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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
9/159

私の業

「ぷいぃぃ、4人部屋を所望しますっ」



 朝、目が覚めると、ひどくご立腹のアンタローが居た。

 彼の頭にはマンガのようなたんこぶが、ぷっくりと鎮座している。

 そして何故か床の上に居て、ぴょんぴょんと跳ねている。


「やっぱり……そうなるか……」


「ユウ、ねぞう、わるい?」


 付き合いの長いマグに問いかけたが、私に答えたのはアンタローの方だった。


「悪いなんてもんじゃありませんよっ、愛くるしいボクの顔がエルボードロップからのネックハンギングツリーでヘコんでしまうところでしたっ。唯一の救いは、いびきがないことくらいですかねっ、ぷいぷいッ」


「いや悪かったって! そろそろ機嫌直そうぜアンタロー、覚えてねーことで怒られ続ける俺の身にもなってくれよ、な? な?」


 ユウはベッドの上で両手を合わせて平謝りしている。

 私はいつものようにマグと、そしてアンタローはユウのベッドにお邪魔させてもらっていた。


「えっと、じゃあ、アンタロー、わたしといっしょに、ねむろう? そうしたら、ねるところ、みっつですむよ」


「ぷいいぃぃぃ……」


 しばしの沈黙。


「ひらめきました! それではツナさんは、ボクと一緒のおふとんで眠らせてあげましょう!」


 今そう言ったんだけどね?


「悪いツナ、じゃあ三人部屋で取り直すかー」


 ユウは頭を掻きながら、申し訳なさそうに告げる。


「いや……ちょうどいい、宿を変えよう……。この宿は庭木がある……窓から侵入しやすい……念を入れるに越したことはない」


 窓の外を見ながらマグが言った。

 理由を言わないが、たぶん私のためなんだろう。


「ぷいぃぃ、ツナさん、撫でさせてあげます!」


 私が色々と考え込んでしまう前に、アンタローがドスっと腕の中に飛び込んできた。


「よ、よしよし……」


(もろもろ、もろもろっ)


 やはり四人パーティーともなると、朝から騒がしくなる日もあるのだろう。

 とりあえずユウとマグに昨日の疲れは残ってなさそうで、私はすごく安心した。



------------------------------------------------



 今日は、念のため私は街中では帽子を被って過ごしていこう、という話になった。

 提案者のマグが帽子を買いに出かけ、ユウは別の宿屋を探す役目を受けて外に出て行くのを見送る。

 別の宿が見つからなければ、もう次の町に出発をしようという流れになっている。

 私はアンタローと一緒に、今居る宿でお留守番だ。


「ぷいいぃぃ、悪漢が現れたらボクがやっつけてあげます!」


 私の護衛を買って出たアンタローが、ベッドの上でぴょんぴょんと張り切っている。

 流石にこんな朝っぱらから人攫いが来たりはしないだろうということで、マグは渋々と私の留守番を許してくれた。

 実はまだ、検証してみたいことがあるんだよね。

 そのためには、留守番をする選択肢が一番都合が良かった。


「ツナさんツナさんっ、ボクをぎゅっとさせてあげますよ?」


 まず情報整理をしてみよう。

 昨日、原文を一部分だけ読んでみる、ということをやった後も、結局体に変調はなかった。

 アンタローが吐き貯めておいた魔力のおかげもあっただろうが、やっぱりある程度の魔力の節約は期待できるのではないだろうか。


「ふふふツナさん違いますよ、こうです、こう!(ぎゅっと無理やり私の腕の中に身体をねじ込んでくる)」


 次は、かなり先の未来の情報を見られるかどうかを試してみたい。

 そうすれば上手く立ち回ることもできるだろうし、こうした空き時間に連発できるのなら、時間を無駄にしないで対策も立てられる。


「ツナさんボンヤリしてどうしたんですか? 元気がありませんか? ハナちゅしてあげます(鼻チュッと鼻をくっつけてくる)」


 問題は、何を見るか、ということだ。

 たぶん、明確なイメージがあれば上手くいくと思う。

 逆に言うと、イメージがなければ成功しないような気がする。

 ということで、私は一点気になっている部分を見てみようと思う。

 それは、魔法の呪文詠唱があるかどうかだ。


「しょうがないですね、おなかを撫で撫でさせてあげますよ!(無理やりよじ登ると、頬に身体をバフッと押し付けて来る)」


 あらかじめ聞いておいたのだが、ユウの武器は両手剣で、マグの武器は二丁拳銃らしい。

 さすが私のクソファンタジー、近代武器までお手の物だ。

 そうなると私が防御魔法か何かを使うことができれば、かなり役に立てるのではないだろうか。

 とりあえず、『なんでもいいから魔法を使う場面』を見てみようと思う。


「(もろもろ、もろもろっ) おっと粒が…(あふれた粒がそこら中に当たりまくって床に落ちる)」


 UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!

 集中できねえ!!!!!


 こういう時、私はカタコト弁しか喋れない設定で本当に良かったと思う。

 ここまでに絶対ボロが出まくっていただろうし、この世界に来て荒み切った心の内を爆音でさらけ出していたに違いない。

 おかしいなあ、これでも私は女子大で「ごきげんよう」とか言ってた人なのに。

 いつの間にかガラの悪い半グレが私の内に住み着いている気がしてならない。【注1】


「アンタロー、ちょっとだけ、しずかにできる?」


「ぷいぃぃ、静かにしたら、ボクはどんなご褒美をもらえますか?」


 コイツ図々しいな…。


「えっと、じゃあ、ボールあそびとか、やる?」


「(ぱあああぁああっ) わかりました、お口チャックしてますね!」


 よし、と目を閉じて、指を組んで集中する。

 思った通り、以前よりも数段スムーズに、丹田の辺りが暖かくなってきた。


 なんでも、いいから、誰かが、どこかで、魔法を、使っている場面……出て来い!!


 一言一言を噛み締めるように念じる。

 パッと瞼の裏に文字のイメージが浮かび上がった。

 心なしか、いつもより文字の色が薄い。

 直近の話じゃないと、文字というか、イメージが薄れるのかな?

 なんだかすぐに消えてしまいそうで怖かったので、さっと目を通した。



===============================================



「ラード・グラタン・メルシーオルボワール・エキサイティンッッ!」


 光のはやさに1しゅんだけなって、あいてにダメージをあたえる



===============================================



 超笑った。


 EXCITING!!!!!!!!!


 いや、わかるけど!!

 わかるよ、ちょっと横文字って呪文っぽいもんね!!? 特にラード!(自分フォロー)


 待ってこれ、誰が使うの? 私?

 私でも敵の人でも可哀想だよこれは!!!!!


 ここまでくると恥ずかしいというよりも笑えるから余計に困る、シリアスな場面でこの、


(ドシャッ!)


「グエエエエエッ!!」 


 ……???


 唐突な異音に目を開くと、私はベッドから半分身体を投げ出すように床に倒れている。

 腹の下でつぶれているアンタローが、毛を逆立てながら断末魔の声を上げていた。


「ツ、ツナさんグエエエエエッどうされたんですかゲエエエエエッどいてください中身が出ちゃいまゴエエエエエエッ」


「……!」


 ご、ごめんアンタロー、まったく動けない。

 そして猛烈な眠気が……くっ……。


 未来を見るのは、一部分でも、やめたほうが……よさそう……かな……。



-------------------------------------------



 ゆらゆらと、心地よい振動がくる。


 うすく目を開けると、誰かの背中の上だった。

 この赤い髪の色は、ユウだ。

 そこまでは認識したが、瞼の重みに耐えきれず、また眠りについた。



 次に目を開けると私はベッドの上で、ものすごく心配顔をしたユウが付き添いをしてくれていた。

 もう夕方…? などと思っていたら、ユウとすぐに目が合う。

 彼の新緑色の瞳は一瞬だけ安心したような色を宿したが、すぐに無理やり怒った顔をした。


「こらツナっ、体調が悪かったらちゃんと言ってくれねーと、わかってたら留守番なんかさせなかったのにさ」


 ひい怒ってる。

 どうしてこういう時に限ってページを戻されないんだろう?

 正直言ってそこをアテにしていた部分もあった。

 だけど不確定要素を予定に組み込むのは、今後一切やめておいた方がよさそうだ。

 猛省します……。


「もうせいしてます……」


 しゅーんとする。

 私の反省を見届けると、ユウはすぐに笑顔になった。


「なんてな、今のはマグからの伝言。アイツは今、頭を冷やしついでにイチゴを買いに出てるよ。いやービビったぜ、宿に帰ったら部屋から変な音がするって苦情がきて、急いで開けたらツナが真っ青な顔して倒れてたんだからなー」


 急にユウの笑い方が、ものすごく軽薄なへらへら笑いになる。


「あんまり表立って医者やらに見せるわけにはいかねーし、とりあえず急いで牧師さんに見せに行ったらただの疲労だって言われて、マジでホっとした。ああ、ついでだからもう宿は移ったんだぜ、ほら、三人部屋」


 ゆっくりと上体を起こして周りを見渡すと、少しだけ間取りの広くなった部屋に、ベッドが三つ。

 私の隣のベッドで、アンタローがすやすやと寝息を立てていた。


「アンタローから聞いたよ、いきなり倒れたんだってな。まあ昨日あんなことがあったんだ、ツナにとっては大冒険だっただろうし、俺らがもうちょっと気を使うべきだった、ごめんな」


「ふたりはわるくないよ!」


 被せるように反論する。

 10:0で私が悪いんだけど、どう言えばいいんだろう?


「えっと…びんぼうくじ、ひかせて、ごめん」


 結局そうやってぼかした謝罪しかできず、歯がゆく思っていると、ユウから軽薄な笑顔が一度消えて、今度は普通の笑顔になる。


「二人して謝ってちゃ世話ねーな、へへっ。じゃあ、引き分けってことにしよう、よし、解決だ」


 ユウは一人でうんうんと頷いた。


「けど、あんまりマグを心配させるのはやめてやってくれると嬉しいかな。アイツはいいやつだから、すげー怒ってた。ツナに対してなのか、自分に対してなのかは知らねーけどさ」


 ユウの言葉に、私は小さく噴き出してしまった。


「ユウ、マグとおなじこといってる。マグも、ユウはいいやつだから、しんぱいさせるなって、いってたよ」


「ええ?」


 ユウは気まずげに頬を掻き、言葉を続けた。


「バカだなアイツ…俺を持ち上げたってイイコトなんて一個もねーってのに」


「ふたりとも、なかよくて、うれしい」


 その様子が微笑ましくて、にこにことしてしまう。


「仲いいっつーか、…約束を一個ずつ持ってるだけだよ」


「やくそく…?」


「そそ。ツナにはちょっと退屈な話になっちまうだろうが…俺らが生まれた村は世界の端っこの島にあってさ。ちょっと変わった事情があって、生まれてくる子供はみんな、必ず一個だけ何かがない状態で生まれてくるんだ」


 ユウは窓の外に目を移す。

 望郷というには複雑な表情だった。


「すげー昔は物理的に指が一本ないーとか、そういうのが多かったらしいんだが、俺らの爺ちゃん婆ちゃんの世代まで来ると、もう外から見ただけじゃわかんねー部分が欠けてるのが一般的になってて。だからそれが小さい頃にわかるヤツも居れば、大人になって初めて分かったりするやつも居て、最近では自分でも何が欠けてるのか気づけずに一生を過ごせるやつとかもちょいちょい出てきてる」


 私は真剣な表情で、じっと聞き入っていた。


「マグは割と早い段階でわかったんだ。『一度にたくさん喋ることができない』って。本人は随分と軽い欠如だって、気にしてねー感じだったんだけどな。今となっては余計なお世話でしかなかったんだろうけど、『じゃあ俺がお前の分も喋ってやるよ』って、つい一方的に約束しちまったんだ」


 …………。


「ヘレボラスさんっておじさんが近所にいてさ、小さい村だし、よく遊んでもらってた。ある日、そこの犬が死んじまったんだ」


「あ、ナツナ、って、なまえの?」


「いやー、犬って多産だろ? 一番チビなのがナツナで、ナツナ以外にもたくさん居たんだぜ! ハルナとアキナとフユナの、合わせて4匹。で、死んだのはナツナの母ちゃん犬だな。シキって名前で、よく一緒に野山を駆けまわってて、俺はソイツが大好きだった。ある日、俺がいつものように遊びに行くと、ヘレボラスさんは涙でぐちゃぐちゃになった顔で教えてくれたんだ。『ユウとたくさん遊んだ犬は、昨夜空に召されてもうお前の面倒が見れない』って。で、俺は言ったんだ、『そっか、まあ仕方ないし、ヘレボラスさんが俺と遊んでくれよ! 今日はトランプタワーが成功する気がするんだ』って」


 ユウはまた、ものすごく軽薄に、へらへらと笑う。


「その時にわかったのは、ヘレボラスさんは『感情を制御する力』ってのが欠けてたことと、俺には『悲しい』っていう感情だけが備わってなかったってこと。俺は怒り狂ったヘレボラスさんに殺されかけて、その話は村中に広がったんだ。そしたらマグが見舞いに来てくれてさ。」


「…うん」


「俺はそこそこヘコんでたらしくって、マグの顔を見たら一番に言ったんだ。『俺にはお前が死んでも悲しむ機能がないみたいだから、絶対に先に死なないでくれ』って。そしたらマグは表情一つ変えずに、『わかった、お前を盾にしてでも生き延びる』って約束してくれたんだ」


「………ごめん」


 もう我慢できずに、私はボロボロと涙をこぼしてしまった。


「ええ? な、なんでツナが謝るんだよ? うわ、な、泣くなよ…!」


 ユウがおろおろと慌て始める。


 本当にごめん……!!

 うろ覚えだけど、たぶん『こういう設定がかっこいい』みたいな無責任な軽い気持ちで決めたんだ間違いない!!!!!

 その約束の部分は覚えてなかったからついつい新情報みたいな気持ちで聞いちゃったけど、ユウたちがそんな風に生まれついた原因は完全に私にある!!!

 本っっ当にごめん!!!

 話の内容も辛かったが、なぜかユウの軽薄なへらへら笑いが、一番胸に刺さった。


 無理に泣くのを抑えようとすると、喉が痙攣して変なしゃっくりのような音が何度も出てくる。

 ユウは困り果てたように、私の頭をぎこちなく撫でた。


「ごめんな、聞いてて楽しい話じゃなかった。…ツナは優しい子だな、菩薩だ」


 どちらかというと夜叉だろうよ!!


「ツナも、俺より先に死ぬなよ」


 願い事をするように告げるユウに、私はうんうんと何度も頷くのが精いっぱいだった。


 そのあとの記憶がないのは、泣き疲れて眠ってしまったということらしい。




<つづく>

【注1:ナツナの心の内】


 ナツナが住んでいた地域は少子化が加速しており、よく遊ぶ近所の幼馴染はすべて男子しか居なかった。(男子の出生率の方が高いため)

 そのため、回し読みするマンガも遊ぶ一緒に遊ぶゲームも全てが男子寄りで、チャンバラや秘密基地を作るのが日常的だった。

 よって咄嗟に出てくる言葉も昔から男寄りに育っていたのだが、本人はあまり自覚していない。


―――――――――――

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