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エージェント  作者: Shion akiyama.
14/24

012 ベヒモス

日常というものは、ある日突然に非日常へと変貌を迎える。


その日のギルドでは大勢で、ごったがえしていた。


「うへぇ・・・ 何だよ? この混み様は・・・」

「何かあったみたいですね?」

「今日の納品は諦めて、一旦帰るとしよう。」

「賛成です。私もこの匂いには耐えられません。」


俺達は、回れ右をして一旦撤退しようとしたのだが・・・ ギルド受付嬢に発見拉致された。



「で・・・ 何の用かな?」

「災厄級が現れました。」

「災厄級ね・・・ それが何か?」

「強制依頼です。」

「ソレは変ですね?」

「えっ?」

「強制依頼は、Cランク以上のメンバーに限定されるはずです。」

「・・・」

「そして俺達は、Fランクのニュービー。」

「お呼びではない、と認識しますが?」

「・・・・・」

「会員規則に目を通す人達でしたか・・・。」


「ギルマス~っ。 無理です。 ちゃんと、規則を把握されています~ぅ。」

「チッ!」

「なんだ、そう言う事だったか・・・。」

「姑息な手段を弄しますね? これから、ギルドへの接し方は変えた方が良さそうです。」

「そうだな。 礼儀を知らん輩に礼を尽くす義理も無い。」


席を立ち、歩き始めると、ギルマスが口を開く。


「お前たちは、今日からC級会員だ。 よって、強制依頼に参加する義務がある。」

「あのなぁ・・・ あんまりふざけて貰うと、為にはならないぞ?」

少しばかり威圧してみる。受付嬢は、腰を抜かしたようだが・・・ ギルマスはソレを受け流した。


「俺達に仕事がさせたいなら、筋は通せ!」

「こういうやり方では、拒否感しか生まれないですね。」

構わず、歩き出すと・・・

「む~っ・・・ 良いから座れ!」


「聞こえなかったのか? こういうやり方は好きじゃないと言っている。」

更に威圧の効果を上げてギルマスを睨む。

「私達の一番嫌う方法を選びますか?」

更に、ビーナの威圧が加わり、受付嬢は失神、ギルマスはカチカチと歯を鳴らしている。

部屋の壁が振るえ、窓のガラスの何枚かが砕けた。


「高圧的に出て、効果が有るのは格下にだけだ。」

「まさか、自分の方が上だと思い違いをしていないでしょうね?」

「ぐぅ・・・」

「40そこそこの若造が・・・ 舐めるな!」

そこまで言いかけて・・・ ドアからこのギルドで一番の使い手が入ってきた。


「この馬鹿モンが!!」 

いきなりギルマスを殴り飛ばした。 それは、解体場のオヤジ、ヤコブだった。


「まずは、その威圧をといてくれんか・・・ 年寄りには”こたえる”し、何より話も出来ん。」

ビーナと威圧を解除して、席に着く。 インベントリからコーヒーを出し・・・

「飲み終わるまでなら、話を聞いても良い。」

更にビーナは、茶菓子にショートケーキを出して、ヤコブ爺さんに差し出した。



今日のあらましを話すと・・・

「それで・・・ 先ほどの威圧はそう言う事だったか・・・」

未だギルマスは伸びていた。

「アンタの教育の賜物だろう?」

少しばかりの厭味を込めて、オヤジに言ってやると、

なんとも複雑そうな表情を浮かべて、

「しゅまん・・・」

盛大に噛んだ。

くそ・・・ このオヤジ出来る。 シリアスな場面が台無しだった。


「それでだが・・・」

「その前に、口の周りを拭け!!」

ケーキのクリームが口の周りに・・・ お笑いの神でも守護神にしているのか?

腹筋が・・・ 腹筋が・・・ 



「それでだが・・・ その、ケーキというのは、まだ有るのか?」

「話がそれだけなら帰る。」

「いや・・・ 話は有る。 が、ケーキというのも欲しい。」

このオヤジ・・・ 欲望にも忠実なタイプだった。

ビーナがケーキを一つ、仕方が無いので出してやると・・・

二口でソレを平らげ・・・ 親に捨てられた子犬のようにビーナを見つめた・・・


「真面目に話を聞いてやるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。帰るぞ?」




結局、まともに話し出したのは、ビーナからホールケーキを二つ、金貨一枚で勝ち取ってからだった。



「ベヒモスねぇ・・・。」

「災厄級魔獣だ。町の討伐隊に協力して・・・」

「その、厄災級を相手に出来そうな奴は何人居る?」

「・・・・・」

溜息を一つ・・・


「足手纏いはいらない。」

「二人で行きます。」

「・・・」


「サクッと行って、斬って来りゃぁ良いんだろう?」

「アレを斬るつもりなのか?」

「こっちに来て、斬れなかったものは居ないぞ?」

「西の草原の北の山の麓で、目撃された。」

「そんじゃ・・・」

「30mを超える大物だ。」

「ベヒモスにしちゃぁ、だいぶ小さいな・・・。」

「それで、報酬は?」

「ソレは、そいつが目を覚まさんと分からん。」

キッパリと言い切りやがった。


「「・・・当分は無理そうだな?(ですね。)」」

「・・・・・」

「成功報酬を用意して待っていろ。」


そう言い残して町を後にした。


俺達は街を出て、64Dに乗り西の草原の北の山麓を目指して飛んでいった。




~傭兵ギルド~

傭兵ギルド長アイガイオンは、ヤコブに張り倒され・・・ 現在は正座で説教を受けていた。


「馬鹿野郎!! 一度目に威圧が放たれた時点で気付け!!」

「・・・・・」

「一階の奴等も何人か巻き添えを食らって、失神しているぞ!!」

「・・・・」

「あの年齢としで、あの波動・・・。」

「・・・」

「お前は、人に合った頼み方も覚えろ馬鹿モンがぁ!!」

「・・」

「アレは・・・ 強く出ればより臍を曲げる捻くれ者だと一目で見抜け!!!」

「・・・」

「俺が止めなければ、ベヒモスが来るより先にこの地が瓦礫に化していたかも知れん・・・。」


溜息を漏らしながら、ヤコブが続ける。

「お前は、苦労も知らずS級傭兵のパーティーで育ったせいで、危険察知がなっていない。」

「・・・」

「良いか? 魂に刻み込め! アレは、怒らせては、いけない者だ。」

「魔族・・・」

「そんな可愛いものか!!」

「・・・」


あの、光の波動は・・・




 


北西に進むと、草原から山麓へ差し掛かる。

「気配察知に、大き目のものが一つ・・・。」

「他に幾つかの小さめの反応も有りますね。」

やっぱり、町に潜伏中の魔人絡みだったか・・・ デイウォーカーの気配もあった。


失踪事件が無かった事から、共存しているのでは・・・と考えたのだが、

生者と不死者の間の暗くて深い溝は埋まってはいなかった。



対デイウォーカー用封印術《時の棺》の起動準備を行った後・・・

雑魚は殲滅。一応コアが残るとは思うが、全部消し飛んだら、無料奉仕ただばたらきだな。


ベヒモスか・・・ って事は、そのうちにレビアタンとジズも出てくるのか・・・。

最初しょっぱなから、大物が狩れるとは思わなかったなww」

「デイウォーカーは公爵クラスだったかも知れないですねww」

「確かにベヒモスは、伯爵クラスには荷が重い。公爵クラスが有力だな。」

魔族の中でも最強の一角が、こんなにすぐに見つかるとは・・・。

「ラッキーでしたねww」

「そうだな。ベヒモスからは良い素材が大量に採れるからなww」




「どうやらあの洞穴の中に隠しているようだな?」

「デイウォーカーとはいえ、所詮は闇に棲む蝙蝠の一族ですからねww」


「じゃぁ、何時ものように・・・ ビーナとデイウォーカー狩りは初めてだったな・・・。」

「記憶共有のおかげで、そんな気はしないですけどね?」

「死なない奴等は《時の棺》にぶち込んで、眷属どもの首を刎ねて・・・。」

「「ベヒモスは、瞬間冷凍!!」」

「それでは始めましょうか?」「そんじゃぁ、始めるぞ?」



洞穴の暗がりは、魔物のホームだが・・・

何度も、そんな奴等を相手にして来たんだ。目を瞑っていても対処など訳はない。

暗がりから・・・ 岩の陰から・・・ 天井から襲ってくる眷属共を斬りながら進む。

なにやら、偉そうな奴が何か言っているが・・・ 聞く必要も無い。

光の結界内に魔人を閉じ込め、体の中心やや左寄りに拳を突き入れ、体内から核となる魔石を掴み出す。

体と魔石を《時の棺》に収納して、魔人の封印完了だ。

正体を看破された時点で、魔人共の勝率は限りなくゼロに近い数字だったのだ。

今まで何度も、本当に何度も、この世界よりも厳しい世界に送られていたんだ。

「相手が悪かったな? 俺達も、どこぞの戦闘民族の3段階目並には強ぇえんだよ?」



「30m超級ねぇ・・・。」

「倍近くは有りましたねww」

「まあ、これでも、ベヒモスとしては小ぶりな方だが・・・。」

「「200mくらいは欲しかったな。(ですね。)」」

「後、5年も経てば、それくらいには、成長したはずだが・・・」

「急ぐ理由でも有ったと?」

「理由は分からないが、恐らくは・・・ まあ、そんな事はどうでも良いさ。」

「そうですね。討伐屋は討伐するのが、お仕事。」

「そっ。 それ以上でもそれ以下でもない。 他の事は、俺達の仕事じゃない。」

「ただ・・・ 肝心のデイウォーカーの一匹の腕が無い。」

「これは、闇にまぎれて自分の一部を逃がした。で、間違いないだろうな。」

近場には気配は無い。恐らく俺たちの突入と同時に逃げを選択したか・・・


「用心深いにも程がありますね。」

「公爵級で、油断しないタイプか・・・ 面倒な奴だ。」







~西門前・仮防衛本部~


西の入り口の前では、500を超える・・・ 決死の覚悟で町を防衛する大勢の兵隊や傭兵達がいた。


仮の本部の天幕に近づき、ヤコブの親父を見つけた。

一々説明するのも面倒なので、現物を取り出してやる。


「「「「「ベヒモスの首の氷付け・・・」」」」」

「依頼終了で良いな?」

「「「「「・・・・・・」」」」」

そこに集まった1000を超える視線が呆ける中・・・


「うむ。依頼は完遂された。」

ざわめきが、歓声へと変わった。

「消音結界展開!!」


「まだ話は終わっていないんだ。ちったぁ、空気を読めよ?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「依頼以外に追加を請求する。」

「「「「「追加の請求?」」」」」

「その、ベヒモスを操っていた魔人の討伐報酬だ。」

「魔人? 魔人も居たというのか?」

「普通・・・ ベヒモスが独自に動く事はないだろう?」

「ベヒモスが単体で動くときは、レビアタンとの決戦の時だけと決まっています。」

「・・・そうなのか?」

「過去の資料を熟読する事を推奨します。」

「「「「「・・・・・」」」」」


「それで、その魔人は?」

「こいつ等がそうだ。人狼、こちらでは、ワーウルフと言ったか?」

ワーウルフの亡骸を取り出し、眷属の力の源であった魔石を取り出しテーブルに並べる。

「まずは、そいつら、眷属の魔石だ。」

「眷属・・・ まさか、魔人は・・・」

「お察しのとおり、デイウォーカー二匹と僕のナイトウォーカーが6匹。」


「こいつらは、死なないから、体から魔石を取り出し、《時の棺》に魔石を封印してある。」

《時の棺》ガラスのケースのように見えるそれは、純粋な封印術で構築された結界。

触れようと手を伸ばすが、ヤコブによって殴り飛ばされる。

「馬鹿モン!! 封印術式ソレに気軽に触れるな!!」

「ん? オヤジは其れがどんなものか知っているのか?」

「当たり前だ! 昔、デイウォーカーを討伐したときに時代の大魔導師が作ったソレを触って・・・」

「触ったのか?」

「うむ・・・。」

「一月ほど寝込まされたとww」

「「「カウンターマジック。」」」

「当然だ。魔石が無事なら、不死者は数日で蘇る事が出来る。」

「当然、それを狙う魔族や、魔人は存在するという事です。」

「確かに・・・ この魔人の腕が片方無いな・・・。」

「俺達が突入したときには、既に無かったからな。」

「当然奪いに来るでしょうね。」

「それにしては、嬉しそうじゃないか?」

「不死者の魔石は使い勝手が良いからなww」

「魔道具のコアには、うってつけですからねww」

「デイウォーカーをコアに使うってか?」

「無尽蔵の魔素排出装置みたいなものだからな?」

「腕一本分の小さめのコアでも50年位は交換不要の明かりの源になりますからねww」

「「「「「・・・・・」」」」」



「話を戻して・・・ そのベヒモスは買い取らせて・・・」

「断る!!」

「・・・」

「金貨1万枚にはなるぞ?」

「お断りします。」

「「「「「・・・」」」」」

「理由を聞いても?」

「素材として使う。」

「「「「「・・・」」」」」

「この話は以上だ。」


「だが、ベヒモスの死骸が無ければ国主に褒章の申請も・・・」

「その話は終わっている。」

「それでは、王都で褒章・・・」

「必要ありません。」

「「「「「なっ!!!」」」」」

「だいたい、何故わざわざ出向かなければならないんだ?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「災厄級を討伐したんだ。英雄になれるんだぞ?」

「その英雄様を呼びつけるのか?」

「いったい、何様のつもりでしょうか?」

「「「「「王様だよ!!!」」」」」


「英雄なんて面倒そうなモノはパス!」

「忙しいので、遠慮させていただきます。」

「そんなモンはどうでも良いから、討伐報酬をサッサと出せ!」

「「「「「・・・」」」」」


大量に積まれた金貨の山から、二人で10枚の金貨を受け取る。

「王都に行けば、10倍・・・いやもっと沢山の・・・」

「亡者が紛れ込んでいるのか?」

「”必要無い”と言っています。」

「全部持っていって構わないぞ?」

「それじゃあ、決死の覚悟で参加した(させられた)先輩たちが哀れじゃないか?」

言葉の意味を正確に理解した聡い者たちから・・・ 先程よりも大きな歓声が巻き起こった。


「おまえ・・・ 妙なところだけは傭兵なんだな・・・。」

「何を言っている? 俺達は普通に傭兵だろう。」

「普通の傭兵が聞いたら泣くぞ?」

俺達は、その場を後にした。


その後、合同での祝勝会という名の大宴会が催された。・・・らしい。




「傭兵ギルドに全部持っていかれたな・・・」

「相手は災厄級。手柄は持っていかれたが、正直被害が出なかった方が有難い。」

「まさか、氷付けにして・・・」

「ベヒモスさえ持っていけば、褒賞は思いのまま・・・」

「あの、アイテムバッグを狙っているなら止めておけよ?」

「そうじゃ。奴等が、暴れだしたら誰にも止められん。」

「止める気もないがな?」

「災厄級、魔人を一刀両断・・・」

「少なくとも、封印魔術と、減速系、結界の使い手。」

「そして、なによりベヒモスすら斬ってのける力量。」

「良いか? 傭兵ギルドは、そうなった場合、敵対関係になると知れ。」

「そうじゃ。ハンターギルドも同意見じゃ。」

「無論、守備隊は悪事に手を貸すつもりは無い。」

マヌケーナは、各ギルドから要注意人物としての評価されていたが、

危険な欲望を抱く、要警戒人物・・・・・に変更される。本人は気付いていない様だった。





ベヒモスの討伐の成功。その事実だけを、王宮に報告する事になった。

情報は光の速さで国中を駆け抜けた。




「爺、その者をどう見る?」

「扱いにくい頑固者かと・・・。」

「僕の力には・・・」

「欲深き者は、与えれば踊りましょう。」

「・・・」

「無欲な者には、不審感しか与えません。」

「それでは・・・」

「時の導きの為すままに。機知を得るまでは放置するのが最善ですな。」








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