表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第二章 中学生編
89/159

迎撃準備



「あまつぶとあずみ、帰ってったよ」


 朝食の席に座りながら、戻ってきたユウが唐突に告げた。


「えっ、挨拶できなかった…!」


 急な話に、私たちは驚いた。


「おそらく……互いに情が移らないようにしているのだろう……精霊は長生きだろうからな」


 マグは、テンテンとテーブルの上をウロついているアンタローに目を向けながらそう言った。


「フィカス様は、目的を果たされたのですか?」


 ルグレイが、パンをちぎりながらユウに聞く。


「ああ。砂漠の中で、多人数が隠れられそうな地形の場所を、あずみに聞いてたよ。まあ、砂賊狙いなんだろうな。んで、討伐隊を結成して、ちょっくら行ってくるって話になってたな」


「まだ魔力も回復しきっていないのにか……? 忙しい奴だな……」


 マグが、若干心配そうに言った。


「そうなんだよなー。俺も手伝おうかって言ったんだが、かなりパーセンテージは低いけど、ツナに何かあるかもしれないから守ってやれって言われた」


「えっ、どういうこと?」


 私が思わずユウに聞くと、答えたのはルグレイだ。


「もし、砂賊と繋がりを持つ誰かが上層部に居た場合、討伐隊の動きを見て、危惧を覚えるでしょう。掴まった砂賊が、自分と繋がりを持っていた、と自白することをまず恐れますね。そして、その時のために、切り札を用意しておく必要が出てきます。本来ならば、狙われるのはティラン様が妥当でしょう。しかし、王宮で王弟を攫うなど、容易なことではありません」


 マグが、ルグレイの言葉に頷いた。


「なるほど……そこに、都合よく……王の想い人である……ツナが現れたわけだ……しかも、街外れに居を構えていて……襲撃があったとしても、バレにくい……まるで釣り餌だな。不埒な輩から見れば……自らの幸運を疑わないだろうが……」


「って、話だけ聞いてると、絶対やるやつじゃんそれ。なんでフィカスは確率は低いなんて言ったんだ?」


 ユウが首をひねると、またマグが応える。


「フィカスには……自暴自棄になるヤツの気持ちが……基本的にわからないのだろう……。どう考えても効率的ではないことを……どうしてやるのか……そこが想像できない……。フィカスは常に……王の道を歩んできたのだろうからな……」


「そうなりますね。ですが、我々でフォローをすればいいだけのことです。たとえ襲撃があったとしても、ユウ様とマグ様なら、返り討ちにできるでしょう。私も微力ながら、力になります」


 ルグレイの言葉に、ユウが笑った。


「何が微力だよ、よく言うぜ、俺は初対面ん時のルグレイの迫力は忘れられねーなあ」


「そ、それはもう言わないでください…!!」


 ルグレイが、顔を真っ赤にして俯いた。

 その時、テーブルをウロついていたアンタローが、マグが大事に取っていた目玉焼きの卵の黄身を、ちゅるんと口の中に入れていく。


「お前……!?」


「ぷいぃいっ、好き嫌いなんてダメですよマグさん、ボクが片付けて差し上げますっ」


「いいだろう……珍しい味の鉛弾を食わせてやる……感想が楽しみだな?」


「やめてマグ!」


 私は銃を抜こうとするマグの片手にしがみつく。


「マグ様、私の目玉焼きをお食べください、まだ残ってますから…!!」


「すまねえルグレイ、俺が早食いなばっかりに、お前にだけ負担を…!!」


 ルグレイもユウもわーわー言って、朝からバタバタしてしまった。



-------------------------------------------



 今日はまだフィカスが融通してくれた食料の残りがあるので、買い出しに行く必要もなく、各自手早く家事をこなして、なんとか隙間時間ができるようになった。


 私たちはリビングに集まって、襲撃があった時のための迎撃準備の話し合いをすることになった。


「とにかく、襲撃はある、と仮定して話を進めてみましょう。準備をしておくに越したことはありませんからね。ユウ様、フィカス様のご予定は聞いていますか?」


 ルグレイがユウを窺う。


「ああ、何でもフィカスは、元々は緑化でサンドワームとかが活性化すると踏んで、今日出発できるように隊を編成していたらしいんだ。けどそっちはあずみのおかげでなんとかなったから、予定が大きく変わって、砂賊退治になった。砂賊ってのは、妙なプライドがあるらしくって、例えば物語に出てくる海賊が海から出たがらないのと一緒で、砂賊は砂漠にコダワリを持ってるらしい」


「なるほど……つまり緑化で最も被害を被るのは……南にあるという、ヴァントーゼの集落か……あちらはまだ砂漠だからな」


「そうそう。他にもポツポツと小さな村が散在してるとかで、とにかく早めに行動したがってたな。だから、もう討伐隊を連れて宮殿を出発してるんじゃねえかな。馬の隊だって言ってたし。ただ、今日に夜襲するとして、帰ってくるのは、明日の夜遅くか、明後日の朝…ってことになるらしい」


 ユウは、マグに頷いた。

 ルグレイは、思案気に顎に手を当てる。


「なるほど、となると、砂賊と繋がりを持つ貴族か何かが居たとして、今日の討伐隊の出立は、寝耳に水の情報となりますね。かなり焦って動き出すでしょう。しかし、私の予想では、今夜は流石に、向こう側の準備が足りていないものと思われます」


「オレも同意見だ……ツナを殺さずに生け捕る目的なら猶更……人質として成立させるくらいに……スムーズな計画で捕らえる必要がある……来るなら明日の夕方以降か……夜中だろう。……人数もそろえる必要が……あるだろうしな」


 ルグレイとマグの言葉に、私はちょっとドキドキと緊張してきた。

 ちなみにアンタローは、難しい話が始まった瞬間に、私の膝の上ですやっと眠りについた。

 ユウが不満げに、頭の後ろで手を組む。


「つっても、後手に回るしかないってのが腹立つなー。そんなん絶対襲撃ん時に窓とか割れる流れじゃんな。なんでそいつらの勝手で俺らの住処を荒らされなきゃなんねーんだよ。ツナが無傷なのは当たり前として、なんとか家の傷も最小限で済ませたいなー俺は」


 ユウはもうすっかりこの家に愛着がわいているらしい。

 しかしそれは私も同じなので、同意をした。


「じゃあ、わたしが狙いなんだから、わたしが外でうろうろすればいいんじゃないかな?」


 私が自分を指さしながら言うと、マグが「却下だ」とすぐに否定をしてきた。


「ツナ、あまり軽く考えるな……まあ、ツナは闇家業のことを知らないし……オレも知らせていないから仕方がないが……『人質が、呼吸さえしていればいい』……と考えるヤツラだったらどうする……とにかくツナに接触をさせる気はない」


「そ、そっか…」


 そこまで厳しい世界だとは思っていなかったので、私は私の軽はずみを恥じた。


「そう…ですね。では、今夜を捨てて、明日の拠点防衛に集中させていただけるなら、私に一案があります」


「おっ、なんだよルグレイ、頼もしいな、どうするんだ?」


 ユウが、ちょっとワクワクしながらルグレイに問うた。


「簡単なことです。私が明日、夕方から一日中見張りをすればいいのです。昨日、精霊のあまつぶ様と、あずみ様に、多少魔力の使い方をレクチャーしていただきました。おかげさまで、少しだけ、芸を覚えることができました。見ていてください」


 ルグレイは、手の平を見せるように、片手を上げる。

 バチ、と、ルグレイの手の平に、小さな雷が走った。

 それを、ソファーで囲んだテーブルの上にある、紅茶のカップへ向ける。


   パチパチ、パチパチパチッ―――


 すると、紅茶のカップをドーム状に包むように、小さな雷のフィールドが展開された。

 何度もチカチカと光って、物凄く痛そうだ。


「うおお、すげえ、バリアーか…?」


「ユウ様、指先でそれに触れてみてください」


「ええ?」


 ユウは一瞬戸惑ったが、しかし「ルグレイがそう言うなら」と、あっさりと人差し指で触りに行った。


   バチンッ!


 物凄く大きな音がして、私はびくっと肩を跳ね上げた。

 音と共に、紅茶カップを覆っていたシールドが解ける。


「ユウ、大丈夫!?」


「あ、ああ……いや、それが、覚悟してたよりも痛くはねーな、バチっとは来たが…ひょっとして、静電気か?」


 ユウは、雪の街フリメールでさんざん静電気に悩まされていたので、すぐにその単語が出て来たらしい。

 ルグレイは、にこにこと笑って頷いた。


「はい。見た目と、音だけは派手にした、微弱な電流です。知らずに見ると、物凄くダメージを食らいそうな感じがしますよね。これを、屋敷を覆うように展開させます。裏家業のプロであればあるほど、リスクを嫌いますからね。見た目だけですので、それほど魔力消費もないのですよ」


「しかし……突破してこようとする輩は……出てくるだろう……一日やそこらでかき集めた連中だから……さほど精鋭も居ないだろうが……」


 マグが言うと、ルグレイはまた頷く。


「はい。もちろんこれだけではありません。私がずっと庭に立って見張りをする、その背後にだけ、人一人が通り抜けられる、シールドの穴を作るのです。すると、誰もがこう思います。『あの見張りを倒せば、さしたるリスクもなく、屋敷に侵入できそうだ』と。万が一、人数を頼みに私を突破するとしても、その不埒な輩は、玄関を通って大広間から入る、という侵入方法を、自然と選ぶでしょうね」


「なるほど……侵入経路を……誘導するわけか」


 マグの言葉に、ルグレイは微笑んだ。


「そうなると、ユウ様が迎え撃ってくれますよね?」


「ああ、もちろんだ! ツナの守りは、マグに任せればよさそうだな」


「わたしは、なにもしなくていいの…?」


 ルグレイに聞くと、彼はお日様みたいなオレンジ色の目をほそめた。


「そうですね、ナツナ様は安心してお眠りください、と言いたいところなのですが…。我儘を許していただけるならば、二階の窓から、私の背を見守っていてくださると、とても嬉しいです。やはり私も男ですからね。ナツナ様に、いいところを見せたいなと、そう思ってしまいます」


 ルグレイはそう言うと、はにかむように笑った。


「! 見守るよ、わたし、目を離さないよ!」


「ありがとうございます。誰の指令かを聞き出すために、積極的にトドメを刺すことはしないつもりですが……多少、刺激的な光景になりそうなのは、お許しください、マグ様」


「そうだな……教育的に考えれば……難しいところだが……宵闇に紛れてもらうことを……祈っておこう」


 紛れる?

 と、一瞬わからなかったのだが、たぶんマグは、血飛沫のことを言っているのだろう。

 そうか、そこまで考えてなかった、一応覚悟をしておこう。


「おっしゃ、だいたい決まったなー。そんじゃ、今日は明日のために準備だな」


「待て、ユウ。襲撃時間は……お前の勘では何時だ?」


 マグの言葉に、ユウはちょっと考える間を開けたが、すぐに答える。


「俺だったら、現地についてから、2時間後だ。バリアーみたいなものと、微動だにしないルグレイの様子を見て、焦って痺れを切らす。合図としては、陽が沈むとほとんど同時だな。おそらく、烏合の衆だろうからな。そういう、ざっくばらんな合図しか決めないはずだ」


「ルグレイ……ユウの勘は、よく当たる」


 マグの言葉に、ルグレイは感銘を受けたように瞬きをした。


「さすがです、ユウ様。しかしそうなると、私が微動だにしない、という条件を守らなければなりませんね、プレッシャーです。……なんて」


 ルグレイは、冗談めかして笑うくらい余裕があるようだ。

 確かに、襲撃者が居るとしたら、私たちが感づいているなどとは夢にも思わないだろう。

 アドバンテージは私たちの方にあるようだ。


「しかし、時間的な目安ができたのはありがたいですね。早々に済ませて、ナツナ様の湯浴みの準備をしたいものです」


「ちなみに俺の勘だと、片付いた頃に、フィカスが来るな。アイツなんだかんだで心配性だからなー」


 ルグレイの言葉にユウが返しながら、立ち上がる。


「んじゃ、今日は二倍薪割りやっとくかー」


「ツナ……明日の晩御飯は……手早く終わらせておく必要がある……オレが作ろう……」


「うんっ、じゃあ今日は頑張るね…!」


 ちゃかちゃかと役割が決まっていく。

 怖いような、ほんの少しだけ、楽しみなような。

 この感覚は、知っている。

 台風が来る前の、あの感じだ。




 ルグレイは、明日のために魔力を回復させておきたいということで、今日は早めに寝ることになった。

 私も、翼を出すのは今日までで、明日は仕舞っておかなければならないと念押しされた。


 寝る前に、ぐーっと翼を伸ばして、ほんの少しだけ満月を過ぎた月を見上げる。

 本当はバルコニーに出たかったが、襲撃の下見のために誰かが来る可能性もあったので、大人しく雑魚寝布団に横になる。

 ユウとルグレイの方からは、早くも寝息が聞こえた。


「ツナは昔から……空ばかり見上げていたな」


 不意に、隣で寝転んでいるマグが言ってきた。


「そうだっけ?」


 私はきょとんと聞き返す。

 あ、ひょっとして、あれかな。

 背景がぼやぼやしていたのが気になって、よく色んな方向に目を向けていた気がする。

 もうそんな、ぼやぼやしていた時代があったのが、遠い昔のように感じる。


「なんだ、自覚はなかったのか……。今思うと……ツナは空に帰りたかったのかもな……」


 マグは、寂しげな顔をしていた。


 違うよマグ、帰りたかったのは、空じゃなくって…。

 そう思ったが、それ以上考えるのはやめておく。


「わたしの居場所は、ここだよ。ユウと、マグと、アンタローと、ルグレイと、フィカスのいる、この地上だよ」


 私はマグの腕に、スリスリと額をこすりつけて、マーキングをする。

 マグは、いつものように私の髪を撫でた。


「オレは……自分で思っているよりも……身勝手な人間だったようだ……。そういう返答に……喜んでしまう……。ツナが深く付き合ってきた人間は……それに加えて……デューとティラン、セージやハイドを無理やり入れても……たった9人……狭い世界だ……広い世界への冒険に誘ったくせに……オレはツナが……オレの居ない世界へ踏み出すことを……恐れてしまう」


「マグ…?」


「時折……ツナを大事にする方法が……わからなくなる……。ツナ……窮屈じゃないか……? 我慢をさせてしまっていないか……?」


 月明かりに照らされたマグの表情を見ると、不安でいっぱいの顔をしていた。

 私は驚いてしまって、しばらく、喉に何かがつっかえたように、黙り込んでしまった。

 その後、慌てて喋り始める。


「マグ、違うよ、マグ。わたしが昔、マグにお母さんみたいだって言ったのは、お母さんの代わりをしてほしいからじゃないよ。誰も、誰かの代わりになれない。マグは、マグでいいんだよ。マグだけが思う、望んだ通りのことをしていいんだよ。わたし、本当に嫌だったら、嫌って言えるよ。一緒に居たいから、一緒に居るんだよ?」


 どうしても、こういうときに、散らばった言葉になってしまうのがもどかしい。


「マグ、ごめんね、不安にさせてたなんて、気づかなかった。わたしは幸せだなって思うことばかりで、それがマグに伝わってるって、勝手に思い込んでた。どうすれば、伝わるのかな…? わたしばっかり、勝手に魔力の匂いをつけて、落ち着いてて、でも、マグがどうやったら落ち着くかなんて、考えたことがなかった。甘えてばかりで、ごめんね」


 マグは、じっと、私の言葉を聞いていた。


「……大丈夫だ。もう、伝わった……だから、泣かなくてもいい……」


 マグは、泣きそうになっている私の目を、そっと手の平で押さえて、閉じさせてくる。


「……。うまく言えないが。ツナが、ツナの内側で思っていることを喋ると……オレは、それだけで、幸せになれる……ようだ。ツナも、そのままでいい……。……うまく、言えないが」


「……ほんと?」


「ああ。これからも……ツナの内側の声を……聞かせてくれ。不安に思ったことでも……なんでもいい……楽しいことばかりじゃなくてもいい……言いたくないことは……言わなくてもいいが……ツナの言葉を聞くのは……好きだ」


「…マグは、わたしが生きてて、喋ってるだけで、喜んでくれるみたいで、うれしいな」


 視界はマグに塞がれてしまっているので、表情は見えなかったが、ふ、と、笑う気配がした。


「自覚はないんだろうが……ツナもオレに……似たようなことを言ってくる」


「そうかな…そうかも。マグの言葉は、やっぱり夕陽みたいな色をしているよ…」


 次第に、眠気がやってくる。


「もう寝ろ……明日はきっと……忙しい」


「……ン」


 なんだか、どこかが満たされた気持ちで、眠りにつくことができた。




<つづく>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ