001 召還!
はぁ~っ、また此処なのか・・・・・っ。
何度目になるだろう? 21回? いや、22回目か?
「なんじゃ? また、来たのかえ?」
「・・・そうみたいです・・・」
この白い闇の空間は神の部屋で、この声の主は、自称”輪廻の神”
「誰が自称じゃ? 正真正銘!輪廻を司る神の一柱。 恐れ多くも勿体無くも・・・」
「ああっ、もう紹介も結構ですから、用事を聞かせていただけますか?」
「出番が少ないのじゃ! もっと労わって、敬うのじゃ!」
「・・・成る程。 用は無い様ですね? じゃあもう家に返してもらっても?」
「もう無いから・・・」
ボソッと呟かれた。
「もう? 用事は無いのですよね?」
「そうではない。長い仕事になりそうなので・・・」
「ので?」
「主を事故で死んだ事にして貰っちゃった。 てへっ!」
イラッ!!
「主のアパートに隕石が落ちて、”彼の地”は、木っ端ミジンコじゃww」
「他の住民は、道連れですか?」
「出来立てほやほやの物件に、家主以外の住人など居らぬわ。」
「つまり、相続した土地の2/3を売って、それでも足りなくて・・・
小学生の時代からの積立貯金を、つぎ込んでやっと建てたアパートを”ぶち壊した”と?」
「・・・」
「また来たのかとか、言いながら・・・」
「・・・」
「帰る場所まで無くしてくれて・・・」
「・・・」
「しれっと偶然のように・・・」
プチッ プチプチッ プッチン
「主、わしの話を・・・」
「座標設定!誤差修正!プラネットボンb」
「待て~~~ぇっ!!!待たぬか!!!」
「あ~っ?」
「主の所有物は全てインベントリの中じゃ。」
「全て? 解体屋に月極めで貸している廃車置場や、駐車場もか?
そんな物をインベントリに入れて持って行って、どうしろと?」
「工房もコレクションのコンテナもアパートも、そのままの状態で・・・」
「修理して、メンテナンス出来なきゃ、使い物に成らないし、燃料や・・・」
「そのへんも、インベントリに一旦入れれば、復帰する様に加護も付けてあるのじゃ。」
「燃料は魔素からの変換が可能じゃ。必要な物は揃えてあるのじゃ。」
ジト~~~ッ
「何じゃ? その疑いの眼差しは?」
「土地が入っているだって? どうやって使えと言うのかな?」
「それはじゃな・・・」
「まさか次の世界の土地の上に乗せるとかじゃないよね?」
「・・・」
「それで・・・、俺の所有地なんて、笑えない事を言うつもり・・・とかは無いよね?」
ジト~~~ッ
「ならば試してみるがよかろう?」
「賃貸駐車場・・・ 展開!」
「「・・・・・」」
「ハハハ・・・ これは何の冗談なのかな?」
「主の所有地の上に有る物は・・・ 主に属して・・・」
「解体屋スクラップ置き場・・・ 展開!!」
「「・・・」」
ジト~~~ッ
「どうするんだよ? コレ・・・」
「良いではないか? これも神の思し召しじゃ。」
「その前に・・・ 普通は、その”神の思し召し”の前に説明が有る筈ですよねぇ?」
「それはじゃな・・・」
「確認して、詳細を説明して、報酬を提示して・・・」
「だから、急いでおった・・・」
「双方合意の下に”神の思し召し”という名の契約をするのが・・・」
「だから、急いでおったの・・・」
「急ぎなら、手順を飛ばして良いとでも?」
「神様じゃぞ?」
「神様なら、何をしても良いと?」
「だから・・・」
「約条違反行為についての申し立ての実行! ホットラインを要求します!!」
「そんなものは・・・」
『ホットラインを開きます。』
「ゲッ!!」
「輪廻神による条約違反に関する申し立てをします。」
「・・・」
『詳細確認中・・・詳細確認中・・・』
『詳細確認完了。申し立てを受理します。』
『輪廻神による異世界派遣業務に措いての手順省略を確認。』
『現世においての生命の破棄を確認。現状世界への復帰不可。』
『受けるであろう恩恵の強制放棄を確認。』
『現世のおける損害を確認。』
『損失の補填を実行します。』
『住居、土地、所有物、生命、4億2千7百8十万円算出。適用しますか?』
「送り込まれる世界で、その損失補填は使用は可能なのですか?」
『金銭は意味を成しません。土地の上に有るものについては使用可。』
「それでは、賠償の意味が無いのではありませんか?」
『代替案として、所有物のアーティファクト化を提案。』
「アーティファクトですか?」
『不壊、不滅、成長、恩恵付与可能。』
「既に、壊れている物が大半なんですが・・・」
『現状確認。修復を実行が可能。』
「残された家族の・・・」
『現世での生命保険、災害保険、及び”神々の救済保険”を適用可能。』
「神々の救済保険?」
『神の使徒として使命を全うした者への・・・ 何故21件もの完済があるのですか?』
「今までに21回ほど、異世界で頑張ったからでしょうか?」
『・・・輪廻、使徒に説明の後、直ちに出頭しなさい!』
「ひゃい!!!」
『遺族への保障は、異例ですが、救済保険の21回分を適用とし、恩恵として授けます。』
「それ・・・ 具体的には?」
『ステータス増強、加護の付与、厄災の無条件回避です。』
「それなら、家族は心配が無いようですね・・・ 同意します。」
『了承を確認。賠償を実施。』
『賠償支払の完了を確認。』
『使徒よ、次なる成果を期待します。』
「了解しました。」
「で、先ほどの続きじゃが・・・」
輪廻神は恨みがましそうに説明を始めた。
「報酬は、次生時の優遇特典で良いな?」
「22回分の重複を、忘れてませんよね?」
「しつこい奴じゃのう・・・」
「当然の主張だと思いますが? まだ一度も成功報酬をもらってないんですけど?」
「そうじゃったかのう? 何ぞ恩恵なり与えた筈じゃが?」
「それは、報酬の一部は、既に払ったと言っているのですか?」
「それ以外に、どう聞こえるのじゃ?」
「輪廻神の依頼による業務に対する報酬の確認を申請!!」
「なっ!!!」
『報酬の確認を受理しました。』
「ギャッ!!」
『約款及び、業務による報酬、功績ポイントに対する評価を確認中。』
『支払いデータを検索しています。』
「「・・・」」
『功績評価 AA3回 A+12回 A4回 A-2回』
『支払いデータ不在。輪廻神からの報酬の支払の事実はありません。』
「だから、言ったんですよ?」
「・・・・・」
『派遣時特典恩恵の未処理を14件確認。』
『輪廻、後ほど審議会への出頭を命じます!!!』
『使徒マサキ・・・ 21世界分での未払い業務報酬及び、功績ポイントが使用可能です。』
「次回転生後に適応される報酬は、正規の形でお願いします。」
『転生特典最上位を付けても、2世界分で充分すぎます。むしろ、神様になれます。』
「・・・」
「輪廻神に騙されたということですか?」ジロ~~~ッ・・・
輪廻神は、明後日の方を見ている・・・
「その功績ポイントは、今使った方が良いのですか?」
『ポイントの配布を実行。ステータスボードで使用可能。』
「了解です。」
『リ~ン~ネ~ッ!! 使徒に説明の後、直ちに出頭なさい!!!』
「ひゃい!!!」
「で、先ほどの続きじゃが・・・」
輪廻神は更に恨みがましそうに説明を始めた。
「インベントリ!」
インベントリを開くと、パーツだけだったアイテム類が・・・
完成品として一覧に記されていた。
種類こそ多くは無いが・・・ 20種類ほどのバイクは、総数300を越えていた。
同様に、大量のスクラップは今作られたばかりの状態に・・・
心当たりは有る、パーツだけだった物の種類と数が、途方も無かった。
インベントリ内にある1台のバイクをタップすると・・・
改造を施された、見慣れた俺の愛車。セルを回すと、小気味良い排気音が響く。
「調子が良い。この状態なら、問題ないだろう。」
「そうじゃろう? わしの仕事は完璧なのじゃ!」
・・・アーティファクト扱いになったからじゃないのかな?
「改めて用件を聞きましょうか?」
「なに、簡単な問題じゃ。 ただの魔物討伐じゃよ。」
「相変わらずですか・・・」
「剣と魔法のファンタジーな世界じゃが・・・魔法も言語も今更付けるまでも無いじゃろう?」
「肉体年齢だけはピーク時にしてくださいね。」
「他に希望はあるかえ?」
「今までの能力が、そのまま使えるなら問題は無いです。」
「では・・・」
「詳細説明がまだです。魔物の脅威度は?」
「厄災級が数匹、災害級が数十匹、その他は所詮雑魚なのじゃが・・・」
「・・・続けてください。」
「ただ、少しばかり数が多くて、時間が掛かるというだけじゃ。」
「ふむ。」
「では、良しなに頼むのじゃ。」
「やれやれ・・・」
「行くがよい。」
体が光に包まれ・・・ 新しい身体が構築されていく事がわかる。
「まあ、一日に100匹も間引けば、100年程で適性数になるじゃろう。」
「一寸マテェ~~~っ!!! 再度異議申しt~~~」
今回も、肝心な事は誤魔化すんだな・・・
幾度と無く酷い目に合わされたが、今回も碌な依頼では無さそうだ。
難易度的に問題はなさそうだが、仕事量が尋常ではない。
俺の名は、神崎真樹 日本人 関東在住のアラサーサラリーマン。
何処にでも居る、ごく平凡な・・・
もとい、十代の頃から、何度か異世界に出張させられていた、
体感年齢という物があれば、90歳を超えるハンターだ。
輪廻神曰く、魔族に喰われた者は、その存在自体が消滅し、
存在が輪廻の枠から外れ、やがてバランスが崩れ滅亡へと至る。らしいのだが、
滅亡への道を回避する為に、適材を召還する。
ラノベの様な、勇者になるわけでなく、人知れず世界の修正をしてきた。
主に、魔物の駆除などでだが・・・
大体において、俺の立ち位置は、S級冒険者が頂点の世界でなら、
そこそこ優秀なB級冒険者と思ってもらえば良いだろう。
本来、駆除をするだけなら、冒険者や傭兵の肩書きなど必要ないのだが・・・
”生活費は自分で稼いで”ね。と、丸投げをする、ブラック臭のする自称神。
・・・これも、異議申し立てをするべき案件ではないだろうか・・・
魔族や魔物は、元はこの世界の存在ではなく、次元の狭間から溢れたイレギュラー。
俺は、バグを取り除く為のハンターの一人として召還された様なのだが・・・
今までは、半年から数年程の仕事が終われば、元の時間帯の元の場所に帰れたのだが・・・
何十年と違う世界に居ると、心や感情等の矛盾が大きくなる。
それが、百年にも及べば、人間の性能ではモタナイのだろう・・・
だから、俺の持ち物は全て持たせてくれたのだろう。
だが・・・一覧の中には、記憶に無い様々な物がストックされていた。
しかも、その数は、半端じゃなかった・・・
で・・・ 此処が俺の永住先になるのか・・・
俺は愛刀で襲ってくる魔物を斬り殺しながら、ぼんやりと考えていた。
道路を見たところ、中世の前期辺りの欧州って感じだな。
エリアサーチの魔法を使うと、周囲の状態と人の種族などの情報が流れ込んでくる。
最寄の町は・・・ 7km程離れている様だ。
人口3万6千人強、人族2万3千、亜人種1万2千70、魔族37・・・
やっぱり、紛れ込んでるよ・・・
おまけに、最寄の町には魔獣も相当数居るじゃないか・・・
町に居る魔族の詳細・・・
アンデッド種 デイウォーカー2。ナイトウォーカー6。眷属29。
「厄介な・・・ ホントに厄介なのが紛れているし・・・」
今までの経験から、ナイトウォーカーは大した事は無いのが・・・
デイウォーカーで、人種に敵対している奴は、討伐が難しいのだ。
大抵が貴族等有力者とのコネクションを持ち、其れなりの地位を有している。
巧妙に正体を隠匿し、確実に被害を増大させる知的で小賢しい存在だ。
浄化は難しくないのだが・・・
「後始末が面倒なんだよなぁ・・・」
共存している個体であって欲しいのだが・・・
生者と不死者の間には、暗くて深い河が在る。
ってのは、ある意味”お約束”なんだよなぁ・・・
「え~い!鬱陶しい!! 野生の生き物なら捕食される側だといい加減に気づけ!!」
既に俺の周りには夥しい数の魔物が物言わぬ骸となって転がっていた。