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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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バザールで御座候



 バザールの入口で、私はびっくりしていた。


 あれ…人の顔が…。見分けがつくようになってる…?


 活気と共に通りすぎる人々に、同じ顔の人が一人もいない。


 どういうことなのだろうか。

 やはり、高校生にもなると文章力が上がっているとか?

 それとも、私がこの世界に、すっかり馴染んだから…?


 悩んでも答えは出ないので、まあいいやと諦める。


「ぷいぃいいっ、人がいっぱいです!」


 アンタローが、フィカスの頭の上でぴょこんと跳ねる。

 今日のアンタローは、帽子のフリをしなくてもいいことになっている。

 フィカスのペットということにすれば、魔物扱いする人もいないだろうし、ましてや捕獲するものもいないだろうということだ。

 前回のバザール見学で、アンタローはお留守番だったらしく、すごく興奮している。


「そうだろう、何でも揃うぞ。アンタロー、欲しいものがあれば何でも言ってくれ。ナっちゃんに奢れない分、お前に恩を売ろう」


「ぷいぷいっ、たくさん恩を買いますよ! ボクは恩まみれになっておうちに帰るんです!」


 アンタローは何かを勘違いしているようだが、フィカスは構わずに歩き始める。

 私が慌ててついていくと、ふとフィカスがこちらを向いた。


「いや、こうも人が多いと、はぐれるか。ナっちゃん、手をつなぎたいところだが、流石に恥ずかしいからな。これで我慢してくれ」


 フィカスは、私の肩をぐいと抱き寄せて歩き出す。


「えっ、こっちのほうが、恥ずかしい気がするけど…!?」


「そうか…? 個人差というものか。ならば間を取って、腕を組むか。ほら掴まれナっちゃん」


「う、うん…!」


 腕を組むというか、私が一方的にフィカスの腕に掴まる感じで落ち着いた。


「しかしその服、よく似合っているじゃないか。さすがティランだな。ナっちゃんはゆったりした服が好きなんだってな?」


「そうなの! 締め付けられると、ウっとくる感じで…」


 今日の服は、ティランが作ってくれた、レディースポンチョのような感じの服だ。

 さすがというか、布の質感も上質で、着心地がいい。

 髪型は、ふんわりしていた方がいいというマグの意見で、全部下ろして、一房だけをみつあみにしている。


「まさにデートという感じで、テンションが上がるな」


 そう言いつつも、フィカスはいつも通りなので、口だけな感じだ。

 フィカスって時々、冗談で言ってるのか、本気で言ってるのか、よくわからない。


「フィカスさんフィカスさん、あれはなんですか!」


 アンタローが、ヘビ肉の蒲焼きを売っている屋台の方を見て、ぴょんと跳ねた。


「あれか…よし、買ってやろう、アンタロー」


「ぷいぃいいっ♪」


 しかし露店がひしめく通りだったのが災いし、フィカスが立ちよったのは、その隣の、トカゲ肉を売っている屋台の方だった。

 フィカスは、串に刺さったトカゲの丸焼きを購入し、「ほら、アンタロー」と、頭上のアンタローの口の中に、イカ焼きくらいの大きさのトカゲを丸ごと入れてやる。

 流れるようなスピードの中での出来事だったので、私に口を挟む隙はなかった。


「………」


 あっ、アンタローが無表情で串ごともぐもぐ食べてる。

 ……いや、違う!?

 眉間に、しわが寄ってる!!

 アンタローの眉間にしわが寄ってるところなんて、初めて見たよ!!

 不満なんだね、アンタロー…!!


 しかしフィカスはやることをやって満足しており、私を連れてサッサとバザールを歩いて行く。


「そういえば、そういうものだと思って今まで気にしたことがなかったが、ナっちゃんは肉が食えないのか?」


「ううん、食べられるけど、食べるとね、すっごく疲れるの」


「………。……そうか」


 …?

 今の間は、何だったんだろう?

 フィカスの横顔を見上げるが、表情の変化がなくてよくわからなかった。


 少し歩いたところで、フィカスが別の屋台を指さす。


「ではナっちゃん、あれはどうだ? リュヴィオーゼ山で採れるキノコの焼き物だ。キノコなら食べられるんじゃないか?」


「うっ。キノコって、形が怖いというか、ひだひだしてるから、あんまり進んで食べたくない…」


 思わずリアルの嗜好で物を言ってしまった。

 しかしフィカスはなぜか、先程と同じように表情を固めた。


「……、………そうか」


「フィカス、さっきから、その間はなに…?」


「いや……」


 フィカスは、私から目をそらして、前を向いた。


「我慢していた」


「えっ、我慢って、何を?」


「…普段から変なことしか言わない女が、肉を食べたら疲れるだの、キノコのひだひだが怖いだの、可愛いことを言うもんでな。悶えそうになっていた」


「わたし、そんなに変なことばっかり言ってるかなあ…!?」


 あれかな、タピオカをカエルの卵って言ったのをまだ根に持ってるのかな…?

 他に何かあったっけ、と記憶を探っていた時だ。


「あれま、フィカス様じゃないかい!?」


 いきなり、悲鳴のようなおばさんの声がした。

 その瞬間、周囲の人々が、一斉にフィカスの方を見る。


「フィカス様!」

「フィカス様、串焼き一本持ってってくんな!」

「フィカス様、今度うちに子供が生まれるんです、名前を付けてやってください!」

「フィカス様、今年の初物のリンゴだよ!」


 ワッと瞬く間に取り囲まれて、フィカスは放り投げられたリンゴを片手でキャッチする。


「おいおい、今日は視察じゃなくてお忍びで来ているんだ、ニヴォゼの民は、何時からそっとしておく気遣いもできなくなったんだ?」


 フィカスが困ったように笑うと、人々は口々にまた物を言う。

 私は人ゴミに潰されないように、必死にフィカスの腕に掴まり続けた。


「フィカス様が女連れなんて、こりゃ雪でも降るんじゃないか!?」

「ああ本当だ、おいお前ら、邪魔するでねえ! 解散だ、解散!」

「フィカス様、頑張ってねえ! 吉報を待ってるよ!」


 世話焼きおじさんみたいな人がパッパと手を振ると、蜘蛛の子を散らすように、人々がサーッと散っていった。


 私はやっと呼吸ができる感じで、ハーと深呼吸した。


「び、びっくりした…!」


「すまんな、ナっちゃん。少し休むか」


 フィカスは慣れた様子で、オープンカフェのある飲食店へと私を連れていく。

 適当な席に腰を下ろすと、フィカスは黒スグリのジュースを2つ注文した。


「ほらアンタロー、リンゴだぞ」


「ぷいいぃ…」


 フィカスはアンタローをテーブルに乗せ、目の前にリンゴを置いてやる。

 アンタローは、心なしか元気がなく、もごもごとリンゴを食べ始めた。


「すまんな、アンタローも疲れさせてしまったか」


 違うよフィカス、アンタローは食べたいものが食べられなくて落胆してるんだよ…!


「ああ、ナっちゃんも、髪が乱れてしまったな」


 フィカスは、片手で私の髪を整えるように撫でてくる。


「ううん、大丈夫…! フィカス、すごい人気だねえ…!」


「あれくらい民衆との距離を近づけねば、正しい情報は入ってこないからな。効率化によるものでしかない」


「そういうものなの…? それにしても、フィカスって女慣れしてるように見えたけど、女連れが初めてなんて意外だったよ」


 私は、運ばれてきたジュースを会釈しながら受け取る。

 フィカスは、微妙な表情をしていた。


「女慣れ…しているように見えたか?」


「うん。堂々としてるし」


「それは当然だ。保護者の許可が下りた以上、やましいことは何一つないからな。が、そもそも俺が興味を持った女はナっちゃんくらいだ。アンタは変な女だからな」


「えっ、そうなの? 初耳だよ…!」


 フィカスは、まだ微妙な表情を続けながら、ジュースを一口飲み、椅子の背に凭れた。


「まあ、実際は難しい所だがな。俺を含め、ユウもマグもルグレイも、ナっちゃんが王族に関わる位置にいることをあまり望んではいない。俺が王である限り、これくらいの距離が妥当だろう、安心するといい」


 そう言って、フィカスは遠くの方に目を向ける。

 私はなんだか、雪の街フリメールで、ユウとマグに部屋を分けられた時のことを、思い出した。

 あの、やんわりと突き放される感じ。

 相手のことを思ってのことなんだろうけど、少しだけ、寂しくなる感じ。


「……でも、ニヴォゼは治安もいいし、そんなに王族と関わるのを警戒しなくてもいいんじゃないの?」


「逆だ。俺が、治安を良くしたんだ。舐められるのは好かんからな。俺が王を継いだと同時、犯罪者は見せしめに処刑しておいた。それ以降、大人しくなったもんだよ。その分、恨みも買っているだろう。まあ、アンタたちの屋敷を襲った連中は、ルグレイが返り討ちにしてくれたからな、この国に残っていた犯罪者のほとんどはそこで始末できたろうが」


 フィカスは、ルグレイの活躍に、どこか誇らしげだった。


「それと、…新聞にしたってそうだ。俺にとって都合のいい情報を流すこともしている。俺はナっちゃんが思っているよりも、ずっと冷酷なんだ、あまり簡単に騙されてくれるな。王族なんてものは、関わらない方がいい」


 フィカスは、少し寂しげに笑った。

 私も、ジュースを一口飲む。

 リンゴを食べ終わったアンタローは、難しい話が始まると、すやっとテーブルの上を転がった。


「…でも、その割にフィカスは私たちにちょっかいかけてくるよね?」


「そこは、ジレンマというやつだな。俺がアンタたちに惚れ込んでいるように、アンタたちも俺に惚れているだろう? その程度の分析はできるんだが、こういった感情はなかなか自制が効かんものでな。実を言うと、俺が一番甘えているのは、マグなのかもしれんな。アイツは距離の取り方が上手い。厳しいラインで、線引きをしてくれる。ユウとルグレイはダメだな、すっかり俺に懐いている」


「…むずかしいよ。フィカスは崖越しに私たちと会っているみたい。どちらかがどちらかの方へジャンプして行かないと、ホントの意味で仲良くなれないって言われてるみたいで」


「崖越し…か。言い得て妙だな…。だが、どちらにしろ、俺の方の問題に過ぎん。ナっちゃんたちはそのままでいい」


「………」


 なんだかもやもやするので、私も先程のアンタローのように、眉間にしわを寄せて、ストローを咥える。

 フィカスは、困ったように笑った。


「そう変な顔をするなよ。あの時、ナっちゃんを攫って行ってしまわなくてよかったと、今では思っている。本当に大事にするというのは、傍に置くこと以外の選択肢もあるのだと、この年になってようやくわかってきた」


「この年って、まだ28だよね、老成しちゃって…」


「ははっ、からかうなよ」


 一度、会話が途切れた。


「ほんとに…そうなのかな。相手を大事に思うのと、傍に居られないことは、両立するのかな…」


 どうしても、いつか来るお別れのことを考えてしまう。

 しかし、私の問いかけに、フィカスは首を振った。


「その答えを出すのは俺ではない。各自で出さなければならない答えだ。…すまないな、せっかくの観光で、シケた話になってしまった。話題を変えるぞ」


 フィカスは、アンタローをころりと転がして起こす。

 アンタローは、はっと目を覚ました。


「ぷいぃいっ、よく寝ました!」


 アンタローは、先程の元気がない様子はどこへやら、すっかり元通りのテンションに戻っていた。


「よし。まあ、もうじき俺は自由の身だからな。一緒に冒険をしている間は、ただのフィカスとしてお前たちの傍にいるつもりだ。その時には存分に仲良くして貰おうか」


「あ…リュヴィオーゼだよね、いつくらいに行けそう?」


「それが、ティランが気を利かせてくれそうでな。そう遠くないうちに実現できそうだ。決まったら速攻で知らせに行くから、また急な話になると思うが」


「もうフィカスのそういうところには、みんな慣れてきたから大丈夫だよ!」


「ははっ、頼もしいことだな。さて、観光の続きと行くぞ」


 フィカスは立ち上がって、二人分の代金をテーブルに置いた。


「あっ、わたしのぶんは、自分で払えってマグに言われてきたのに…!」


「ふふん、モタモタしているからだ」


 フィカスはなぜか自慢げに言うと、「ほら行くぞ」と、片手を出してくる。

 私は慌ててフィカスの腕に掴まった。


「ねえフィカス、あっちに見える、キラキラした高い塔みたいなのは何?」


 私は街の中心の方に目を向ける。

 さっきからずっと気になっていたものだ。


「なんだ、あんな目立つものをまだ観光していないのか?」


「あ……そう…かな」


 曖昧な返事になってしまうが、フィカスは気にせずに話を続ける。


「あれは時計塔だな。近くに行けばわかるが、透明な筒状で、温度計も兼ねている。気温によって、浮き沈みする色付きのガラス玉が見えるんだ」


 あ、ガリレオ温度計だね。あれ好きなんだよね。

 さすが錬金大国という感じだ。


「興味があるようなら、帰りに寄ってみるか。が、その前に、バザール観光だな。この時間帯だと、一本向こうの通りで、客寄せの大道芸をやっているところだ」


「えーー、見たい!」


「ぷいぷいっ、フィカスさん、発進ゴーです!」


 アンタローはぷいぷいとフィカスの頭の上に登っていく。


「もうっ、アンタロー、フィカスの上ばっかりって、わたしがチビだからって言われてるみたいだよ…!」


「ぷいいっ、おやツナさん、このボクの高身長にジェラシットですか?」


「おいおい、俺越しにケンカをするなよ」


 フィカスはくすぐったそうに笑った。



-------------------------------------------



「じゃーーん、みんなのぶんの、お土産です!」


 屋敷に帰るなり、私は大広間で、抱きかかえた紙包みをみんなに見せる。

 フィカスの頭の上のアンタローが、ぴょこんと跳ねた。


「ぷいぃっ、そうです、ボクとツナさんが選んだんです、ありがたく受け取ってください!」


「………」


 しかし、ユウとマグは、警戒するように、じっと紙包みを見てくる。


「まさか、ぬいぐるみじゃない…よな…?」


「もーー、何その反応は!」


 私がその視線に不服そうにすると、ルグレイは興味深げに寄ってくる。


「土産話でよろしかったですのに、何を買われたのですか、ナツナ様」


「安心しろ、まともなものだ」


 私を屋敷まで送ってきたフィカスが、ユウとマグへ言うと、二人とも安堵の息を吐いた。

 おかしいな、この三人の中で、私のセンスがおかしな感じになっている…?


「ほらほら、新しいレザーグローブだよ! ちゃんと指が出るタイプの奴だよ! ユウとマグのはもうボロボロだから、お揃いでね、4つ買ったの!」


 じゃーんと見せる。


「おおおっ、マジか!! いや助かるぜ、マグのはまだ使えてるみてーだけど、俺のなんて、なんか最近…粉? みたいなもんがポロポロ落ちてき始めてたんだよなあ…!」


 ユウは思った以上に喜んでくれた。

 そうなんだよね、革製品って、大事に使わないとそうなるよね、わかる!


「オレは今のも……色に味が出てきて好きだが……替えのつもりでありがたく貰っておく……。なんというか……ツナに貰ったという以上に……思い入れというものが……できるものなんだな……道具というものは」


「お揃い…ですか…! 騎士団の支給品以外で、お揃いのものを貰うのは初めてです…! しかも、誰のお下がりでもないものなんて…!!」


 ルグレイが、感極まったように言っている。

 そんなことで喜ぶなんて、7人兄弟の苦労が計り知れた。

 しかしルグレイの鎧って、そういえば今まで気に留めてなかったけど、支給品だったのか…。

 じゃあひょっとして、鎧の模様って、ジェルミナールの紋章だったりするのかな。


 ちなみに、みんなが喜ぶたびに、アンタローは「くるしゅうありませんっ」と胸を張ってのけぞっている。


「まったく、ナっちゃんは最初、3つしか買わないつもりだったらしい。俺だけ除け者にするなんて、冷たいよなあ?」


 フィカスが同意を求めるように拗ねている。


「だって、ティランがフィカスに安物をつけさせるのを嫌がると思って…!!」


「馬鹿を言え。ニヴォゼの革職人は世界でも指折りの実力派なんだぞ。安いものか」


 フィカスが腕を組んで不満をあらわにしてくるので、私は話を打ち切るように、一人一人にレザーグローブを配っていく。


「ほら、もう4つ買ったんだからいいじゃない!」


「やったー…! ツナ、心苦しいが、前のは捨ててもいいか?」


 ユウの言葉に、私は勢い良く頷いた。


「もちろんだよ、こういうのって消耗品なんだから! むしろ次もまたくたびれた頃に買うつもりだから、捨て癖をつけておいてくれないとね! まあ、わたしが稼いだお金じゃないから、わたしも心苦しいんだけど…!」


「そんなことはない……ツナが選んでくれたことが……嬉しいんだ」


 マグが静かに微笑んでいる。

 そういえば、私はあんまりみんなにプレゼントとかしてないなー。

 拠点を持ったわけだし、やっぱり今後はちょこちょこと色々プレゼントしてみようかなー…。

 でもなぜかぬいぐるみは嫌がられるし、難しいよね。


「私も、嬉しいです…! まさか姫様が手ずから選ばれたものを、受け取ることができる日が来るなんて…!」


 ルグレイなんて涙ぐんでいる。

 …ここまで喜ばれると、一気に次のハードルが上がる気がするのは何故だろう。


「やっぱりわたし、ギルドとか行ってみたいなー、自分でお金を稼ぎたいもの」


「ぷいぷいっ、ボクも! ボクも行ってみたいです!」


 ちょっと愚痴みたいな口調になりながら、マグにお財布を返す。


「ツナの希望なら叶えてやりたいが……こればかりはダメだ……が、少しだけ……考えてはみる」


 …考えてはくれるらしいので、一歩だけ前進かな?


「さて、用事は済んだからな、名残惜しいが、俺はそろそろ宮殿に帰るとする」


 フィカスは早速レザーグローブをつけながら、頭の上のアンタローを、ユウに向かって投げた。


「ぷいいぃいいっ(もろもろ、もろもろっ)(フライング粒漏れ)」


 ユウは、「おっと」と言いながら、危なげなくキャッチする。


「近いうちに、リュヴィオーゼまで案内してやる。マグ、そろそろ保存食の買い出しなどをして冒険の準備をしておけ」


 フィカスの言葉に、マグは「わかった」と頷いた。

 それを見届けると、フィカスはさっさと踵を返す。


「じゃあな、ナっちゃん、楽しいデートだった。また誘おう。さらばだ」


「うん、またね、フィカス!」


 私はもうフィカスの軽口にも慣れてきたもので、難なく返答を返すことができた。


「よしツナ……明日は久しぶりに……オレと買い出しだ……上から思い出を書きなおしてやる」


「書き直しって…」


 まるで、上書きのような発言だ。マグの中では、別フォルダに保存とかしちゃダメな案件だったらしい。


「えーー、だったら俺も行きたい! 俺も書き直しする!」


「ではみんなで行きましょう、美味しいお店とか、私も少しは案内できるようになったんですよ」


「ぷいぃいっ、美味しいお店ですか、気に入りました!」


「まだ店すら見てねーけどな!?」


 ユウとルグレイとアンタローも盛り上がっている。


「そうだね、みんなでお出掛けするの、久しぶりだから嬉しい!」


 私はすっかり笑顔だった。




<つづく>



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