ニヴォゼ王国(下)
夕食…というか、会食の席で。
私たちは、やたら縦に長いテーブルに案内されて、食事が来るのを待っている。
上座のフィカスは、「まずは楽にしろ」と言った。
「マナーも特に気にしなくてもいい。好きに食せ。ただ、この機会にハッキリさせておきたいことが何点かあってな。そこは付き合ってもらうぞ」
「なんだよ、藪から棒に。今更話すことなんてあったっけ?」
ユウはよほどお腹が空いているらしく、待ちきれない様子で、食事が運ばれてくるのを待っている。
「そうだな…どこから行くか。まずはユウ、お前からだ」
私たちは、ハテナを浮かべてフィカスを見る。
「ユウ、お前は、俺がお前を庇って死んだらどう思う?」
「はあ? どうしたんだよ、いきなり…」
ユウは戸惑いがちにフィカスを見たが、フィカスは「いいから考えてみろ」と静かに言った。
「…どうって…。……。今みたいに、『はあ?』って思うだけだ。何勝手に死んでんだって、すげー腹立つ……」
「それは楽しい気持ちか?」
フィカスは変わらない調子でユウに問いかける。
ユウは、少し苛立ったように眉をしかめる。
「んなわけねーだろ」
「だろうな。だが、お前が隙あらばナっちゃんやマグに味合わせようとしていたのが、その気持ちだ」
「………」
ユウは黙り込む。
私もマグも、フィカスが何を言いたいかを理解した。
ルグレイは、黙ってやり取りを見守っている。
フィカスは軽くため息をついた。
「マグ、お前はもっとユウとちゃんと話せ。好きなようにさせてやりたいのは、わからないでもない。ユウには自由が似合うからな。だが、無関心ではないのだろう? だったら、きちんと話すべきだ。余計な世話かもしれんが、ユウは死に急いでいるようにしか見えないものでな。回復魔法が使える俺が、いつでも同行できるわけじゃないんだぞ」
フィカスの叱り方は、なんだかとても優しげだった。
「7種の野菜と青トリュフのテリーヌでございます」
その時、給仕の人が、前菜を運んできた。
フィカスは早速、ナイフとフォークでテリーヌを切り分け、流れるように口に運んでいく。
宮廷料理というか、コース料理だったんだね。
フィカスが食べ始めたので、私たちもいただくことにした。
ユウだけは、まだ動かない。
「ユウ、ハンストは子供のやることだぞ」
フィカスがさりげなくそう言うと、ユウはムキになったようにフィカスを睨む。
「ちげーよ、考え事してたんだよ!」
「そうか、考え直せそうか?」
フィカスの言葉に、ユウはぐっと詰まった。
すぐにテリーヌにフォークを刺し、ガっと食べ始める。
「まあな!」
私も一口食べて、美味しさに思わず頬を押さえた。
そういえば、ここまでで私は生の野菜サラダとか、生のフルーツ盛りとかナッツ類ばかり食べてきたので、調理されている野菜を食べるのは初めてかもしれない。
やっぱり火を使うのって大事なんだなー。
「おいしいね」
場違いとは思いながらも、つい感想を言ってしまう。
食事が楽しみだと言っていたルグレイの方をちらりと見ると、ひっそりと顔を輝かせていた。
フィカスは満足そうに微笑む。
「ならよかった。会食はよく使う手なんだ。美味い食事というのは、重苦しい会話だけにならずに済むからな」
「ということは……重苦しい話題が……続くのか」
マグが、若干覚悟を決めるように聞いた。
「冬瓜のポタージュでございます」
皿が下げられ、次の皿が運ばれてきた。
同時に、フィカスが私を見る。
「ああ、次はナっちゃんのことだ」
「……?」
視線だけを上げて、フィカスを促す。
ポタージュは好きだけど、こういう場でのスープって、スプーンの音を立てずにいるのがすごく難しいから、集中したいんだけどな…。
「ナっちゃん。もしもを考えた時に、先にナっちゃんの気持ちを聞いておきたい。ルグレイの話では、ナっちゃんは幼い頃、あの姉が好きだったらしいじゃないか。次にあの姉が来たとして、ナっちゃんは対立できるのか?」
うっ、と、痛い所を突かれた気分になった。
実は、ルグレイに会った辺りから、私には記憶が二つあることに気が付いた。
リアルの記憶と、小説のナツナの記憶だ。
恐ろしいはずの現象だが、まったく怖くはなかった。
まるで、それが当たり前のように感じる。
随分と、『混ざって』しまっているらしい
私は考え込むように、スープを一口飲んだ。
そして、顔を上げる。
「姉さまは…。そんなに悪い人じゃない…と思ってしまうの。小さい頃にね、よく会いに来てくれて…魔石に魔力を込めさせるのが目当てだったんだろうけど、でもね、よく頑張ったわねって、わたしのために、手描きの絵本とかを描いてくれたりしたんだよ…!」
「…ナツナ様」
スープを飲んでいたルグレイが、眉をひそめてスプーンを置いた。
全員が、ルグレイの方を見る。
「差し出口をお許しください。しかし、ナツナ様は幼かったために、ジューン様の行いをわかっていらっしゃらないのです」
「どういうことだ?」
フィカスの問いに、ルグレイはゆっくりと喋り始める。
「ナツナ様に贈られた絵本は、三冊。うち二冊は、私が密やかに処分しました。一冊目が贈られた時、姫様は初めて見る絵画にとても喜ばれて、おれに読んで欲しいとせがんできたのです。おれは特に疑問に思わずにそれを読みました。ストーリーのようなものはなくて、ただ、外の世界の、太陽や、泉や、広い大地、色々な動物。そういったものが、淡々と描かれていた絵本でした」
マグが何かに気づいたのか、顔をしかめる。
「つまり、外の世界を知らない姫様に、ジューン様は外の世界を見せたのです。おれは読み終わったときに、そこに込められた悪意に気づきました。姫様はその日から、案の定、興味津々に外のことをおれに聞き始めました」
ルグレイは、それを思い出して、つらそうにうつむいた。
「…他の二冊には何が描いてあった?」
フィカスの問いに、ルグレイはまた話を続ける。
「一冊は、塔に閉じ込められた姫君のところへ、どこかの国の王子様が助けに来る、という、運命的な話でした。一冊は、青い鳥が、貧しい人間たちのために羽根を金銭に変えて献身を尽くし、最後には冬の道端で死んでいく、という話でした」
ユウが絶句している。
フィカスはため息をついた。
「陰湿なやり口だな。あの女がやりそうなことだ」
「で、でも、それって、報いを受けるほど、悪いことかな…?」
私が曖昧に笑いながら言うと、フィカスは私の方をじっと見た。
「……まあ、それがナっちゃんの答えというわけか。相分かった。この話はここで終いにしよう」
全員スープを飲み終わると、給仕が次を運んでくる。
「三つ目エビと虹鮭のグラタンでございます。お熱いのでお気を付けください」
菜食の私にだけ、別のメニューが運ばれてきた。
「一口パンの盛り合わせでございます。右から、ヨモギ、ゴマ、クロワッサン、チーズとなっております。焼きたてですので、お気を付けください」
別添えのディップや数種類のジャムなども、皿に並んでいる。
「すげー美味いけど、ちまちま来るのはなんでなんだ?」
一口食べたユウが、もう食事の方に意識を取られていて、私はほっとした。
「そういうものだと思っていたからな、何故と聞かれると、考えたことはなかったが。まあ、そうだな、ユウみたいな大食らいでも、満足させるためなんじゃないのか? 少しずつ食うのは胃が膨れるからな。俺は今のところ、足りないと感じたことはない」
「えー、そういうもんか、俺はまだ足りてねーんだけどな…」
「案ずるな、次はお前の好きな肉料理だ」
ユウは、「マジか!」と顔を輝かせると、遠慮なくグラタンと平らげて行った。
ルグレイの方を見ると、一口食べては頬を赤らめて、口元が緩むのを必死で我慢している。
なんだか、ルグレイが微笑ましく感じた
マグも、魚料理に満足げだ。
「で、次は、ルグレイだな」
フィカスが視線を移すと、ルグレイは背筋を伸ばした。
「は、なんでしょうか」
「ルグレイ、悩みがあるなら今のうちにすべて言っておけ。お前は見るからに溜め込むタイプだ。ユウもマグも、こういった話し合いの場を設けるのは苦手なようだしな」
「それは……」
ルグレイは思い当たる節でもあるのか、視線を下げた。
「渡り鴨のソテー、黄玉キャビア添えでございます。こちらのパンで、ソースを絡めてお召し上がりください。お申し付けいただければ、パンは追加をお持ちします」
給仕は皿を下げ、肉の皿と入れ替えていく。
私の方には、意見を窺いにだけ来た。
「お嬢様、パンの追加、またはサラダの追加要望などはありますでしょうか?」
「あ、いえ、デザートがあるのなら、これで大丈夫です」
「かしこまりました」
私の皿だけ、先に下げられていく。
「デザートは、皆さんと同じタイミングでお願いします」
「かしこまりました。先に食後のジュースをお持ちしますね」
会話を終えて、ルグレイの方へと視線を戻した。
が、フィカスが感心したように私を見る。
「なんだナっちゃん、手慣れているじゃないか。これなら貧乏貴族設定でも大丈夫そうだな、ユウ以外は」
「なんだよ、暇つぶしに俺に当たってくるのやめろよ…!」
ユウが拗ねたようにフィカスを睨む。
そこで会話が途切れて、みんなでルグレイを見た。
「私は先程、馬車の中で、ナツナ様が魔石に魔力を溜め込むのは得意だ、とおっしゃられた時。幼い頃にお辛そうにしていたことを思い出して、お止めしてしまったのです。ですが、理由はそれだけではありませんでした」
ルグレイは、言いづらそうに眉をしかめる。
「ユウ様も、マグ様も、フィカス様も、とても尊敬すべき方々だと、心底思っております。ですが…。先程、ナツナ様の…。王族の魔力を、この国の見知らぬ人々の生活を維持するために使われることに、…激しい嫌悪を覚えてしまいました」
私は驚きに目を丸くした。
誰も口を挟まず、ルグレイは続ける。
「私は小さな頃から、我々天界人と、地上人は格が違うのだと、何度も教え込まれてきました。地上人は見下すべき対象だと。そのうえ、私は貴族ですから、庶民とも違うのだと。私は、実は自分が貴族であることを、誇りに思っています。何故なら、自分が貴族であるからこそ、姫様の世話役を仰せつかったのですから。この出会いは、私の地位がもたらした出会いなのだと。……傲慢で、嫌になります」
「ははっ、その程度で傲慢か、笑わせてくれるな」
フィカスは声を上げて笑い飛ばした。
ルグレイは驚いて顔を上げる。
「ルグレイ、傲慢とは俺のためにある言葉だ、お前ごときが使うな。誤解を恐れずに言わせて貰うなら、俺にとって、政は作品だ。俺自らが手掛ける作品であるからこそ、絶対に手を抜かない。今や国民は俺の政策の虜だ。俺のために尽くし、俺を慕う。俺は身内には甘いからな、俺も力の限り、国民の思いに還元してやりたいと思っている。だが、これは誠意ではない。俺は、誠意では絶対に政治は行わない。国民の信も望も、俺の作品だからだ。これを傲慢と言わずしてなんと言う?」
フィカスは、自嘲のような、自慢のような顔で笑う。
「ルグレイ、お前の考え方は、とっくにうちの老害共がやっているよ。『私たち貴族の魔力でこの国を維持しているのだから、平民は貴族を敬うべきだし、何をやっても許される』とな。まあこれは、俺の親父の代まで、国のために国民がある、という考え方だったからな、仕方のない考え方ではあるのだが」
「ルビーオレンジのジュースでございます」
私のところへ飲み物が運ばれてきて、会釈をして礼を述べる。
フィカスは構わずに話を続けた。
「天界も地上も関係ない。そういう考え方は、そういう機構のある場所には蔓延るものなんだ。天界人であることは、関係ないんだ、ルグレイ。だが、お前は幸い、まだ若い。経験が足りないだけと、俺は断じることができる。ルグレイ、お前はこれから買い出し係として、ニヴォゼの民と触れ合ってみるといい。お前に関しては、それだけで事足りるだろう」
ルグレイは何度か瞬きをして、それから「やってみます」と頷いた。
「それとルグレイ、ナっちゃんはいくつなんだ? 一応、言い寄っている設定上、年齢程度は知っておきたい」
「あ、そうですね。私が18なので、ナツナ様は15だと思われます」
「なんだ、見たままなんだな。魔力コントロールで老化をおさえる類のことは、していないのか?」
「それは20を過ぎた頃に推奨されますね。全盛期にやらないと、あまり意味がないので」
「なんだ、その辺りはうちと同じか」
フィカスとルグレイの会話に、私は驚いて割り込んだ。
「えっ、フィカスって、いくつくらいなの?」
「俺は27だから、ナっちゃんの12歳上だな」
「じゅっ、じゅうに!!!!」
ここが食事の席でなかったなら、私は驚きのあまり立ち上がっていただろう。
別に10個上だったら、フーンで済ませられた。
でも、12!!!
まずい、それって…!!!
それって、私と干支が同じってことじゃない!!!
ぐわあああ、ツボ…!!!
そういうの、ツボです……っ!!!
なんでフィカスは目つきが悪いことといい、存在で私のツボをついてくるんだ…!!!
流石私の書いた小説、私のツボをよくわかっていらっしゃる!!
心の中で悶えている私をよそに、マグが口を開く。
「魔力があると……そういうこともできるんだな……確かにフィカスは……27よりは若く見える……オレとユウの7つ上か」
「なんだ、マグもユウもそのくらいか。今日はまじめな話をする予定だったから出さなかったが、次からはワインでも添えるか」
「いや、酒なんて高いモン飲む気にもなんねーよ…! それより、日常的に魔力を消費してるってことなのか?」
ユウの言葉に、フィカスは頷いた。
「戦闘時はそちらに回す余裕はなくなるがな。日常生活では大体そうしている。慣れるまでは苦労したが、しかし全盛期を保っておかねば、王族としてやっていけないことが多いからな。しかしナっちゃんはまだ15か。5年後が楽しみだ」
「フィカスが言うと変態っぽくなるからやめてよー…」
「変態って…。初めて言われたぞ」
あれ、そうだっけ?
そういえば、いつも心の中で思うだけで留めていた気がする。
油断してしまった…!
誤魔化すように、オレンジジュースに口をつける。
「よし、これで腹八分目かなー」
ユウは、何度目かのパンのお代わりを済ませると、ようやくナイフとフォークを置いた。
すると、待ちわびたとばかりに、給仕が皿を下げにやってくる。
「食後の飲み物は、コーヒーと紅茶とどちらがよろしいでしょうか」
「オレは……紅茶」
「私も紅茶で」
「俺はツナ…じゃなくて、あの子と同じジュースで」
「かしこまりました」
マグ、ルグレイ、ユウの返答を聞いて、給仕が下がる。
「しっかし、すげー美味かったな、フィカスは毎日こんなもん食って、よく保存食とか食えるよなー」
ユウが、すっかりリラックスするかのように、椅子に凭れた。
「俺は食えればなんでもいいからな。衣服と同じだ。贅沢を言って生き残れなくなる方が本末転倒だ。まあ、ティランには不自由をさせる気はないが」
「スフレチーズケーキです。杏子とベリーのソースと絡めてどうぞ」
給仕が、飲み物と、ちっちゃなデザートを持ってきた。
早速フォークを入れると、空気を掬っているのではないかと思うくらい、すんなりと沈んでいく。
ぱくっと口に入れると、口の中でとろけていった。
「うわあ、美味しいね、軽いし、いくらでも食べられそう…!」
「ははっ、甘いものが好きなところは、ナっちゃんも女の子らしいんだな」
「もうっ、フィカスはわたしのことを変な生き物か何かだと思ってるでしょう…! 普通ですからっ」
なんというか、カタコト弁を卒業してしまった弊害というか。
私はほとんど素を出して喋っているので、外見だけフィクション可愛くて、中身が残念なことはバレバレになってしまった。
だけど、みんな全然態度が変わらない。
私はひっそりと、嬉しかった。
ちらりと周囲を見ると、マグもユウもこのデザートを気に入ったらしく、ルグレイなどは、勿体なさそうにちまちまと食べている。
「ルグレイ、地上のごはん、気に入った?」
気になっていたことを聞くと、ルグレイは満面の笑みで頷いた。
「はい、保存食とはまた違い、ニヴォゼの食事は特に美味しいですね。まるで心の扉をノックされたような気持ちになりました。ひょっとしたらこの料理は、ずっと私のような無知な者が訪れるのを待っていたのではないかという錯覚を覚えたほどです。今、私の心は導きの光を得たかのように、充足しています」
………ん?
気のせいかな、妙にポエティックなものを感じたんだけど。
「ははっ、大袈裟だな。天界の食事とはまた違うのか?」
「まったく違います! 味に深みがあるというか……感動しました」
ルグレイの答えに、フィカスは頷いた。
「まあ、そうだろうな。何百年も一国のみで発展していけば、そうなる。料理にしても技術にしても、様々な国が交わって参考にし合い、互いに研鑽してきたものが、進化につながる。ジェルミナールの10年と、地上での10年は、まったく違うと言っていいだろう。お空の上は、思った以上に停滞しているようだ」
「そう…ですね。私も、停滞をしてしまわないように、ナツナ様と共に歩んでいけるように精進してみせます…!」
「ルグレイ…」
じーんとしてしまう。
だから、きっと、さっきのは気のせい。
……。
ちょっと試すだけ、試すだけね!
「ねえルグレイ、じゃあ今日の料理を、星5つくらいを使って評価するとなると、どうなる感じなの…?」
ドキドキしながらルグレイに聞いてみる。
私はこの軽はずみな試みを、後悔した。
「そうですね、香りから味のシルエットが浮かび上がる様は、料理としての本質を私に思い出させてくれました。まず、テリーヌから始まる順を追った料理の現れ方は、さながら前奏から始まるオーケストラのようでした。静かな前奏が私の中に広がると、そこから優し気なストリングスのようなポタージュで私の体は温められました。続き、グラタン…あたかも、木管楽器に合わせてティンパニが踊るように、スタッカート。このリズミカルな味の変化に対して風雲急を告げるがごとき鴨肉のソテーとパン。この、金管楽器の多重奏に私の心は震えました。最後のデザートで締めくくられるまで、これら奏でられるトーンは星の瞬きにも似て…舌も胸も満たされた次第です。…つまりは、もちろん星5つです」
う、うわあああああああああっ!!!!
全然味の参考にならないポエム読む食レポのやつだ!!!!
そ、そんな………っ!!!
ルグレイは…ルグレイだけはまともだと思ってたのに!!!!
グルメサイトの口コミで、どういう人がこういうの書くんだろうって思っていたものが今、ルグレイの口から!!!!
や、やだあああああああああっ!!!
ルグレイだけが私の癒しだったのに!!!!
幼馴染のお兄さん補正がすべて吹き飛んだほどの衝撃……!!!!
いや、別にこういう人がいること自体には何とも思わないんだけど!
でも、自分の周囲には居て欲しくなかったという乙女心ね!?
「ナツナ様、どうされました…?」
涙目になっている私を、ルグレイが心配そうに覗き込む。
うぐぐぐ、その純粋な瞳が今は辛い…!!!
「う……っ、ルグレイが、幸せそうで、よかったなって……!!」
「ナツナ様…! 勿体ないお言葉です…!!」
ルグレイも感動で涙ぐんでいる。
なんでこの世界は在留を決めた私にいまだに容赦ないんだよ!!
もうちょっと住みよくしてくれていいんだよ!!?
この後はせっかくの広いお風呂だったのに、あんまり楽しむ余裕が持てなかったのは言うまでもない。
<つづく>




