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少年の目的

二分の一的な

 顔面ドロドロな変死体をそのままに、シューベルは周囲に生えている薬草を手当たり次第に採取していた。当初の目的は母親の病気の治療の為に来たのである。当初の目的を忘れない良い男である。ショタだけど。

 全身に負っていた打撲や擦り傷は大天使の神がかった調合と製薬により完治する事ができた。彼女曰く「私がいればこの技術はいらないんですけどね。無きにしも有らずって言いますから」と語っていたが…例え話に関しては良い感じに喩えられていないので両者ともスルーした訳である。

 シューベルの採取が終わり、純粋無垢な瞳で見つめられる。まあ、剣に対して話しかける狂人ではなかったので対象は大天使だったが。


「…助けてくれてありがとう。だけど…お姉さん達は誰?」


「ああ、私ですか。…まあ、言うなれば世界を改変するモノ、インフィニットストレイヤーズ…ですかね」


 視線を向けられ答えた大天使。無言の空間が辺りを支配する。シューベルに関しては呆気としている。口が半開きでポカーンだ。すぐに堕天使が補足を入れる。


『いきなり初対面で変な名前名乗るなよ…まあ、オレ達は…そうだな。何だろうか、武器と女って表現が正しいのか? まあ、不審者ではないことは確かだな。暇だし助けてやるよ』


「いや、貴方も十分意味が分かり辛いですけどね」


「…分かった」


「……分かったんですね」


 最近の子供は物分かりがいいんですかね、と呟く大天使。どちらかと言うと思考を放棄している感が否めないのだが、しょうがない事だろう。出会いは運命的なものであるし、運命たり得る実力が光る少年であることは確かであるが、シューベルはまだ子供なのだ。勇者とか英雄とかの妙に偏った情報や、目的を持った相手ではない。強くなれる剣があります、で世界を救ってやろう! と、考える少年は少ないであろう。それが現実である。

 恐らく、シューベルの考える『助ける』はそのままの意味でのお手伝いさんとかだろう。堕天使、剣の次は家政婦になる。

 そんな剣生もあっていいだろう、と思い数秒。流石にそれはないよな、と素に戻る。どこの時代に剣を家政婦として雇う奴がいんだよ。恐らく大天使に言っているんだろうけど。



 そんな独りよがりが脳内を瞬時始めた頃、大天使が帰りの支度をし始めたシューベルに声を掛ける。道端の小石レベルに視線を向けていなかったので実は見えていないんじゃないか、幽霊の類なんじゃないか、とそんな堕天使の心配は杞憂に終わった。普通に失礼である。


「シューベルさんはそんなに薬草を採取してどうするんですか? 量的に一人を治す以上ですが」


「…母さんから見つけたら沢山採って来るように言われたから。余った分は売るみたい」


『病気でも心は強いんだな…』


 危険な場所に向かう我が子に言う言葉か? と思ったが諦めの末の言葉なのだろう。行くのであれば売るために沢山採ってきてね、と。



「うん。母さんは強い人だから」


 そう答えるシューベルの表情には大人っぽかった印象は消え、年相応のあどけなさが入り混じっていた。

 それを見た大天使の表情が若干曇ったことは誰も知らない。










 場所は変わり、シューベルの家である。まあ、病気の母が床につく場所である。病気が移らないように、と隔離している訳で一年ほど前が一番最後の一緒に寝た記憶だという。若いのに大変だな…と、思うオレらを別室に待機させ飲み物を取ってくると立ち上がったシューベル。これ幸いと大天使が立ち上がる。


『おい、どこ行くんだ。便所か? 便所なのか?』


「…失礼ですね。例え本当だとしてもそんな直接的には言いませんよ。植物達に水をあげに、とか」


『結構それも直接的だけどな』


 寧ろその水を挙げる光景が目に浮かぶので悪化していると言っても過言ではない。無機質な剣であるオレと違って受肉している大天使である。食事も必要になるし眠る必要もあるだろう。そして必然的に排泄も。


『(別に恥ずかしがることはねえと思うけどな)』


 と、思いながら口には出さない堕天使。意外と配慮がある剣なのだ。剣に配慮されても嬉しくないけどね。


 質問をはぐらされたな、と思う剣であるがしっかりと大天使の手に自信が握られている事に気が付く。口ではそう言って体は素直じゃねえんだな。と思ってみるがそうではないのだろう。

 一年前から、の時点で気になっていたんです。と、前置きを呟き腐りかけの床を踏み抜かないように気を使いながらゆっくりと、空気が違う一室まで近く。人の住居、と言うよりシロアリの住処といった方が正しいまでにボロボロな家なのだ。鎧を換装した状態だと確実に踏み抜いているだろう。そんな感想を持ちながら持たれ、進んでいく。


「これも私がいれば必要ではない知識ですが、一年ほど経っても状態が悪化しない…まあ、この場合は『死』ですね。が起きない状態の病気は記録がないんです。いや、徐々に状態が悪化して、今があるとの考えはできるのですが…あそこまでの危機的状況にあっても薬草を手に入れる根性はただならぬモノを感じまして」


 そう言って閉ざされた一室を開ける。

 そこにはーー


 顔のほとんどを包帯で覆い、息も絶え絶えな姿があった。



 シューベルが言うに、この半死な状態の彼女は母であることが知れるのだが…流石にミイラみたいな姿で初見で判断できるものは少ないだろう。そこまで包帯で覆い尽くされていたのだ。


『これは…すげえな』


「ええ…」


 大天使の視界を借りて確認する。素人目からしても尋常じゃない普通がそこにあった。そんな呆気なオレとは違い、大天使の視線はある一点を凝視していた。微かに動く上体で息があり、生きていることは確認できるのだが…一呼吸が苦しそうな事に彼女は気付く。


「未知の病、ですね」


 全身を覆う包帯は火傷の跡か。それとも見苦しい体を隠すための隠れ蓑か。


 濁った水を持ってきたシューベルに発見されるまで大天使の観察は終わらなかった。














「母さんは夜の蝶だと言っていた。夜から朝まで帰って来なくて、でも帰ってきたら沢山俺達と遊んでくれて…でも、ある日腕に噛みつかれた痕があったんだ。母さんは『野獣に噛まれた痕だから塗り薬しとけば治るよ』と言っていつものように過ごしたんだ。その日から徐々に母さんは…」


「…あの包帯はお母さんがしてくれって?」


「いや…昔から母さんは綺麗な人でそれを自慢げに語っていたから…変化していく体を見られるのは嫌かな、て思って」


「変化ってどんな感じなんですか?」


「えっと…最初は咬み傷の周りが赤くなって、赤黒くなった。それが広がるように赤紫になって…今では黒っぽい紫に」


「そうですか。では、ちょっと外の空気を吸ってきますね」


 濁った水には一切手をつけず、剣を手に取り立ち上がった。


『…ん? 終わったのか?』


 堕天使の声に反応せず、そのまま戸を開け、外に出る。空気が美味しかった。






「はっきり断言すると感染症ですね。母親が言った野獣がそのままの意味だったら良いんですけど…まあ、感染症ですね。彼が言った『いつも通りに過ごした』が正しければ十分な治療をせずに暮らしていた訳ですし悪化します。そして包帯で外気との接触を断つ事で内部で病気が繁殖しやすくなります。見た感じ、包帯もしっかりと消毒されていないみたいですし」


 一気に吐くようにしていった大天使の感想に息を呑む。その姿はまるで


『お前医者擬きみたいだな…闇医者を始めるなら一緒にやろうぜ? 無償の臓器提供者を連れてきてやるから』


「それは完全に闇事業ですね…って、擬きって何ですか。擬きって。まあ、でも私の見解はそんな感じですね。確かにあの場所の薬草の治癒力は目を張るものはありますが…様々な場所に根を張った病気までは完治することは難しいと思いますね。精々が延命で終わるかと…」


『ふーん。って、なんでそれをシューベルに伝えなかったのか?』


「意味がない、と思ったからですよ」


『意味がない? それは何でだ? ほら、シューベルを治したみたいに薬草でちょいちょいってできねえのか?』


 その質問に対し3、と大天使は指を立てる。


「三つ理由がありますが…まあ、一番は症状が悪化しすぎているからですね。病気が全身に回りすぎてるんです。伝えたとしても…」


『あー、助からないと言われても素直に受け止められないか。まだ子供だしな、シューベル』


 それもありますが、と同意を示し、かつ別の意見を付け足す。


「彼の言動からして妙に母親に対しての『強い』と言う願望が混じっているんです。母は強い、母はこんなにに負けない、母は母は…と、そんな感じです。だから母の武器であった美貌を守るため包帯をさせていた」


『…おぉ、探偵みたいだな。で、そうだったらどうするんだ? 治せないなら』



「…そもそもがどうして彼を主として認めようとしているかが謎ですけどね。もうちょっと心身ともに強い戦士を選んだ方が良いんじゃないですか?」


『まあ、それもそうだな。だけど今回はオレ達の旅だろ? 世界を見て回るって言う。なら最初の冒険くらいは最大限に手助けしたくねえか? 完全にこれはオレの感想だけどな』


 悠久の時を経て、様々な戦場を駆け巡った仲であるのだ。それが何の冗談か今では共に行動…する予定になったのである。最初くらいは苦労しても良いんじゃない? と、堕天使の考えである。


 そもそもの考え方として所有者に一任する堕天使と、自分の目的と合致し優柔を利かせてくれる相手を選ぶ大天使である。そこら辺の考え方に違いが生まれる事は必然とも言えるが…今日の大天使は気分が良かった。


「…確かにそれも一興ですね。ですが、やれる事は変わらないですよ」


『ま、だろうな。お前は変に真面目だもんなあ…。』


 で、外に出た理由はこの事を話したかったのだろう、とすぐに理解できるが…この後はどうするつもりなのだろうか。外の空気美味しかったです、とそう言って中に戻る程厚顔じゃないし…このまま見て見ぬフリも良いが…乗りかかった船なのだ。会話の中でも母親以外に気になる点があったしそれを聞き出して、考える時間を作っても別に問題はない筈だ。


『俺達と遊んだ、って複数なのが気になるしな』


「…? ああ、戦場で戦う事を貴方は遊ぶと形容するのですね。意外な共通点です」


『ちげえよ。どんな発想で遊びに発展すんだよ…』


 独り言が漏れてしまったことで突っ込まれたが全然大丈夫であった。そして大天使が今までの血で血を拭う戦闘は全て遊びと考えている事を知れた。新発見であるが知りたくない事実であった。守りに対しての技術が優れているのでそこを踏まえると…何となく理解できなくもない。が、所詮堕天使の本分は剣である。断片だけ垣間見れて、後は放置することにした。




 数分程。

 妙な気まずさを感じながら辺りの空白の目立つ土地と、放置された畑。そして所々にある崩れた小屋が見える秘境的な光景を眺めていると背後からシューベルが近づいてくるのが聞こえた。少し焦ったように駆け足気味であった。


「…母さんが呼んでる。えっと、話したいことがあるって」


 表情は妙に心配そうで、対する大天使は無表情だった。若干眉が動いているので驚いているのかな? と、そんな印象を受けるが…。


『(マジで無表情なんだよな…受肉の意味あったのかコイツ…?)』


 そんな事を思いながら大天使の手の中で物思いに耽りながら家の中に入っていく。

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