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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第二章 中学生編
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呪いの祖



「ツナ、どうだ、調子は。つらいとこはないか?」


 試しにとデューの屋敷の廊下を、ユウとマグと一緒にぐるっと一周してみた。

 ユウが心配そうに覗き込んでくる。


「うんっ、これくらいなら、へいき。きのうは、たくさん、はしったから、つかれただけ、みたい」


「そうか……だったら旅に出ても……大丈夫そうだな」


 マグが安心したように言う。

 マグは過保護なところはあるけど、私のことを閉じ込めようとはしてこない。

 多少の葛藤はあるのだろうが、私に外の世界をたくさん見せたいと思ってくれているのだろう。


「すまないツナ……本当なら飛ぶのが一番……楽なんだろうが……誰に見られるかわからない……外では飛ぶのは禁止だからな」


「ン……わかってる」


 頷きながら、私は雑魚寝ルームの扉を開けて中へと戻る。

 既にアンタローがすやすやと寝ていた。


「こいつ、痩せる気が微塵もねーな…」


 ユウが呆れたように言いながら、入り口で靴を脱いで、とりあえずベッドに腰かける。

 客室なのでベッドが向かい合って二つ置いてあり、そして昨日私たちが敷いたお布団がそのまま床一面を覆いつくしているので、妙に立体感のある寝床になっていた。


「いや~、この布団敷いて雑魚寝するの楽しかったな、せっかくだから今日もこのままでいくか!」


「え…」


 ユウの言葉に、私は安眠できなかったことを思い出して微妙な表情になる。

 でも、旅に出たら別々に寝るらしいし、それはそれで寂しいから、今日もそれでいいかな…。


「そうだな……オレもこのほうが……ツナのことをすぐに確認出来て……便利だ」


 やっぱり今夜も起こされるんですねトホホ。


 マグはユウの隣に座り、私は二人の対面にあるベッドに腰かける。


「………」


 そこで私は、アンタローを持っている癖がついていたことに初めて気づいた。

 「ツナさんツナさんっ、ボクをぎゅっとしてもいいんですよ!」と言いながら、よく腕の中に飛び込んできていた可愛いアンタロー。

 もう二度と、あのアンタローには会えない。

 せめてこの思い出だけは大事にしよう。さよなら、アンタロー。

 私は、ベッドにあったふかふかの枕を、今は亡きアンタローの代わりにぎゅっと抱きしめた。

 対面の保護者二人は、私の心境を知ってか知らずか、微笑ましげに見守ってくる。


「ユウ、マグ、ふたりのはなし、きかせてほしい」


 私は改めて切り出した。

 ユウとマグは、覚悟を決めたように頷いた。


「わかった。最初に言っとくけど、面白くもなんともねー話だからな。そこだけはツナの方でも覚悟しといてくれ」


「うん、わかってるよ。でも、ふたりのこと、たくさん、しっていきたいから、おねがいします」


 頭を下げた。

 ユウたちの過去の話は、ほとんどうろ覚えだから、答え合わせの意味でも知りたい。

 顔を上げてから、深呼吸をするくらいの間が空いて、やがてユウが話し始める。


「俺らの故郷は、大陸から少し離れた離島みたいなところにあってさ。めちゃくちゃ遠いってわけじゃねーんだが、結構潮の流れが難しくって、大陸側から俺らの村に来るのは楽なんだけど、俺らの村から大陸に出るのは難しい。そういう場所だった。村の名前は、『ルケーチ』っていうんだ」


「るけーち……」


 口の中で繰り返して、あれ? と首を傾げた。


「そう、ルケーチ。つまり、流刑地だ。俺たちは、古代王国ジェルミナールによって流刑にされた罪人の、子孫ってことだ」


 私は、枕を抱きしめる腕にぐっと力を込めた。


「村ではそのことを……13の誕生日に聞かされる……決まりになっている……全員が通る道だ……そして、呪いの意味も……伝えられる」


「かつてジェルミナールには、天才の名を欲しいままにする宮廷魔術師が居たんだってさ。数多くの術を開発し、奇跡とまで言われるような偉業を成し遂げていたらしい。この呪いも、その宮廷魔術師が開発したものだ。だけど、例えば新しくて画期的な薬を開発したとして、その数年後、数十年後に起こる副作用まで予想できる薬師が居るか? って話になる。罪人にかけられたこの呪いは、最初は王国に逆らうような思考をすると、その身を焼くような痛みに苛まれる、といった、効率的なものだったらしいんだが…」


「おそらく、最大の原因は……『呪いが遺伝してしまった』……という部分にある……それで何かが狂って行ったんだろう……代を重ねるごとに……ほとんど無秩序に……目的もなく……本人を苛むものへと……ある意味で進化していった」


「罪人と言っても、王国のやり方に逆らっただけのヤツや、謀略のとばっちりを受けただけで流されてきたやつが多くて…というか、そういうのがほとんどだった。そのために、最終的には村一つを丸々作っちまうくらい、人数が集まったんだってさ。本土に戻ろうとすると、王国に逆らうことになるから、呪いが発動してしまう。だから、集落を作り、生活をし、子を産み…ってことになったってわけだ」


「異常に気づいたのは……最初の子が生まれた時だ……。村の希望の象徴とまで……期待されていた赤子には……罪人の証である……紋様が刻まれていた」


「だけど、一番驚くべき部分はそこじゃなかった。子供を産んだ母親にあった罪人の証は、綺麗さっぱり消えてなくなっていたんだ。そして、二人目を産んだ時には、父親の紋様が消えた。その時の大人たちの絶望と焦りは酷かったらしい。罪のない子供たちには、王国のことも流刑のことも全て隠す気で居たんだからな。だけど、もうそういうわけにはいかなくなった。大人たちは村の名をルケーチにして、子孫の未来を守るために、何十個にも及ぶ掟を作り上げて、なんとか混乱を収めたんだってさ」


「ルケーチ周辺の海は……特殊な潮の流れらしく……たまに人が流れ着くこともある……どこかの古い村の風習で……水神の生贄として捧げられた娘とかな」


「そうそう、その何とかって村の生贄は稀に流れついてくるんだけど、最初の一人がたまたま魔術師で、俺たちの紋様を見てこう言ったらしい。『なんて適当な術式なんでしょう』って。かけられたもののことは何一つ考えられてないって。その時に、大人たちも我慢の限界だったんだろうな。何とか憎しみを後世には伝えまいと頑張ってたらしいんだけど、ジェルミナールへの憎悪は結局俺らの世代まで残っちまった」


「あ、それで、おうぞく、きらい?」


 フィカスに対するユウの態度を思い出して、思わず口を挟んでしまった。

 ユウは複雑な表情で頭を掻いた。


「まあ、そういうことだ。なんでだろうな、あんな掟ばっかで窮屈な村なんて大嫌いだったのに、結局そういう考え方とかは染みついちまってさ」


「……ユウとマグは、むらが、きらいだから、でてきた?」


 私の問いに、マグは首を振る。


「少しだけ違う……。オレの親が大工だ……という話はしたことがあるな……そしてユウの親は木こりだと。……そして、一人っ子だ、とも」


「うん、おぼえてるよ」


「つまり、オレたちの……父親の呪いは解けていない……力仕事だからだ……。この呪いは……変な方向へ変質してしまって……生まれた子の何か一つを……欠けさせる代わりに……前の代の人々の研鑽や力、能力、武器の扱い方、回復力……色々なものが受け継がれて……普通の人間よりも……異常な強さを得られる……力仕事には効率的だ」


「俺はさ、ガキん頃、弟か妹がほしいって、よくお袋に言ってたんだ。だけど、叶わなかった。そのことについては別に構わねーんだが、13になって真実を告げられた時、俺は本当にびっくりしたよ。『そんな理由で俺は一人っ子なのか』って。なんつーか、…冷たいなって。そう思ったら、親父やお袋にこう質問したくてたまらなかった。『本当に俺は愛の結晶として生まれてきたのか?』って。まあ、今考えると何が愛だよとか思っちまうが。若かったな…」


「……。そして、そうなると今度は……違った視点で村のことが見えてきた……。ルケーチ村には……三人目の子を持つ家族は……ひとつもなかった」


 私は息を呑んだ。


「もちろん偶然かもしれない。だけど、マグと話してて、気づいたんだ。たぶん、俺の親父やお袋も、同じ疑問を抱いたんじゃないかって。もっと前の世代の子も、同じ疑問を抱いたんじゃないかって。あの村は、もうどうしようもない。変わってなんていけないって、なぜかそう確信した。だから俺は、そう言った意味でも、結婚もせずに子供も持とうとしない、ヘレボラスさんが大好きだったんだ」


「ヘレボラスさん…、いぬのひとだね」


「ああ……村の出方を教えてくれたのも……漁師だったあの人だ……一年に一日だけ……潮の流れが変わる日があると……」


「もう即決だったね。罪人の証があることを外の大陸の奴らに見つかったらお終いだから、絶対に村を出てはいけないっつー掟があったんだけどさ。でもひょっとしたら、自分の子供に押し付ける以外に呪いを解く方法も外の世界にあるかもしれねーし、ってことで、俺はマグを誘って村を出たって話。まあそんなことがなくても、俺はいつか島を出るつもりだったけどな」


 ユウは一度、区切りをつけるように言葉を千切った。

 そしてまた、話し始める。


「ところが、本土に出てきてまあ、びびったのなんの! ジェルミナールはとっくに古代王国呼ばわりで、何百年も前に滅びてたんだぜ!?」


「跡地を見てきたが……でかいクレーターがあるだけだったな……」


「そうそう。けど冷静に考えりゃ、ジェルミナールが滅びてたことなんて、自力でわかったはずなんだ。もう何百年もずっと、流刑にされた人間なんて流れてこなかったんだから。だけどみんな、この島の存在は忘れられたんだって、無意識に思い込んじまってさ。たぶん、憎むべき相手が滅びてたら、心の寄りどころがなくなって、困るからなんだろうな。…ルケーチのみんなは、もう存在しない国を怖がったり憎んだりして生きてたんだってわかった時に、なんだろうな…笑っちまったな」


「罪人の証については……図書館の文献にも……残っていない……オレたちは罪人でも何でもなく……ただ呪われただけの人間だった」


「そういう意味じゃ、まあ大手を振って生きてってるなー。マジで村を出てよかったぜ。はい長話終わり、つき合わせて悪かったな、ツナ」


 ユウとマグは、心なしかすっきりとした顔をして、一息ついた。


「ン……はなしてくれて、ありがと」


「こちらこそ」


 笑い合う。


「ぷぃいいいっ!」


 突如、奇声が響いた。


 見ると、いつの間に起きたのか、人をダメにするサイズのアンタローが、私の方を見てぷりぷりと威嚇している。


「ツナさんっ、なんですかその枕は! そこはボクの定位置という決まりがあったはずです!」


「えっ、はつみみだよ!」


「問答無用ですよ! ツナさんツナさん、ボクをぎゅっとさせてあげます!」


「ひゃあ!?」


 巨大なアンタローがぐわーっと突進してくる。

 咄嗟に枕を盾にして、その陰に隠れてぎゅっと目をつむった。


「……?」


 何の衝撃も来なかったので、おそるおそる目を開けると、マグがアンタローを手で押さえつけ、床に留めていた。


「ツナを怖がらせるな……病み上がりだぞ……」


「お前は病み上がりじゃなくても許さねーだろ」


「ぷ、ぷいい…っ」


 もがいているアンタローが、ちょっと可哀想に見えてきた。

 私はアンタローの方に移動し、フワフワの毛並みを撫であげる。


「アンタロー、ごめんね、アンタローの方から、ぎゅっとされる、のは、うけとめられない、から、ムリだけど、わたしのほうから、ぎゅっとするのは、できるよ」


 マグがアンタローを解放した。

 それと同時に、アンタローがつぶらな瞳で見上げてくる。


「ツナさんっ、ほんとですか? してくださいしてください!(どすんどすん)」


「こらアンタロー、大人しくしろって!」


「だいじょうぶだよ、ユウ! えい!」


 ドスッとアンタローの上に飛び込んだ。

 私の格好が、巨大な曲芸ボールに平たく乗るピエロみたいな状態になる。


「ぷぃいいいいっ、ぷいぃいいいっ♪」


 アンタローがふかふかと喜んでいる。

 毛布の群れに飛び込んだような感触だった。


「なるほど……上に乗るという手が……あったか」


「いいなーそれ、俺もやりたい俺も! ツナ、代わってくれよ!」


「えーー、いいよ…」


 もうちょっと味わっていたかったのだが、しぶしぶ立ち上がってユウに譲る。

 ユウもドスっとアンタローの上に乗った。


「おおお、もう乗り物だなこれ! へへっ、アンタロー、三年前とは立場が逆になったな」


「ぷいぷいっ、そうですね、これでお世話になった分を返せますねっ」


「アンタロー……試してみたいことがある……少しそのまま……ドアの方まで進んでみてくれ」


「ぷいぃいいっ、了解しましたマグさんっ!」


「は!? ちょ、待っ」


「(ぴょーん、ぴょーん)」


   ドゴッ!!


 アンタローが跳ね上がった瞬間に、しっかり掴まっていなかったユウが頭を天井にめり込ませ、首から下がだらっと垂れている。


「ゆ、ユウーーっ!?」


「そうか……やはり跳ねる移動になるか……上手くいけば……ツナの乗り物になるかと思ったが……」


 マグは腕を組んで悩んでいるが、私は泣きそうな顔で、ユウの下をうろうろする。


「くそっ、やられたぜ…!」


 すぐにユウが自分で天井から頭を引き抜いて、床に敷かれた布団の上に着地した。


「ぷいぃいっ、マグさんマグさんっ、ちゃんと移動できましたよ、褒めさせてあげますよっ!」


「俺を振り落としてたけどな!?」


「偉いぞアンタロー……摺り足(?)のような移動は……できないのか? ユウ、もう一度……乗ってこい」


「ぷいぷいっ、前転移動ならできそうですねっ」


「やめろよ!!!」


「ユウっ、けがない?」


 私が聞くと、ユウは一瞬きょとんとして、


「ああ、言ったろ、普通の人間より丈夫だって。こんくらいなら平気の平左! ただ、デューに天井の穴のことは言っとかねーとな…」


 みんなで天井を見上げる。

 私はすぐに視線を下ろし、ほっとしたように笑いかけた。


「あのね、こんなこと、いわれたら、おこるかも、しれないけど…、ユウたちが、あんまり、けが、しなくて、すむんだったら、のろわれてて、よかった」


「「………」」


 ユウとマグは、呆けたような顔で私のことを見た。


「…うっ、おこった…?」


「あ、いや、ちがうよ…ただ、びっくりした」


「ツナは面白いな……そんな風に……受け入れられるとは……思ってなかった……ありがとな」


「ああ。もう、故郷を出た時点で詰んでたからな。この呪いを解く方法があっても、この力で冒険者としてやって行けてるようなもんだからさ、どっちにしろ、解くのは無理だなって、マグと話してたんだ。受け入れるしかないって…。ただ、第三者に受け入れて貰うことが、こんなに心が楽になることだとは、思ってもみなかった」


「ツナ、オレも今では……そう思える気がする……この力がなければ……きっとここまでツナを……守ってこられなかった」


「ぷいぃいいっ、ツナさんツナさん、はなチュしてあげます!(どすん、どすん)」


「お前はマイペースの塊か!!?」


 ユウが必死にアンタローを押しとどめてくれる。


「ユウ、マグ、これからも、よろしくね!」


「ああ、こちらこそ!」


「今更だな……」


「ツナさんっ、ボクもいますよ!(どすこぉい)」


 なんだかパーティーを組みなおしたような気持ちで、お互いに笑いあった。




<つづく>



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