【イラストから物語企画】愚者のおくりもの
遥彼方様主催、イラストから物語企画の参加作品です。
クリスマスを迎えられなかった老夫婦がいた。
二人は前夜に毒で死んでいた。
翌日がクリスマスだったせいもあってか、二人の死はマスコミの手で清貧の老いの心中に仕立てあげられた。
二人を発見したのはその日に家を訪ねてきた小学生の孫の公弘だったが、彼が手にしていた二人へのプレゼントだったという自作の絵皿が報道されると、それがまた周囲の涙を誘った。
二人の少しばかりの預金と不動産は孫に譲られることになったが、それは悲惨な事件の中にあって、幾分か救われる話題となった。
実はその老夫婦は、長い生活の間に愛情を憎しみに変えてしまっていた。
しかし地元商店街で酒店を経営していたこともあって、二人は外見上は仲むつまじい夫婦を演じ続けた。
その日、偶然にも二人は同時に相手を殺す計画を立てた。
妻はケーキナイフの刃の片側にだけ毒を塗ってケーキを切り分けた。
夫は妻のグラスにだけ毒を仕込み、ワインを注いだ。
二人の計画はどちらも成功したが、至極当然ながらどちらも生きて翌日を迎えられなかった。
翌日がクリスマスだったせいで、凄惨な殺し合いはマスコミの好む悲哀の心中に仕立てられた。周りの人間も二人の殺人計画を信じなかった。
…ただ一人、定年間近の鑑識官を除いては。
(鑑識官の日記)
『…夫からはトリカブトの成分が、妻からはテトロドトキシンの成分が検出された。わざわざ2種類の毒を用意した理由、疑問残る。…』
警察はよくある心中事件としてこの一件を処理した。
鑑識官も定年を迎え、無事に退職した。
(元鑑識官の日記)
『…外孫の公弘は悲しい事件の記憶も薄れ、今年は中学生になる。たとえ間違いを犯しても、私は公弘に無駄な苦労をさせたくなかった。…』