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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第二章 中学生編
74/159

ハロウィンの夜



 そんなに距離を飛んだわけではなかった。

 101という看板のある建物の上に、一人の人影が立っている。

 あの人が私を呼んだのだと確信して、私はその人の前に降り立った。


 その人は、濃い翡翠色の髪を一つに束ねた、とても綺麗な人だった。

 顔の片側だけを覆うクラウンの仮面をつけているが、それは人間離れした美貌を余計に引き立てていた。

 その人は、髪と同じ、濃い翡翠色の瞳で、私を見つめてくる。

 涼やかな口元は、紫紺の口紅が飾っている。

 すらりと背も高く、世界中の綺麗なものを集めたら、こういう形になるんじゃないだろうか、という印象の人だ。


「いらっしゃい、よく来てくれたわね」


 その声を聴いて、私はびっくりした。

 低くてかっこいい男の人の声だ。

 外見からして、女の人かと思っていたのに。

 男の人が、女の人の仮装をしていたということなんだろうか?


「見かけた時は、まさかと思ったのよ? けれど、本当にフェザールなのね。こんなところで会えるなんて」


 その人は、愛おしげに私の頬を片手で包む。

 私には、なぜだか、その人のことが懐かしくて仕方がなかった。

 胸がいっぱいになって、何も喋れない。


「…あなたは、空にいる者達とは違うのね。あれらはすっかり、人間に従うことを覚えてしまった。卑屈になった精神からは、美しいものは生まれないわ。せっかく自由な生を謳歌できるようにしていたのに…」


 その人は、悲しげに瞳を伏せる。

 それだけで、私も悲しくなった。

 悲しませてはいけないと、心から思った。


 一瞬、これは前にハイドが言っていた、チャームか何かなんだろうかと、懸念が頭をよぎる。

 だけど、自分ではよくわかってないが、私には魔力抵抗というものがあるらしいので、きっとそれとは違うのだろう。

 私は今、初めて会うこの人に尽くしたいと、心底思っていた。


 私のそういった気持ちが伝わったのだろうか。

 その人は柔らかく微笑んで、少し考えるような仕草をした。


「そうね、今日はあなたにしましょうか。一緒に来てくれるわよね?」


 私の頬に触れていた手を引き、手の平を上に向けて、差し伸べてくる。


 一緒に…。

 一緒に行きたい。


 私は吸い込まれるように、片手を伸ばした。


(チリン、)


 ほんの小さな鈴音が鳴った。

 その人の手を取る直前で、ぴたりと止まる。

 見れば私は、腕に首輪のブレスレットを巻いていた。

 とっくに慣れきったその音が、今この瞬間だけ、とても大きく私の中に響いた。


 私は、指を震わせて…。

 手を取るのをやめた。

 その人は、驚いたように瞬きをする。


「あら。アタシに逆らえるなんて、ひょっとしてあなた、混血かしら」


 私も驚いて、その人と目を合わせる。


「そんなに綺麗な翼を持っているから、すっかり純血のフェザールだと思い込んでしまったわ。残念ね」


 明らかに気落ちするその人を見て、私の心は罪悪感でいっぱいになった。

 この人の思い通りにできなかったことが、この世で一番重い罪に感じられて、ぼろぼろと涙をこぼす。


「あら、ごめんなさい。泣かないで、愛しい子。いいのよ、地上に未練があるのでしょう? あなたがその道を選んで幸せなら、それでいいの」


 その人は、慈愛に満ちた瞳で、私の涙をぬぐってくれた。

 そして、下に見える、街の通りに目を向ける。

 近くにあるはずの喧騒は、とても遠く感じられた。


「ここは不思議な街ね。アタシみたいなのが紛れ込んでも、誰も気づかないで居てくれる。心地がいいから、時々訪れることにしているの。美しいものを見つけたら、持ち帰りたくなってしまうのが困りものだけれど」


 そう言って、その人は、悪戯っぽく笑った。


「記念に名前を教えてくれないかしら? この出会いは、胸の内に大事にしまっておくわ」


「……ナツナ」


「ナツナ、かわいい名前ね。アタシはアリウレオ。レオでいいわ。あなたたちフェザールの生みの親よ。あなたたちの遺伝子は、まだアタシのことを覚えていてくれるのね。嬉しい限りよ」


 アリウレオ……レオは、名残惜しそうな顔をすると、ふわりと浮き上がる。

 私はレオの手を掴まなかったくせに、レオがこのまま行ってしまうかと思うと、胸が張り裂けそうなほど苦しくなって、咄嗟にレオの衣服を掴んで引き留める。


「あら。うふふ、かわいい子ね。でもダメよ、帰る場所があるのでしょう? …そうね、お呼び立てしてしまったからには、責任をもって送り届けるのが礼儀よね。目を閉じて?」


 私は、せめてこれだけはと思い、その要求にだけはすぐに従った。

 レオが柔らかく笑う呼吸音がする。


「それじゃ、幸せにね……」


 トンと、額を指で押されたような気がした。



-------------------------------------------



「ツナ……ッ!」


 誰かが私を必死に呼ぶ声がして、私は目を開けた。

 気が付くと私は、建物の上ではなく、道のど真ん中にぽつんと立っていた。

 「あれ…?」と言いながら、辺りを見渡す。


「ナっちゃん、無事か、心配したぞ!」


 わらわらと周囲を取り囲まれる。

 みんな背が高いので、私はすぐに埋まってしまう。


「フィカス…? ユウも、マグも、アンタローも、どうしたの?」


「どうしたって、そりゃこっちのセリフだぜ!? どうしたんだよ、いきなり飛んでくなんて! 誰にも見られてなかったからいいようなものの…!!」


 ユウは半分怒っているような、半分安心したような、そういう口調だった。


「聞き込みをしていくと、花火の夜は神隠しがたまに発生するとかで、かなり焦ったな。この街では誘拐はご法度のはずだから、神隠しということになるらしい」


「かみ……」


 かみさま…。

 そう口にして、なんだか、しっくりときた。

 なぜなら、ここは不思議が集う、ハロウィーンの会場なのだから。


「…ごめんね、でも、もう大丈夫だから。もう、どこにも行かないから」


 私が必死に伝えると、みんなはひとまず安堵したようだった。


「まったく、目が離せんな。大人しいかと思えば、とんだ跳ねっ返りだ。やはりナっちゃんは計り知れん」


 フィカスは、諦めたように、くしゃりを前髪をかき混ぜる。


「ツナ……オレには事情はわからないし……戻ってきてくれた以上……何があったかを聞く気もないが……それでも、二度とこんなことはやめてくれ……。オレは、鳥籠に閉じ込めておきたいと言った……ハイドの気持ちをわかりたくはないんだ」


 マグは、本当に憔悴していた。


「ごめ…」


「ぷいぷいっ、まったくツナさんは、空を飛ぶならボクを連れて行ってくれないと、約束が違うじゃないですかっ」


 謝ろうとしたのに、ベクトルが違う方向に怒っているアンタローの声にかき消された。


「何の約束だよ…。よし、ツナの気が変わんねーうちに宿に戻るぞ! 問答無用だからな!」


 ユウはそう宣言すると、断りもせず、いきなり私を小脇に抱えた。


「え!? も、もう、逃げないから…!」


 足をばたつかせるが、ユウは取り合ってくれない。

 私は連行される犯罪者のように、宿に連れていかれた。


 こうして、不思議な一夜は終わりを告げた。



-------------------------------------------



 次の日、ヤーシブを出港してしばらくしても、私に空を飛ぶ練習をする時間は与えられなかった。


「またどこかへ飛んで行かれてはかなわんからな」


 フィカスの言葉に、マグも同意した。

 みんな仮装をしなくなったので、なんとなくまだ普通の格好に違和感が残っている。

 やっぱりインパクトのある格好って、印象に残りやすいのかなー。


「その代わり、こんなものを買ってみた」


 いきなりフィカスは、じゃんとブラシを取り出した。

 ヘアブラシというよりも、もっと高級な、ふわふわした洋服ブラシという感じだ。


「代わりって…?」


 いまいち意図が分からず、私は首をかたむける。


「夜になって運転をしなくなってから、俺がナっちゃんの羽根を梳いてやる」


「えーーーー」


 私は露骨に嫌な顔をした。

 なんとなく、羽根を触られるのは嫌な感じがする。


「なるほど……そういう手があったか……手入れなど、思いつきもしなかった……」


 マグが感心している。

 船の中なので、私は翼を出しっぱなしなのだが、なんとなく仕舞いたくなってきた。


「フィカス、伝書鳩の羽根とかは放置してるじゃない…!」


「あれは下手にいじって飛べなくなったら困るだろう。…ああ、そうだった、そろそろティランに鳩を飛ばす頃合いだな。ヴァントーゼに行くことを伝えておかねば。マグ、頼めるか?」


「ああ、どうすればいい……?」


 二人が話し込んでいる隙に、私はそろりと船室を出る。

 デッキでは、ユウがアンタローを背中に乗せて、腕立て伏せをしているところだった。


「ぷいぷいっ! ユウさん、今日はいつもよりももっと重くしますよっ!」


 そう言うアンタローは少し大きく膨らんでいるようにも見えるし、いつもと変わらないようにも見える。


「…おっ、ツナ、やっぱり飛ぶのは無しだって言われたか?」


 ユウは私を見上げながら、聞いてくる。


「うん、ダメだって」


「あー、ツナにはわりーけど、俺もやっぱその方が安心できるな」


「ほらユウさん、ペースが落ちてますよっ、きりきり腕を立ててください!」


 アンタローが、ユウの背中でドスドスと跳ねている。


「くっそ、アンタローに指図されるのは腹立つな…! やめやめ!」


 ユウは仰向けになり、ごろっと大の字に寝そべる。

 アンタローは、キャーと言いながら、コロコロと横に転がっていった。


「ツナ、なんだったら、高い高いくらいはしてやろうか?」


 ユウは息を整えながら、私の方を見ている。


「えー、いいよ、もうわたしは大人になったんだからっ」


「ははっ、俺はツナの背が伸びようがなんだろうが、全然安心できねーけどな。よくわかんねーことですぐにボロボロ泣くしさ。その泣き虫が収まったら、大人になったって認めてやってもいいぜ」


「うぐぐ…! ユウだって、全然大人になってないじゃない!」


「俺はいいんだよ、図体がでかくなったら周りが勝手に大人扱いしてくれるんだから!」


 ユウがむくりと上体を起こすと、アンタローが「ボクを高い高いしてもいいですよっ」と寄って行く。

 ユウは手持無沙汰に胡坐を組み、アンタローをポーンと高く空へ飛ばした。

 晴天に、キャッキャとアンタローのはしゃぐ声が響く。


「でもユウは、いきなり思い立ったようにコーヒーのブラックを頼んで、結局フィカスに飲んでもらってたじゃないっ」


「あ、あれは…! 辛かったら飲めてたんだよ! 苦いのと辛いのは別物だからな!」


「もーー、すぐ言い訳するし…! 言っとくけど、わたしがチビなんじゃなくて、ユウが大きいんだからね!」


「へいへい、そういうことにしといてやるよ。ほらツナ、そろそろ船室に戻るぞ。暇になってきたし、トランプでもやろうぜ」


「よーしいいよ、わたしが勝ったら、何でも言うこと聞いてもらうんだからねっ」


「ツナは読み合いが下手だからなー、勝つのは俺だ!」



 その後結局、勝ったのはマグだった。




 その日の夜、私はイスに座らされ、背後をフィカスに陣取られていた。


「…どうしても、やらなきゃダメ…?」


 そわそわしながらフィカスに聞く。

 フィカスは、手に持ったブラシを、器用にくるりと回した。


「やる前から嫌がってどうするんだナっちゃん。案ずるな、俺は黒天号の毛並みを毎日整えてやっているんだぞ。ほら行くぞ」


 フィカスは私の翼を手に取ると、ブラシでそっと撫でてきた。


「……っ!!!」


 「ぞるうっ」という音を感じた。

 実際、そんな音はしなかったのだが。

 私は鳥肌を立てて震えあがる。


「ツナ、嫌なのか……? だが、神経が通っているようには……見えないが」


 マグがまじまじと私の翼を見てくる。


「う、確かに、神経は通ってないと思うけど…! でもなんだか、ぞわぞわするの…! 例えるなら、首の裏の産毛をそーっと撫でられてるみたいな…?」


「慣れていないからだろう。そのうち慣れる」


 フィカスは全然気を遣わずに、さっさと手を動かしていく。


「なっ、なんでフィカスはそんなに、手入れしたいの…!?」


 必死で声を絞り出す。

 フィカスは手を動かしたまま、首をかしいだ。


「何故と言われると困るな。俺なりにナっちゃんを可愛がっているつもりだが。そのための手段は多い方がいい。俺のストレス解消にもなる」


「くうっ…!」


 ストレス解消とまで言われては、涙目になりながら、必死にこの時間を耐えるしかない。


「逆にツナのストレスが溜まってねえか…?」


 ユウが心配そうに覗き込んでくる。


「そうか。そうなると本末転倒だな。仕方がない、今日この瞬間は我慢してもらって、明日からはアンタロー専用ブラシにするか」


「ぷいぃいいっ、気持ちよさそうです! 気に入りました!」


「まだ何もされていないだろう……」


 はしゃぐアンタローに、マグが冷静に突っ込む。


「ぷいぷいっ、みなさん、もう寝る時間ですよっ、早く明日にしましょうよ!」


 アンタローは待ちきれないとばかりに、そこらじゅうを跳ねまわる。


「やれやれ、ああも喜ばれると、まあ無駄にならずによかったと思えるな」


 フィカスはそう言いながら、容赦なくシュッシュと私のブラッシングを続けてくる。


「…さてはフィカス、わたしが嫌がるのを、楽しんでる…?」


 恨みがましく振り返ると、フィカスはしらばっくれるように笑った。


「何のことだ?」


「もーー…! あとで、フィカスの嫌がること、お返しに、やるんだからね!」


「ははっ、何をされるんだろうな、楽しみだ」


「フィカスは……嫌がることなんて……あるのか……?」


 マグが疑惑の目を向ける。

 そしてマグの予想通り、私がいきなり「ワッ」と驚かしても、何をしても、フィカスは面白そうに笑って済ませてくる。

 私はフィカスの器の大きさを知るだけになった。



-------------------------------------------



 2日後。


「陸が見えて来たぞ!」


 デッキに居たユウが、やっと船旅から解放される喜びを満面に浮かべながら、船室の扉を開いて報告してくる。

 私はオカリナの練習をしていた手を止め、マグは本を読んでいた顔を上げる。


「思ったよりも……早かったな。ツナ……翼の仕舞い方を……忘れていないだろうな?」


「あっ、そうだね、今のうちにやっとかないと…! 帽子もかぶるの久しぶりだなー」


 いそいそと上陸準備を始める。

 船旅って、のんびりと過ごせてよかったなー。

 家で過ごすってこんな感じなのかな、などと思えて楽しかった。


「言い忘れたが、ヴァントーゼは海に面しているわけじゃないからな。船を泊めたら多少歩くぞ」


「うわ、大事なこと言い忘れるのやめろよ…ただでさえ、あちーなって思ってたところだったのにさ」


 ユウのテンションがちょっと下がった。


「ははっ、まあそう言うな。完璧に見えて多少はミスした方が愛嬌があるだろう」


 フィカスは悪びれずにそう言う。


「完璧って、自分で言うかよ、ったく。まあいいけど」


 ユウはぼやきながらさっさと上陸準備をすませると、よほど待ちきれないのだろう、すぐにデッキに出て行った。

 私もなんだかんだで準備を終えたら後に続く。


「あれっ、ホントに陸見えてる?」


 私は目を眇めて遠くを見るのだが、ようやくちょこっと陸地の頭が見えたくらいだ。


「あ、そうか、ツナはチビだから俺と見える世界が違うんだなー」


「もーー、ユウはすぐにからかってくるんだから…!」


 私は軽くユウを睨みつける。

 その瞬間だった。


   ドオオンッ!!!


 ビカっと右手側の空が光ったかと思うと、何かが着弾したかのように水柱が立ち昇る。


「ひゃあああああっ!!!?」


 私の悲鳴と同時に、船の船体がぐらりと揺らいだ。

 転びそうになった私の手を、ユウが乱暴につかんで引き寄せた。

 被っていたキャスケット帽が脱げて、海に落ちて行く。


「あ、帽子が…!」


「今は自分のことだけ考えろ! くそ、なんだいきなり…!?」


 ユウは船の後方に目を向けると、ぎょっと体をこわばらせた。

 釣られるように私も目を向けてみる。


 …え!? 人!?


 信じられないことに、エアバイク…とでもいうのだろうか? 空飛ぶスクーターのようなものに跨った人が、手の平にバチバチと雷の球を維持しながら、片手運転でクルーザーを追いかけてくる。

 遠いので、その人の表情までは見えない。


「どうした……!?」


 マグが慌てて船室から顔を出す。


「マグ、危ない、出ちゃダメ!」


 私がそう叫ぶと同時だった。


   バシイイイッ!!


 雷撃がほとばしり、今度はクルーザーの左手側に、大きな水柱が上がる。

 今度は反対側に、クルーザーが傾いた。


「やだあああああっ…!!」


 何が何だかわからず、私は若干パニックになってしまった。


「ツナ、大丈夫だ、落ち着け…!」


 ユウが私を落とさないように、力を込めてホールドしてくる。


「なるほど、理解した……。フィカス、スピードを上げろ……」


 マグは扉に掴まりながら、船室に短く声を投げると、ホルスターからM500を抜き放つ。

 そのままピタリと銃口を空飛ぶスクーターに定め、マグはピクリとも動かなくなった。

 代わりのように、クルーザーが上下に激しく浮き沈みを始める。

 スピードを上げたのだろう。


「くそ、俺はこっからじゃ手を出せねえ…! 頼んだぜ、マグ…!」


 ユウは悔し気に、私を庇うようにしゃがみ込んだ。

 マグは返事すらしない。

 風景の一部のように、動きを止めたままだ。


 その間にも、空飛ぶスクーターはぐんぐんと私たちの方へと迫ってくる。

 向こうもスピードを上げたのだ。

 やがて、乗っている人の様子が視認できるほど近くになってきた。


 風にはためく、太陽のようなオレンジ色の髪には、尻尾のように一房だけ、エメラルドグリーンの束が混じっている。

 風避けのためなのか、フィカスと同じようなゴーグルをしていて、表情までは見えない。

 一点だけ、普通の人と違う点があるとするならば、青い軽鎧を身にまとっているという点だろう。

 ファンタジーに出てくる、騎士のような鎧に、同じく青いマントをつけている。


   パリ、バシイインッ!!


 その騎士のような人が手を振ると、今度は船体を掠めるほどの間近に、雷撃が放たれた。

 いや、ほとんど当たったと言っていいのかもしれない。

 それくらいの衝撃が来た。


   ガアンッ!!


 ほとんど同時に、マグナムの銃撃音。


 空飛ぶスクーターの車体に、ボコンと大きな穴が開いた。


「おっしゃ、やった!」


 ユウがガッツポーズをとる。

 が、すぐにその表情が凍り付いた。

 明らかにクルーザーのスピードが落ち、そして逆に空飛ぶスクーターのスピードは衰えず、そのまま船にぶつかる勢いで突っ込んできたのだ。


「っ!?」


 マグは直線状に居たため、回避のために一度船室に引っ込んだ。


   ガッシャアアアアンッ!!


 空飛ぶスクーターはデッキに激しくぶつかると、そのまま地を滑るようにして、クルーザーの手すりにぶつかり、火花を上げて止まった。

 その時には、もう、空飛ぶスクーターには誰も乗ってはいない。

 持ち主は、乗り捨てるようにして、ユウの目の前に着地していた。

 その騎士のような人は、何の迷いもなく、腰元から二振りの剣を抜き、ユウへと切りかかってくる。


「ツナ、飛んで逃げろ!!!」


 ユウは防御もせず、その騎士に背を向けて、私を思いっきり空へと投げ飛ばした。


「あっ、やだ……っ、ユウーーーー!!」


 投げ飛ばされる視界の端で、ユウの背から赤い鮮血が飛び散る。

 しかし騎士の人は、ユウに見向きもせず、私の方に目を向けていた。


「くっ…!!」


 落下しながら、バサアッ、と背中から翼を出す。

 フィカスが練習時間を取ってくれていなければ、こんなに咄嗟に翼を出すのは不可能だった。

 二度、三度と羽ばたいて、なんとかバランスを取り戻すと、騎士の人はクルーザーの手すりに足をかけて、私の方へと飛ぼうとしているところだった。


   ガァン、ガアンッ!!


 また船室から飛び出したマグが、騎士の人へと銃弾を浴びせる。

 騎士の人は、舌打ちをしながら、デッキを転がるようにしてそれを避けた。


「ユウ、手すりに掴まれ! ブレーキが利かないらしい!」


 マグが叫ぶ頃には、あんなに遠かった陸地は、もう目と鼻の先で。

 私はクルーザーのスピードについていけず、ほとんど上空に取り残されている状態で、必死に船を追いかけて行った。


「ユウ、マグーーーーッ!」


   ドオオオオオオオンッ!!


 クルーザーは、砂漠の柔らかな砂に、頭を突っ込んで止まった。




<つづく>



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