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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
32/159

魔王と魔王とピクニック

「うわあ、かぜ、つよーーい!」


 展望台にたどり着いて、一番の感想はそれだった。


 マグのマフラーが垂れる暇もなく、常に風にはためき続ける。


 展望台というイメージから、整地されて望遠鏡が設置されている観光地のイメージを持っていたのだが、実際は全然違った。

 山頂と言うにふさわしい緑の絨毯に、色とりどりの花が揺れている。

 妖精が飛んでいそうな感じ、というとわかりやすいのかもしれない。

 流れる雲ですら、絵の中の一部のように美しい。

 遠くの景色を絶景と言うのかと思っていたが、展望台の様相も含めての絶景だった。


「おー、こりゃいいや、俺高いところ好きなんだよなあ!」


 ユウが嬉しそうに崖の端に向けて歩いていく。

 マグは、抱き上げていた私を地面に降ろした。


「ツナ……バカにつられて……あんまり端の方には……行くなよ」


「う、うん。たかいところから、とおく、みるのは、すきだけど、したのほう、みるのは、おなかのとこが、キュっとなって、こわい」


「……そうか」


 マグが微笑まし気な顔を向けてくる。


 私は早速、花畑の方に駆け寄って、四つん這いになるような感じで花々を覗き込んだ。


「あ、リンリンぐさ!」


 知っている植物があって嬉しくなる。

 というか、リアルで見るような植物しかないような気がする。

 オオイヌノフグリとか、タンポポとか。


「ナズナ……だな。ツナと名前……似てるな」


 マグが後ろからのぞき込んでくる。

 えーー、じゃあもし私がナズナって名前だったら、ユウは嬉々として「よし、愛称はズナ!」とか言ってきてたのかな、言いそう……ナツナでよかった。


 しかしこの光景、漫画とかだと花冠を作る場面だよねえ。

 でも私は、憧れはあれど、残念ながら作り方を知らない。


「ツナは……どういう花が好きなんだ……?」


「あおいはなが、すきだよ! デルフィニウムとかね、かわいい。えっと…ほら、これ!」


 思わずマグに見せるため、ぶちっと摘んでしまった。


「!」


 しまった、と思って慌てていると、マグはそれを見抜いたように笑い、私の手からそっとデルフィニウムを取り上げると、そのまま髪に挿してきた。


「似合うぞ……」


「う……、……ありがと」


 マグは満足そうに微笑んでくる。

 私は少し恥ずかしくなって、焦ったように視線を他に移した。


 どうしよう…、そうだ、あれはあるかな。


 緑の多い部分の方にもたもたと移動してみる。


「…あった、クローバー!」


 そこから夢中になっての四つ葉探しが始まった。

 昔から好きなんだよねえ、こういうみみっちい作業。

 この状況の何がいいって、虫が居ないってことだ。

 山頂だからなのか、小説の中だからなのかはわからないが。


「ツナ、来てみろよ、メッシドールとかが見えるぞ!」


「んーー、あとでーー」


 夢中になっている私はつい、ユウに気のない返事を返してしまった。

 マグは私のクローバー探しを手伝おうとして身をかがめた瞬間、ユウからお呼びがかかった。


「ちぇ、なんだよ、じゃあマグでいいや、なあマグ!」


「……めんどくさいな」


 と言いながら、なんだかんだでマグはユウの方に歩いていって、あーだこーだと話をしている。


 なんだかこういうのんびりした時間って、久しぶりかも。


「諸君、待たせたな!」


 と思った瞬間にクラッシャーが来た。


「デュー、はやかったね?」


 暗にもうちょっと遅くてもよかったんだよ? という気持ちを込めたのだが、むしろデューは自慢げに胸を張った。


「フッ、当然だろう。私とエクスカリ馬ーは人馬一体。この程度の距離、どうということはない」


 エクスカリ馬ーを見ると、さらに荷物が増えており、ぜーぜーと息が荒い。


「デュー、えらいたくさん買い込んだんだな、…人形だよな?」


 ユウとマグが、それなりの興味を持ってデューに近づいていくので、私も仕方なく立ち上がり、合流を果たした。


「見るかい? ユウくん。ではまずこれを持ちたまえ」


 デューは馬に背負わせていた布状の大きなものを、ユウにドサッと持たせた。

 ユウは戸惑いがちに、畳まれていたそれを広げていく。


「なんだこれ……絨毯!?」


「うちから持参した。そこに敷いてくれたまえ。ナツナくんに地べたを味合わせる気かい?」


 エ、エクスカリ馬ー! こんなしょうもないものを持たされて…!(滂沱)


「ちぇ、なんだよ、ほらマグ手伝えよ」


「……めんどくさいな」


 二人して雑に絨毯を広げていった。


「さ、レディ、くつろぐには少々安物だが、遠慮なく座ってくれたまえ」


 デューは本当に冒険者の生活ができるの??

 無理じゃない?


 とか思っていると、デューは大きな布で風呂敷状に包んだ子供サイズくらいのものを、でーんと絨毯の中央に置いた。


「なになに?」


 純粋にそれが気になったので、三人でそれに寄って行く。

 デューはフフンと勿体つけるように、布の結び目を解いた。


「これは……まさか……」


「デュー、お前…買い占めたのか?」


 布の中には、人形だけにとどまらず、あらゆる雑貨やオモチャが所狭しと雪崩れてきた。

 絨毯の中央に、山のように盛り上がる物の群れ。


「バカを言うな、買い占めなどと下品なことを私がやるわけないだろう。何が必要かがわからなかったからな、せいぜい店の品の半分ほどを買い取っただけにすぎん」


「いや、それも結構すごいことだぞ」


「そんなことはどうでもいいだろう。さあ、やるぞ、人形遊びを! それとも先に弁当にするかい?」


 デューが、人生を満喫していますという顔で生き生きしている。


「若干早いが……メシが先だな。食事をしながら……人形遊びというものの……計画を練らなければ……ならないだろう」


「そうだよなー、何せ誰もやったことがない遊びだし」


 マグの言葉に、ユウが頷いた。


「フッ、そんなもの、年長者としてはナツナくんの采配に身をゆだねるのも一興だろう。ナツナ君の好きなように遊びたまえ、我々はそれに付き従おう」


「えっ、わたし? いいの…?」


 実は人形遊びって、人生で一度しかやったことがないので、かなり嬉しい申し出だ。


「そうだな……ツナがやりたいように……やればいい」


 マグがほんのりと微笑みながら頷いた。


「ではユウくん、これを」


 デューが、弁当の入っている巨大な包みをユウに手渡す。


「俺に用意しろって!? ったく、俺は召し使いじゃねーんだぞ!」


「? 何を言っている、ユウくんは私の大事な友人だ」


 この人フリーダムだなあ…。


 ともあれ、ユウがぶつくさ言いながらお弁当の重箱を広げている間に、私は人形の…というか、雑貨の山と向き合って、手を突っ込む。


 人形と言っても、可動式のデッサン人形という感じなんだね。

 髪の毛がないのは残念だけど、スカーフとかで服の代わりにできるかも。

 で、毛糸と、口紅と…


 私は雑貨の山を発掘していき、使えそうなものを次々と選り分けていく。

 

 一仕事終えたという感じで三人の方を振り向くと、マグが丁寧に入れ替えた重箱の中身を差し出してきた。


「ほらツナ……果物と野菜だけ……入れておいた」


「わあ、ありがとう!」


 マグの母親度がどんどん上がっている気がする。


「ナツナくん、遊び方の目途は立ったのかね?」


 一方デューの方は、亭主関白よろしく、ドーンと座って構えている。


「うん! たぶん、やりかた、あってると、おもうよ!」


 私は自信満々に頷いて、いただきますをして、食べ始める。


「へええ、今のうちに俺らの方でなんか準備しておくことってあるのか?」


「え? えっと…じゃあ、にんぎょうの、せってい、かんがえて!」


「設定とは……?」


「あのね、つかえる、わざとか、ものがたりに、でてくる、そうびとか?」


 デューは興味津々にメガネを押し上げる。


「面白そうだな。では私は自分をそのまま出そう」


「あーじゃあ俺もそうすっかな、その方がやりやすそうだし」


「デューは、つかれてる、かんじだけど、おひるね、しなくて、だいじょうぶ?」


「何を言うのかね、ナツナくん。まだまだ昼はこれからだろう」


「これからだから……提案したんだろう……」


 まあ、心配しなくてもよさそうだね、このテンションだと。


 なんだかんだで、わいわい言いながらの昼食を過ごすことができた。

 よーし、人形遊び、がんばるぞー。



-------------------------------------------



 私はデッサン人形にスカーフを巻き付け、ドレスのように仕立てた。


「じゃーん、おひめさま!」


「おー、なるほど、装飾してやればそれっぽくなるのか」


 ユウが思ったよりも真剣な顔をして、自分のデッサン人形と見比べている。


「でねでね、これを、けいとで、ぐるぐるまき、にすると…」


 私は続けて、デッサン人形にキツイ戒めを施した。


「じゃーん、とらわれの、おひめさま! これね、ひとじち、なんだよ!」


「思ったよりも……アグレッシブなんだな……人形遊びは」


 マグが感心したように言う。


「まだまだ、これからだよ! えい!」


 私はドスっとお姫様の胸に千枚通しを突き立てる。

 そして口紅で、ドレスを塗って血を演出する。


「これね、まおうの、のろい! ゆうがたに、なるまでに、この、はりを、むねから、ぬかないと、ひめは、くるしんで、しぬ」


「なるほど、ストーリーがあるのか。庶民の遊びとはいえ、侮れんな」


 デューは、まるで勉強をするように熱心に説明を聞いていた。


「だれが、まおう、やる?」


 私は首を傾けて、三人の顔を順繰りに見ていく。

 ユウが喜び勇んで手を上げた。


「はいはい! 面白そうだ、俺魔王やる! ヒールってかっけえよな!!」


「じゃあ、ユウがまおうね! ゆうしゃは?」


「デュー……お前、英雄譚……好きだろ……勇者をやれ」


「いいのかい? まあ、そこまで言うならやってやらないこともないな、フッ」


 ユウとデューは、いそいそと雑貨の山の中から、剣の代わりになる物やマントの代わりになるものを探していく。


「マグは、なにやりたい?」


「オレは……喋るのがあまり……得意ではないから……」


 しまった、と私が思いかけたとき、マグはまだまだ言葉を続けた。


「だから勇者が……幼い頃に拾った犬が……実は狼で……喋れないが……勇者と心を通わせる……相棒的な立ち位置で……冒険の手助けをする。……額には十字の傷がある……毛並みは青に近い銀色……それがオレ」


 かつてないほどマグが設定を練ってきた。

 実はノリノリだね?


「ツナは何をやるんだ?」


 ユウが黒いハンカチをマントのようにデッサン人形に被せながら聞いてきた。


「わたしはね、しんこうやく、をやるんだよ!」


「ナレーターみたいなものか。確かに対立図がある以上、中立存在は必須かもしれんな。よくできている」


 デューがペーパーナイフの剣をデッサン人形に持たせながら相槌を撃つ。


 マグは無言でデッサン人形を四つん這いにして、もこもこのファーの帽子を身体に纏わせている。


「よーし、じゃあ、はじめるよ! いまはね、ゆうしゃたちが、まおうじょうに、のりこんだ、ところ! はい、ユウ、セリフ!」


「来たか勇者よ、姫を救いに。くっくっく、はーっはっはっは! 面白い、勇者よ、その扉を絶望の扉と知りながらなお、開く勇気はあるか!」


「バーン!(人形が扉を開ける仕草) 愚かなり魔王、ここがお前の城などと世迷事よ! この私がここをお前の墓場とすることで、その濁った目を覚まさせてやろう!」


「二人とも……魔王みたいなセリフだな……」


 私にしか聞こえないような小声で、隣のマグが呟く。


「命乞いとはもっと下手に出るものだぞ? はーっはっはっはっは!!」


「じゃあユウのターン、はいサイコロ。これをふって、1~3か、4~6かで、てんかいが、かわるよ!」


   ぽと、ころころ。


「1がでたので、まおうの、こうげきはね、けんせいで、おわるよ!」


「はーっはっはっはっは!! 苦しめ勇者!貴様らの苦しみが我の最高の馳走よ!」


「フッ、この程度か、魔王とは名ばかりの、魂の肥えたブタめ! 万事おそるるに足らず! ああ麗しの我が姫君、いましばらくの辛抱です(髪をかき上げるデュー)」


「つぎは、すばやい、マグのターンだよ! はいサイコロ」


   ぽと、ころころ。


「4がでたので、まおうにいちげき、ダメージだよ! はいユウ、くちべにで、にんぎょうに、いっこ、きず、つくってね。6コ、きずが、ついたら、まけだよ(口紅を渡す)」


「わんわん……勇者が……魂の肥えたブタ、とか言うのはどうなんだ……」


 鳴き声よりもはるかに小さな声でマグが再び呟いた。

 笑いそうになりながらも、私は進行を続ける。


「つぎは、デューの、こうげきだよ、はいサイコロ」


   ぽと、ころころ。


「5がでたので、まおうにいちげき、ダメージだよ!」


「………っ。そうまでして救う世界とはなんだ!(2対1の不利を今更思い知ったのか、早くも後半戦のセリフに入るユウ)」


   ぽと、ころころ。


「3なので、ユウのこうげきは、デューにふせがれるよ!」


「簡単なこと、姫が信じる世界を、私も信じるだけ。今こそ決着をつける時だな、魔王! この勇者に勝とうなどと、すぐにそのミジンコのごときちっぽけな希望を打ち崩してやる!」


   ぽと、ころころ。


「4がでたので、まおうにいちげき、ダメージだよ!」


「………(なにか物言いたげなマグ)」


「はーっはっはっはっは!! はーっはっはっはっは!!(やけくそ気味のユウ)」




 その後もユウのサイコロの引きが悪すぎて、ユウはあっという間に負けた。


「くっそおおおおお…!!!!」


 がくりとその場に項垂れて、悔しげに絨毯をたたくユウ。


「ユウ、6がでたら、まおうはね、そくしまほうが、つかえたのに…」


「お前は昔から……こういうの……弱いよな」


「だが最高に面白かったな。私とマグくんの友情パワーの勝利と言ったところだろう」


「オレとデューの間で……一切の会話がなかった……ように思うが?」


「ずりーー、お前らずりーぞ!! 俺だって勝っていい気分になりたかったのに!! マグ、次は魔王の側近やれよ!」


「ならば今度はこの私が魔王をやる番だね。勇者はユウくんに譲ろう」


「ずりーー!!!」


「というかデューは……あの勇者像で……よかったのか……?」


「何を言うのかねマグくん。貴族たるもの、こういう場面でもないと他者を口汚く罵るなどという品のない行為はできないんだぞ」


「一応……あの勇者の異常性は……自覚していたんだな?」


「俺もう二度とやらねーからな、人形遊び!」


「バトルのない……人形遊びなら……やってもいいんじゃないか……?」


 ユウに首を傾けるマグへ、今度は私が首を傾げた。


「えっ、バトルのない、にんぎょうあそび、なんて、あるの??」


「……。……その気になれば……いくらでもありそうな……気はするが」


「君たち、何を終了ムードになっているんだ、まだ終わってないだろう?」


 デューが口をはさんできて、ついに人形遊びができた感動の余韻に浸っている私の方を見てきた。


「さあ、ナツナくん、いや、我が姫君。続きをいたしましょう? ここからが本番ですよ」


「えっ?」


 予想外の展開に、私はぱちくりと瞬きをして、デューを見る。

 デューは完全に冒険譚に浸りきった眼差しで私を見つめ、そっと手を取ってきた。


「姫様、ご無事で何よりでした。そのか細い身にあのような残虐極まりない呪いを受けて……おいたわしい。しかしもう安心です。この私が居る限り、今後は御身に傷一つつくことはないでしょう」


「………(どうしよう)」


「どうか此度の戦勝を祝して、私めに永久の祝福をいただけないでしょうか?」


「…しゅくふく、とは?」


「この額に、口づけを―――」


   ゴリッ!


 デューの言葉と同時に、彼の額に銃口の口づけが行われた。

 マグが銃を突き付けながら、半眼でデューをにらみつけている。


「勇者様……どうやら呪いから解放されたのは……オレも同じのようです……狼の姿にされていましたが……10年前行方不明とされた……姫の双子の兄とはオレのこと……妹に手を出すとあれば……いくら勇者様といえど……」


「こらお前らヤメロって! 結構真剣にツナが困ってるだろ!?」


 ユウが強引に二人の間に割って入る。


「何を言うんだユウくん、いいところだったじゃないか。ここから私とマグくんの熱いバトルシーンが勃発してだね」


「リアルファイトになるところだったよな!?」


「えっ、それは、こまる! なかよく、しようよ!」


 私は慌てて算数戦闘が始まるのを止めた。


「……ははっ、ははははっ!」


 不意に、たまらない、というように、デューが笑い始めた。

 彼は今までの優雅さを捨て去るように、絨毯の上に足を投げ出すように座りなおす。


「こんなに楽しいのは何年ぶりだろうな。ユウくん、マグくん、この街にはどのくらい滞在する予定なんだい?」


「一通り……見て回ったからな……そろそろ出立してもいいと……思っている」


 マグの答えに、デューはどこか遠くを見るようにして、「そうか…」と呟いた。


 それからデューは、何度か口を開いては、何かを言おうとして、結局やめる、を繰り返した。

 私とユウとマグは、黙ってその様子を見守っている。


「さみしく…なるな」


 やがてデューは、絞り出すように、ぽつりとそう言った。


 私は、その様子があまりにも寂しそうで、思わず声をかけようとした。

 しかし、ユウが留めるように私の肩を抑えてくる。

 マグの方を振り返ると、彼はゆっくりと首を振るだけだった。


 そうか。これは、デューが自分で決めなくちゃダメなことなんだ。


「…離れても、これからもずっと友人だと、思っているよ。何かあったら、いつでも私を頼ってくれたまえ。できうる限りの援助を約束しよう」


「デューは、しばらくこの街に残るのか?」


「ああ、これでも遊興のためだけに来たわけではないからね。それなりに果たすべき義務がある」


 デューは、気を引き締めるように、メガネを押し上げた。


「……デュー。これ、あげる」


 私は、大事にポケットに入れておいた、四葉のクローバーを彼に差し出した。

 本当はユウとマグの二人分を見つけようとしていたのだが、一個しか見つからなかった。

 だけど、今はそれでよかったのだと思う。


「これは…、いいのかい?」


「ン……。わたしも、きょう、たのしかったから」


「…ありがとう。栞にして、大事にするよ」


 デューは、初めて見るような笑顔で笑いかけてきた。

 私も一緒に笑い返した。


「あ~あ、しっかしまあ、大荷物だな。さすがに馬がかわいそうだ、マグ、俺らで屋敷まで運ぶぞ」


「……めんどくさいな」


 口ではそう言いながら、マグはまんざらではなさそうな笑みを浮かべて立ち上がる。


「ではナツナくん、エクスカリ馬ーに乗っていくかい?」


「のりたい!」


「デュー……落馬させたら……許さんぞ」


「フッ、誰に向かって言っているのかね、マグくん。この私の馬さばきに舌を巻いた後でも同じことが言えるかな?」


 ピュイ、とデューが指笛を吹くと、大人しく草を食んで待機していた白馬がパカパカやってきた。


「んじゃ、デューんとこの屋敷で合流ってことで! あとでな!」


 ユウが荷物を片付けながら言う。

 辺りはちょうど、日が落ち始めていた。

 私はデューのエスコートで馬上に乗り、少し高くなった目線に歓声を上げた。


「うわーー、ゆうひ!」


「なかなかの絶景だろう? 夕餉も食べていきたまえ、食事をしながら会話をすることがあんなに楽しいとはな。庶民も捨てたものではない。そしてナツナくん」


「ン……なに?」


「その花飾り、なかなか似合っているじゃないか」


 デューは片目をつむると、ひらりと白馬にまたがり、慣れた手つきで手綱をしならせた。

 私は恥ずかしいものを隠すかのように、マグが髪に挿してくれたデルフィニウムをそっとつかむ。


「では行くぞナツナくん、ハイヨー!」


「ひゃあ、はやいーー…!!」


 目まぐるしく通りすぎていく景色に、振り落とされるかもしれないなどと思う余裕もなかった。




<つづく>



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