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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第二章 中学生編
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防衛戦



   バチバチバチ―――ッ!


 次の日の夕方になると、予定通り、屋敷の周囲に雷のシールドが張られた。

 私たちは2階の数ある部屋を渡り歩き、玄関の前を陣取るルグレイの横顔が見られる部屋の位置を探っていく。

 窓の外に見えるシールドは本当に痛そうに発光しており、当たったら死人が出るのではないかと心配になるほどだ。

 雇われ人がほとんどという予想だから、流石に命を懸けてまで、このシールドに突っ込む人はいないだろう。

 アンタローには安全のために、私の傍ではなく、キッチンの隅で縮こまっていてもらうことになっている。


 ユウは前もってルグレイに手伝えることはないかと聞いて、ルグレイの指示通り、庭の土や石畳に水を撒いていっていた。

 なので、この2階から見下ろす景色は、大体が濡れていた。


「ホントに来るのかな?」


 私は緊張でドキドキしながら、独り言のような問いかけをする。


「来ないに越したことはねーけどな、どっちにしろ、迎撃態勢は整えといたほうがいいだろ。備えあればなんとやらってヤツだ」


 ユウはまだ、私たちと一緒だ。

 戦闘が始まってから、下に降りるらしい。


 ルグレイの様子を見ると、本当に微動だにしていない。

 凛々しい表情で前を見据え、二振りの剣を地面に刺し、それを杖にするように手を置いて、堂々と立っている。

 中世ヨーロッパの彫像か何かのようなポーズだ。

 青い軽鎧が、夕陽を反射して、鈍く輝いている。


「ルグレイ、なんか生き生きとしてるな。俺はあんな風にじっとしてるなんて絶対無理だからなー、尊敬するぜ…」


 ユウが実感を込めて言う。

 私はルグレイが褒められたのが嬉しくて、緊張はどこへやら、頬が緩んでしまった。


 程無くして、陽が沈む。

 明かりがなくなったものの、定期的にぱちりと弾ける雷のシールドと、魔力持ちであるルグレイの髪の淡い発光で、光源には困らなかった。


 そして、ユウが言った通りのことが起こった。

 陽が沈んだと同時に、ルグレイを取り囲む、黒山の人だかり。


「思ったよりも……数が多いな……やっこさんも、かなり焦っているようだ」


 マグの声音には焦りは見えず、冷静だ。

 ユウはその様子を見届けると、「んじゃ、行ってくらあ」と軽く言いながら、1階の大広間へと降りていく。

 その時、窓越しにルグレイの声が響いた。


「何用か、下郎ども! ここは我が主が住まう神聖な場所。そこより一歩でも踏み入れば、敵意ありとみなして、二度と故郷の地を踏み得ぬ体にしてくれる!」


 言葉と同時に、ルグレイは地に刺した二本の剣を抜き放つ。

 全く油断なく構える姿に、しかし多勢に無勢を確信している襲撃者たちは、いやらしい笑いを浮かべるだけだ。

 「やっちまえ」などと沸いている者も居れば、集団の背後で機を狙う黒づくめの暗殺者然とした者も混ざっており、まさに玉石混交と言った風情だった。


「なるほど。勇猛であることの証明として武を使うは恥とは知りつつも。私はこの者たちの気勢を削ぐため、貴女のための剣を振るうこと、どうかお許しください、姫様」


 ルグレイが静かにそう告げ、剣を構えた瞬間、襲撃者たちはいっせいに彼に襲い掛かった。


「ラシーバ・ミュズコーリ!」


 しかしルグレイは剣を振らずに、そう叫んだ。

 耳慣れない言葉なので、何かの呪文だとわかる。


   バキバキバキッ!


 襲撃者の足元から、一斉に大量の氷の槍が飛び出し、彼らの服や足を縫い留める。

 運の悪い者は、それで腿などを貫かれて、早速大きな怪我を負うことになった。

 どうやらこれを狙って、前もって庭に水を撒いていたのだろう。


 一瞬、ルグレイの姿が冷気に紛れるように霞んで見えた。


   ザンッッ!!


 次の瞬間、前列に居た者達から悲鳴が上がる。

 たった一歩の大きな踏み込みと、双剣による、たった一振りの斬撃で。

 阿鼻叫喚の叫び声が響く中、崩れ落ちる前列の後ろ、震える2列目はじりと後退る。


 しかし敵もさるもの、安全圏から投げナイフや分銅のついた鎖を飛ばしてくる者もいる。

 が、ルグレイは防御もせず、それらをすべて受け入れた。

 いや、防御をしていないように見えて、すべては鎧に当たる軌道上にあると見抜いていたようだ。

 それらはあっさりと鎧に弾かれ、地に落ちる。

 敵が少人数であれば、ルグレイの頭を的確に狙えたのだろうが、人だかりの背後から飛ばす一撃など、軌道が限られていたようだ。

 それともまさか、ルグレイは地から生やした氷の槍で、その軌道すらも誘導したのだろうか?

 そう思ってしまうほど、追撃を仕掛けに行くルグレイの動きには、迷いがなかった。


「ルグレイ、強いー…!」


 私は感動して、つい声を上げてしまう。


「敵の数が多すぎたのが……かえって幸いしたな……ルグレイは多人数戦闘向きなのかもしれない……よく戦場が見えている……。普段から周囲への気配りに……長けているからな……さすがというか」


 マグの解説を聞いて、なんとなく私は、ルグレイはファミレスで言うと、ホール係向きなんだろうなあ、と庶民的な解釈をしてしまう。

 そんな場違いなのんびり感を持ってしまうほど、ルグレイの戦い方は、危なげがなかった。

 前に出過ぎたと判断すれば、迅速に後退し、また出入り口を塞ぐように防衛へ転じる。


 だが、そんなルグレイを囲むように、3方より、ガラの悪さを体現したようないでたちの男たちが襲い掛かった。


 後退した直後。

 左手より突き出された剣を、首を後ろに傾けるだけで躱す。

 そして、右手側から迫る槍の穂先を、自らの右手の剣で引っ掛け、そのまま左手側の男へと突っ込ませるように誘導する。

 誘導された槍は、そのまま左手の男を貫いて、ルグレイは空いたままの左の剣にて、前のめりになり行く右手の男をひと凪。

 2人が重なるように崩れる影より迫る、3人目。

 まるでダンスのステップを刻むかのようにくるりと身をひるがえすと、その回転を生かして二振りの剣で、3人目を切り裂いた。


「3人であってもこの程度とは、我が姫も安く見られたものだ。…相手の値も分からぬ蒙昧なる飼い犬よ! その程度の力量と覚悟であるならば、我に触れることすら叶わぬと知れ!」


 静かで、それでいて熱量の高いルグレイの声は、夜によく響いた。

 ルグレイは再び、入り口を塞ぐ。


 攻守の切り替えの巧みさと、相手を制御しているかのような立ち回りによって、瞬く間に襲撃者たちは数を減らしていった。

 ルグレイが魔法を使ったのは最初の一度きりだが、多くの襲撃者たちは魔法を警戒して、大きく踏み込めないでいる。


「……動きのいいのが……まだ数人居るな……油断はならない」


 様子を見守るマグが、ぼそりとつぶやく。


 私には動きの違いは分からなかったが、マグには見えているらしい。

 私はまた緊張が込み上げてきて、ドキドキとルグレイを見守る。


「さて。我が主は温情あるお方。ここで退くなら、追いはせぬ。だが、お前たちの主が、命を懸けるに値する者だと言い張るのであれば、その一撃、見事この身に刻むがいい!」


 ルグレイが、片手の剣を突き付けながら、朗々と語る。

 ぐわああ、ルグレイカッコイイ~~…!

 普段の優しい感じを知っていると、ギャップが凄くて悶えてしまう。


「もちろん、命を懸けるにふさわしいとも。我らがお金様はよ!」


 こん棒を持った大男が、ルグレイに攻撃を仕掛けに行く。

 ルグレイは剣を添わせるようにその一撃をいなし、もう一方の剣でがら空きの背を切りつけた、その時だった。


   ドッ!!


 倒れていた男の中から、いきなりルグレイにタックルを仕掛けてきた者がいた。

 いや、タックルではない。

 死んだふりをしていたものが、ナイフを構えてルグレイに突進していた。

 ここからでは、それが鎧によって防がれたのかどうか、判断が難しかったため、私は思わず息を呑んだ。


 一瞬ひるんだルグレイに向け、残りの襲撃者が遅いかかる。

 が、その中の黒づくめの一人は、ルグレイを大きく飛び越え、背後の扉から屋敷の中へと入っていく。

 扉には鍵はかかっていなかったが、黒づくめはさして疑問に思いもせず、扉の中へと入って行った。


 ルグレイは、自分を飛び越えたものには見向きもしない。

 きっと、ユウのことを信じているのだろう。


「アーベルス・イスケスト!」


   パキパキパキッ!


 ルグレイの足元に冷気の靄が煌いたかと思うと、ルグレイをひるませた襲撃者が、足元に突如出現した氷の大地にしりもちを着いた。

 ルグレイは地面を滑るように、前から迫った4名の襲撃者の剣を、ギリギリの距離でかわした。

 と思えば、振り下ろされた4本の剣を縫うように、ルグレイは急加速をかける。

 氷の地面を滑り、二手を広げて4者の隙間を撫で抜ける。


   ズシャッ!


 二条の銀閃が4者を深く撫で上げれば、足元の冷気の靄は晴れる。

 月明かりの下、氷粒がキラキラと瞬く中、4者はドッと崩れ落ちていった。


「ググ・ツツガヨウン!」


 先ほど、しりもちをついていた襲撃者が、おもむろにルグレイに向けて火球を放った。

 味方が減って、当たることはないと判断してのことだろう。

 ルグレイは襲撃者たちへ向けて剣を振り切っており、剣での防御は間に合わない。


「ハルー・ドルシィ!」


   ドオオオオンッ!!!


 咄嗟に唱えたルグレイの防御呪文でシールドが浮かび上がり、魔法は相殺された。

 爆熱が、見る間に周囲の氷を溶かしていく。


 そして、煙が晴れた頃には、魔法を放った襲撃者の目の前に、ルグレイは踏み込んでいた。


   ドッ!!


 そのまま、ルグレイは、剣を相手の腹に突き入れる。

 マグが、「見るな」と私の目を塞ぐ。


 塞がれた視界の中で、足元から、どたどたと音がするのを感じた。

 たぶん、ユウも1階で戦っているのだ。


 そのまま、マグは私の目から手をどかすことはなかった。

 私は緊張で、マグの腕をぎゅっと握りしめる。


「ツナ……大丈夫だ……もうじき終わる」


「……ン」


 ただじっと、物音が減るのを待つ。

 実際にはそれほど長くはないのだろうが、とても長い時間に感じた。


 しかし、先程までの騒ぎが嘘のように、唐突に静けさが戻ってきた。

 マグが、私の前から手をどける。

 もう、屋敷に張られていた、雷のフィールドはなくなっていた。


 庭の方を見ると、ちょうどユウが出てきて、昏倒している男の襟首をつかんで引きずり、倒れている男たちの群れの中へと投げ込んでいた。

 庭の様子は、土がえぐれていたり、黒っぽい液体が飛び散っていたりと、凄まじい。


 ルグレイは片膝をついて、息を整えながら、ユウと何かを話している。

 大声ならともかく、小声でやり取りされると、ここに居ては聞き取れない。


 ユウは、おもむろに息がある男を選んで胸ぐらを掴み上げ、世間話をするかのように、いつものにこやかな笑顔で何かを言っている。

 ユウの笑顔とは裏腹に、胸ぐらを掴まれているほうの男は、かなり怯えて震えているようだった。


「マグ、もう安全だと思うから、ユウたちのところへ行ってもいい?」


 マグを窺うと、渋い顔で首を振られた。


「ダメだ」


「でも…」


「いや、違う。行くなと言っているわけじゃない。行かないでやってくれ、という意味だ」


「え…?」


 マグは、しばらく、言おうかどうしようかを悩んだ後、重たそうに口を開いた。


「オレはこういった時に……ユウの『呪い』を強く感じる……あの表情からはわからないだろうが……今アイツがしているのは……世間話などではない。ユウも……ツナにはそういうところを……見られたくないはずだ」


「………」


 マグの言葉で、理解した。

 ユウは今、襲撃者たちに、雇い主の名前を聞いているところなんだ…。

 きっと、どの指から切り落とされたいかを、天気の話をするように聞きながら。


 私はなんだか、その光景に、胸が痛かった。


 黙って見ていると、遠くから、馬に乗った人影がやってくるのが見えた。

 近づくにつれ、黒いコートスタイルに、ゴーグルをかけている人だとわかる。

 フィカスだ。


 フィカスは慌ててたように馬を降り、ユウたちに何かを口早に聞きに行っている。

 しばらく会話をしたかと思うと、今度はユウが、屋敷の外に向けて走り出した。

 フィカスは、倒れている男たちを見張るようにしながら、ルグレイに手をかざし、回復魔法をかけているようだ。


「おそらくフィカスは……一足先にこちらへ来た……。ユウはフィカスの命を受け……後から来る討伐隊を呼びに行っている……ところだろう」


 マグが冷静に判断している。


「ルグレイ、怪我しちゃったんだね…」


 私は、フィカスとルグレイの様子を見て、そわそわとしてしまう。


「大丈夫だツナ……ずっと見ていたが……あれなら軽症だろう」


 マグの言葉に、私はほっと息を吐いた。


「じゃあ、無事に終わったって、判断しても大丈夫そう…?」


「ああ。悲鳴も上げずに……よく頑張ったな……ツナの位置がバレていたら……まだ面倒なことになっていただろう」


 マグは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。

 悲鳴を上げなかったという、たったそれだけのことで貢献できたというのは、この上ない喜びだった。


「マグが居たから、耐えられたよ…!」


「……そうか。それならよかった」


 マグは目を細め、そしてユウが連れて来た人馬の群れの方を見やる。

 馬から降りた討伐隊は、瞬く間に襲撃者たちを縛り上げたり、馬車の方に乗せたりしながら、テキパキと用事を終えていく。

 フィカスは忙しくその指示をしていたが、またユウに手早く何かを話すと、黒馬に乗って、駆け出した。

 討伐隊の人たちは、すぐにフィカスの後ろを追いかけていく。


「マグ」


「ああ。頃合いだな、行こうか」


 マグの許可が出たので、私たちは1階へと降りていく。


 ちょうど、ユウがルグレイに肩を貸しながら、リビングへと移動しているところだった。


「おー、ツナ、マグ、お疲れ!」


「ユウ! ルグレイは、調子悪いの?」


 慌てて駆け寄ると、ルグレイは血まみれで、私は背筋がひやりとした。


「違う違う、これは全部返り血な! 怪我はフィカスが治したし、あとはちょっと疲れてるだけみたいだ。回復呪文って、疲労は治せねーんだってさ」


「よ、よかった…! お湯、取ってくるね!」


 私は慌てて走ろうとしたが、マグに手を掴んで引き留められる。


「ツナ、落ち着け。ツナは、水桶なんて重いものは……持てないだろう……タオルの方を任せる」


 マグは短く告げると、さっさとお風呂場の方へと歩いて行く。

 私は焦ってしまいながら、バタバタとタオルをたくさん取りに行った。


「ルグレイ…! ルグレイ、かっこよかったよ…!」


 私はテーブルにタオルを積みながら、ルグレイの顔を覗き込む。

 ルグレイは小さく、「光栄です」と言って笑った。


 ルグレイをソファーに座らせたユウは、ぐーっと伸びをする。


「いやあ、まったくだぜ。ルグレイは活躍しすぎだ。もうちっと俺の方に敵を回してくれねーと、暇になっちまったっての」


 そう言いながらも、ユウはルグレイの活躍に、嬉しそうだ。

 ルグレイは、くすぐったそうに笑っている。


「しかし、露払い程度のことも完遂できず、ユウ様のお手を煩わせてしまい、まだまだ自分の未熟さを思い知りました」


「またそういう…。ルグレイってほんっと生真面目だよな!」


 ルグレイとユウの会話の最中に、マグが、水桶を持ってきて、テーブルに置く。

 夕方になる前に沸かしておいたお湯なので、随分とぬるくなってしまっているようだが、構わずにタオルを濡らして絞っていく。


 私はマグと一緒に、ルグレイの返り血などの汚れを拭き取っていった。


「庭が結構ぐちゃぐちゃになっちまったんだよなー。ちょっくら片付けてくらあ」


 ユウはそれだけ告げると、踵を返して外へ出て行く。


「だが……被害としては最小限で済んだ……ルグレイのおかげだ」


 マグは静かに語りかける。

 ルグレイは、ほっとしたようだった。


「マントもお洗濯しないとね。ルグレイ、ちょっと動ける?」


 私はマグと一緒に、ルグレイの装備をはがしていく。

 鎧を脱がせ終わると、ルグレイはやっと一息ついたようだった。


「ありがとうございます。おかげさまで、随分と楽になりました」


 私はマントを洗濯籠に入れついでに、氷室からルビーオレンジのジュースを持ってきて、コップに注ぐ。

 ルグレイに渡すと、よほど喉が渇いていたのか、一気に飲み干した。


「美味しいです、生き返りますね…!」


 ルグレイは、やっといつもの笑顔を見せてくれた。


「ルグレイ、少し仮眠をとれ……それが一番手っ取り早い……回復方法だろう」


「そう…ですね。お言葉に甘えさせていただきます。ですが…甘えついでに、もう一つだけよろしいでしょうか?」


「なんだ……?」


「ナツナ様の膝の上で眠ることをお許し願えないでしょうか。私が守りきれたものを、実感したいのです」


「え!?」


 私は驚いて、マグも片眉をピクリと上げる。


「案外、足元を見てくるやつだな……ちゃっかりしているというか……。オレはユウを手伝って来よう」


 マグは、いいとも悪いともいわずに、のっそりとした動きで、外へと出て行った。


「ではナツナ様、よろしくお願いします」


 ルグレイは、にこにこと私を見てくる。

 私は若干気まずい顔をしたが、しかし、他にルグレイのためにできることもないので、どすっとルグレイの隣に腰かけた。


「よし、来い!」


 景気づけにバシっと自分の膝を叩きながら言う。

 ルグレイは、何か期待が外れたようで、少し戸惑ったような反応をしたが、すぐに「では遠慮なく」と言って、頭を乗せてきた。


「あー…ダメですね、これは。喜びよりも眠気の方が凄くて……せっかくの……なのに……」


 よほど疲れていたのだろう、ルグレイは最後まで言い終わらないうちに、寝息を立て始めた。

 眠っている顔は、年相応の18歳だった。


「ルグレイ…お疲れ様…」


 私はゆっくりと、ルグレイのお日様みたいなオレンジの髪を、指で梳いていく。

 あんまり安らかな寝顔なので、私もようやく笑顔になれた。




<つづく>



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