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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
33/159

菓子菓子パニック(上)

「ぷいぃいいっ、昨日のご褒美のハチミツ飴、気に入りました!」


 今日が、フリュクティドールで過ごす最後の日ということで、マグが買い出しのリクエストを聞いたところ、アンタローは嬉しそうにそう言った。


「あれにくらべたら、先日つまみ食いさせていただいた、ひんやりキラキラなんてクソみたいなものですねっ」


「なんだと……アンタロー、宝石を食った上に……クソだと?」


 マグがちょっとピリッとしている。


「まあまあ、済んだことは仕方ねーって。幸い今んとこ懐は潤ってるわけだしな、結果オーライだろ、な!」


 即座にユウがなだめた。

 マグはお金におおらかなのか、そうでないのか、どっちなんだろう。


「それにしても、そういやアンタローには今までまともな食いモンを食わせてなかったな、一応味覚はあるのか?」


「ぷいぷいっ、失礼ですねユウさんっ、ボクほどのグルメは他に居ませんよ!」


「グルメなあ…。俺は久々に駄菓子とか食いてーなあ、なあマグ、買ってきていいか?」


「300エーン……までだぞ……ほら」


 遠足のおやつか!?


 ユウは嬉しそうにマグから300エーンを貰っている。

 私がその様子を見ていると、マグは勝手に私のポシェットを取り上げ、中の財布に小銭を流し込んだ。


「ほら、ツナも……今日はユウと……駄菓子屋に行ってきたらいい……オレは冒険用品とか……ハチミツ飴を買ってくる……あれは美味かったからな……オレも欲しい」


「ぷいぃいいっ!」


 マグの言葉に、アンタローのテンションが上がった。


「だがしって…」


 この世界にあるの? という意味で質問しようとしたのだが、勝手に先読みしたユウが、すぐに返事をしてきた。


「そうか、ツナは記憶がねーからわかんないよな、普段のメシとかよりもよっぽど美味くて腹が膨れる感じのお菓子ってイメージでいいぜ!」


「おい、お前のことは……どうでもいいが……晩飯の前に……ツナに駄菓子を……食わせるなよ……? ただでさえ小食……なんだからな」


 マグがユウに釘を刺してきた。


「へいへい、わかってるよ。アンタロー、留守番が続くのも退屈だろうし、今日は俺らと一緒に行くか?」


「ぷぅいいいっ、ではボクの完璧なぬいぐるみのふりを見せてあげますよっ!」


 アンタローはぴょんと跳ねて、私の腕の中にすっぽりと入ってきた。

 私はアンタローの毛並みをよしよしと撫でて、


「アンタローにも、おかし、えらばせて、あげるからね」


「(ぱぁあああっ)(もろもろ、もろもろっ)(喜びの粒漏れ)」


「言っとくけど外で粒は出すなよ、フォローするの俺なんだからな!?」


「ほら……外までは一緒なんだから……行くぞ」


 マグはさっさと部屋を出て行きながら、窓の外に目を向ける。


「今日は曇りか……雨が降る前に……終わるといいが」


「俺は晴れ男だからそのうち晴れるって!」


 と言いながら、ユウがマグを追いかける。


 私は急いで帽子掛けからキャスケット帽を取り、そして頭上に掲げた。


「きょうで、さいごかー。さいしゅうびって、いつも、なごりおしいね」


 なんとなく独り言を言って、帽子を被るのだった。



-------------------------------------------



 うわあ、本当に駄菓子屋だ…。


 さすが私のクソファンタジー。普通にリアルの駄菓子屋が、街のはずれの方にあった。


 ちょうど子供たちの塊がわーっと通りすぎていき、私とユウは入れ違いで駄菓子屋に入った。


「ちわーっす」


 ユウは外に置いてあるクーラーボックスのアイスを興味深げに見ながら、暖簾をくぐってガラガラと扉を開け、店内に入っていく。


 店内には、老眼鏡をかけた気難しそうなおじいさんが居て、こちらをちらりと一瞥しただけで、後は黙って新聞に目を落として読み始める。

 純正のファンタジーが好きな人が見たら、惑乱する光景が満載だった。

 いや、もはや現代っ子にとっては、こういった光景はある意味ファンタジーかもしれないが。


 …あ、そうか。

 今思い出したけど、この頃、近所にある駄菓子屋さんが閉まっちゃったんだよね。

 ひょっとして小学生の私は、少しでも記憶に残したかったのかな?


「ツナ、300エーンまでだからな、おもちゃでもいいからな!」


 ユウがめちゃくちゃ楽しそうに、小さいカゴを手に取って、早速スーパーボールとかの物色を始めている。


 あ、そっか、私はマグに武器を持つのを禁止されているけど、ひょっとしてこういったオモチャならいけるんじゃないか?


 けんだま……は、紐の長さが足りないな。

 ヨーヨー……は、実はヘタクソなんだよね、前衛のユウに当たっちゃう。

 うーん。

 あ、これ、水鉄砲、いいなあ。

 これ中に聖水を入れてもらったら、ハイドとか追い払えるんじゃない?

 じゃあ、水鉄砲と、スーパーボールで…。

 あ、もうほとんど300エーン近いよ。

 やっぱりオモチャは高いなー…。


 うわあ、ねりけしとか、匂い玉とか、さらにはロケット鉛筆もある。

 これは文房具では?

 私は本当に世界観が適当だよなー…。


 あ、花火セットがある!

 花火かー、そういえば色々街を見て回ったけど、お祭りの時期は軒並み外してるんだよね。

 花火セット…欲しいけど、高いなー…。

 うっ、バラ売りがあるけど、そうなると取捨選択しなきゃダメか、難しいなーー。


「ツナさん、ツナさんっ」


 悩む私に、アンタローがこそっと声をかけてきた。


「どれを買うかでお悩みですね? お任せくださいっ。いいですか? ボクの口の中にこっそりと、欲しいものをすべて入れてください。ボクは良い子ですから、宿まで飲み込まずに我慢、できますよ?」


「まってそれのどこがよいこなの?」


「詐欺と同じです。バレなければ、犯罪にはなりませんよ?」


 なんでこの精霊は私に執拗に犯罪行為を薦めてくるの?


「アンタロー、にんげんはね、こころのなかに、それぞれのひとの、かみさまが、いるんだよ。だから、じぶんのやることは、ぜんぶ、じぶんだけの、かみさまに、みられてしまって、ごまかせないの。わるいことしたら、おこるかみさまと、おこらないかみさまが、いるけど、わたしの、かみさまは、ダメっていう、ひとだから、わるいこと、できないの」


 私はアンタローの頭を軽くぺしっとはたいて、お仕置きした。


「ぷいいい…人間は大変ですね」


 アンタローはしゅんとしている。

 そうか、よくよく考えれば、貨幣価値なんて人間が勝手に決めたことだし、アンタローは生まれたばかりであんまり善悪が分かってないのかな?


「……ほら、アンタロー、すきなの、えらんで、いいよ。かうからね」


「ぷぃいいい! あれと、あれと、あれが欲しいですっ!」


 もう買うものをとっくに決めていた速さで、アンタローは即決した。


 結果的に、私は水鉄砲とスーパーボールをあきらめて、アンタローのために、フーセンガムをたくさんと、口の中でパチパチするキャンディと、しゅわしゅわの瓶ラムネを籠に入れた。


「おーツナ、もう決まったのか?」


 狭い店内なので、ユウがすぐに反応した。


「うんっ、あのね、アンタローが、ほしいって」


「ええ? ツナの分は?」


「ン……。たぶん、これぜんぶで、300エーン、いくから」


「…そっか。んじゃオレの駄菓子分けてやるからな」


 ユウは優しく笑って、私の頭を撫でてきた。

 私はありがとと言うと、おじいさんのところへお会計に行く。


「あれっ」


 財布を開けてみてびっくりした。

 明らかに600エーン以上が入っている。

 ひょっとして、アンタローの分も入れてくれた?


 戸惑いながらお会計を済ませると、次のユウは上限に引っかかっていたどころか、580エーンという、欲望のままに行動した結果が出ていた。


「…ユウ、はい、これ……たぶんマグ、ユウがオーバーするって、わかってた、みたい」


 絶望に暮れた顔のユウへ、私は自分の財布を差し出した。


「うわ、それはそれで悔しいが…! まあ背に腹はかえられねーか、サンキューツナ!」


 無事にユウの会計も済んだ。

 お店のおじいさんは、値段を告げる以外の何も喋らず、終始無言で商品を紙袋へ詰めて、私とユウに手渡してきた。


「んじゃ、外のベンチ借りるぜ、じいさん!」


 ユウはほくほくと店を出て行き、私は遅れて、おじいさんに頭を下げた。


「ありがとうございました」


 顔を上げると同時に、おじいさんは私の頭を帽子越しにポンと一度、優しく叩くように撫でてきた。

 すぐにおじいさんは、何事もなかったかのように、新聞に視線を落とす。


「………」


 私は自分の頭を手で触り、おじいさんの手の感触が残っている余韻を味わうと、にこにこして店を出て行った。


「ほらツナ、あーん」


 店を出ると、ユウは既にベンチに座って買ったものを物色しており、手に持った青いアイスキャンディーの片方を、私の方に差し出してきた。

 あ、真ん中で二つに割るダブルタイプの、ソーダのヤツだ。


「あーん」


 口で受け取って、アンタローと紙袋をベンチに置く。

 よいしょとユウの隣に腰かけてから、アイスキャンディーの棒を手に取り、一度口から離した。


「ひんやり、おいしいね! ユウ、いつのまに、アイス、かってたの?」


「へへっ、気づいてねーと思った、ツナ夢中でオモチャ見てたよな」


「うん、はなび、とか、たのしそうだなって」


「あ~…次に行く街の話ってしたっけ?」


「え? ううん、まだだよ」


「そっかそっか、ツナは夜が早いもんなー。フリメールっつう街なんだが、このフリュクティドールの山…えー、名前なんだっけ、まあこの山を抜ければ別領地でさ。北国に近い感じの場所なんだが、このペースでいけば、祭りまでにたどり着けるんじゃないかって、マグが言ってて」


「おまつり!」


「俺も見たことねーから断言はできねえが、そこで花火とか見られるかもな」


 ユウは私の倍以上のペースで、シャクシャクとアイスキャンディーを食べきって、すぐに別のお菓子の袋に手を伸ばしている。


「わあ、アンタロー、たのしみだね!」


 アンタローに目を向けると、アンタローは既に紙袋を漁って、中身のパチパチするキャンディを袋ごと口に入れていた。


「し、しびびびってきて、刺激的です、たまりませんね…っ」


 アンタローは目を横線にして、パチパチと刺激的な自分の口の中の世界に浸っている。


「もー、アンタロー、またはなし、きいてない」


 私は拗ねたようにアイスキャンディーをシャクシャクする。

 そして習慣で、棒の先っぽを見てしまう。無地だった。

 そうだった、当たり棒つきのやつと、そうじゃないやつがあるんだった。


「ほらほらツナ見ろよ、じゃーん! モンスター!」


 ユウは手の指に、三角にとんがっているコーンのお菓子をはめ込んで、嬉々として見せてくる。


 小学生か!?


「もー、ユウ、ぎょうぎ、わるい!」


 私はアイスを食べ終わり、ゴミをまとめる用の紙袋に入れた。


「えーー、いいじゃん、どうやって食べようが俺の勝手だろー。ほら、ツナも遠慮せずに、好きなお菓子選べよ」


 手のふさがっているユウが、肘で自分の買ったものを示してくる。


「ン……じゃあ、これ、もらう。マグに、おこられるから、やどに、かえってから、たべるね」


 私は、ビスケット2枚で白いクリームを挟んでいる、小さいお菓子を貰った。


「それだけでいいのか? ツナは遠慮しいだよな」


「ユウが、おおぐいな、だけだよ!」


「まあ確かに、明日冒険地で食えるって思や、俺も抑えめにして食っとくか」


 ユウは開封した残りのお菓子をポリポリやりながら、どれを明日まで取っておこうかと思案を始めた。


 アンタローの方に目を向けると、ラムネを瓶ごとバリバリ食して、「このシュワシュワ、たまりませんねっ」と独り言を言っている。


 私は急にやることがなくなって、ほけっとした顔で、向かいにある街路樹を見上げていた。

 晴れていたら、木漏れ日がキレイだったろうなあ。


「……お、まだいた……」


 聞き覚えのある声がして視線を下ろすと、買い物袋を抱えたマグが居た。


「おー、マグじゃん、買い物終わったのか?」


「いや……荷物がまだ増えそうだったから……一旦宿に帰ろうと思って……ついでに見に来た」


「ちょうどいいや、マグも食うか?」


 私とユウは少し席をずれて、マグが座れるスペースを作る。


「もらう……チョコ食いたい」


 マグは空いたスペースに座ると、自分の紙袋を膝の上に置き、ユウの買ったものの中から、カラーストーンチョコを抜き取る。


「お前それ好きだよな」


「ユウは……甘いものがそんなに……好きじゃない割に……これ買うよな」


「なんか、たまに、むしょーに食いたくなるんだよ。ぐにゃぐにゃしたやつよりも、ポリポリしたやつが好きだし」


 マグは、「まあわかる」と頷きながら、カラーストーンチョコをポリポリと口に運ぶ。


「そういや、ツナがビスケットはマグの許可を得てから食うってさ」


「……?」


 マグは私の方を見てきて、手に持ったクリームサンドのビスケットに目を向ける。


「そうだな……今日だけは特別に……これがオレたちの昼飯ってことで……行くか。食っていいぞ……ツナ」


「ほんと? ありがと、マグ!」


「えー、俺こんだけじゃ足りねーんだけど」


「お前はだいたい常に……足りてないだろ……いろいろと」


 二人が話を弾ませている間に、私はお菓子の封を開ける。

 まず、ビスケットとビスケットを、一枚ずつになるように分解した。

 そして片方のビスケットをスプーンにするように、クリームをすくって、絶対に片側のビスケットにクリームが残らないようにする。


 きれいに剥がれたら、ビスケットだけの方を先に食べる。


「…♪」


 そして完全にキレイに分解できた満足感と共に、残りのクリームが全部乗っている、とっておきのほうのビスケットを食べた。


「!?」


 視線を感じて隣を見ると、ユウとマグが私の手元をじーっと見ていた。

 しまった、いつもの癖でやっちゃった!


「……ぶはっ! ツナさぁぁん、それ、お行儀が悪いんじゃないんですかあああ???」


 ユウが鬼の首を取ったような顔でからかってきた。

 マグは肩を震わせながら、私から顔を背けている。


「ち、ちがうよ、いまのは、たべかたが、わからなかった、からだよ!」


 顔を真っ赤にして慌てて言う私の背中に、…? 妙な違和感を感じて振り返る。


「ぷいぃいいいいっ、ツナさんツナさん、見てください!」


 アンタローがフーセンガムを一気食いして、物凄く大きなフーセンを口からぷーっと出してきた。

 あれっ、今の違和感って、アンタローだったのかな?


「うわ、すげーでかいのができたな、アンタロー!!」


「おい、アンタロー……あまり目立つのは……やめろ」


 私たちはビスケットのことも忘れてアンタローに大わらわだ。


「ぷいぃいいっ(もろもろ、もろもろっ)」


 アンタローのテンションと共に、口の中から粒が溢れ、そしてフーセンの中に粒が入り込んでいく。


「(もろもろっ、もろろっ)」


 魔力の粒がフーセンの中で気化していく。

 すると、アンタローが口のフーセンにだらりとぶら下がるように、ふわりと浮き上がった。


 ええ!? 魔力ってヘリウムみたいに軽いってこと!?

 いや、そんな馬鹿な!?


「……!?(もろろろっ)(驚きの粒漏れ)」


「バカ、アンタロー!!?」


 ユウが叫ぶと同時、ただでさえ高所にある街なので、風が吹き抜けていき、アンタローをふわふわと攫って行った。

 私たちは慌ててゴミごと荷物を持ち、アンタローを追いかけていく。


「アンタロー、フーセン、ごっくん、して!」


「……っ、……っ!!」


 私が叫んでも、アンタローはテンパってもはや喋れなくなっており、フワフワと宙を漂うだけだった。

 アンタローの頭の横に、ぴょぴょぴょっと、困ったときに出る汗みたいなものが見える。

 アンタローは、風に流されて街の裏側の方へ進んでいった。


「まずい、あっちは……崖が多い……!」


「そんな!」


 こんなことで何かあったら、そんなバカことってある!?




<つづく>



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