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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
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悪夢のホットケーキ(上)

 ユウはあまり深くない洞窟だと言っていたが、入り口から奥が暗くて見えない辺りは、本格的なものを感じた。


「見た感じは一般的な洞窟って感じだが…どれどれ、お手並み拝見っと」


 ユウは私とマグを後ろに下がらせるようなジェスチャーをした後、利き手ではない側の手を突っ込むようにしながら、洞窟の中に入っていく。


「ん……!?」


 前情報の印象から、てっきりユウが弾き飛ばされでもするのかと身構えていたが、少し動きが遅くなっただけで、普通に洞窟の中に踏み入ることができた。


「あーー、こりゃ確かに普通の人間にはムリかもな。物理的にズシっと空気が重い感じ…って言やいいのかな? けどまあ、そんだけだ。ちょっと来てみ?」


 ユウが手招きしてくるので、私はマグと一緒に興味本位に近づいていく。


「……お。なるほど……」


 マグが先に一歩入る。

 私は初めての冒険にドキドキしながら、覚悟を決めて二人の傍に近づいた。


「……? なにも、ならないよ?」


 思わず何か間違えたかと周囲を見渡してしまうくらい、まったく問題を感じなかった。

 入り口近くとはいえ、日陰に入ったので、私の蛍光グリーンの髪が淡く輝いて見える。

 二人はその輝きをじっと見て、いつものようにユウが先に口を開いた。


「やっぱり、ある程度以上の魔力抵抗があるやつは平気ってことなんだろうな」


「何らかの原因で……洞窟の奥の魔力密度が高くなっている……ということか」


 三人で奥を見る。


「それなら、わたしでも、やくにたてそう!」


 ちょっと嬉しくなって、はしゃいだように二人を見上げる。

 二人とも、私をこのまま連れて行くかどうか判断が難しいなという雰囲気だったのだが、私がはしゃいだために言い出せない感じになった。


 ご、ごめん、ちょっと考え無しに言ってしまった……と反省する。


「まあ、じゃあ、とりあえず進めるところまで行ってみっか」


「ツナ、辛くなったらすぐ言え……絶対だ」


 「わかった」と言って、しっかりと頷き、歩き出す。


 やった、最初は恥ずかしい設定でしかなかったけど、魔力があってよかった!

 スキップでもしたい気持ちをなんとか抑えながら、岩肌のごつごつトンネルの中を行く。

 ユウもマグもいつもの倍くらい動きが鈍いので、私の歩調とちょうど合う。



 奥に進むにつれて、二人の表情は徐々に辛そうになってきたが、私はなんだか呼吸が楽になってきていた。

 温室の中とか、梅雨の時期の森とか、あの湿度が高くて水の中を泳いでいる感じ。あれにとても似ている。

 鼻歌でも歌いたい気分だ。

 ずっとこうなら、いつまでも歩いていられるのに。


 洞窟の中は足音が反響して、たまにたくさんの人が歩いているような錯覚がくる。

 ……?

 あれっ、自分の足音が聞こえてる?

 そうだ、なんだか違和感があるなと思ったが、おしゃべりなユウが今日はだんまりなので、やたら物音を感じる状態になっている。


「ユウ、マグ?」


 気が付けば私の方が先を歩いていたので、後ろを振り向く。


 !


 二人は息も絶え絶えで、這うようにして私の後を追いかけてきていた。

 

 慌ててマグの身体を支えようとしがみついたが、私の力では重たくて持ち上がらない。

 ユウは何か言いたそうに息を吸うが、ぜーはーぜーはーと深い呼吸になるだけだった。

 マグなんてマフラーとかしてるから、汗びっしょりだ。


 これはひょっとして、私がどんどん先に進んでいたから辛くても追いかけざるを得なくて、声をかけようにも声が出なかったのかな!?

 ごごごめん、人工アリ地獄のような真似をしてしまった!


 それにしたって、こうまで差が出るなんて…!

 ひょっとして私の場合は魔力抵抗とかじゃなくて、中和、もしくは吸収とか…?

 いや、今はそんなことどうでもいい!


 どうしよう!?

 二人を運び出すのは、私には無理だ。

 ということは、洞窟の奥にある原因とやらを私が取り除くしかない…?


 ぐるぐると考えて、それしかないとわかった瞬間に立ち上がる。

 これなら依頼も完了できるし、一石二鳥だ!


「ツ、ナ……!」


 私の考えを察したのかどうかわからないが、マグが腕を掴もうとしてくる。


「へいき、カネかせぐ!」


 するりと手をかわすと、短くそう言い置いて走り出す。

 しまった、カタコト弁って、気を付けないとイヤラシイ言い方になるね!?


 タタタタタタ……


 どうやら短い洞窟だというのは本当で、そう走らないうちに、一番奥にたどり着いた。



---------------------------------------------



 ……?


 行き止まりの壁の前に、丸い、綿埃みたいなものがある。

 いや、綿埃にしては大きい。猫くらいのサイズだろうか。

 そして床にはビー玉のようなキラキラしたものが、たくさん散らばっていた。

 試しに足元にある一個をつまんで拾い上げてみると、固くも柔らかくもなくて……あれだ、DHAのパール型カプセルみたいだなと思った。

 すべてが淡く光っており、魔力を有しているとわかる。

 濃度が濃いというのはこのことなんだろう。

 しかし、なぜ?


 DHAを踏まないように、摺り足で行き止まりの方に進んでいくと、丸くて白い綿埃が、プルプルと震えているのが分かった。


 ……えっ、生き物?


 そう思った瞬間、その生き物が今まで背中を向けていたのだとわかる。

 なぜなら、ちらりと振り向いてこちらを見たからだ。


 かわいい!!


 今まで隠していたんだろう、ぴょこっと耳が生え、つぶらな点目でこちらを窺い見上げてくる。

 一頭身というのかな、そのふかふかした丸い輪郭は、すべて顔だった。

 プルプルしているのは、怯えているのだとなんとなくわかった。


「こわくないよ?」


 ほら、と両手を広げて、武器も何も持っていないアピールをする。

 しかしその生き物は、私が喋ったことにビクっとして、もろもろと口から小さいつぶつぶをこぼし始めた。

 あ、DHAの出所はここだったのか。


 幸い襲ってくる様子もなかったので、状況を整理してみる。

 えっと、怖かったり、ビックリしたりしたら、口から魔力の粒が出てくる生き物…?

 ゆっくりと周囲を見渡す。

 ひょっとして、魔力の飽和水溶液状態みたいな感じなのかな?

 行き止まりだし風通しが悪いから、余計に魔力が溶けずに残って、ユウとマグが動けなくなるくらいの濃さになって…?


 じゃあ、この状況を解決するには……まず、この子が怯えなくなればよさそう?


「わたし、ナツナだよ。あなたは、ひとり?」


 しかし話しかける以外の選択肢が思いつかない。

 目線を合わせるためにしゃがみこんで、とにかく話し続けることにしてみた。


「すきなたべものはイチゴ、で、おにくはきらい、だから、あなたをたべたり、しないよ」


 生き物の様子をよく見ると、震えは止まっているようだ。

 今度はハテナという感じに丸い体を傾け、ゆっくりと右を見て、左を見て、それから私を見た。


「おはなし、できますか?」


 いきなり、私が聞きたかったことを向こうから聞いてきた。

 えっ、今まで私から喋りかけてたのはノーカンなの!?

 でも言葉が通じるのは僥倖すぎる、私はうんうんと勢い良く頷いた。


 すると今度は、ぴょんと一度飛び跳ねて、私の腕の中にドスっと飛び込んできた。


 かわいい!!


 抱きしめるようにして、よしよしと頭を撫でてやる。

 生き物は安心したように私を見上げ、聞いてきた。


「抱きついても、いいですか?」


 うーーん!!?

 マイペースというか、ちょっと色々ワンテンポ遅いね?


(もろもろっ、もろもろっ)


 安心した様子なのに、生き物の口からは粒が出てくる。

 感情が動くと出てくるのかな……?


「もっと撫でてくれても、いいんですよ?」


 と言ってくる生き物の頭を仕方なく撫でながら、解決策を必死に考える。


「えっと……あなたがここにいると、こまるひとたくさん。いっしょに、そとにでよう?」


 提案というか、お願いする感じで言ってみる。

 生き物は、ガーンとショックを受けた様子で、たっぷり3秒くらい考え込み、


「保障は、されますか?」


「え?」


「三食昼寝付きじゃないと、動きませんよ?」


 こいつ図々しいな……


「えっと……ほごしゃのひとに……かってもいいか、きいてみる…」


「ぷいぃーーっ、ぷいぷいッ」


 それが鳴き声なのか、生き物は嬉しそうにしている。


(もろもろ、もろもろっ)


 また生き物の口から粒が漏れてきた。

 まずい、このままじゃマグとユウが死んじゃう!?


 私はその生き物を抱いたまま、慌てて二人の元へと戻ろうとした。

 が、


「ではその前に、ボクの名前を決めてくれてもいいんですよ?」


 生き物がマイペースに引き留めてきた。


「あ、あとで…!」


「ぷいぃぃ、今決めてくれて、いいんですよ?」


 何か言っているが、ひとまず慌てて、外に向かう。


「思いつきましたか? ほら、良い感じの、ほらっ! 喉元まで出かかってますよね?」


 ひらすら食い下がられても、誤魔化すように頭を撫でて、「ごめんね?」と謝った。


「しかたありませんねえ。ちょっとだけ待ってあげます! はい、ちょっと待ちましたっ」


 UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!


 それどころじゃないっていうのに!

 早くこの子をこの洞窟から出して少しでも魔力濃度を下げないと、二人ともあんなに死にそうな顔してたのに…!

 どうして名前がないのかとか、むしろ何者なのかとか、色々と聞きたいことはあるが、そんな暇はない。

 しかしこの生き物の機嫌を損ねて牙をむかれでもしたら、この魔力はあるが体力のない体ではひとたまりもないだろう。

 今は逆らっちゃダメだ。


 私は泣きそうな顔でうろうろしてから、覚悟を決めた。


「わ、わかった、なまえ、つける!」




<つづく>

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