いつか、目が覚めたら
目が覚めた、というよりも、いきなり意識が戻った、という感じだった。
しばらくの間、ぼけーっと前を見つめる。
……天蓋?
むっくりと起き上がった。
その瞬間、ぱらぱらと花が零れてくる。
どこかで見たような、淡い青の花々。
私は大量の花の中に埋まっていた。
しかしここは間違いなくベッドの上で。
…?
あ、そうだ、刺されたんだっけ。
刺されたところ、どうなってるのかな。
そう思って腕を見ると、傷一つない……のだが、物凄く違和感を感じる腕だった。
まるで自分のものじゃないみたいな。
手を広げてみる。
でも、やっぱり自分のものみたいな…。
……違う!
あまりに驚いたので、一気にぼんやりが吹き飛んだ。
子供の身体じゃない、大きくなってる!?
急いで周囲に目を向ける。
背景の、ぼやぼやした感じがない!?
えっ、まさか、リアルに戻ってきたの!?
そんな、ユウとマグにお別れも言えてないのに!
ばっとベッドから降りて走ろうとしたが、天蓋についているカーテンの端に足を取られて、べしゃっと転がってしまった。
いてて…。
……今、白いものが視界の端に…?
目を向けると、私の背中から白い翼が生えていた。
動かそうと思うとバサッと動く。
あれ、どうなってるの!!?
そうか、そもそもリアルの私の部屋に天蓋付きのベッドなんてなかったよ!
あ、ひょっとして、あのままハイドに攫われて、ここは悪の王城とかそういう感じなのかな!?
えっでもこの成長した身体はいったい??
全然状況が分からない。
下を見ると、絨毯の上に何らかの塗料で魔法陣が書いてあり、それがベッドを囲むように施してあった。
ますます悪の住居っぽい!
に、逃げなきゃ…!
私は立ち上がり、よたよたと歩き出す。
ダメだ、小さい体に慣れたからなのか、全然うまく動けない。
扉に寄り掛かって開けてみると、あっさりと扉は開いて廊下に出ることができた。
よかった、鍵とかはかかってないみたい、今のうちに脱出だ…!
廊下の壁に凭れて歩きながら、既にこの廊下の広さに軽く絶望していた。
こ、この状態でこんなに歩くのはツラいなあ…!
しかも、はだしなので、床の冷たさが身に染みる。
ほら見てよ、花瓶が等間隔に設置してあるんだろうけど、その等間隔自体がもう、めちゃくちゃ距離があるよ。
それでもなんとか歩き続け、曲がり角を曲がろうとした時だ。
いきなりばったりと人に出くわした。
淡い紫の髪に、メガネをかけている、上品な服装をした、理知的な大人の男の人だ。
その男の人は私を見て、ものすごくびっくりしたように目を見開いていた。
ハイドの手下!?
私は慌てて身を翻し、反対方向へ駆け出した。
「ま、待ちたまえ!」
男の人が慌てて追いかけてくる気配がする。
こわい!
私は泣きそうになりながら、なんとか、手近な部屋に逃げ込んだ。
バタン!
ドアを閉めて、鍵をかける。
ドンドンドン!、と、すぐさま乱暴にノックする音が続いた。
急いで部屋の方を振り返ると、…大きな魔物がすやすやと寝ていた。
あの、人をダメにするビーズクッションの巨大なサイズ、というのがしっくりくるような、丸い魔物だった。
「ここを開けたまえ!」
閉めた扉は、手下らしき人が必死に叩いているので、先に進む道は一つしかない。
私は魔物を起こさないように、そろそろと部屋を横切り、窓から外に飛び出した。
しかし外だと思っていたのは中庭で、しかも出た場所は一階なので、急いで飛んで逃げるような幅がない。
たぶん私の未熟な翼の扱い方だと、壁にぶつかって気絶するのがオチだ。
仕方なく私は中庭を抜けて、適当な扉からまた廊下に入り、なんとか出口を探して走り出す。
こわい、捕まったら何をされるんだろう!
緊張と恐怖から、ボロボロと涙が出てくる。
「う…っ」
声を出してはダメなのに、どうしても、私は、名を呼ばずにはいられなかった。
「ユウーーーーー、マグーーーッ! どこーーーーっ!」
もう野となれ山となれだ。
ぎゅっと目をつむって駆け抜ける。
この不安が一時でも紛れるなら、大声を叫ぶことを勇気にしたって、誰も文句は言わないはずだ。
「ひゃあ!!?」
その瞬間、いきなり誰かにドスンとぶつかった。
しかし痛くない。腕の中にしっかりと受け止められていたらしい。
「ツナ!!!?」
え? と思って顔を上げる。
そこには、夕陽色の髪を長いみつあみにした、精悍な顔立ちの男の人が、やはり先ほどの人と同じように、ものすごく驚いた顔で私を見てくる。
私もつられたようにびっくりして、フリーズしてしまった。
「「………」」
二人でポカンと見つめ合い、しばらく沈黙が降りる。
「ツナ、よかった…!!!」
いきなりその人は私を抱きしめてきた。
「え? え!?」
「ツナ!!」
私が狼狽していると、また一人、銀に近い白髪の男の人が走ってきた。
品のいいグレイのマフラーをつけていて、妙に、落ち着いた大人の色気を感じるような人だった。
「ツナ……目が覚めたんだな……!」
その白髪の人は急いで駆け寄ってくると、万感の思いを込めて、私の名を呼んでくる。
「え……ユウ、と、マグ……?」
頭の中にハテナがいっぱいになる。
「そうだよ、まさか忘れたとか言わねーよな?」
ユウは本当に嬉しそうに、抱きしめていた私を解放し、マグと一緒に私を見てくる。
随分と、距離の近い所に顔がある。
と思ったら、私の背が伸びたからで、冷静に考え直したら、やはり20センチ以上は身長差がある。
「え……と……ええええ!?」
二人とも、大人の男の人になってる!?
ど、どうなってるの!?
<第一章、小学生編・完>




