017 王都での攻防 03 (混乱のシャルナク)
シャルナクは悩んでいた。
父王はこんな人だったのだろうか? 控えの間で会う人間を観察して、事前情報を手に入れていた?
私の知る父王は、威厳があり、物事に動じない胆力を持ち、鋭い観察眼を持った人だったと記憶している。
「ソレって、ただ単に、偉そうで、感動の薄い覗き趣味の爺って事か?」
「って、勝手に人の心を読まないでください!」
「心なんて読まなくても、バレバレだぞ?」
「心の声が駄々漏れでした。」
「驚きましたな・・・」
「うむ。まさか、話の内容を全て把握されていたとは・・・。」
「しかし、こちらの二人は、およそ傭兵とは思えぬ出で立ちですな。」
「ふむ。かなり上質な装いではあるが、とても、戦闘に向いているとは言い難い。」
「あの二人の戦闘スタイルを見れば納得されるかと。」
「それ程か?」
「返り血一つ浴びることなく200からの敵を一方的に、僅か10分程で殲滅しました。」
「「・・・・・」」
「敵が弱かったという事か?」
「それはありません。第二騎士団とシャルナク様の親衛隊には被害が出ています。」
「其の方らで同じ事が出来るか?」
「・・・ロイヤルガードをもってしても、恐らくは不可能かと・・・」
「災厄級を片付けた手腕に偽りなしか。」
「とても、その様な猛者には見えませぬが・・・」
「いえ、彼等は一種の化け物です。」
「失礼な、誰が化け物ですか。」
「好き放題言ってくれるじゃないか?」
「「「!!!」」」
「其の程度の結界術式を使ったくらいで、意味なんて無いとまだ分からないのか?」
「其の方、第三王子と話しを・・・」
「しながらでも、部屋の中の状態くらい把握できなくて如何する?」
「「「!!!」」」
「さっさと話を進めろ。”皇太子の件”俺が話してもいいのだぞ?」
「それは、謁見室で話したいのだが・・・」
「二人の馬鹿の処遇か?」
「「「!!!」」」
「では、・・・」
「シャルナクにも話したが、俺達は傭兵。殺し屋ではない。」
「何故じゃ?主等ほどの腕があれば・・・」
「簡単だぜ?」
「では・・・」
「貴方には理解できないのですか?」
「為政者って奴はどいつもこいつも、何時の時代もこの程度だ。」
「「「・・・」」」
「自分の手も汚さずに何が国の為。民の為。だ?」
「貴様!・・・」
「結局は、自分の名にキズを付けたくないだけの・・・」
カシャ
「ヤルのか? 良いぜ? 掛かって来いよ?」
「言わせておけば・・・」
「人は図星を指されると立腹するものですねww」
スチャ
「止めぬか。」
「しかし・・・」
「お前等、シャルナクを舐めすぎだ。」
「「「はぁっ?」」」
「今のシャルナクなら、馬鹿の始末くらい自分の手で下せると言っている。」
「そうであろう、あれは、争いには不向き・・・ 今何と申した?」
「欲望まみれの馬鹿の相手くらい自分で出来ると聞こえませんでしたか?」
「一も二も愚か者には違いないが、腕の方は・・・」
「五日前なら勝てなかっただろうねww」
「たかが五日で・・・」
「馬鹿者には理屈は通じないか?」
「蛮族の国の原住民ですからね。 其の程度でしょう。」
「貴様等~~~!!!」
向かってくるロイヤルガードNo.1の爺に当身を入れ静かにさせると、待ち人が訪れた。
ドアがノックされ、ドアを開けると、いきなり大人数の乱入。
賊が、いきなり斬りつけてくる・・・ が、想定どおり過ぎて面白みにかける。
シャルナクは黙って立ち上がると、飛燕を抜き、横薙ぎにした。
射程の範囲をこの部屋一杯まで広げた一閃は、乱入してきた全ての敵を瞬殺した。
「「「なっ!!!」」」
十数人が一薙ぎで斬られる様を目の当たりにして、エンケラドゥス7世は、言葉も出ない。
「申し訳ありません。控えの間を賊の血で汚してしまいました。」
「ついでに部屋も斬っちゃったってか?ww」
「見極めが、甘いですね。もう少し頑張りましょうしか付けられませんね。」
頭をたれるシャルナクに三人は言葉が無いようだ。
静かになった部屋に訪れたのは第一王子だった。
「シャルナクの遺体を持って来い。」
そう言いながら部屋に入ると、其処には、十数人の死体と血の惨劇。
エンケラドゥス7世とロイヤルガード2名。
事を理解して、見る見る血の気が引いて、青い顔で俯く王子。
そして、更に一拍の間を措いて、第二王子が、
「兄上が乱心してシャルナクを斬り殺した!!衛兵隊突入せよ!!」
そして、衛兵は見た。
血の気の引いた青い顔で俯く第一王子と、十数人の死体と血の惨劇。
国王と御付の二名、更に、シャルナクと二人の傭兵。
「なるほど。美味しいところを掻っ攫うつもりだったのかww」
「貴方の二番目の兄もなかなかやりますねww」
「何をしている? 二人を捕らえよ!!!」
「其処の傭兵!金なら好きなだけモゴモゴ」
エンケラドゥス7世が衛兵に命令を下し、台詞の途中で即座に取り押さえられる二人。
「其の前に、二人の派閥の貴族達が王城に来ているだろう? 逃げられる前に抑えろ!!」
「今日、集まっている者達は確信犯です。急ぎなさい。」
「まぁ、城に結界を張ったから、だ~れも逃げられはしないけどねww」
「「「!!!」」」
「で・・・、たかが五日で何だって?」
「「「・・・・・」」」『『『うわぁ~~~っ根に持つタイプだった!!!』』』
「一度口にした言葉は戻らない。それが、責任ある者なら尚更だ。」
「「「・・・」」」
「たかが五日で何だって? 良く分かる様に、でっかい声で言ってみろよ?」
「ホンの数分前のことも覚えていないほど耄碌されているのですねww」
「これは、大変・・・」『『『しかも粘着質だった!!!』』』
「剣を向けた謝罪の言葉が聞きたい訳じゃないんだぞ? 五日で如何したと続きが聞きたいだけだ。」
「「「!!!」」」『『『・・・orz』』』
「折角時間もあることだし、お前の持論を聞いてやる。五日が如何したと言うんだ?」
その後全ての反乱分子と見られる貴族が捕まるまで、執拗な追求が有ったと言われている。
司法の未成熟な国家にありがちなように、三日後には、裁判が略式で行われ、判決は即日に決定された。
ザックリ説明をすると・・・
第一王子と派閥貴族は反逆罪で領地没収他、公開処刑が決まった。
何しろ、現国王に襲撃をかけたと事実(居合わせただけとも言えるのだが)
書面による数々の約定が発見され、悪事は白日の下に晒された。
そして、それに関与した事実は覆しようも無かった。
第二王子と派閥貴族は事に乗じて、全てを手に入れる計画を立て実行に移した。
つまり、エンケラドゥス7世への襲撃を黙認した罪。これも、当然国家反逆罪にあたる。
第一王子よりは、罪が軽いものの、派閥貴族の当主共々死罪が確定した。
後は、事後処理として、捕らえた襲撃犯の処遇だが・・・
こちらは、国王に刃を向けたわけではないが、だからと言って罪が無い訳では無い。
結界に閉じ込められた内の何人かの貴族の釈放を求められた。が、黙って頷くほど甘くは無い。
封印結界に閉じ込められた第一次襲撃部隊と共に、第三王子及び親衛隊、第二騎士隊への襲撃の事実がある。
(事前に閉じ込められたものの)過剰な武器や、第一王子からの指令書。揃えた書類に不備は無い。
保釈にあたり、相応の金貨が支払われた。
「放っておけば、無料働きだったので、犯罪奴隷として売り払う予定だったののだが、
”是非”と、懇願されたので諦めた。」
「書類整理の出来る終身奴隷は高値で売れるのですよ。」
「男娼館に売ろうと思っていた中々の男前も居たのに・・・。」
「ある意味で終身奴隷よりも悲惨な運命だったかもしれませんねww」
まぁ、貴族は、それなりに金貨を放出してくれたので、良いとして・・・
結局は、御家断絶の憂き目に合った。一族郎党の死罪が免除されたのは、謝罪を兼ねた財産の返上があったおかげだ。
彼等は、終身奴隷として一族に引き取られていったが、一族からの制裁は免れないであろう。
残りの裏のギルドの連中は終身奴隷として、鉱山等で死ぬまで過酷な労働を続けることになった。
終始複雑そうな顔をしていたシャルナクには、数年間の英才教育が施される事になったのだそうだ。
形式上、今までも教育はされていたのだが、本命とスペアが脱落してしまったので、
重荷を全て任される事になったからだ。
「僕は、田舎で母方の家族とのんびり生活がしたかっただけなのに・・・」
「引退するまで、がんばれww」『『御愁傷様。』』
「・・・人事だと思って・・・」
「「だって人事だもんww」」
労せずに、邪魔な貴族を一掃出来たことで、国王はホクホク顔だった。
が、それより、一層ホクホクしていたのは、28人の冒険者と傭兵達だった。
第三王子の依頼金貨十枚に加え、追加依頼の王都までの護衛代金。
国王からの形ばかりではあるが、報奨金に加え、二十数人の貴族と従者等の捕虜に対する身代金。
約5百人に上る手配犯の討伐代金に敵の武器、装備品の売却益の分配金。
さすが名立たる暗殺ギルドの面々、高価な武器に装備品。更には、懐具合も一流だった。
馬車に食料等を含む全ての持ち物を容赦なく没収して、下着一枚という情けない姿の襲撃犯達を、
犯罪奴隷としての売却する事によって得られた金貨。王都に着くまでに狩った魔物や獣の売り上げなど。
半生分の給料を僅か十日と数日で稼ぎ出したのだ。
「「「「「俺達、役に立ったのか?」」」」」等、多くの疑問は有った様だが、労力を提供した事実は事実。
大小あれど、命を掛けた事に違いは無い。
国王からの「大儀であった。」との御言葉と共に拝領したのは、言うまでもない。
「一族から財産返上(命乞いとも言う)でガッポリ儲けた分の2割しか出さないとは、なかなかだな?」
「そうですね。なかなか出来る事ではありませんね。ww」
侮蔑とも賞賛とも取れる二人の言葉に顔を引き攣らせたのは、その場に居合わせた関係者だけではなかった。