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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第二章 中学生編
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花守あづさ(上)



   ガラガラガラガラ……


 澄み渡った空気の中、荷車の音が響く。

 今日は晴天で、旅は順調だった。

 フリメールのある大陸は北の方にあるので、だんだんと空気が肌寒くなってくる。

 私たちは無事にお昼ごはんも終え、このペースなら大丈夫だというマグのお墨付きをもらい、一安心といったところだ。

 こちらの地方は、進むにつれて緑が少なくなり、土のむき出しになった大地が続いている。


「あと少し北上すれば……あとは西に曲がって海沿いを……目指せばいい」

 

 私は荷車の上に乗っているので、マグはなるべく舗装された馬車道を通る段取りで行くらしい。


「ねえねえ、そろそろこの移動、慣れてきたから、ユウとマグの荷物、わたしの傍に乗せてもいいよ、窮屈じゃないよ?」


 私は、すすっと荷車台の端っこに移動しながら、場所を空けて提案した。


「おーマジかサンキュー! って言いてーとこだが、運んでるのがアンタローだからな。何があるかわかんねーし、念のため自分で持っとくよ。ありがとな、ツナ、気遣いできるいい子だな~」


 ユウが私の頭を撫でに来る。

 おかしいな、起きてからもうとっくに三日くらいたったはずなのに、ゲロ甘対応が治ってない気がする。

 ひょっとして何らかのトラウマでも与えちゃってこうなったのかな、ごめんよ…。


「………」


 そしてなんだか、最近ユウとマグに撫でられるとむずむずする感覚が来る。

 これは一体なんなのだろう。


「アンタロー……見えて来たぞ……あの道を真っすぐじゃなく……左に曲がるんだ……わかるな?」


「ぷぃいいっ、わかりました!」


 アンタローは今日も朝から大はりきりで、もりもりと進んでいく。

 鉱山探索の時もそうだったけど、自分が先頭に立っている感覚がきっと好きなんだろうな。


 先の道を見ると、トの字路とでもいうのだろうか、真っすぐの道と、左に続く道だけが整備されている。

 この真っすぐの方を選ぶと、フリメールに直進なんだろうな。


 そう思っていた矢先、ガクンと荷車が大きく揺れて、急にアンタローが猛スピードで走りだした。


「ひゃあ!?」


「バカアンタロー、そっちは右だ!! つーか道がないだろ!?」


「ぷいぷいっ、こっちから、呼ばれていますっ!」


「アンタロー……! くそっ、止まれ……! ツナも一緒なんだぞ……!」


 ユウとマグが焦ったように追いかけてくる。

 私は必死に荷車に掴まって、スピードに耐えた。


「あ、アンタロー、止まって…!」


 舗装されていない道だけあってガタガタする。

 舌を噛みそうなので、最低限しか喋れない。


「ボクを呼ぶ声がするんですっ、こっちですっ!」


「何が起こってんだ!? まさかまたアイツの仕業じゃねーだろうな!!?」


 ユウが困惑しながら言うと、マグがその言葉に反応して、ホルスターから銃を抜き放った。


「ならば無理やりにでも……止める……!」


「バカやめろ!!? ツナに当たるだろ!? つーか、アンタローに当たったとしてもダメだろ!!?」


「放せっ、牽制するだけだ……!!」


「走りながら撃ったらブレるだろ!? 何かあったらどうすんだよ!!?」


「このままだとツナが……またどこかへ行ってしまう……!!」


 後ろの方で、ユウとマグがもみあっている。

 私も何か言いたかったが、もう荷台にしがみついているのがやっとだ。


 視線を変えてアンタローの方を見る。

 アンタローのスピードは衰える気配を見せない。


 と、ほどなくして、行く先に何かが見えてきた。


 ……?

 森…? にしては、ちょっと変な感じの……。


   ガラガラガラガラッ!!


 まだ何かを言い合っているユウとマグとの距離が少し空くと、もう荷車の激しい車輪の音しか聞こえなくなる。

 瞬く間に森に近づいていった。


 そして、近づいて分かった。


「エンゼルストランペット!」


 そこは、森と見まごうばかりの、超巨大なエンゼルストランペットが生え散らかっている場所だった。


 うわあ、これうちの実家の庭に一株だけ生えていたのを見てたけど、ぐんぐん大きくなって不気味なんだよね!

 といっても、ここまで大きいのは流石におかしい!


 巨大な一本杉ほどの大きさくらいあるのが、ものすごくたくさん群生している。

 アンタローはその中を、ためらいもせずに突っ切るように走っていく。

 花は下向きに生えているので、私はなんだか、巨大な花に見張られているような感じで落ち着かない。


「ぷいぃいっ、ぷいいいっ!」


 そして広大さも森のような広さの群生地だった。

 一体いつまで続くんだろうと思っていると、アンタローのスピードが段々と緩くなってくる。

 あ、これは、止まるときの、緩め方だ…!

 ちゃんと慣性の法則で私が吹っ飛んでしまわないように、気遣ってくれている。

 じゃあ、アンタローは正気を失っているとか、そういうのじゃないってことなのか。


 その間に、ユウとマグが追い付いてくる。


「ツナ……!」

「ツナ、大丈夫か!?」


 さすが普通の人よりも体力のある二人は、ちょっと息を切らしているだけだ。


「う、うん、大丈夫っ」


「一体どうなってるんだ…?」


 そうこう話しているうちに、アンタローが完全に停止した。


「ぷいぷいっ、来ましたよ!」


 そして誰かに話しかけている。


 そこには、中央にひときわ大きくてきれいなエンゼルストランペットが生えており、踊り場のような広さがあった。

 陽光を受けたそこは、少し神秘的ですらある。

 そのエンゼルストランペットの根元に、見たことのない、小さな花が一輪生えていた。

 アンタローが話かけているのは、その花だ。


「ようこそいらっしゃいました……」


「!?」

「なっ、花がしゃべった!?」

「……!」


 私たちが驚いている前で、その花の下からもこもこっと土が盛り上がり、ぽこーん! と下から球根のようなものが出てきた。

 いや、違う、球根じゃない!

 それは昔のアンタローくらいの大きさ、つまり猫くらいの大きさで、アンタローと同じつぶらな目がぱちっと開き、アンタローと同じように丸くてコロコロしている。

 アンタローとの違いは、淡い緑色をしていることと、頭から花が一本生えているということ。


「むいむいっ、御挨拶が遅れました、花守あづさと申します…」


 その生き物は、私たちへと、深々とお辞儀をしてきた。

 頭の花がひょんと揺れる。


「まさか、精霊ってやつか…?」


 ユウが戸惑いながら質問をする。


「むいぃ、その通りでございます。久方ぶりに同族の気配を感じたことと、その気配が少し窮屈そうだったことを合わせまして、こちらへご招待させていただきました…」


「ぷいぃ、ボクは粒漏れ餡太郎といいますっ」


「まあ、餡太郎様ですか、御立派なお名前をいただいたのですね…」


 あづさは目を細めてアンタローを見ている。と、マグが口を差し挟んだ。


「窮屈な気配というのは……?」


「ええ、ええ、そうでした、こうしてお目見えしてわかったのですが…餡太郎様は、この頃物質系のお食事ばかりをされているのではないでしょうか…?」


「ぷいぃ? そうですね、メガネの人が美味しい食べ物をたくさんくれましたっ」


 メガネの人って…。

 デュー、彼なりにアンタローを可愛がってたのに、そのアンタローはデューの名前を憶えてすらいないよ…!


「むいむいっ、やはりそうでしたか。それでお体がそのように膨張してしまっているのですね…まだお若い方とお見受けしましたが、いかがでしょう…?」


「ぷいぃっ、ボクは三年ほど前に発生したばかりです!」


「まあまあ、みずみずしいこと…。僭越ながら、このあづさに、身体コントロールのコツを伝授させていただくことはできますでしょうか…?」


「ぷいい! 貰うものは全部貰いますよボクは!(ぼろぼろ、ぼろろっ)(喜びの粒漏れ)」


「あら、そんなに魔力を漏らして、はしたないですわ…」


 そこへユウが言いづらそうに割り込んだ。


「悪い、そのコントロールができるようになったら、アンタローはどうなるんだ? 正直、今のこのドスコイ体型で役に立ってる部分もあるんだが」


「むいむいっ、ご心配なさらず。コントロールできるということは、どんな体型にもなれるということです…きっと旅のお役に立ちますよ…」


「それは便利でいいな……街では前の体型に戻れるということか……助かる」


 みんなが話している間、私は何をしているかというと、実は物凄く悩んでいた。

 あづさ、という名前に覚えがあって仕方がない。

 最初は、和名だなってくらいに思ってたんだけど…記憶に引っかかるというか。

 と悩んでいる間に、話は進んでいたらしい。

 あづさが、「では、まいります」と言うと、おもむろに気合を入れ始めた。


「むむむっ、むいむいむい~~」


 つぶらな目をぎゅっとつむって、あづさは力んでいる。


 …待って、この流れ、ホットケーキで見た気がする!?


「むいっ!(もろろおおおおっ)」


 すると私の予想に反して、あづさは尻からではなく、口から小さい光るカピバラを出した。

 カピバラは、ちょろちょろっと小走りにアンタローの方へ向かう。


 どういうこと!!!?


「さ、餡太郎様、お食べください…」


「ぷいいぃいいっ!!(ぱくっ)」


 ぎゃあなんかグロい!!


「………」

「うわ…」


 マグもユウもドン引きだ。


 (ぱああああああああっ!)


 その瞬間、アンタローがまばゆく光り始める。

 そして宙に浮き始めた。


「ぷいぃいいいっ、なるほど、これが、ニルヴァーナ…!」


「そうです…悟るのです…」


 急に宗教色強くなってきたけど大丈夫!!?


「ボクは……何か、この世界に、重要な使命があって、生まれてきたような…そんな気がしてきました…!」


「お、おい、大丈夫なのかコレ…?」


 ユウも不安げだ。


「ぷいいいいっ!(ぽしゅんっ!)」


 次の瞬間、まばゆさは失せて、あづさと同じくらいのサイズになったアンタローが、ぽてんと地面に転がった。


「アンタロー!」


 私はその姿を見ると、急いで荷台から降りて、アンタローに両手を広げ、駆け寄った。


「ぷいぃいいっ、ツナさぁぁん! ツナさんツナさんっ、ボクをぎゅっとさせてあげます!」


「アンタローっ!」


 その懐かしいサイズを、ぎゅっと抱きしめる。

 アンタローは私の腕の中で、すりすりと体をこすりつけてきた。

 私も頬を寄せて、そのふかふかを味わった。


「これからも……固形物を食べるのは……やめたほうがいいのか……?」


 マグがあづさに聞くと、あづさは首を振る。


「いいえ、もう大丈夫ですよ、まだお若いだけあって、飲み込みが早い子ですね…これなら心配ありません」


「やったなアンタロー! 試しにもう一度でっかくなれるか!?」


 わくわくしながらユウが聞くと、マグが血相を変えた。


「バカ、ユウ!」


「できますよ! ぷいいいいっ!(ぼむーんっ!)」



 私はアンタローの下敷きになった。




<つづく>



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