013 画策
~エンケラドゥス王都~
~国王執務室~
「ベヒモスが現れた?」
「何処の町じゃ?」
「辺境の町テティスに現れました。」
「支援要請か?」
「それが・・・」
「被害状況は?」
「それが・・・」
「ハッキリせぬか!!」
「討伐された? 被害は無いだと?」
「災厄級とも天災級とも言われる伝説の魔獣じゃぞ?」
「報告では・・・」
「本当にあのベヒモスだったのじゃな?」
「テティスの領主及び各ギルドからの報告によりますと・・・」
「50m超級のベヒモスと、魔人の屍を確認したと・・・」
「それで、各ギルドから、褒章の要請か?」
「・・・要請が有ったのは、冒険者ギルドのみで・・・」
「ほほう。冒険者ギルドが討伐したと。」
「・・・いえ、討伐したのは、傭兵ギルド所属の者達です。」
「・・・どういうことじゃ?」
「それが・・・」
「傭兵ギルドからの要請は如何程じゃ?」
「ですから・・・、 傭兵ギルドからの要請は有りません。」
「?」
「それは、協力して討伐を行い、止めこそ傭兵が刺したが、
冒険者達の貢献度が高かったという事で良いのじゃな?」
「彼の地を任されているヒペリオン騎士爵の書状によりますと・・・」
「待て・・・ すると・・ その、功績とも呼べぬ発見したのが冒険者であったから・・・」
「・・・」
「発見と、その報告に対する功績に対しての要請である。と?」
「御意。」
「ベヒモスを討伐した傭兵は、褒章は不要と辞退した。と?」
「御意。」
-・-・-・-
~議会の間~
「のう・・・ この場合、エンケラドゥス王国 国王エンケラドゥス7世としての余は、どう振舞えばよい?」
「冒険者ギルドには、金貨10枚の褒章で充分と考えます。」
「うむ。逸早く発見し、情報を齎したその冒険者の功績は認めるが・・・」
「そのギルド長は自分が冒険者を育てたと・・・」
「開いた口塞がらぬわ。」
「冒険者ギルドには、その様に対処しておきます。」
「傭兵ギルドには・・・ 三通りの振舞い方が迫られるかと・・・。」
「・・・」
「一つは、この地に招き、英雄として歓待し褒賞金を下肢する。」
「・・・」
「一つは、褒賞金を下肢する。これは、災厄級を討伐したとして金貨1000枚程が宜しいかと。」
「・・・」
「一つは、王の威光を貶めたと、罰を与える。
しかし、その場合は、災厄級を僅か二人で討伐した者を、敵に回します。
どれほどの被害が出るかは、予想すら付きません。」
「父王に申し上げる。」
「許す。」
「王の威光を貶めた、無礼な傭兵など斬って捨てるべきと進言します。」
「強国の王は絶対者であると知らしめるためにも、そのようにされるのが良いかと。」
「実行できるのか?」
「「それは・・・」」
「将軍、災厄級を討伐した二人を斬るために、何人必要じゃ?」
「おそれながら・・・ 記録によるベヒモスは、3万の兵を持ってして、彼の国は滅びたと記されております。」
「ふむ。」
「最小でも同程度の数は必要かと・・・。」
「なっ! 相手は、たかだか、傭兵風情では・・・・」
「ならば、その方らが、やってみせると申すか?」
「「そ・・・ それは・・・」」
「どうなのじゃ? 出来るのか? 出来ぬのか?」
「「・・・・・」」
「魔人数体を含む30余の眷属をも、同時に仕留めておるのじゃぞ?」
「「・・・」」
「将軍よ、我が軍に1対1で、魔人を圧倒でき得る剛の者は如何程在籍する?」
「3対1・・・ いえ、2対1ならば、勝機も有ろうかと・・・。」
「詰まり、一人もおらぬと申すのじゃな?」
「御意。」
「それでは、魔人複数体に眷属30余、更に災厄級を僅か二人で斬り捨てた傭兵風情が
斬られる未来が見えぬのじゃが、それでも、斬って捨てろと進言するのじゃな?」
「「・・・・・」」
「もうよい。・・・二人とも自室で頭でも冷やしてくるが良い。」
「「・・・」」
「下がれと申しておる!!」
「「・・・はっ。失礼します。」」
第一王子と第二王子は議会からの退去を余儀なくされた。
「更なる案の有る者はおらぬか?」
「父王に申し上げます。」
「許す。」
「武人の如き振る舞いをする者には、”大儀であった。”の一言こそが至高かと。」
「続けよ。」
「褒章を辞退したとはいえ、放置するには、功績が大きすぎます。ならば・・・
武人には武人に相応しい礼を尽くす事こそが、王の行動として適切かと考えます。」
「ふむ・・・ では、そなたに名代を申し付ける。」
「ありがたき幸せ。」
「そうじゃのぉ、手土産に城の蔵から葡萄酒を一樽、持って行くが良い。」
「父王・・・」
「下肢ではない。王都からの些細な土産じゃ。土産を拒むほど狭量ではあるまい。」
「慧眼恐れ入ります。」
「宰相、相応しい葡萄酒を見繕ってやってくれぬか?」
「お任せください。相応しい葡萄酒を用意いたしますぞ。」
「将軍、護衛には第二騎士団を就けよ。」
「はっ。なれば、準備に一日の猶予を頂きたく。」
「許す。二日後に出立せよ。」
「シャルナク、下がり出立の準備をするが良い。」
「はっ。必ずや、この任を成し遂げて見せましょう。」
第三王子シャルナクは、一礼の後議事室から退場した。
「これで、決まりであろう?」
「「「「「御心のままに。」」」」」
~第一王子私室にて~
(これでは、シャルナクに出し抜かれてしまう・・・。)
「兄上、兄上こそが次期王に相応しいのです。 この機にシャルナクを・・・」
「皆まで言うな。 此処に耳は無い筈だが、万一という事もある。」
「では・・・」
「無論、手は打つ。」
「・・・」
「報が届いた後に始める。準備を怠るな。」
「準備は任せてください。きっと兄上のお役に立って見せます。」
シャルナクは、明後日王都を出てテティスに向かう。
テティスでは、何とかと言う傭兵に会い、土産を渡す。
シャルをその傭兵と敵対関係に持ち込み・・・
あわよくば、両者共倒れになるのが望ましい。
よしんば、どちらかが生き残れば、消耗した生き残りを叩く。
目障りなシャルと王国の威光を傷つけた傭兵を一挙に亡き者にして、
次期王の座を老いた父王より奪えばよいのだ。
ならば、策など幾らでもある。
シャルナクの部隊より先にテティスに到着して、
シャルナクの部隊を装い、その傭兵に難癖をつける。
当然、傭兵共はシャルナクに反感を持つ。
そこで会見だ。 反感を持つ傭兵に向かって、たった一言云わせれば良い。
騎士団に紛れ込ませた者から罵倒の一言でも有れば、
考えの足りぬ傭兵など、暴れ始めるに違いない。
第一王子は手飼いの者に金貨百枚ほどを持たせ、暗殺ギルドの顔役に繋ぎを取る。
動き出した暗殺計画は、もう誰にも止められなかった。
その動きを見て、第二王子も笑う。
自分の派閥を纏め、第一王子が成功した直後に、兄の不正の公表。
弟殺しの罪で即刻の死罪。その場で首を刎ね、兄の派閥ごと、横から掻っ攫う。
「誰も居なくなれば、全ては勝手に転がり込んで来るのですよ。」
という一番効率の良い方法で次期国王の座は手に入る。
読みの浅い愚兄など、私の前では、ただの愚か者だ。
テティスの町までは距離にして400km。移動速度を考えれば、10日前後。
難所は三箇所。王都の東の渓谷。王国中央部の森林地帯。テティス手前の草原地帯。
渓谷は王都防衛の為あえて必要以上に手を入れられていない自然の防壁。
故に、難所となっている。
更に、王国が、分断された事によって、東の森林地帯が今では中央へと変わり、
中央の森林地帯と呼ばれるようになった。
西の隣国のダフニスは、元をただせばエンケラドゥス王国の西方の公爵領だった。
160年前の大変動により分断され、新たに国を興したのが始まりとされている。
200m程の川幅が実に10倍以上の大河へと変貌を迎えた。更には・・・
川は北の山脈を貫き、侵食を繰り返し、南の海までの川を海峡へと変貌させてしまった。
兄弟は、相談の結果、公爵領を王国と切り離し、独立国家ダフニスが誕生した。
元々内陸に有ったエンケラドゥスの王都は、海洋都市へと変貌し、
豊かな海産物と、麦等の穀物の生産に向いた理想的な環境を手に入れることになった。
当然、西に分かれたダフニスも、同じ様な環境を手に入れ、両国は発展する事になる。
貿易こそ少ないものの、食の為に争う事のない国同士なので、関係は良好といえた。
両国のあらましは、これくらいにして、話を戻し・・・
中央の森林地帯には、多くの魔物が生息しているが、森からは殆ど出てこない。
食料の豊富な森に生息しているのだ。わざわざ危険を犯し、
餌の少ない土地に移動するのは、何かから逃げる時以外必要が無いからだ。
この周辺には王国でも大き目の領が存在し、北側のタルクェク伯爵の納める、
メトネ、アンテ、パレネの3っつの町がある。
西側から中央にかけて、パーリアク伯爵領のフェーベ、グレイプ、ヤルンサクサ、が在り、
中央から西側にかけて、スットゥングル伯爵領のハティ、スリュムル、エーギル、の町がある。
この領を治める三人の伯爵を3大貴種と称し、領内に多数の派閥の下位貴族が暮らしている。
それらの町のハンターや冒険者が森に入り増えすぎる魔物達を間引いて、町の平和は守られている。
のだが、それでも、やはり、間引は間に合わず、魔物、魔獣の暴走などは後を絶たない。
そしてテティスも町を含む最東のイジラク領、東西に長く南は砂漠地帯北には荒野と山地。
およそ、恵まれている土地とは言えないのだが、
この国の4割近くの魔物、魔中が生息していると考えられている。
また、王都に齎される素材の5割近くが、この領から届けられており、
ハンターの4割冒険者の5割傭兵の4割がこのイジラク領に集中している。
小規模な町が数多く存在し、徒歩で数時間ほどの距離に複数の町が存在している所すら在る。
全行程の実に3割が、この危険地帯であるイジラク領内の移動なのである。
初日に東の渓谷を損害無く抜け、問題なくパーリアク伯爵領をとおり、スットゥングル伯爵領を抜け、
イジラク領内通過中に魔物達に襲われるが、無事に通過し、目的地に辿り着く事が出来た。
が、テティスでの空気は重かった。
先遣隊と称する者達が、町中で問題を起こし、町人に怪我を負わせ、止めに入った守衛一人を斬り逃亡中に、
更にハンターに重症を負わせるという犯罪を犯していた。しかも、犯人は依然逃亡中なのだと・・・
町中がシャルナク一行に不信感を持つ中での会見。アウェイ感をヒシヒシ感じる中、
レクターとの顔合わせとなった。
レクター殿は外観は話しに聞いたとおり、成人して間もない様で、私よりも2~3つ若く見えた。
ビーナ嬢は、とても美しく、望めば貴族に嫁ぐ事さえ叶うのではないかと思った。
息を呑み、二人に声をかけようとした・・・ 正に、その瞬間に・・・
「シャルナク王子、相手は年端も行かぬ傭兵風情。礼など必要は無いでしょう、さっさと終わらせましょう。」
親衛隊の中の何人かの言葉を、この場に居る全員が聞いてしまったのだ。
張り詰める空気。一瞬の沈黙の後・・・
「ソレが宜しいですね。堅苦しいセレモニーなど傭兵には不要です。」
それは、ビーナ嬢から、発せられた言葉だった。
「殿下、部下の躾方を、お教えしましょうか?」
レクター殿の追従に親衛隊の数人がキレた。
もはやこれまで・・・ と思った瞬間に、数人が地面に転がっていた。
レクター殿はその中の一人を掴み、上着のみを斬り裂くと・・・
「暗殺ギルドの刺青だな。」
「何処かで入れ替わったのでしょうね。」
「おい。そこに転がっている奴等の胸も見てみろ。」
騎士団が数人で上着を脱がせ確認する・・・
「有ります。」
「こっちの者にも・・・」
「こいつには有りません。」
「こちらの二人も同様です。」
「つまり、三人の入れ替わりに、そっちの三人が乗せられたという事だ。」
「此処のところの事件はどうやら暗殺ギルドの工作って線で間違いなさそうだな。」
「そうなると、殿下の評判を落としたい誰かの仕業になるでしょうね。」
「そんなところで、間違いはなさそうだ。」
「殿下を貶めて、得をするのは誰でしょうね?」
「「「・・・」」」
「そっちの三人は、純粋に無礼な態度が許せなかった忠義者だったという事だなww。」
「殿下は部下に慕われておいでですねww。」
まるで、何事も無かったように、飄々とした態度を崩そうともしない。
この二人、六人の襲撃に対して、この態度がとれるとは・・・
しかも、私たちに対する疑惑自体も払拭してくれた・・・
器が違う。見えている次元が違う・・・。
その後は、王からのお褒めの言葉と、手土産の樽を引き渡し、役目は終わった。
しかし、本来ならこの後話をしたかったのだが・・・
頭に声が響く。『時間ならとってやる。』
記録官は、何も書いてはいない。これは・・・
『空耳じゃないぞ?』やはり、記録官は、なにも記録しない。
どうやら、それは、伝心の魔術のようだった。
『今夜九時。部屋で一人になったら窓を開けろ。』
訪問してくれるという事か?
『肯定だ。』まるで、私の問いに答えたかのように・・・
『其れも、肯定。詳しくは、今夜だ。』
二人は、傭兵ギルドの幹部と共に去っていった。
「暗殺ギルドの手の者の尋問は騎士団に、お任せして宜しいですね?」
「お任せください。洗い浚い吐かせてみせます。。」
「さて・・・ 親衛隊の三人には詳しく、ク・ワ・シ・ク!話を聞きましょうか。」