ニヴォゼ緑化計画ver.1.27
現地にたどり着いたのは、ちょうど太陽が地平に沈みきった時だった。
フィカスの言っていた魔道車というものは、どう見ても大型のバギーで、私たちは外の空気にさらされながら、砂漠の道中をおしゃべりしながら楽しんだ。
陽が沈むと、みんなで日除けのローブを脱いで、バギーから降りて伸びをする。
「あんたたち、ちょっと待ってなさいよね、まずはこのあずみちゃんがお仕事する番なんだからね!」
砂色をしたあずみは、砂漠に降り立つとほとんど同化してしまう。
「もいもいもいもい~~~」
あずみは目を横線にしながら、土でできた一本角をピシッと立てて、何かやっているようだ。
「あずみ、俺は手伝わなくてもいいのか?」
フィカスの問いに答えるのは、私の腕の中の、あづさだった。
「あずみには今、この北部地方に居る生き物を、砂漠の南側に移動させてもらっているところです…。生態系が変わってしまいますからね…ああ、ほら、右手をご覧くださいまし…あれを見ればわかりやすいかと思われます…」
なんだろう、と思って示された側を見ると、すごく遠くの方から、ザーーーっと土煙を上げて、何かがやってくる。
「!?」
それを視認した瞬間、私たちは凄く驚いた。
サボテンが、物凄い勢いで、ザーーっと砂漠を横滑りしていったのだ。
一瞬で通り過ぎて行ったが、物凄くシュールな光景だった。
「周囲の土ごと移動させていますからね…他の生き物も、大体あのような感じで、移動をさせております…」
「ぷいぃいっ、面白いです、ボクもやってください! あずみお姉さん、ボクもボクも!」
アンタローが、あずみの周辺をぴょんぴょんと跳ね始めたので、ユウが慌ててアンタローを回収する。
「こら、ダメだろアンタロー、邪魔すんなって!」
「ホントよっ、これってすっごく集中力を必要とするんだからね! あとは、サンドワームとか、ジャイアントアリジゴクとかの魔物をどこに移動させようかってところだから、ま、適当でいいんだろうけど」
あずみの言葉に、フィカスは慌てて食いついた。
「それはこちらから場所を指定できるのか?」
「そうね、あずみちゃんにできないことなんてないんだから!」
「では、魔物のみ、砂の中を、ここから東に100キロほど離れた地点に移動させてもらえるか」
「もいっ?」
あずみは、一瞬何を言われたかわからないような顔で、ぱちくりとした。
マグも、東の方角を見る。
「……なるほど、考えたな、フィカス。それなら一網打尽だろう」
「どういうことですか?」
この辺りの地理に疎い、ルグレイが、首をかしげた。
「アッハ、そういうことね、いいわよ、やってあげる! アンタいい男だから、特別に言うことを聞いてあげるんだからね!」
「感謝する、あずみ」
勝手に話を進めているフィカスとあずみの代わりに、マグがルグレイに説明をする。
「ここから100キロほど東は……海のど真ん中だ」
「! なるほど」
「もいもいもいもい~~~!」
見ているだけでは何をやっているのかわからないが、あずみは角を立てて集中し始めた。
「魔物退治とかって、精霊も手伝ってくれるんだな?」
ユウがあづさに聞くと、あづさは、頭の上の花をひょんと揺らした。
「自然発生でない魔物は、退治対象ですからね…それでも積極的に協力は致しませんが…このようなキッカケさえあれば、ワタクシどもも、やぶさかではないのですよ…」
同意をするように、ルグレイの腕の中のあまつぶも、ぷるんと体を揺らした。
そろそろ、本格的に日が落ちて、満月が空の端っこに見えてき始めた。
「…さ、終わったわよ! さっすがあずみちゃんね、下調べしていたとはいえ、とっても早かったわ!」
あずみは、自分で自分を褒めて、胸を張っている。
そのあと、ぴょこんと飛び上がって、フィカスの腕の中に納まった。
「次は、土に栄養を送る番ね! フィカスってば、準備はできてるのかしら?」
「無論だ。ニヴォゼの発展のためだ、いくらでも魔力を使ってくれ」
「アッハ、やっぱりあずみちゃんが認めたイイ男なだけあるわ! 安心なさい、少し余力は残してあげる。今夜は満月だからね、月の魔力も使えるのよ!」
すると、ルグレイの腕の中のあまつぶが、何か言いたそうに、ぷるんと跳ねた。
あづさが通訳する。
「そうね、あまつぶ。…あまつぶは、ワタクシたち精霊の魔力の使い方を、少し意識してみるといい、と言っております。今後の参考になるやも、と」
「あ…そうだね、わたしは魔力の使い方が下手だから、そこは習わないとって思ってたよ…!」
私が同意すると、ルグレイも「私も、参考にさせていただきます」と頷いた。
ユウとマグは、じっと私たちの様子を見守っている。
特にユウは、アンタローが暴走しないように繋ぎ止めるという大役が割り振られてるので、若干緊張しているようだ。
「じゃ、行くわよ! もいもいもいもい~~~!!!」
あずみは、一本角を振りかざし、指揮棒のように振り始める。
一瞬だけ、パチっと火花みたいな光が爆ぜた後は、特に変化もなく、静かなものだ。
「…っ!」
その時、フィカスの表情が、少しだけ変化した。
苦しむ、というよりも、違和感に慣れようとする、というような表情が、ゴーグルの奥に見える。
次の瞬間、フィカスが立っている場所から、砂の色がサーっと変わっていく。
その小さな変化はそのまま、一気に視界の果てまで、同心円状に広がっていった。
なんとなく、足元が、砂のような頼りない感じから、しっかりした踏み応えに変わった気がした。
砂の質自身が変わったのだろう。
「ぷいぃいい? まだですかっ?」
アンタローは、その地味すぎる変化に全く気付いていない。
「バカだなアンタロー、こっから大スペクタクルが始まるに決まってんだろ!」
ユウが無責任にハードルを上げていく。
いきなりあずみが、ぴょんと跳ねてユウを睨む。
「ちょっとアンタ! バッカじゃないの、もう終わったわよ! どうせ土系は地味よ! 馬鹿にしちゃってさ!」
キーキーと怒っているあずみに、マグが一歩前に出る。
「すまなかった……そちらの気を削ぐ気はなかった……コイツは迂闊なだけなんだ……許してほしい」
あずみは、ピタっと動きを止めた。
「いいわ、あずみちゃんは、ちゃんと謝る子には寛大なの。ま、若い子みたいだし、一度くらいは失敬しても許してあげるわ」
「す、すまねえ…」
ユウが面目無さそうに、しゅーんと項垂れた。
しばらく固まっていたフィカスが、思い切り深呼吸をする。
「いや…自分以外のものに、一気に魔力を使われるというものは、なかなか…不思議な感覚だったな。不快ではなかったが、少々戸惑った。これでも王族ゆえ、魔力の多さには多少の自信はあったが、くだらんプライドだったようだ。ほとんど空になるとはな…」
「フィカス、自信を持ちなさいよ、人間にしては凄かったわよ! それに、さすがのあずみちゃんも、ちょっと、疲れたわ…流砂のせいで地下に空洞ができていたのがネックね、埋めるのに少し手間取ったわ。少し、眠るわね……」
あずみは、ころんとフィカスの腕の中に転がった。
入れ違いに、ルグレイが一歩前に出る。
「では、次は私の番ですね。あまつぶ様、よろしくお願いします」
ぷるんとあまつぶが、ルグレイの腕の中を跳ねる。
「3度目のジャンプが合図…と、あまつぶは申しております…」
あづさの言葉に、ルグレイは緊張するように、口元を引き締めた。
「わかりました。…2回目、3回目、今ですね!」
サーーっと、先程と同じように、ルグレイの足元から、同心円状に、土の色が黒くなって広がっていった。
夜だから黒く見えるのであって、昼間に見ていたなら、土が水を含んでいったのがわかっただろう。
「く…っ!? なるほど、これは…!」
ルグレイは、膝をつきそうなのを耐えているようだ。
「高い所から…飛び降りる感覚に似ていますね…! 着地するまでの、不安感というか…!」
ルグレイは、フィカスと違って、喋ったほうが落ち着くのだろう。
次は私の番なので、どきどきしながらルグレイを見守る。
やがて、ぴょこんと、あまつぶが4度目のジャンプをして、終わったことを知らせてくれた。
あまつぶも疲れたのだろう、ルグレイの腕の中で、へちゃっと平たくなった。
「ルグレイ、掴まれ……」
マグは完全にフォローに回っており、フィカスをバギーの運転席に連れて行って休ませた後、ルグレイの方にも肩を貸す。
ルグレイは、お礼を言いたいようだが、喋る気力はないようだった。
「じゃあ、次は、わたし…!」
私は、あづさを掲げるように持った。
「そうですね…牧草ということでしたが…実はあれは一種類ではないのですよ…。なるべくたくさんの種類を生やして多様性をつけてさしあげたいのですが…よろしいでしょうか、お嬢さん…少々負担が増えますが…」
「大丈夫です、ドーンとやっちゃってください!」
なんというか、他人任せにできる気楽さがかなり嬉しいので、私は快諾した。
月の魔力を現地調達するために、バサリと翼を広げる。
「では、参ります…人間の通る道を作って差し上げるような器用な生やし方はできませんが…ご容赦くださいませ。むいむいむいむい~~~!!」
あづさが気合を入れ始める。
ほどなくして、スーっと、魔力があづさに流れていくのが分かった。
例えるなら、私の体にホースがついていて、それが直接あづさに繋がって、何らかの気力的なエネルギーを一定の速度で吸われていく…という感じだった。
ほどなくして、私の足元から、ざわざわと緑の草が生え始める。
あずみの時や、あまつぶの時とは違い、目に見えて違いが判る変化だ。
「ぷいぃいっ、すごいです!」
「うおおおお…!」
アンタローとユウが、こういうのを待っていたんだよと言わんばかりに、歓声をあげた。
私の方も、歓声を上げたい気分だった。
なんとなく、魔力の使い方がわかってきた。
蛇口をイメージすればよかったのか…たくさん捻ると、たくさん水が出て、ちょろちょろと出したかったら、ちょこっとだけ捻る、あの感じ。
それが、感覚でわかった。
私は今まで、蛇口を全開で魔力を出していたんだな、ということもわかった。
生えていく草花は、私の膝下くらいにまで成長を遂げると、そこまでで動きを止める。
それが、はるか先の景色にまで広がっていくのは、圧巻だった。
「う…と…!」
足元がふらついてきて、なんとか、ふんばる。
急に支えのようなものを感じるなと思ったら、マグが背中を支えてくれていた。
「まあ、まあ、これは…お嬢さんの魔力は、本当に潤沢ですね…ワタクシもある程度の疲労を覚悟していたのですが…フェザールは素晴らしいですね…もう少しですからね…後は、砂漠との境に、生命力の強いものを…ラインを引くように配置すれば…、…はい、できました」
ぐったりと、マグに寄り掛かる。
そこはもう、ほんの先程までは砂漠だったとは思えないような景色が広がっていた。
いやあ、この魔力消費で北部だけの緑化だっていうのだから、全土をどうにかする計画じゃなくなって良かった、本当に…!
ナイス方向転換…!
「ツナ……よく頑張った……!」
マグは私を抱き上げて、バギーの後部座席に乗せていく。
ルグレイの隣に座らされた。
「ユウ……アンタローを」
「おう!」
マグの指示で、ユウはぐったりしている私たちの中心に、アンタローを置いた。
「アンタロー……粒を吐け」
「やはり最後はリーダーの出番ですねっ! 任せてくださいっ! ぷいいぃいいっ!(もろもろ、もろもろっ)(キリっと粒漏れ)」
ユウとマグは、バギーから一歩下がり、私たちの様子を見守っている。
アンタローが吐き出す魔力の粒が、空気中に気化していくにつれ、私たちの呼吸は楽になっていく。
呼吸が楽になるのにつれて「やっぱり皆さんにはボクがいないとダメなんですからっ!」と、恩着せがましくしゃべり続けるアンタローがちょっぴりうざったく感じられた。
「とりあえず、邪魔が入る様子はなかったな。いやー、順調に終わってよかった…!」
護衛のユウが、油断なく周囲を見渡してから、息を吐く。
「むいむいっ、お役に立ててよかったですわ…あずみもあまつぶも、これなら少し休めば回復できますね…ありがとうございます、餡太郎様…」
「だが、念のため……屋敷まで連れ帰るからな……庭でゆっくりと……体を休めるといい」
「そうですね、お言葉に甘えさせていただきますね…」
マグの言葉に、あづさが頷いた。
ユウが、フィカスを心配そうに見る。
「フィカス、運転はできそうか…?」
「もう少し休めばな…それまではユウたちを頼りにするぞ」
「ああ、任せろよ、いざってときには俺がこの魔道車ってのを押していってやるからさ!」
ユウは、フィカスに頼られて、どことなく嬉しそうに見える。
フィカスは「頼もしいな」と笑った。
「ぷいいぃいいっ!(もろもろ、もろもろっ)(キリっと粒漏れ)」
「でも、うまく行ってよかったね!」
私は、翼での魔力吸収もあるので、すぐに元気が戻ってきた。
満月って、ここまで顕著なんだ…と驚いた。
「ああ、はじめはなんて途方もないことを言い出す娘なんだと思ったが、存外うまく行った。ナっちゃんは俺の勝利の女神かもしれんな」
「勝利って、何と戦ってるの」
フィカスの言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「ツナ……元気が戻ってきたな、よかった……」
マグが、ほっと一息ついた。
「うん、わたしは翼もあるから、回復が早いみたい、すっかり元気になってきたよ!」
「けど、ルグレイはしんどそうだなー…ルグレイ、寒くねーか? それとも暑い? 水飲むか?」
ユウは、何かできることはないかと、そわそわしながらルグレイを見ている。
ルグレイはまだ喋れないのか、ユウの言葉にくすぐったそうに笑うだけだ。
「ルグレイさんの大好きな粒ですよっ! ぷいいぃいいっ!(もろもろ、もろもろっ)(キリっと粒漏れ)」
「ルグレイ…わたしの魔力を、ルグレイに分けてあげられたらいいのに」
私も心配な顔でルグレイを見た。
すると、ルグレイはいきなり顔を真っ赤にして、かすれた声を張り上げてきた。
「な、なんてことをいうのですか、ナツナ様は…!!」
……ん?
ユウもマグも、ルグレイの反応にきょとんとしている。
フィカスの方を見ると、少し気まずそうに前を見たままだ。
…なにか、今、噛み合わなかった気がするけど…。
ひょっとして、あれかな。
エロマンガ島現象。
外国のどっかの島なんだけど、外国語だと平気で、日本語で考えるとアレな名前になるヤツ。
最初、その島の名前を聞いたときは、へえって思っただけだったけど、実際にErromango Islandっていう横文字を見た時は、あまりに威力が高くて笑っちゃったんだよね。
そんな感じで、魔力持ちの人たちにとっては何かアレな響きになることを、私が言っちゃったってこと…?
そんなローカルルールを持ち出されたらどうすればいいの!
大富豪で、8切りっていうルールを知らなくて、「やったー勝ったー1位!」って8で上がったらいきなり反則負けで最下位になったときの屈辱を思い出したよ。
しかし、微妙な空気が流れ始めたので、何かを言わなければ…。
「え…と…」
「とりあえず、晩飯にするか、ユウ、そこのバスケットを取ってくれ。それと、今後の予定を話すぞ」
いきなりフィカスが仕切り始めた。
ルグレイは、心なしか、ほっとしているように見える。
…なんだったんだろう??
まあ、間接キスでオオゴトになる世界みたいなので、たぶん、間接魔力(?)みたいな感じでオオゴトになったんだろうな、と自分の中で納得しておく。
「ぷいいぃいいっ!(もろもろ、もろもろっ)(キリっと粒漏れ)」
バスケットの中に入っていたのは、ホットドッグで、私にはドライフルーツが入った包みが渡された。
みんなで食べ始めると、フィカスが喋りだす。
「今日はお前たちの屋敷に迎えに行く時に、当面の間の食材を渡したな? あれでしばらくは凌いでくれ。大体の予想はついていると思うが、明日はニヴォゼが大騒ぎになっているだろう。街には出てこない方がいい」
「明日は分かるけど、昨日街に出ちゃダメだったのは、何だったんだ?」
ユウがすぐにペロッとホットドッグを平らげて、お茶を飲みながら口を挟む。
フィカスは、少し考えこんだ。
「…そうだな。まあ、全部が終わったら一気に話そう。情報を小出しにするのは俺の性に合わん」
「えーー、おあずけかよ」
「ははっ、ぼやくなユウ、気になることは楽しみに取っておけばいいだろう」
「フィカス……。フィカス自身の予定は……どうなっているんだ?」
今度はマグが、フィカスの様子を窺う。
「まあ、少なくとも明日はそっちの屋敷には行けないだろうな…晩飯を逃すのは悔しいが。ナっちゃん、明日は物珍しいものを作ってくれるなよ?」
「ええ…? もう何作るかは考えてるのにー…」
「なんだ、薄情だな。まあいい、2年は長いからな…また食える日もあるだろう」
フィカスは自分に言い聞かせるように言っている。
「つまり……フィカスが次に屋敷に来るまでは……大人しくしておいた方がいい……という認識でよさそうだな」
「ああ、そうなるな。不自由をかけるが、よろしく頼む」
マグの言葉に、フィカスは頷いた。
フィカスは思い出したように話を続ける。
「それと、あづさ。あずみには、少し聞きたいことがある。しばらく残るように言ってもらってもいいか?」
「むいむいっ、構いませんよ…。どの道、あずみも、あまつぶも、しばらくは動けないでしょうしね…」
あづさは、頭の上の花をひょんと振りながら、了承した。
「むいぃ、ですが、そうなるとワタクシは、一足先に森に戻らないといけませんね…あまり精霊が一ヵ所に固まるのはよろしくないのです……元素が偏りますからね…お嬢さん、ワタクシをそこの草地に置いてくださいまし」
「えっ、急な話ですね…あんまりお礼もできてないのに!」
「ホホホ、お気持ちだけで十分ですわ…お嬢さんの魔力のおかげで、ワタクシはそう疲れませんでしたし…おかげですぐに土渡りができますわ…この大陸の緑の力も増しましたし、当面は心地よい生活をさせていただきますね…」
私はバギーから降りると、あづさをそっと草原の上に置いた。
「ではでは、名残惜しくはありますが、お別れはささっと済ませるに限りますからね…また何かございましたら、お呼びくださいませ…このあづさ、力になりますよ…」
あづさはそう言いながら、もこもこっと土の中に埋まり始めた。
「お元気で!」
私たちは、口々にあづさに感謝と別れの言葉をかけていく。
最後に一度、地表に残った花がひょんと横に振られると、それも土の中に潜っていく。
「フィカスみたいに忙しない別れだったなー」
ユウが感想を述べると、フィカスが微妙な顔をする。
「俺はあんな感じなのか…」
「ぷ、ぷいい…っ、そろそろ、疲れました…っ」
アンタローが、ころっとユウの膝の上に転がった。
私は慌ててバギーに戻る。
「アンタロー、お疲れ様! 大活躍だったね!」
「ぷい…お任せください…なにせボクは、パーティーリーダーですからね…っ」
そう言うと、アンタローは、すやすやと眠りについた。
ユウは、少し笑って、アンタローを撫でてやる。
「…おかげさまで、私も少し体調が戻りました。やはり王族の魔力の大きさは凄いのですね、自分の未熟さを思い知りました」
ルグレイが、フィカスと私を見ながら、お茶を一口飲んで食事を終えた。
フィカスも私の方を見る。
「だが、俺も万全とはいいがたい。どうだ、ナっちゃん、この魔道車を動かす魔力を供給して貰ってもいいか?」
「えっ、それはもちろん構わないけど、どうやるの?」
「俺の膝の上に乗って、ハンドルを握ればいい。ハンドルから魔力が吸われるからな。運転補助は俺がやろう」
「なんだと……?」
マグがピクリと片眉を上げた。
フィカスは悪びれずに続ける。
「マグ、それが最も効率がいいんだ。途中まではそれで願いたい。ダメか?」
「………」
マグは、眉間にしわを寄せながら、煩悶している。
が、しぶしぶ口を開いた。
「いいだろう……だが、余計なところは触るなよ……?」
「よし、保護者の許可が出たな、ナっちゃん、来い」
私の許可が出てないのに、勝手に話が進んで行っている。
私は一度周囲を見渡す。
ぐったりしている精霊3匹が目に入った。
うぐぐ…恥ずかしいけど、早く休ませてあげたいよね。
仕方がないので、もそもそと移動して、運転席にいるフィカスの膝の上に乗っかる。
「よし、いけそうだな、出発するぞ」
フィカスは、ハンドルを握る私の手の上に、自分の手を置いて、運転を始めた。
発進するバギー。
「…あ、ちょっと、新鮮な視点…!」
車の運転席に座るのは初めてなので、若干楽しくなってきた。
消費される魔力も、ちょうど満月の魔力が翼に溜め込まれるのとプラスマイナスゼロくらいの量なので、まったく負担がない。
「ナっちゃんはミルクみたいな匂いがするんだな。言ってみるもんだ、随分な役得になった」
「フィカス、殺すぞ……」
「もうっ、フィカス、そういうところが変態なんだよ…!」
私はフィカスの足を蹴って牽制しながら、帰路を行く。
ユウはマグを「落ち着けって!」と宥める係で、ルグレイはニコニコしながらそれを見守っていた。
<つづく>




