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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
4/159

体感時間は100時間(下)

「じゃあ、オレは調べ物があるから……何かあったら大声で呼べ……絶対だぞ……」


 マグが真剣な顔で話しかけてきている。


 ………


 あ、別行動のところか。

 ここがページの切れ目なんだね。


 もーーーー!!

 ユウが余計なクイズとかしてくるから戻されてしまったじゃない!

 やっぱりあれに答えられたら次に進める…って解釈しかないよねえ。


 まあ今回はわかりやすいから、まだセーフかな。

 そこを予習したら漫画の続きも読めるし、とモチベーションを維持する。


 マグに頷いて小さく手を振ると、私は急いで本棚の方に向かった。


 あれは別府の地獄温泉のことだよね?

 あんまりよく知らないんだけど、たぶん小学生の私は、ガイドブックか何かの知識で得たんだろう。

 旅行とか、県外のこととか、その辺の本が固まっているところを探せばいいのかな?


 ほとんど手探り状態で、ぱらぱらとランダムに本をめくっていっては目的の物を探していく。

 程無くしてそれは見つかった。


 あった!

 よかった、これならすんなりと進めそうだと安心しながら、一番覚えるのが楽そうな、かまど地獄を覚えておいた。



------------------------------------



「問題です、じゃじゃん!」


 よし来い!


 ぐっと身構える。

 正直、このダメ出しは一度で終わらせたい。

 というか、ダメ出し自体がキツイんだよ、私は誰にも私のことを否定して欲しくない!!

 自慢じゃないけどメンタルは虚弱なんだからね!

 ドキドキと緊張しながら、ユウに注視した。


「煩悩が消え、願いが叶うといわれる四国霊場ですが、このお遍路さんは何か所を巡るものが一般的でしょうか!」


 お前はランダム生成ダンジョンか!!!!!!?


 なにこれ、どうなってるの!!!?

 予習が泡と消えた衝撃に青ざめたが、しかしすぐに思い出す。

 たしか、うちのおじいちゃんとおばあちゃんが行ってたよね、お遍路さん。

 えっと……!

 くっ、思い出せそうで思い出せない…!

 ええい、ままよ!


「四十八ヶ所ッ」


「ブブー! 八十八ヶ所でした~」


 ぐわ悔しい、四十九日の追善法要と混ざったのか…!!!

 というか、どういうジャンルの小説よこれ!?

 ファンタジーどこ行った!!?(二度目)


 ほんとやめてよ、ブレるのやめてよ、恥ずかしいから…!!

 

 また泣きそうになりながら、しかし心は今までになく焦っていた。


 こんなの、どうやったらクリアできるんだろう?

 思い出すとか出さないとか以前に、原文を読みでもしない限り、流れに沿うのが難しくなってきたような気がする。


 原文……


 原文を、読む……


 本棚の中…には、たぶんないと思う。

 だってまだ小学生のナツナにとっては書き始めたばかりの物語で、すでに習得した教科書の内容とは前提が全然違うからだ。


 原文……ファンタジー……魔法……


 ……


 そういえば、私は魔法が使えるんだってね?


 昨日の牧師様の言葉を思い出す。


 よし、これだ!!

 ダメモトでやってみよう、原文読み魔法!!


 ユウとマグがまた同じ掛け合いをする中で、私は決意した。

 そして、あの音がやってくる。




   <・・・・・パラ・・・・・>




------------------------------------



 図書館の隅っこで、私はこっそりとうずくまる。


 魔法ってどうやって使うんだろう?

 思えば生まれてから一度も使ったことがない技術だ。


 うーーーん。


 かといって、魔力の流れがどうとか説明をされたところでわかる気がしない。

 もっとこう、体感的な……トイレで力む感じ、とかだったらできる気がする。


 よし、どうせ誰に見られているでもなし、ちょっとやってみよう。


 教会でお祈りするように、指を組む。

 ぎゅっと目をつむる。

 ぐぐぐーーーっと力を籠める。


 で、ここで、念じてみる!


 文面っ、読む読む…っ!

 このシーンの!

 浮かべ浮かべ…!

 もうチカラワザで、ゴリ押しで…ッ!!

 ほら、せーの!!

 ……

 せーの!!


 …あ、きた。

 体の中から、というか、丹田の辺りから暖かいものが溢れてくる感じが!

 これ魔力っていうより、どっちかっていうと気合の方がしっくりくるよ!


 これだ、という確信が来たと同時、いきなり目の前にぱっと文字が浮かぶ。ノートごと浮かんでいる。

 目をつむったままなので、イメージが脳裏に浮かぶ、と言った方が正しいかもしれない。


 うわ、字、汚っ!!


 最初に抱いた感想がそれだった。

 文字の払いとかを意識しすぎて大袈裟になってて読みにくい、という字だ。

 しかしこれを解読しなければ詰んでしまう。

 私は急いでその文章に目を通した。



============================================


 ナツナはすごくあたまがよくて本をパラパラして1分で読めてしまう。

 図書かんの本はその日のうちに読みつくしたのだった。

 ほんとうかどうかたしかめるためにユウが出してきたクイズにもこたえられた。

 ナツナはうれしくなってにこにこした!


=============================================



 無茶言うな!!!!!!!!?


 なに自分にできないことを平然と背負わせて来てるの!?

 登場人物は作者を超えられないんだよ!!!?

 こういう展開なんだったら自然な感じで私にその能力を備えておいてくれ…っ、さっきから普通にしか本を読んでないわ!!!


 いや、でも…

 でも、わかる………


 わかるよ、本を一分でシュッ読んでハイ次ってやるの、かっこいいよね……!!!!

 私だってヤンミルズ方程式と質量ギャップ問題についてを会話の途中で解きはじめる人とか居たら普通にかっこいいなって思うし、そういうのに憧れていた。


 でも大人になった今だから思う。

 そんな人が居たらただの変人だよ、特に会話の途中はないわ。

 たぶんこうして子供の心は失われていくんだろうな…。


 うわーー、でもそう来たかーーー…


 確かにこの書き方なら、ユウの出したクイズの内容が一致しなかった理由もわかる。

 私が本を全部読んでないから、整合性を取るために読んでない部分が問題として出てきたってことなのかな?

 それとも、あのクイズは本当にランダムなのか。


 …ちょっと突破口が見えてきた気がする!

 あと何回かやり直す羽目にはなりそうだけど、試験勉強と思えば、私はヤマを張るのは大得意なんだから!

 先が見えない時の不安に比べれば、随分とやる気が出てきた。


 ぱちっと目を開ける。

 よし、さくさく本を読んでいくぞ!


 立ち上がって本の方へ手を伸ばすと、いきなりぐるんと視界が回る。


 …???


 ドサッと音がしてから、私は床に転がっていることに認識が追い付いた。


 なんだか、疲れて力が入らない感じで、起き上がれない。


「……ナツナ!!?」


 珍しくマグが悲鳴のような大声をあげて、こちらに向けて駆けてくるのが見えた。


 あ、そうか…

 魔法って、こんなに疲れるのか……

 毎回だと困るな、初回だからポカしてしまったと考えたい……

 それとも朝ご飯の時、無理してベーコンエッグ(動物性タンパク)を食べたから疲労が蓄積されていたのかな…?


 猛烈な眠気と共に瞼がくっついていく。


 ごめんね、マグ、心配かけて……


 でもやっぱり、普段クールな人がこういう時に焦るのって……いいなあ……




   <・・・・・パラ・・・・・>




-------------------------------------------



 そこからは、私とユウとの、血で血を洗うクイズバトルの応酬が続いた。(主観)


 実は1分で本を読める能力が本当に私に備わっているのかどうかを試してみたが、結論から言うと、できそうではあった。

 しかし素人の一般人が、いきなりF1レーサーくらいのスピードを出す車体に乗ったとして、事故を起こさずに完走できるだろうか? という話になる。

 普通に考えてみても、超スピードで何かを読むということは、目とかすごくグリグリ動かさないといけないわけで、頭が追い付かなさそうだったからやめておいた。

 まあ普通は苦労の末に身に着ける能力だから使いこなせるんだろうけど、私の場合はいきなりニョキっと生えてきた設定なので無理だったということだろう。


 こういう能力と中身の不一致は、正確な事例としては微妙なものかもしれないが、リアルでも存在する。

 運動会の保護者参加のリレーで、若い頃と同じスピードが出ると思っていたのに、身体がついていけずに転倒する親御さんの話はよく聞く話ではある。


 なのでもう図書館の本を全部読むという部分はあきらめて、ユウの出すクイズが私の予習した範囲とたまたま一致することを祈って挑むしか道はない。

 幸い、何度目かのクイズで傾向は見えてきた。


 どうやら小学生の私が、1ミリでも異世界を感じる出来事がクイズになっているようだ。

 つまり、日常生活では味わえない、TVや雑誌で見た旅行先や、友達から聞いた地元以外の場所への興味が、当時の私にとってのファンタジーだったようだ。

 まあ先生の言いつけを守って、自分一人では一度も学区外へ出たことがなかったからね。

 そんな狭い世界で育った私にとって、九州や四国はこのファンタジー小説に出しても自然に感じるのだろう。



「問題です、じゃじゃん!」


 でもそろそろくじけそう!!

 次こそ、次こそ、という期待と意気込みを何度も続けるのがこんなにキツイとは思わなかった!

 楽な方へ、楽な道へを選んできた人生のツケがこんなところで回ってくるとは…ッ!


 もしかして本当に図書館の本を全部読破しないと先に進めないんだろうか?

 いや、でもどちらにしてもやるしかない。

 がんばれ、がんばれ私…!!

 ぐぐっと気合を入れ直し、ほとんどユウを睨むような顔つきで次の問題に臨んだ。


「高原などで飼育されている乳牛のうち、白黒のホルスタインからは白い牛乳が出てきます! では、コーヒー牛乳が出てくる牛は何牛でしょう!」


 いやああああああああああああああーーーー!!!!!?


 ダメ!!!! それはダメ!!!!!!

 それ、小学校の時間違えて覚えてたヤツ!!!!!【注1】


 間違えて覚えたことで恥ずかしい思いをしたから予習してなくても答えは言えるけど、それ言えっての!!?


 助けを求めるようにマグの方を見やったが、彼は「コイツはまたバカなことを言い出したな」という顔でユウを見ていて、こちらの視線には気づかない。


 ど、どうしよう…!

 答えられるけど、答えたくない…!

 でも、これを逃したらまたクイズ地獄が始まってしまう…!

 実はそろそろ無邪気にクイズを出してくるユウに「この野郎!」ぐらいの気持ちを抱きつつあるんだよね。

 正直終わらせたい。

 でも、でも…!

 生き恥か、地獄か…選ばなくてはならないというのだろうか。


 …ッ!


 しばらく悩んだ。

 悩んだ挙句、口を開く。


「……ジャージー牛」


「おっ、すげーじゃんナツナ、大正解ーーー!!」


 大不正解じゃい!!!!!


「こら……ナツナで遊ぶな……」


 マグがユウの頭を小突く。


 はあ、はあ…。

 やった…長い戦いが終わった……


 見知ったやり取りをする二人を見ながら、もう二度と図書館に来たくないというトラウマがしっかりと自分の中に花開いているのを感じる。


「ま、今日のところは宿に帰るか。ほら、ナツナ」


 ユウが片手を差し出して、いつものように笑いかけてくる。


「クイズ正解のご褒美に、なんか好きなモン買ってやるよ! なにがいい?」


「! いちご!」


 ぱっと答えて、差し出された手を握る。


「おっ、じゃあナツナの今日の晩メシはそれにすっか」


 う、うれしい。

 もう今日ユウが私に行ってきた非道のすべてが許せる。

 そんな安い自分がちょっと好きだったりもする。


 うわーー、でもまだ、二日しか経ってないのか……異常に長く感じる。今日なんて100時間くらいに感じた。

 こんな調子でやっていけるんだろうか?

 悶々とした不安は、しかしイチゴを手土産に宿に帰った時に彼方へと吹っ飛んだ。


 ああああ!!!

 宿屋のおやじさんの顔、今日服を買ったお店のおじさんと同じだ!!?


 慌てて、酒場になっている宿の一階を見渡す。

 ワイワイと酒盛りをしている冒険者たちの顔も、おじさんとはまた違うパターンだったが、すべて同じ顔だった。


 え!? モブってこと!?

 顔のパターン、少なくない!!?

 不気味すぎる、ちょっと想像力なさすぎだろ私……!!


 改めて思うけど、この世界は一体何なんだろう?

 まるで、少ない材料をかき集めて、無理やり構築しているような感じがする。

 …かき集めてって、誰が? 何の目的で?

 いや、目的があったら嫌だな、だって私を恥ずかしがらせる目的ってことになるよね?

 私は別にお金持ちのお嬢様でもないし、さして頭もよくない、ただの一般人なのに。


 うーーーん…。

 まあ十中八九、夢だよね。


「ナツナ……どうした……?」


 ハッと我に返ると、そこは晩御飯のテーブルで、マグが怪訝そうに顔を覗き込んでくる。


「い、イチゴ、おいしくて!」


 慌てて言葉を返した。

 イチゴがおいしいのは本当だし、私の大好物で毎日でも食べられる。

 まあ毎日持ち込んでいたら店側の迷惑になるだろうから、明日の朝ご飯はオレンジジュースでも頼もうかな。

 でもちょっと、味がぼやぼやとしたものに感じるのはなぜだろう?


 ………


 あ、そうだ、聞いておかないと。


「おかね、て、どうやって、かせぐ?の?」


 スラスラと言葉を出さないように考え考え喋るので、ぎこちないカタコトになる。

 ぎこちないカタコトというのは当たり前なことのような気もするが…。


「ふくとか、ごはん、わたしも、しはらう。も…もうしわけ、ないから?」


 自分を指さして、ゆっくりとそう告げた。

 やっぱり社会人としては、その辺が気になるんだよね。


「バカ……子供がそんなこと……気にするな……」


「そうそう、ナツナは自分の記憶取り戻すことだけ考えてろって」


 案の定というか、二人から拒否された。

 確かに、私でも同じことを言うとは思うんだけど、あなた方の目の前にいるのは子供(偽)なんですよ?


「でも、まほう、つかえるよ! たぶん、なんでもできる…?」


 自分で言っておいて、自分の言葉に首をかしげながら食い下がると、マグが怒ったように口を塞いできた。


「迂闊に喋るな」


 低い声音でぴしゃりと言われた。

 しまった、そうだった、希少価値なんだっけ。


「 」


 ごめんなさい、と塞がれた口でもごもごと言うと、ため息とともに手を離された。

 そのやり取りを見て、ユウがしばらく考え込むような姿勢を取る。


「なあ、ツナとか可愛くねーか?」


「…??」


 びっくりした目を向ける。


「要するに、自分が部外者だって思ってっからそういう水臭い考えになっちまうんだろ? 流れで一緒に行動してた感じになっちまってたが、もうパーティー組んで持ちつ持たれつの関係にしとこうぜ! そのために、まずは愛称決めねーとな」


 あ、今の愛称だったのか。

 そうか、ナツナだから…いや、ツナってどうなの?

 どうしてもツナ缶が浮かぶんだけど、シリアスな場面になって「ツナァァァーーー!!」とか叫ばれたら笑ってしまいそうで困るわ!!


「ナツじゃダメなのか……?」


 マグが助け舟を出してくれたので、必死にそれに乗っかる。


「な、ナツのほうが、いいなっ…!」


「えーーー、俺はツナの響きの方が可愛いと思うけどなーー。ナツだとほら、インパク智が足りねーっつうの?」


 噴いた。

 いきなりボキャブるのやめて!!!?

 そうか、好きだったよね、ボキャブラリー天津飯、略してボキャ天。


 昨日からちょいちょい思っていたんだけど、ユウは雑談の中に私が小学生のころに流行っていたTV番組やギャグなどを挟んでくるので、たまに若年寄みたいになる。

 そして私はその懐かしさの不意打ちに笑ってしまう。

 でもここで笑ったら、なんでここで笑うんだ? みたいな目線をマグに向けられてしまいかねないため、必死に我慢しなければならない。

 そんな質問をされたらどう説明すればいいというのか!!


 インパク智って…。

 我慢我慢…!

 しかし笑ってはいけない場面というのは、どうして普段よりも笑いが込みあがってくるんだろう?

 正直、この話題には食い下がりたい。

 ツナ呼びは回避したい。

 したいけど、ユウが何言ってくるかが全く読めなくて、次に懐かしい単語が来たら絶対耐えられない!(例:「ナツのほうはシブ智かなあ?」)


「なっ、いいよな、ツナで!」


「………………ウン…」


 早く会話を切り上げるため、私は折れた。

 もう何の話をして愛称がどうのという流れになったのかも思い出せないくらいの疲労感。


 こうして私は彼らのパーティーの一員として迎えられ、長い長い二日目が終わった。




<つづく>

【注1:間違えて覚えたやつ】


 それは町内会の旅行の時のことだった。

バスガイドさん「右手をご覧ください。あの白黒の牛は、私たちがよく飲むミルクを出してくれるホルスタイン種です。そして左手側にはですね、この高原特有の飼育乳牛、ジャージー牛がいますね。あの茶色い牛からは、なんと、コーヒー牛乳がでてくるんです!」

(バスガイドさんの鉄板ジョークで、どっと笑いに満ちる車内)

 しかしそこに居合わせた子供は真に受けてしまったのだった。

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