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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
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ゴールラインの目途

 目を開けると、宿屋の天井がある。


「起きたか……」


 隣には、当たり前のようにマグが付き添っていてくれた。

 彼は持っている懐中時計に視線を落とす。


「だいたい一時間強で回復……な。これなら旅先でも……なんとかなりそうだ……」


 パチンと時計の蓋が閉まる音。

 うわーー、さすがマグ…。

 そうなんだよね、私も街にいるうちに、魔法を使ったらどれくらいの時間動けなくなるのか、疲労は前回と同じなのか、検証しなきゃダメだと思ってたから使ってみた部分もある。

 あまりにも二人の足を引っ張るようなら、この街に残るという選択肢も考えないといけない。

 結果としては、前回よりは若干眠気に耐えられたかも…?

 あと数回使ってみないと耐性がついているかどうかはわからない…という感じだったけど、あと数回ダメ出し待ちか、きついなあ……。


「ご、ごめん、めいわく、」


「いや、街にいるうちに……わかってよかった……ユウも歩くのが……早すぎたと反省していた……普通の女の子の体力を……オレたちはまるで考えて……いなかった」


 普通の女の子……。

 そういえば、この人たちも普通の人間じゃない設定だったね、あんまり思い出したくないけど。

 そして私も、普通の人間よりは体力がない設定だった。


 あっじゃあこの倒れるのはストーリー通りなのか。

 ひょっとしてさっきの原文、「だけど、ナツナはつかれてたおれてしまった」って文面が続いていたのかな?

 ヒロシくんとタカシくんのインパク智が強すぎてその辺に注目する余裕がなかったけど。


 でも助かった、エーミールの二度漬けはさすがに辛い、どう接すればいいかわからないし。

 あの混沌を味わうのは一度きりで十分だ。

 

「ユウは…?」


「ギルドに行って……依頼を見繕っている……ツナが一緒でもできそうなヤツ……何ならこの街を拠点にして……しばらく過ごすのもいい」


「…なんで、そんなにたくさん、してくれる?」


「……別に、急ぐ旅でもない……」


 ………。


 会話が途切れた。

 やることがなくて、窓から差し込む夕日の裾を、なんとなくじっと見る。



「オレ達も……村を出たばかりの頃……外のことは何も……わからなかった」


 一度途切れた会話を、意外なことにマグのほうから続けた。


「オレたちにはお互いが居た……けどツナは一人だ……放っておけない……ユウもお前に……できる限り何かしてやりたいと……思っている」


 手持無沙汰なのかそうではないのか、マグはマフラーを巻きなおした。


「境遇を重ねている……とまでは言わない……いだく不安の内情までわかる……とも言わない……ツナをかわいそうとも思っていない……ただ……」


 マグは言葉を探すように、一度口をつぐんだ。


「以前……オレたちのことが気に入ったのか……パーティーに入れてほしいと……頼み込んできた……ヤツが居た」


 私はちょっと首をかしげて、目線で話の先を促す。


「オレもユウも……当たり前のように……断った……今のスタイルを……変えるつもりはない……と」


「…どうして、わたしは、よかった?」


「ツナだからいいとか……そういうわけじゃない……あれからそのことについて……ユウと話し合ったわけでもない……ただ、お互い気づいた……。変化を望まない選択肢が……自然と染み着いている……それは恐ろしいことだ……オレたちは……望んで出てきたあの閉鎖的な村の大人たちと……同じことをしていた」


 …実のところ私は、この二人の過去設定についてを、とうの昔に思い出している。

 だけど、こんなにたくさん喋るマグが物珍しくて、ついつい聞き入ってしまっていた。


「ツナは……いいキッカケをくれた……一緒に世界を見に行こう……オレたちも……一緒に変わっていける……いつか別れが来ることも含めて……お前を選んだ」


 マグは、ぽんぽんと私の頭を撫でてきた。

 ユウの撫で方はぶっきらぼうだが、マグの撫で方はとても優しい。


「思い出せるといいな……いろいろ……。ユウが帰ってくるのは夕飯時だから……あと少しある……しばらく寝てろ」


「…ン……。……ありがと」


 マグは部屋を出て行くのかと思っていたが、椅子に座ったまま、冒険用具の手入れを始めた。

 手荷物を開いて買い足す物資を確認したり、しばらく使っていないと見て取れるフック付きロープの錆び取りを始めたり、少し珍しくてじっと眺めてしまう。


「……寝ろ……」 


 私の視線に気づいた彼は、気まずげにそれだけ言った。

 仕方なくゴロリと横を向いて、マグに背を向けるように布団をかぶりなおす。


 …………まずい。

 ど、どうしよう!?

 全然何も考えずに会話してたけど、今ちょっといい空気だった気がする!?


 そうだった、うっかり忘れそうになっていたが、彼らは小学生の私の少女漫画が読みたい願望を満たすための被害者みたいな存在だったよね!!!?

 今までしっかり考える時間が持てなかったけど、これはちょっと、この際だからちゃんとその辺りに向き合わなくてはならない。


 え? じゃあ好きとか言われるのかな? 最終的に?

 自分を投影したキャラを小説に登場させ、モテモテにする……。

 何かの間違いで精神科のドクターとかにこれを見られたら、何らかの診断がついて心に立ち直れないダメージを受けそうで怖いわ!!

 別に私以外の人がやってるんだったら、「わかるわかる、いいよね、自分のことを取り合ってくれるパターン!」とか普通に返せるくらい全然平気なのに!!!!

 なんで自分のことだったらこんなに痛々しく恥ずかしいって感じるんだろう!? タスケテ!


 いや、でもさすがに告白とかはないよねえ? 恋愛イベントを私が思いつけるとは思えない。

 とはいえ、その辺は全然覚えてないんだけどね。

 そもそも、小学生の頃に書いた作文やら小説やらを、いったい何人の人が大人になるまで覚えていられるんだろう?

 うーーーん…。


 もうこれは、積極的に回避するため、受動態で居てはダメなのでは?

 『しない、させない、ゆるさない』

 これだ!!

 私はユウとマグを、私のハラスメントから守らなければならない!


 うああああ、でも、できるかなあ……!!?

 だって楽しみにしていた異世界観光も、背景は適当だし人物だってモブがほとんどで、展開もほとんどその場の思い付きみたいな剛速球が飛んでくるし、もはや私の癒しはマグだけなのに!!

 ユウは、まあ…小学生の私は間違いなく好きなタイプだったよ、彼は。

 でも今となってはたまに無邪気に致命傷を狙ってくるヤンチャ坊主だ。

 悪気はないし、基本的に優しいんだけどね!?

 今のところは嫌がらせで、世紀末鉄砲GUYというダサイあだ名をつけるだけで許しておこう。


 しかしこのクソファンタジーに期待が持てない以上、私にあの二人の好意を振り払うことなんてできるのだろうか?

 好きか嫌いかで言うと、間違いなく好きの方に○をつけるレベルで救いなのに。

 もっと抜本的な解決策はないかなあ……。

 うーーーーん……。


 ………ん?

 なんで私は、長く逗留するのが前提の考えになってるんだろ?


 そうだ、そうだよ!!

 リアルに帰るのを目標にしよう!!!

 そもそもこの先に待っている展開って、ナツナチャンの種族バレという一番恥ずかしいシーンでしょ!!?

 あれは、あれだけは…っ!!

 あそこに行くまでには何としてでもリアルに帰りたい!!

 そうだよ、ちょっと色々ありすぎてすっかり失念してたけど、別に律義に全部のストーリーを追わなくてもいいんじゃない!!

 これならいい雰囲気になる前に、ユウとマグともお別れできるし!

 それまでは、なるべく二人きりにならないようにすることが対策かな。


 ふうーーーーー……。


 目標が決まって、少し肩の荷が下りた気分だ。

 気分だけど…。


 ゴロっと寝返りを打つ。

 まだマグは砥石の擦り減りをチェックしたりして、冒険用具の手入れをしている。

 今度はすぐに私の視線に気づいたが、特に何も言わずに、フと笑った。

 それは囁くような、ほのかな笑顔だった。


 それからも私は全然眠れず、飽きるまでマグの手元を眺めて過ごした。

 なぜだか、飽きることはなかった。



------------------------------------------------



「どうくつちょうさ?」


 夕食の席で、野菜スティックをポリポリしながら、私はユウの言葉を聞き返す。


「そうなんだ。実は街の近くにある洞窟がちょっと変なんだってさ」


「どう変なんだ……?」


 そう問いかけるマグの目には、言外に「ちゃんと初心者でもできる仕事を選んできたんだろうな?」という懐疑が見て取れる。

 ちなみにマグは魚が好きらしく、白身魚の料理をよく頼む。


「それが、誰も入れねーから詳しいことは全然わかんねーって話なんだ」


「はいれない? て?」


「入ろうとしても、圧迫感のある見えない壁か何かに阻まれてお手上げ状態だそうだ」


「お前……それじゃ安全か危険かどうかも……わからないだろ」


 マグは呆れたようにそう言いながら、一瞬だけ、気にするように私の方を見た。

 私の方はというと、ユウが夕食に食べているマンガ肉があまりに典型的なマンガ肉をしているので、すごくそれが気になって、目線が手元に釘付けになっていた。

 ユウはお肉ばっかり食べる。


「まあそうなんだが、そもそもそこは洞窟っつーより洞穴って感じの深さで、旅人の雨宿りとか、日陰に生える薬草の採取とかの安全な目的にしか使われてなかったらしいんだ。だから魔族や盗賊が巣食っていたり、危険なことが起こるとは考えられねーって前提があってさ。だけど依頼のランクを決めようにも、誰も入れないんじゃ指針となる情報が全くねー状態なもんで、ギルド側もすげー困ってるみたいなんだ。とりあえず行くだけ行ってみないか? 危険そうだったら引き返せば済む話だろ?」


 言いながら、ユウはマンガ肉をぐにーっと歯で引っ張って千切り食べる。

 もうあれはゴムでできているレベルの伸縮性だよね?

 それよりも、あのお肉の表面にある、黒い点々の粒は何なんだろう? 毛穴?毛穴なの?? 香辛料であってほしい。

 そもそも何の肉なんだろう??

 ユウはよく「なんでもいいから肉で!」という注文の仕方をするから、その辺が分からなくて怖い。


「ツナ……それでいいか……? 少しでも不安を感じるなら言え……」


「えっ? えっと、ふあんない、いけるよ!」


 もういきなり話を振られても対応できるくらい、カタコト弁は習得できた気がする。

 どうです、ちゃんと子供っぽい喋り方でしょう!

 まあリアルの子供がこういう喋り方をするのかどうかは知らないけど…。


「おっしゃ、じゃあ明日早速行ってみようぜ!」


 リアル世界に帰ろうという目標は決めたけど、そのために何をすればいいのかは皆目見当がつかない。

 とりあえずは、このまま進んでいくしかないよね。


 その日は早々にお湯をいただき、遅くなる前に布団に入る。

 お昼寝のようなことをしてしまったために眠れるか心配だったが、気が付けばストンと眠りに落ちていた。




<つづく>

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