距離感が違う
えっと…
目の前にいる二人が、ユウと、マグで?
私は混乱したことを隠す余裕もなく、片手を頭に添えてぐるぐると考え込んだ。
すると、マグの方が口を開く。
「ツナ、あれから3年経っている……戸惑うのも当然だ」
ああああ!!
なるほど、そういうことか!!
二人とも、二十歳くらいの大人の人になってるんだ!
だからパッと見で気づけなかったんだね。
そっかそっか、でもこうして改めて見ると、どうして気づかなかったんだろう? っていうくらい、ユウとマグだ。
ということは、私も15歳くらいになってるってこと?
うわあ、そりゃリアルに戻ってきたと勘違いするわけだよ。
高校以降、そこまでバリバリに背が伸びなかったからなあ。
「ごめんな、知らねー場所で目が覚めて怖かったんだろ? ずっと傍についててやりたかったんだが、なかなか24時間ってわけにもいかなくてさ。ツナは相変わらず、泣き虫だよなあ」
ユウが慈しむような目で、そっと私の目元をぬぐってくる。
私は何故かまた、ユウが知らない人のように見えて、どぎまぎした。
「あの、えっと……ハイドは、どうなったの?」
私がハイドの名を口にすると、二人とも露骨に嫌そうな顔をした。
「やっぱ久々でも聞きたくねー名前だな」
「ツナの口からというのが……特に腹が立つ……ツナの記憶に残したくもない」
うわあ、嫌われてるなあ。
まあ私もハイドが好きか嫌いかで言うと大嫌いだけどな。
「つっても、説明しとかねーと、もやもやするだろうからな。おいマグ、放り捨てた荷物拾って来いよ、場所移そうぜ。デューにも伝えてこねーとな」
「ああ、そうだな……」
マグが元来た道を戻っていく。
そっか、二人とも私の叫び声を聞いて、一も二もなく来てくれたんだ…。
ユウの方が足が速いから、先に合流できたんだね。
買い出しの帰りだったのかな。
なんだか、一気に安心感が来て、ふらりと足元がおぼつかない。
「ツナ…、バカだな、三年も寝たきりだったのに一気に動いたから……」
ユウが私を抱き上げる。
「寝てていいぜってサラっと言いたいんだけどな。正直、今はまたツナが寝顔に戻るのがすげー怖いよ。三年は流石に長かったからな…」
ユウが、軽薄な顔で、へらへらと笑う。
私は返事をしたかったが、眠気というか、疲労感がものすごい。
これは明日は筋肉痛だな、という感じの疲労感だ。
「………ユウ…なかないで…」
なんとか、それだけを喋って、結局私は目を閉じた。
ユウは、私の言葉に、とても驚いた顔をしていた。
「泣く…? 俺が…?」
呆けたような、ユウの声だけが、耳に届いた。
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「ツナ……ツナ、起きろ……頼む……!」
「ン……」
無理やり目を開けると、また私は天蓋付きのベッドの上に居て、マグが必死に私を揺さぶっていた。
「マグ…?」
「ああ………よかった………」
マグは、ほーっと安堵のため息をついて、私を抱きしめてくる。
「…!?」
三年前とは距離感が違いすぎて、私はかなり焦った。
そう、距離感!
ユウも妙に距離感が崩壊している気がする。
そうか、ずっと寝てたのがやっと起きたんだから、大袈裟にもなるよね…ごめんね、心配かけて。
「ほらな、ちゃんと起きただろ! ったく、マグは大袈裟なんだよ」
隣にいるユウはそう言いながらも、やはり安心したような顔をしている。
マグに解放されると、私は部屋を見渡した。
ユウと、マグと、…あ、さっきのメガネの、
「ハイドの、てした!?」
びくっとして身構えてしまった。
「こら、失敬だな、誰が手下かね誰が」
「ぶはっ…!!!」
ユウが溜まらず噴き出して、マグも肩を震わせてそっぽを向きながら、付き添い用の椅子に座りなおす。
「しかしなるほど、合点がいったよ。妙に怯えた顔をされたとは思ったが、まさか件の悪魔とやらの手下と思われていたとはね。つくづくナツナくんは私の計算の計り知れないところに居るようだ」
そう言ってメガネを指で上げる、その仕草にはとても見覚えがあった。
「ひょっとして、デュー?」
「ひょっとしなくても、すぐに思い当たってほしかったものだね、まったく」
デューはそう言いながらも、怒った顔はせず、少し困ったように笑うだけだった。
「あれ、じゃあひょっとして、ここって…」
「そう、フリュクティドールの私の屋敷だよ。もはや別荘というよりも本拠地のようになってしまっているがね」
「え……ユウ、マグ、たびは…?」
二人を振り返ると、彼らは顔を見合わせた後、ユウの方が口を開いた。
「あれから何があったか、そして俺たちはどうしていたか、全部俺から説明するよ」
「ツナさんツナさんっ! ボクも居ますよ! 撫でてもいいですよっ!」
ん? と思って声のした方を見ると、人をダメにするビーズクッションが、ぼよんぼよんと跳ねていた。
「え!? さっきのマモノ!?」
私の言葉に、またユウとマグが撃沈して笑いをこらえようと必死状態になった。
「ぷいぃいい! こんなに愛くるしいボクをつかまえて魔物とは失礼ですねっ、そんなだからツナさんはヤギさんなんですよ!」
なんでコイツはわざわざ捻ってロシアの地では悪口になるような言葉を言ってくるの?
「まって、サイズがおかしいよねアンタロー、どうしちゃったの!? まだちいさいから、すくいがあったのに!」
「ぷいぷいっ、今は救いがないくらいの可愛さということですか? ふふふ、照れますね?」
ユウとマグがさらに追い打ちをかけられたように噴き出していた。
デューはその様子を見て、二人に説明は無理だと思ったのだろう。
「フム、ではまずそのことは私から説明しようか。聞けば彼は精霊だそうじゃないか。流石の私も見るのは初めてでね。我が屋敷で丁重に扱わせていただくことになったわけだが……多少、丁重に扱いすぎてこうなったわけだ」
「ええ…? アンタロー、ごはん、たくさん、もらったの?」
「はいっ、キッチンの生ごみや、火にかけるべき重要書類などなど、上質な食べ物をたくさんいただきましたっ」
丁重…とは?
「フッ、しかし外見は成長しても、その幼い喋り方。ナツナくんは本当に三年前と何も変わっていないのだね……感慨深いよ」
デューは、温かな眼差しで私をじっと見てきた。
……。
えっ、なんかデューも距離感おかしくない?
こんな目を向けられるほど仲良かったっけ?
うーん、と考えてみる。
あ、そうか!
私も、ゲーセンとかで取ったぬいぐるみとか、やっぱり古株のヤツの方が思い入れが強くなるよ!
たぶんデューにとっては、この三年間、部屋の一室に珍しいぬいぐるみを飾ってるみたいな感覚だったんじゃないかな?
それは勝手に愛着とか沸くよね。
私が同じ立場でも、思い入れが深くなると思う。
「さて、ユウくん、マグくん、これ以上のことを私の口から話すかね? その場合、伝聞が多分に入ってしまうが」
「いや、大丈夫だ、悪い悪い、俺から説明するよ」
「ツナさんツナさん、撫でてもいいですよ!(ぼよんぼよん)」
「アンタロー邪魔すんなって!!?」
「ぷいぃいいい、ぷいぃいいいっ(ぼろぼろ、ぼろぼろっ)(不服の粒漏れ)」
粒が大きくなっててすごい邪魔!?
「仕方がない。アンタローくん、別室で私と共にティータイムにしよう。今日も私がこぼすスコーンのカスを絨毯の上で貪りつくすといい」
「ぷいぃいいっ♪」
丁重……とは?
アンタローはぷいぷいと上機嫌で、デューと一緒にドスンドスンと部屋を出て行く。
マグはやれやれと呟くだけで、もういつものことなんだろうな、という雰囲気を感じた。
ユウは改めて私に向き直り、
「デューも言ってたけど、俺も感慨深いな。ツナが起きたらこんな風に説明しようって、何度も何度も頭ん中でシミュレートしてきたことだからな、すげー上手に伝えられると思うぜ」
そう言ってユウは、冗談めかして笑った。
笑うと幼くなる感じは、間違いなくユウだった。
そうしてユウの、三年分の話が始まった。
<つづく>




