃ。はい、あ~ん」
「自分で食べられる」
食べさせようとしてくるあの人から、スプーンを奪って、お粥を口に入れる。
「……苦い」
「ありゃ、やっぱ焦げてたか」
焦げてるし、水の量がおかしいし、味付けも薄い。梅干しとか入れないと栄養もしっかり取れない。
「……でも、おいしい」
初めてだったからなのか、それとも失くしたはずの記憶から懐かしさを覚えたからなのか。誰かが作ってくれたご飯はすごく温かかった。
「あは、良かった」
雨の音はさっきよりも小さくなっていた。
思ったよりも早く、雨は上がるのかもしれない。




