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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
98/159

モノガリのユディ



 サーカステントの中に一歩入ると、なるほど、ルグレイが獣臭と言っていたのがよくわかる。

 確かに、外の空気とは明らかに一線を画した、独特の空気が満ちていた。


「この左手側の部屋が、動物たちの寝床だから、近寄らないでね。こっちの右手が休憩室だよ」


 私はクラウンに案内されるまま、右手の休憩室の扉をくぐる。

 クラウンは、散らばっていた椅子を集めて、部屋の奥の方に座る席を用意してくれた。


「寝転べる方がいいかい?」


「あ、いいえ、少し座らせていただければ、大丈夫です」


 私は遠慮がちに、用意された椅子に腰かける。

 クラウンは、入ってきた扉を背にして、私の方に目を向ける。


「それならよかった。しかし30分か、そんなに間を持たせられる芸なんてあったかな? そうだ、そこのステッキ君、何かいいアイデアはあるかい?」


 そう言いながら、クラウンは、壁に立てかけてあるステッキの方に手を伸ばす。

 が、流石にそこからは届きはしない。


 そう思っていたのだが、ステッキが、まるで自らの意思を持っているかのように、ひょこんとクラウンに飛びついてきた。


「おっとっと、寂しかったのかい?」


 そう言って手を振ると、ステッキはじゃれつくように、クラウンの周りをうろうろとし始める。


「!!」


 糸が!!!

 この距離だと、ステッキについてる糸が、見えてる……!!


 そうか、今、クラウンは、普段着だからだ。

 いつもは服に合わせて糸がその色に塗ってあるだろうから、見えないんだろう。

 よりによって、今クラウンが着ているのは、白いワイシャツだった。


 しかし、種が分かっていても、そのステッキの動きは本当に意思を持っているように自由自在で、練習量の多さを推察できるほどだ。


 私は思わず、パチパチと拍手をした。

 が、クラウンは、私の視線に気づいて、「おっと」と困った顔をした。


「しまった、そうだった、こういうものは普段着でやるもんじゃないな」


「でも、すごいです、動きが熟達しているというか…!!」


「ははは、これが仕事だからね。そう、クラウンの仕事はおどけることだからね、勿論この失敗もわざとさ!」


「あははっ、だとしたら、すっかり騙されてしまいました…!」


 私はもう一度拍手をする。

 クラウンは、とても気分のいい顔をした。


「いやいや、いいお客さんに巡り合えたな、これも日頃の行いがいいせいかな? なんてね。本当に得意なのは、ボックスだからなあ。なかなか他の分野まで手が回らない」


「ボックス? というと、脱出ショーとか、剣で串刺しにしたりとかの…?」


「ああいや、違う違う。あんな大掛かりなものじゃなくてね。見ててご覧?」


 そう言って、クラウンは、何も乗っていない右手を差し出してくる。

 手の平を上に向けて、何もないことを私に確認させると、反対の手で、サ、と空気を撫でるように、上から下へ。

 まるで雑巾がけをする時のように、広げられた左手が、私の視線から右手を覆い隠すように通り過ぎていく。

 たった一瞬通りすぎただけなのに、気が付けば、右手には、手のひらサイズの箱が乗っていた。


「えっ、すごい、さっきまで何もなかったのに…!」


「まだまだ、驚くのはこれからだよ。肝心なのは、箱の中身さ」


「中身…!」


 どきどきと箱に注視する。

 凝った模様のデザインだな、という印象だが、見た目はただの箱でしかない。


「お嬢さん、この箱には何が入っていると思う?」


「えっ、わたしが決めていいの…!?」


 咄嗟に話を振られても、なかなかすぐに出てこない。


「それはもちろん。例えば、そうだなあ、お嬢さんの左手についている、可愛いブレスレットみたいな、鈴なんてどうだい?」


「鈴…! じゃあ、それで!」


 クラウンは、にっこりと笑うと、箱を横に、シャカシャカと振り始める。

 するといきなり、チリチリチリ、とくぐもった鈴音が聞こえてきた。


「!」


 私は驚きに目を見開く。


「はい、大当たり」


 クラウンの人は、パカッと箱を開けて、逆さにする。


   チリン、チリチリチリ…


 首輪についているような、小さな鈴ではなく、飾りにできるくらいの大きさの鈴が、床を跳ねて転がった。

 クラウンは、何事もなかったかのように、大事そうに箱の蓋を閉めた。

 私はまた、パチパチと拍手をした。


「さて、お次は何が入っていると思う?」


「えっ、続けて2回も…!?」


「もちろん。自由に想像してご覧。これは何でも入っている、魔法のボックスだからね」


 そう言って、クラウンは、ウインクをしてくる。


「え…と…。じゃあ、花がいいなあ…! ツユクサのね、鮮やかな青が見たい気分!」


「なるほど、花ときたか、実に女の子らしい。さて、出ておいで、ツユクサの姫君」


 クラウンは、先程と同じように、箱を横に、シャカシャカと振り始める。

 しかし、今度は何の音もしない。

 それでも、先程と同じように、パカッと箱を開けて、逆さにする動作に迷いはなかった。


   パラ、パラパラパラ……


 するとどうだろう。

 つゆ草の青い花弁が、降り積もる雪のように、床の上に落ちていく。


「ええ!? す、すごい…!!」


 全然種も仕掛けもわからなくて、私はパチパチと惜しみない拍手を送った。


「ははは、言っただろう? 得意な手品だって。お嬢さんは反応がいいね。願わくば、ずっとこの時間を楽しんでいたいけど…そろそろいい時間になりそうだからな。次のボックスで、最後にしようか」


 言われて、夢中になってしまっていたことにハッと気づいた。

 もう疲れなんて吹き飛んでしまっている。


「では行こうか。さてさて、可愛いボックスさん。君のその腹の中にあるものを、僕に教えてくれるかい?」


 クラウンは、大袈裟な動きで、ボックスへと耳を当て、「ふんふん」と頷き始めた。

 私はドキドキと、その様子を見守る。

 やがてクラウンは、勿体つけるように、私を見た。


「ああ、なんてことだろう。お嬢さん、体に変調はないかい?」


「? あ、もう、すっかり元気になりました!」


 ぐっとこぶしを握って、元気アピールをする。

 しかし、クラウンは、残念そうに首を振った。


「だけど、お嬢さん。このボックスの中にあるのは、君の、骨だと、思わないかい?」


「……。……え?」


 一瞬、何を言われたのか、理解ができなかった。

 クラウンは、先程と何ら変わらない表情で、淡々と続ける。


「そう。先日ここを覗きに来た子供にも、このとっておきの手品を見せてあげたよ。彼の骨は、実に濃厚な朝の牛乳の色をしていた。君の骨は、きっとリンリン鳴るのだろう」


「……なにを……言ってるのか……」


 私は真っ青な顔で、後退りをするように立ち上がる。

 しかし、部屋を出る扉は、クラウンの後ろにあった。


「なにって、手品だよ。そういったものが、入っている気がしないかい?」


「……冗談……ですよね?」


 彼の表情を盗み見ても、瞳には理知がある。

 決して狂人ができる表情ではない。


 私はどんどん後ずさって、部屋の隅の壁に背を当てる。

 扉がどんどんと遠のいてしまった。


「ヒバリは死を名付けないと歌ったのは、誰だったか。ただ人間だけが、あまねく自然の歌声の中から、死の響きを聞き取れる。ひとたびそれを耳にしてしまえば、とても饒舌に嘆き始めるのだろうね。さあ、お嬢さん、このボックスの中に、死が入っていないと、誰が断言できるだろう? 実際に蓋を開けてみるまで、我々に中身は認知できないというのに」


 クラウンは、静かに、諭すように、私に語り掛けてくる。

 ツユクサの花弁を踏みしめて、ゆっくりと、近づいてきながら。


「や、やだ、来ないで…!!」


 なぜか、大声を出してしまうと、この場のバランスが崩れて、一気に襲い掛かってこられそうな錯覚を覚えて…私は、小声だった。


 クラウンは、にっこりと笑うと、ゆるりと箱を横に振り始める。


 ―――カタ、と、箱の中から、音がした。


「季節を食らった残光が、朝焼けのくすんだ幕を引き裂き、身動きもせずに横たわっている。月虹は死の色を纏い、弛緩した空気の中、純朴にして絶対的なアレグロを奏で始める―――」


 もう全然目の前の人が言っている意味がわからなくて、余計に怖い。

 もし、あの箱の中に私の一部が入っているのだとしたら、ここに居る私は、何なのだろう?

 だけど、今、実際に、何かをされているわけではない。

 言葉だけだ、言葉だけだから、平気だ、と、自分に何度も言い聞かせても、どうしても恐怖心が勝る。


 ダメだ、あの箱の中身なんて、考えちゃダメだ…!

 私は喉をひきつらせて、考えを打ち消すように、叫び声をあげた。


「やだやだやだ、ルグレイ!!! ルグレイ、ユウ、マグーーー!!!」


「そんなに泣かないで。あの晴れた空は、狂っているのだから」


 そして、クラウンは、箱の蓋に、手をかけた。


   バンッ!!


 私の叫び声とほとんど同時に、クラウンの背後の扉が開いた。


 クラウンは驚いたように振りむく。


 そして、私も驚いていた。


 入ってきたのは、昼間見た、全身鎧の人だ。

 そして、一緒に居た、薄茶色の髪の少年も。


 全然予想していなかった出来事に、頭が追い付かない。


「そこまでだ」


 凛とした、若い女性の声が響く。


 え? この場のどこに女性が?


 と思ったら、なんと、全身鎧の人の声だった。


 えええええええ、そんなイカツイ鎧を着てるのに、女の人!!?


「本体はそれだな」


 全身鎧の人は、背負っている大きなマサカリを抜き放つと、クラウンの持っている箱に向けて、思い切り振り下ろした。


   ズガアアンッ!!


 クラウンは舌打ちをして跳ね飛んで、マサカリの軌道から外れた。

 床に、轟音を立てて食い込むマサカリ。


「主、今です」


 全身鎧の人が言うと、薄茶髪の少年が、急いで私の方に来て、手を取って入り口に引っ張って行ってくれる。

 よく見ると、その少年も、私と同じような、オカリナの首飾りをしている。


「君、こっちへ。リルハープ、彼女を安全な場所へ誘導してあげて」


「わかりました~~」


 少年の胸ポケットから、ツツジ色をした小さな妖精がひょこりと顔を出した。

 そのまま少年は、クラウンの方へ向き直り、全身鎧の人の隣に立つ。


「リコリネ、トドメはさしちゃダメだからね。竜の夢を、還してあげないと」


「わかっています、主」


「お前たち、モノガリか」


 クラウンが、鬱陶しそうに、嫌悪を表情に浮かべる。


「え!? え…!?」


 私が目の前のことを処理しきれないでいると、妖精が、私の髪をツンと引っ張った。


「お嬢さん~~私についてきてください~~!」


「ナツナ様、一体何事ですか!?」


 すると、ルグレイが焦った様子で駆け込んできた。


「まあ~~お連れの方ですか~~? ではお任せしますね~~」


「ルグレイ!!」


 私は泣きそうな顔で、ルグレイの方に飛び込んだ。

 ルグレイも情報を処理しきれないようで、戸惑ったように、目の前を飛ぶ妖精を見ながら、私を背に庇う。


「こ、これは、どういった状況ですか…!?」


「いいから早くお逃げください~~!」


 妖精が、しっしと私たちを追い払う仕草をした。

 私は慌てて、緊迫した空気のクラウンたちの方を振り返る。


「で、でも、逃げて、いいの…!? 二人だと、危ないんじゃ…!?」


「…いえ。…ここはお言葉に甘えさせてもらいましょう、私たちにできることはなさそうです」


 ルグレイは、さっと判断を下すと、もう迷いは消えたように、私の手を引いて、サーカステントの外へと駆け出した。

 私はまだ戸惑いが消えないまま、サーカステントの方を振り返る。

 テントの中からは、誰かが言い合う声がしていたが、どんどんと遠ざかっていく。


「ル、ルグレイ…! もう、走れないよ…!!」


 ルグレイのスピードが速すぎて、私はそう距離を進まないうちに、音を上げた。


「あ…! 申し訳ありません…! 失礼します」


 ルグレイは、息を上げている私を抱き上げる。


「少々早いですが、このまま集合場所に行かせていただきますね。少しでもナツナ様を危険から遠ざけておきたいので。ナツナ様に怖い思いをさせてしまったこと、本当に悔やまれます」


 そのままルグレイは、有無を言わさずに、大股で歩き出す。


「ルグレイのせいじゃないよ…! あんなの、誰にも予想できなかったよ…! ううん、そもそも、怖いなとは思ったけど、結果的に何かされたわけじゃないし…」


「何を言っているのですか、何かあってからでは遅いのですよ!」


 ルグレイにしては珍しく、声を荒げてきた。

 私がビクっと肩を跳ね上げると、ルグレイは、ハッとしたような顔をする。


「…すみません、ナツナ様が悪いわけではないのに」


「でもそれは、ルグレイも悪いわけじゃないのと一緒だからね…! ねえルグレイ、お願いがあるの。今日のこと、ユウとマグには、黙っていて欲しい」


「しかし…」


「お願い。自分でも、何があったのか、うまく説明ができなくて…。今日は、サーカスの外観を見ただけで、終わったことにしてほしい」


 ルグレイは、ぐっと何かを飲み込むように表情をゆがめた。


「……わかりました。では、ナツナ様と、私だけの、秘密ですね。不謹慎ですが、そう思って、喜んでおくことにします」


 ルグレイは、困ったような顔で、笑ってくれた。

 私も、ほっとしたように、笑顔を返す。


 そこからは、疲労感が凄くて、ぐったりとルグレイに身体を凭れさせたまま、大人しく運ばれていく。

 ルグレイも、私の疲れを察してか、特に何も言って来なかった。



 しかし、あれは一体、なんだったんだろう?

 ページが戻らないということは、あの場から撤退して正解だったってことだよね?

 なんだか、私やルグレイの蚊帳の外感が凄い。


 なんていうか…そう、長編のマンガを、途中から読んだ、みたいな感覚!

 これだ!


 安全圏に移動しているので、だんだんと精神的に余裕が出てきた。

 余裕が出てくると、さっきのことが気になって仕方がなくなってくる。

 好奇心がうずくので、もう、原文を読んでみようかな…という気分になってきた。

 今なら魔力を使いすぎて眠くなっても、ルグレイが運んで行ってくれるし、チャンスなのでは?


 よし、やってみよう!


 私は静かに目を閉じて、集中を始める。

 さっきのシーンの原文…出て来い!

 パ、といつものように、ノートのページが瞼の裏に浮かんでくる。

 心なしか、魔力の消費も楽だった。

 そうか、もう過去の話になるからかな?

 思ったよりも長文だったが、私はさっと目を通す。



===========================================


「リコリネ、どうだった? こっちは収穫なしなんだけど…」


 女騎士と合流を果たしたユディは、いつものように情報を交換し合う。


「はい。一件だけ、それらしき情報がありました。最近、子供が一人、行方不明となっているようです。私が出会ったのは、その少年を捜し歩いていた母親なのですが、彼はサーカスをこよなく愛していたそうです」


「サーカス…か。ちょっと行ってみることにしよう。ごめんね、ぼくがモノオモイの気配を、細かく探ることができたらいいのに。やっぱりこれだけ気配が近いと、途端にわからなくなるんだ」


「いえ、むしろこういった点でお役に立てるのであれば、私には僥倖という他ありません。私はリルハープ殿と違い、場を和ませるような話運びもできませんからね」


「まあ~~リコリネは人間なのに偉いですう~~! ちゃーんとリルのことを敬ってくれるのですから~~! さすが、リで始まる名前のリリ同盟ですね~~!」


 妖精のリルハープが、こっそりとユディの胸ポケットから顔をのぞかせる。


「は。お褒めに預かり光栄至極に存じます。では、サーカステントはこちらです。不詳の身ながら、先導をさせていただきます」


 リコリネは、きっちりと背筋を伸ばして歩き始める。

 鎧のカシャカシャした音に通行人は目を引かれ、通りすがるたびに振り返っている。

 ユディにとってはもう、その光景ごと慣れ親しんだものと映るため、さほど気にならない。

 サーカステントを目の前にすると、胸ポケットの妖精が、ピンと透き通った羽を伸ばした。


「中から恐怖の匂いがします~~! 裏口の方です~~、ご主人サマ~~お早く~~!」


 即座に、リコリネとユディは駆け出した。

 ユディは鎧を着ているわけでもないのに、こういった時に、必ずリコリネに追い付けない。

 リコリネは、重さを感じさせない走りで裏口に駆け込み、リルハープの示した扉をバシンと叩きつける勢いで開いた。


「!!」


 中に居たのは、猿顔の男と、壁際に追い詰められている少女の二人。


「間に合った…!」


 ほとんど独り言のような呟きが、ユディの口から零れた。

 リコリネが男を退けている間に、ユディは少女の手を引いて、安全圏へ。


「君、こっちへ。リルハープ、彼女を安全な場所へ誘導してあげて」


「わかりました~~」


 少女が逃げ切ったことを確認すると、ユディは男へと向き直る。


「お前たち、モノガリか」


 男は忌々しそうな顔で、手にしたボックスをリコリネへと突き付ける。


「この中には、何が入っていると思う? そう、わかるはずだ。お前の心臓の音が教えてくれる。ドクン、ドクンと、脈打つ命の太鼓が、この中からも聞こえてくるのだから。お前の心臓と、まったく同じリズムの音が―――」


「リコリネ、聞いちゃいけない。あの中には、おそらく、あると思ったものがある。そして蓋を開けた瞬間、不確定だったものが確定するんだと思う」


 ユディは鋭く注意を飛ばし、目の前の男をきつく見据えた。


「モノオモイ。竜の夢へと、還る時間だ―――」


===========================================



 って、主人公あっちじゃん!!!!!

 私はモブだったってこと!!!!?

 どういうこと!!!?

 なんで唐突に別の小説が始まってるの!!!?

 ええ…!!?


 ………。

 戸惑いながら、ほとんど霞んでしまっている記憶の中を探ってみる。

 ユディ…って、あの男の子の名前だよね?

 確かに、この名前にうっすらと覚えがある。


 しばらく、むむむむと考え事をしていると、いきなり、何の前触れもなく思い出した。


 思い出した、『モノガリのユディ』っていう小説を書いてた!!

 そうそう、別にユウとかマグとかを書くのが飽きたとかそういうわけじゃなくって、なんか唐突に思いついたから、書き留めたかったんだよね!!?

 で、ほら、よくある、マンガの単行本の巻末に、本編とは全然関係ない、作者さんの読み切り時代の作品が入っていたりするじゃない!?

 あんな感じのイメージで、ノートの最後の方に、一話だけ読み切りみたいな感じで入れたんだ!!


 ぐわあああああっ…!!

 プロのマンガ家気取りかよおおおおおお!!!!

 くうっ、地味に、地味に来るな、これは…!!!

 しかも途中から見たせいで、専門用語が乱立している話に見えるのがまた…!

 いや、行けますけど、余裕で!!!

 今までのに比べたら、余裕ですけど!!

 だけど、ノーダメージじゃないってだけで…!!!


「ナツナ様、お辛そうですが、大丈夫ですか…?」


 ルグレイの声がして、はっと目を開ける。

 心配そうに覗き込んでくる顔があった。


「う、うん、大丈夫…!!」


 ただちょっと、全然必要のない話に巻き込まれちゃったな、という脱力感が凄いだけで。


 視線を上げると、集合場所の時計塔が見えてきた。

 ユウとマグには黙ってほしいと言った手前、なんとか、合流までに、この気分を直さなければ…!!


「ルグレイ、しりとりしようよ!」


「え…!? あ、ああ、気分転換に…ですか。わかりました、お付き合いいたします」


 ルグレイは、少しほっとしたような笑顔を向けてきた。


「じゃあいくよ! しりとり、からのー、りんご!」


「では、ゴンゾメル・パメルで」


「なにそれ!?」


「なにって、ゴンゾメルのパメルですが…。ひょっとして、パメルよりも、ネルリのほうがわかりやすかったでしょうか?」


「何一つわからないよ!?」


 全然必要のない所で、天界人との齟齬を感じ取ってしまった。

 しりとりは難航して、私はさらに疲弊してしまうことになったのだった。




<つづく>



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