海の色は滲まない
クルーザーって、結構揺れる。
それも、上下に。
最初は、船体が低く沈むごとに、このまま水の中にまで落ちて行ってしまうんじゃないかとハラハラしたが、半日もすれば慣れてきた。
私はマグと一緒に、飽きもせずにデッキの上で水平線を眺めていた。
「ツナは本当に……外に居るのが好きだな……」
マグは私が海に落ちないように、見張り役だ。
海風にマフラーや髪をはためかせているマグの姿は、妙に色気があった。
「……マグって、まつげ長いよね、爪楊枝が乗りそう」
マグの横顔を見ながらそう述べると、マグは微妙な顔をして私を見てくる。
「それは褒められているのか……? どう反応すればいいんだ……海を眺めていたんじゃ……なかったのか……?」
「えー、褒めてるのに」
心外とばかりに言うと、私はまた海に目を向ける。
「海って不思議だよね、こんなに青いのに、貝殻は白いままなんだよね。色が染みついても、おかしくない気がするのに」
「……そうか……ツナは面白いな……。この海は……絵の具で塗られたものじゃ……ないということなんだろう……だから色が移らない」
マグはそう言うと、何かを考えこむように黙りこんだ。
「そっか…。あとね、不思議なのが、魚に寄生する寄生虫っているじゃない? サンマのヒジキムシとか。あれも不思議だよね、こーんなに広い海で、どうやって的確に魚を見つけて寄生するんだろう? 卵が漂ってるのかな?」
「……。さっきまでの情緒は……寄生虫と並ぶのか……ツナは面白いな……」
マグがちょっと生ぬるい目で見てくる。
そんなに変なことを言ったのだろうか?
みんな思春期の頃に気になるような話だと思うんだけどなー。
「マグは、海を見ても何も思わない感じなの?」
私が首をかたむけると、マグは考え込む。
「そうだな……。さっきまでは……何とも思っていなかったが……。この足の下に……色々な生き物がいるのかと思うと……不思議なように思う。ツナの言葉で……気づかされた……。どの場所も……何もないようで……何かあるんだな」
視線を合わせて、一緒に笑い合った。
「ツナ……ずっと外を見せてやりたいが……そろそろ中へ入ろう……海風は風邪をもたらす……ことが多い」
「…そうだね。船室も、楽しみ!」
私はさっと踵を返すと、クルーザーの扉に向かう。
ガチャっと開けた瞬間、ユウの元気な声が聞こえてきた。
「なあフィカス、俺にも操縦させてくれよーー」
フィカスはアンタローを頭に乗せて、ずっと立ったまま操縦をしているようだ。
ユウは隣に座って、暇そうにしていた。
「ダメだ。ユウが触ると壊れる」
「えーなんだよその偏見、ちゃんと優しく操作するからさあ!」
そうか、モーター的な音がずっとしているから、扉を開けたくらいの細かい物音には気づけないんだね。
「…ただいま!」
私はマグと一緒に、物資の詰まれた船室の中へ入る。
「ブルルッ」
傍らにある簡易式の柵の中で、フィカスの愛馬が鼻を鳴らした。
「あ…ごめんね、黒天号、驚かせちゃった?」
船室には、フィカスの愛馬が居たり、連絡用の鳩の鳥籠があったり、台車の上に荷物がてんこ盛りになっていたりと、船にしてはそこそこ広いはずなのに、異常に狭いことになっている。
黒天号とは、フィカスがつけた名前らしいが、デューのエクスカリ馬ーとは雲泥の差だ。
「お、なんだツナ、もう外はいいのか?」
ユウが私に目を向けてきたので、私は頷く。
「うんっ、満喫した!」
「ナっちゃん、ちょうどよかった、そろそろユウに呼びに行かせるところだった」
「なになに、何か用事があった?」
私とマグは、ユウの傍の椅子に腰かけて、フィカスを見やる。
フィカスは運転を続けるかと思っていたが、おもむろにハンドルから手を離して、羅針盤や計器を確認しながら何らかの操作をし、、私たちの向かいに腰かけた。
「状況報告と、そして提案がある」
クルーザーのスピードが明らかに弱まり、惰性で少しだけ前進していく、という感じになってきた。
私たちはフィカスを窺う。
「まず、状況だ。東大陸の北東から、中央大陸への移動だからな、そこそこ長い船旅になる予定だったが、アンタローのおかげで、俺は魔力を節約しなくてもよくなった」
「ぷいぃいっ、いっぱい粒を、吐きましたよ!」
アンタローはフィカスの頭の上で、自慢げにぴょんと跳ねた。
「おー、アンタロー偉いじゃん!」
「ぷいぷいっ、そうです、ボクはこの旅で、食べて寝るだけのユウさんよりも、たくさんお役に立つんですよ!」
「くそっ、言い返せねえ……!」
ユウは悔しげに歯噛みをする。
フィカスはそのやり取りに思わず笑いながら、話を続けた。
「というわけで、よほどの大時化でも来ない限り、順調に行けるだろう。で、ここからが提案だ」
フィカスは、私の方に目を向けた。
「ここはもう、陸地からも遠いし、定期船の航路からも外れている。…つまり、ナっちゃんが多少飛んでも、誰にも見られる心配がない、と断言していいだろう」
私はびっくりして、大きく一つ瞬きをした。
「ナっちゃんはずっと幽閉されていたそうじゃないか。あまり飛んだことがないのだろう? これから毎日、少しの時間だけ、こうしてクルーザーを止める。ナっちゃん、思いきり飛んでみてはどうだ?」
「それは……」
表情を曇らせたのは、マグとユウだ。
二人とも、いまだに私がどこかへ飛んで行ってしまわないか、トラウマが残っているらしい。
「え…と…。ユウとマグが反対なら、やらない…」
私は二人を窺いながら、控えめに言った。
マグは何も言わずに立ち上がると、荷物をまとめている一角へ歩いていき、バックパックをごそごそと探る。
やがてマグは、長いロープを取り出してきた。
「ツナ、今日はこのロープを……腰に巻いてもらう」
犬の散歩か!?
「それで問題がなければ……明日は自由に飛んでいいだろう……」
マグの意見に、フィカスは納得したように頷いた。
「そうか、不慣れな空なわけだしな。これならすぐに救助ができるか。名案だな、マグ」
いや絶対私に首輪つけておきたいだけだよこれ…。
「…まあ、そういうことなら、俺も賛成かな」
ユウもしぶしぶ了承してくれた。
「決まりだな、行くぞ、ナっちゃん。そうそう、船旅の間くらいは、ずっと翼を出しておくといい」
フィカスは私の返事も聞かず、さっさとデッキの方へと歩き出す。
「……!」
私は何も言えず、どきどきしながら後に続いた。
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「ツナ……きつくないか……?」
デッキに移動してから、マグは片膝をついて、私の腰へと緩めにロープを巻いてくれる。
「うん、これなら大丈夫!」
「よし……じゃあこれ……上空は寒いからな……」
マグは、自分のマフラーを私の首に巻いた。
「あ、ありがと…!」
私はさりげなく、前側の喉にマフラーが当たらないように、引っ張って空間を空け、いい具合の調節をしていく。
やっぱりどうしても喉に物が当たるのに慣れない。
「ぷいぃいっ、ツナさん、ボクも連れて行ってください!」
アンタローがフィカスの頭の上から、ぴょーんと私の腕の中に納まってくる。
「えーー、アンタローはすぐにあっち行けこっち行けって指示してくるからヤダ」
「! し、しませんから…!」
する気だったなコイツ…。
「ツナ、試しだ……荷物を持っていても大丈夫なのか……検証のつもりで……行ってくるといい」
「ぷいぷいっ、マグさん、ボクはお荷物ではありませんよ! 粒が出せます!」
「そうだな……アンタローは偉いな……」
「(ぱぁああああっ)」
マグとアンタローがやり取りしている間に、私はもぞもぞと身をよじって、ウーンと唸り、それからやっとバサっと翼を広げた。
「やっぱりまだまだツナは翼の扱いがヘタクソだよなー」
ユウが、からかうように言ってくる。
「むっ。練習すれば、すぐに自由自在になるよ!」
「なあマグ、そのロープ俺が持っていいか? 凧上げみたいで楽しそうだ」
ユウは私の抗議に構わずに、マグに手を差し出す。
「いいけど……離すなよ……?」
「もーー、ユウのせいで、凧揚げされるみたいな風情になってきちゃったじゃない…!」
私がむくれると、フィカスが笑いながら、手を差し伸べてきた。
「ほらナっちゃん、翼で風を受けながら掴まってみろ。発射台くらいにはなってやる」
「フィカスまで、人を遠距離武器か何かみたいに…!」
文句を言いつつも、私は片手でアンタローを持って、片手でフィカスの手に掴まる。
すると、フィカスはぐっと手を伸ばして、私を持ちあげてきた。
私はすぐに足が地面につかなくなり、ぶらーんとフィカスの手にぶら下がっている状態になった。
「…昔から思っていたが、ナっちゃんは本当に軽いな。もっとちゃんと食べろ。これからも突風に攫われないように、俺たちで気を付けてやるべきかもしれんな」
「食べてないんじゃなくて、種族差ですから…!」
そう言い張った時、ザッと海風が吹いて、私は風を受ける帆のように、ふんわりと持ち上がる。
「わ、と、と…!」
しっかりとフィカスの手に掴まりなおした頃には、私はもう、風にはためく旗状態だ。
「よし、行くぞナっちゃん。せーの!」
フィカスはいきなり、私を空に投げるように、腕を動かした。
パッと手が離れた瞬間、私はものすごい勢いで空高く舞い上がる。
まるで、私自身が上昇気流にでもなったかのようだ。
チリチリと、腕に巻いた首輪のブレスレットが鈴音を立てている。
「うひゃああああああっ」
腕の中のアンタローが、怖がっているのか喜んでいるのか、わからないような声を上げた。
やがて、くんと腰に衝撃が来る。
ロープが伸び切ってしまったらしい。
あっという間の出来事だった。
マグの貸してくれたマフラーが、風にはためく。
フィカスもマグも私を見上げ、ユウは片手でロープを持ちながら、大きく手を振っている。
私も手を振りかえしたかったが、アンタローを落としそうなので、アンタローを両手でぎゅっと抱えなおした。
「ん? ん? ん? ん? ん? ん? ん? ん? ん? ん?」
いきなり周囲に汚いおっさんの声が満ちる。
「もーアンタロー、雰囲気壊さないでよ!」
「ツナさんがお腹を押したからですよっ、ボクは無実です、ぷいぷいっ」
私は、バサッと一度だけ、翼を動かした。
あとは風に乗っていればいいので、あんまり翼を動かさないでも飛べている。
下を見ると、動きを止めたはずのクルーザーが、なんだかんだで若干波に流されているのが見える。
「ぷいぷいっ、ボクがバランスを取ってあげますっ!」
そういうと、アンタローは突然身じろぎを始める。
慌ててしまい、風に煽られてバランスを崩す。
「うひゃあああああっ」
「アンタロー…! 揺れたら危ないでしょ…っ!?」
「どうやらツナさんは、まだまだ未熟なようですね。 では、じっとしていてあげますよっ!」
「じっとしていないと落としちゃうんだからね?」
「ぷいぃ」
少し飛ぶのに慣れてきたので、ちらりと水平線の方を見てみる。
…あれ?
なんだろう、この感覚。
あの水平線…なんだかちょっと、違う気がする。
具体的に、何が…とは言えないが、リアルで見て来たものと、何かが違う気がした。
ちょっと考えてみたけど、やっぱりわからない。
私はさっさと考えるのをやめて、飛ぶ練習に集中することにした。
「空を飛ぶって、こんな感じなんだ…。翼の下に、風を送り込むような角度を保てばいいんだね」
完全に同意を得られない言葉なので、独り言のようなものだった。
「ぷいぃっ、海って、ずっとずっと青色ばっかりなんですね! クジラとか、イルカとかが、もっと頻繁に湧いてくるのかと思っていました!」
アンタローは遠くの方を見て、キャッキャとはしゃいでいる。
だけど私は、豆粒のようになってしまったマグたちの方ばかりを見てしまう。
「ツナさん、ツナさん。見てください。鳥の群れです!」
マグたちから目線を離すように、鳥の群れを目で追った。
「わあ、ほんとだ!」
群れが私たちよりも低い高さで飛んでいる。渡り鳥だろうか?
「鳥すらボクの高さには届きませんね!」
「飛んでるのはわたしだけどね!?」
「ぷいぷいっ! 鳥たちも家族旅行の最中のようですね!」
アンタローの言葉にわたしはまた、クルーザーへと目を戻してしまう。
マグたちは何かを話している。
唐突に、フィカスがユウとマグの頭をわしゃわしゃと撫でた。
ユウは怒っているような仕草をして、マグは静かにフィカスから距離を取る。
………。
あれ、なんだか、寂しい…。
距離があるってだけで、声が聞こえないってだけで、ちょっと落ち着かない。
「…アンタロー、もうそろそろ、降りてもいいかな?」
「ぷいぃいっ、何を言っているんですかツナさんっ、まだまだこれからですよ! ゴミ粒みたいになったユウさんたちを、思う存分見下すチャンスなんですから!」
「えーー。じゃあ、10秒カウントするから、それまでだからね!」
「ぷいぷいっ、わかりましたっ」
「10、9、8、7、」
「ツナさんツナさん、今何時ですか?」
「え? と…3時、くらいかなあ? 2、1、0! はい終わり!」
「(がーーんっ!)」
「ふふふ、アンタロー、しくじったようだね?」
「もう一回です! もう一回だけお願いします…!」
「しょうがないなー。10、9、8、7、6、5、」
アンタローがどきどきと私を見上げている。
「4、3、2、1、」
「2、3、4、5、」
即座にアンタローがカウントアップを重ねてきた。
「あーー! アンタローズルい!」
「ふふふ、ボクの勝ちのようですね、ツナさん! では降りましょうか」
アンタローは、勝利の感動で、降りたくないという目的をもう忘れているようだった。
「え…うん、わかった…」
まあいいやと思って、私は体の角度を斜めに変えてみる。
………。
あれ、上がるのは楽だったのに、一度風に乗ってしまうと、降りるの難しい…?
うーーん。
かといって、翼を仕舞ったり、畳んだりしたら真っ逆さまだろうし。
頭を下にして、下に向かって羽ばたけば行けるのかな?
「よいしょっ」
空中で、でんぐり返しの要領で、無理やり頭を下にしてみる。
そして、足をばたつかせながら、翼を動かしてみる。
「うひゃああああああっ!?」
今度は紛れもなく恐怖の悲鳴を、アンタローがあげている。
うぐぐ、私もこれ、ひゃあってくる、怖い…!
でもこれなら下に降りれそう…?
…あれ、思ったよりスピードが速い!?
これはひょっとして、真っ逆さまと変わらないのでは!?
「わああああああっ!!?」
自分で飛んでいるくせに、悲鳴を上げてしまう。
「ツナ……!?」
「ナっちゃん…!」
「ツナ!?」
三人が私を受け止めようと団子状態になっているところへ、私は頭からドーンと突っ込んでしまった。
「いつつ…!」
「……ツナ、無事か……!?」
「ははっ、これは計算外だったな」
「ご、ごめんね…!」
私は慌てて起き上がる。
腕の中のアンタローは、きゅうっと目を回していた。
「いや、ツナが無事でよかったぜ。まったく、飛ぶのヘタクソなんだからなー」
ユウは立ち上がりながら、私の頭をポンポンと撫でてくる。
「ツナが無事なら……オレに文句はない……」
マグも起き上がって、衣服を払う。
「ナっちゃん、空はどうだった? 気持ちよかったか?」
一番下だったフィカスもやっと起き上がり、こちらを窺ってきた。
「う、うん、楽しかったけど……」
私は目を回しているアンタローを撫でながら、視線を下げた。
しばらく黙り込んでいると、フィカスがふっと笑った。
「寂しかったわけか」
「う……ちょっとだけ」
マグが、私の巻いているマフラーと腰元のロープを解いてくれながら、晴れ空色の目を細めた。
「オレも何故か……寂しかったな……街で別行動するのとは……全然違う感覚になるんだな」
ユウは、気絶しているアンタローを私の手から取り上げると、バスケットボールのように、脇に抱え込む。
「まあでも、ツナが自力で逃げられる手段があるのはいいことだからな、いざって時のために、航海中だけは練習を続けような。街とか冒険地とかだと、なかなか難しいからなー」
「……ン」
皆が私のことをきちんと考えてくれているのだとわかって、またむずむずしてきた。
私は、意を決して、三人を見上げる。
「ねえ! 寂しくなったから、ぎゅっとしていい?」
明らかに動揺が走った。
それはそうだろう、私が自分からこんなことを言い出すのは初めてなのだから。
というか、ユウもマグも、私が起きたばっかりの頃はあれだけベタベタしておいて、この反応は一体…?
赤くなっているユウと、複雑な顔をしながらマフラーを巻きなおすマグを押しのけて、フィカスがずいっと前に出てくる。
「いいだろうナっちゃん、さあ来い」
フィカスが腕を広げてきたので、私はそこへ飛び込んだ。
「ぎゅーーっ!」
と口で言いながら、私はフィカスの片腕にしがみついて、額をぐりぐりとこすりつける。
………。
すぐに顔を上げる。
やっぱり、スッキリした!
雪山でアンタローが言ってた、魔力の匂いをつけるって行為だよね、これ。
私、フェザールの設定をどんなふうにしてたっけ?
まあいいや、スッキリしたし。
「ありがと!」
「……。もう終わりなのか…?」
なにか別のことを期待していたらしいフィカスが、拍子抜けのような顔をしている。
ユウとマグの方を見ても、二人とも拍子抜けのような顔をしていた。
「それくらいなら余裕だな、よし来いツナ!」
ユウが片腕を自ら差し出してきたので、私は「ぎゅーーっ」と言いながら、同じことをする。
「はーー、よくわからないけど、これね、スッキリする! 時々やってもいい?」
私が顔を上げると、今度はマグがユウを押しのけて、腕を差し出してきた。
「なるほど……噛み癖のようなものか……? これくらいなら……人目のない所でなら……いくらでもやっていい」
「ありがと、マグ!」
お礼を述べながら、マグにもぎゅーーをする。
急に、満たされた感じになって、寂しさがどこかへ吹っ飛んだ。
なんだろ? うまく言えないけど、ここが私のテリトリー! って感じがする。
正直、もっと早くやっていればよかったと思うほどだ。
「よし、一段落着いたし、船室に戻るぞ。」
「そうだなー、あーハラハラした。そういやフィカス、夜はどうなるんだ? まさか徹夜で運転するわけじゃねえよな?」
ユウの質問に、フィカスは船室の扉を開けながら答える。
「さすがにそれはないな。自動運転で…と行きたいところだが、残念ながら、波に流されないように、同じ場所に留まる程度の機能しか持っていない。夜の間はそれでいいだろう。座礁も怖いしな」
「十分便利だと思うが……すごいな……それも古代の機械文明から……蘇らせた技術なのか……?」
「ああ、そうだ。お前たち、中央大陸に行った後は、ニヴォゼに来るだろう? 見せてやりたいものがたくさんある。きっと驚くぞ」
「そうだなー、そこまで言うなら、行ってやらねーこともないかなー」
ユウが勿体付けるように言いながら、みんなで船室に入る。
「機械文明……人間の英知を感じられそうだな……楽しみだ」
人間が好きなマグが呟いた。
ニヴォゼ…。
少し前なら、訪れるなんて考えられなかった国だ。
そういう変化が、今はとてもうれしく感じた。
やっぱり、旅って、いいな。
<つづく>




