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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
28/159

グルメ存在A

「おー、この辺は結構整備されてるんだな、さすがに」


 ユウがカンテラを掲げて、坑道の岩肌を照らした。


「ぷういぷいっ、ものども、であえであえ、です!」


 アンタローは上機嫌でユウの足元をチョロチョロと進んでいて、私はユウがアンタローをいつ踏むか、いつ蹴るかでハラハラしていた。


「ツナ、ちゃんと前を見ろ……危ないぞ……それと……疲れたらちゃんと言え……絶対だ」


「うん、だいじょうぶだよ、まだまだ、よゆう!」


 マグがいつもの定期検診を入れてきて、私の返事はもう定型文みたいになってしまっている。


「なあなあ、分かれ道があったらどうすんだ? 俺右利きだから右を選びたいんだよなあ!」


 いつもよりは気持ち抑えめの声で、ユウが言う。

 マグは半目でユウの方を睨み、


「風の動きや匂い……とかで判断しろよ……明らかに右からヤバい音がしても……お前は右を選ぶのか?」


「あーそっかそっか、こういう場所だとそういう判別方法があるんだな、いやあ勉強になるぜ!」


 ユウの言葉に、マグは「まったく…」とため息をついた。


「曲がり角も……ツナの手鏡を借りて……危険がないか先を確認してから……曲がるんだぞ」


「わあ、てかがみって、そういう、つかいかた、あるんだね、マグすごい!」


 私が尊敬交じりにマグを見上げると、マグは無言で私の頭をポンポンと撫でてきた。


 …? 嬉しかったのかな。


「ぷいぃ~、ぷいいい~~」


 前を見ると、アンタローは気になる形の石ころをピョイパクとつまみ食いしていたり、ユウのカンテラが作り出した影が猫みたいに踊るのを興味深げに見に行ったりと、フリーダムな動きをしている。


「ぷいぷいっ、ところでみなさんは、こんなところに何の御用があるんですか?」


「アンタロー、そろそろ人の話は聞こうな?」


 ユウが、「入り口で話したのに…」と言いたそうに、がっくりと肩を落とす。


「アンタロー……ひんやりとして……キラキラした石を見かけたら……教えてくれればいい」


 マグが、とてもわかりやすい簡潔さで、一言にまとめた情報をアンタローへ言う。

 アンタローは目を輝かせて、張り切った声を上げた。


「わかりました! ひんやり、キラキラ、ですね!」


 やっぱりマグはアンタローの扱いが上手だなあと感心してしまう。


「おっ、とか言ってる間に、あれって十字路だよな? 参ったなー、いきなり三択かよ、最初はT字路とかにしてほしかったぜ…!」


 ユウが十字路の真ん中で立ち止まり、私とマグが追い付いて、団子状態になる。


「よく見ろ……左側はここから見ても……明らかに行き止まりだろ」


 マグの言葉に目を向けてみると、確かに左側の通路には、そう進まないうちに壁が立ちはだかっているのが見えた。


「マジだな、ラッキー、ってことは、直進か、右かだが…」


「ぷいぃいいっ、こっちから、ひんやりキラキラの気配がします!」


 アンタローがキリッとした顔で、ポンポンと左側の道へと跳ね進んでいった。


「バカアンタロー!? そっちは行き止まりだって!」


 ユウが慌ててアンタローを捕まえようと追いかける。

 マグはやれやれと言った顔で動かず、ユウたちの方を見て合流を待っている。


「ほら、つかまえ―――」 


 あわや壁と衝突寸前という時に、フッ、といきなりユウとアンタローの姿がかき消えた。


「ひゃあ!?」


 カンテラを持っていたのがユウだったので、いきなり周囲が暗くなり、私は思わず悲鳴を上げてしまった。


「ツナ……大丈夫だ」


 肩にそっと手が置かれる。

 あれ? 真っ暗なはずなのに、マグがぼんやりと見える。

 そうか、魔力持ちの私の髪がうっすらと光ってるんだ。

 

 私の肩を掴む手は、緊張で少しこわばっていた。

 たぶんマグは、ユウたちの様子を見に行くのに、私を連れていくかどうかで迷っているんだ。


「マグ、いってみよう?」


「だが……」


「わたしは、だいじょう―――」


「おーいツナ、マグ、こっち来てみろよ! すげーぜ、隠し通路だった!」


「!?」


 びっくりして目を向けると、壁からユウの顔と、カンテラを持つ手がにゅっと生えていた。


「……ツナ、離れるな」


 マグは警戒するように私の肩を抱き寄せると、じりじりとユウたちのいる壁に近づいていく。


「ぷいっ! ぷいっ!」


 足元ではアンタローが壁をシュシュっと出たり入ったりして遊んでいて大変邪魔だったが、マグは慎重に壁に手を向けて、すり抜けるのを確認すると、私にGOサインを出した。


「うわあ、ほんとだ、すりぬけた…!」


 一歩入って感嘆の声を上げたものの、さっきまでの通路とあまり景色の様変わり感がなかったので、ちょっとがっかりした。


「な、すげー面白いだろ!」


 ユウが興奮したように言うと、マグは静かに頷いた。


「未踏の地なら……かなり期待できそうだ」


「あーそうだな、確かにこの辺の壁は掘削の跡がねーし、自然にできた場所っぽいよな」


 ユウがカンテラを掲げて確認していると、アンタローは間髪入れずに先に進み始めた。


「ぷいぷいっ、つめたいキラキラっ、つめたいキラキラっ」


 ぴょ! ぴょ!

 と弾みながら進んでいくアンタローに、私たちは隠し通路発見の余韻を味わうのを諦めて、結局最初の時と同じ順番で、アンタローの後ろをついていく。


 リーダーになってよっぽど嬉しいのだろうアンタローの後姿を見ていると、私は自然と微笑ましくなって、笑ってしまった。


「ふふっ、アンタロー、ブタみたいだね」


「なんでツナは嬉しそうに罵倒してんだ?」


 ユウが不思議そうに振り返ってきて、私は自分の言い方のまずさにハッと気づいた。


「あ、あの、ちがうの、いまのは、ほら、としょかんの、ほんに、トリュフをさがす、ブタのことが、かいてあって、それで、えらいなって、おもって…!」


 しどろもどろに両手を交えて説明していると、ユウは私じゃない方角を見て、「あちゃー…」と言った。


「ありゃツボに入ってるな……当分はあのままだぞアイツ」


 え? と振り向くと、マグがものすごく体を震わせて、縋り付くような必死さで、壁にもたれていた。


「マグ、どうしたの!?」


「だ……って、……ツナ……ぜんぜん……フォローに……な…ってない……おかしすぎ……だろう……っ!」


 あ、笑ってるのか! びっくりしたよ!


「ぷいぃいいっ、みなさん、この奥からキラキラの気配がしますよっ!」


 かなり先の方から、アンタローの声がした。


「おっ、ブタが何か見つけたみたいだな」


「~~~~………っ!!」


 ユウの追い打ちに、マグは壁を叩いて何かをこらえている。


「ほら、行くぜツナ!」


「くっ……先に、行け……!!」


「え!? で、でも、マグ、このままだと、なにかに、おそわれたとき、あぶないよ?」


「平気平気、むしろ憤りをぶつける相手ができて助かるんじゃねーかな」


 ユウは慣れ切った様子で、さっさと先へ進みだした。

 私はちらちらと何度もマグの方を振り返るが、たぶん何もしてあげられないなという結論になり、ユウについていくことにした。


「ぷいい~、ぷいいぃ~」


 ちょっと進んだ頃に、テンテンと跳ねているアンタローの姿が見えてきた。

 しかしここから見る限りでは、アンタローが居るのはただの通路の途中で、周囲には何もない。


「…? なんだ? なにもない…よな?」


 ユウが言い終わるか終わらないかのうちに、私たちはアンタローのところへたどり着いた。

 同時に、アンタローは嬉しそうに壁側を見る。


「ここですっ、ついて来てくださいっ!」


 見ると、壁には亀裂が入っており、子供一人が通れるのがやっとの穴が開いている。

 アンタローはぐにぐにとその隙間に身体を滑り込ませていった。


「ええ!? ま、まって、アンタロー…!」


 私は慌ててしゃがみ込み、その穴に潜り込んでいく。


「ちょちょちょ、待った待った、俺は流石にそこは無理だぞうわったああああ!!!?」


「ユウ!?」


 いきなりバサアっという音がして、通路に残してきたユウの方から悲鳴が上がった。


「いや、ツナ、戻るな! そこに隠れてろ! 洞窟蝙蝠の巣だ、ここ!」


 振り返ると、穴の入口を塞ぐように、ガツンと乱雑にカンテラの灯りが置かれた。

 同時に、キィキィキィキィと騒がしい鳴き声が聞こえてくる。


「でも、ユウ…!」


「いいからいいから! こんくらい何とでもなるって! おいマグ、こっち来いよ! コイツラぶっ倒すぞ!!」


 ユウの声音が少し楽しそうだったので、私はちょっと安心した。


「ツナさんツナさん、こっちです!」


 空気を読まないのんきな声が、私の進行方向から聞こえてくる。

 ユウの方は手伝えなさそうなので、私は仕方なく、もぞもぞと穴の中を這い進んだ。


 なぜか先の方から、「ふふふ可愛いものですね」とか「ツナさん今ですっ」という掛け声がしている。


「ぷはっ…!」


 狭い穴を抜けると、小部屋ほどの空洞が広がっていた。

 そしてそこには、たくさんのキラキラがあった。

 キラキラの、群れだった。


「………」


 いっせいにこちらを向いたのは、暗がりに目を光らせた、ネズミの群れ―――



「アンタロー!? これ、キラキラじゃなくて、ギラギラ!? さついの、むれだよ!?」


「ツナさんツナさんっ、みてください!こんなに捕まえてますよ…!(ネズミ数匹にかじられながらテンテンとやってくる)」


「アンタロー、それ、つかまえられてる、ほうだからね!?」


 私は必死に壁際まで下がって、泣きそうになっていた。


「面白いことをおっしゃいますね、ツナさん、ボクは自分より小さな生き物に対しては強気ですよ…?」


「アンタロー、それ、たべていいよ!」


「(ぱぁああああっ)」


 アンタローがハムスターよろしく、ネズミたちを、もっ、もっ、と口の中に入れていく。

 口の端からネズミの尻尾がぴょろっと垂れていた。


「口の中で、動きますね、これ…」


 即座にしおしおな感じになって、アンタローはすべてをペッと吐き出した。


「ツナさん、ツナさん、どうやらボクは動かないもの以外は口にできない、グルメ存在のようです」


 役立たずうううううう!!!


 という罵声を浴びせようとした矢先、アンタローの行動に心底驚いただろうネズミたちは、チュウチュウと恐れをなして、私が入ってきた穴の方へとザーッと逃げて行った。


「ええ!?」


 私は慌てて穴の方へ頭を突っ込んで、


「ユウーーーっ、ごめんーーーっ、そっちに、ネズミ、いったーーーっ!」


 と、大声で状況を説明するしかできなかった。

 少しだけ間を置いて、やや遠いユウの声が返ってくる。


「よくやったツナ、任せとけえええーー!」


 ユウの声が切羽詰まった感じではなかったので、私はほっと一息ついた。


 しかし今戻っても足手まといにしかならないのはわかっていたので、私はこの小さな空間で、時間をつぶす必要がある。

 さて何をしようか、と体育座りで考えていたところ、アンタローがやけに静かなことに気が付いた。


「アンタロー…?」


「ぷぃいい??」


 見ると、アンタローがもぐもぐと口を動かしている。


「あれっ、ネズミ、たべられないんじゃ、なかったの?」


「失礼ですねツナさん、ボクはグルメ存在……ちゃんと美味しそうなひんやりキラキラを口に含んでいるだけですよっ」


「…ええ!?」


 慌ててアンタローの口をガっとこじ開けると、口の中にはキラキラとした青い宝石が、かみ砕かれて数粒に分かれた状態でもごもごしていた。


「うわああああ、もったいない!?」


「!?(もろもろっ、もろもろっ)(驚きの粒漏れ)」


 アンタローの口の中が、青い宝石と魔力の粒で大変なことに…!

 仕方がないので私はアンタローの口を無理やり閉じた。


「ぷ…ぷい……っ」


「そんな……どうしよう、せっかく、ほうせき、あったのに…」


 じわりと目元に涙が溜まっていく。

 くうっ、大人の身体だったらこのくらいで泣くなんて絶対ないのに…!

 必死に我慢するために、色々と考え事をする。


 アンタローはどこから宝石を持ってきたんだろう?

 えっと…ジュエルラット、だよね、たぶん、あのネズミ。

 ということは、宝石を、食べる。

 食料……。

 …備蓄?

 

 そうか、ここが巣だとしたら、食料を、貯め込む、備蓄庫みたいなところが、あるはず!


 私はすっくと立ちあがり、とりあえずこの小さな空間の中央に立ってみることにした。

 が、その中央にて、不自然な窪みがあるのを発見した。


 その窪みは、私の髪の発するわずかな光ですら、何倍にもして反射してくる。

 そっと覗き込むと、窪みの中に、色とりどりの宝石が蓄えられていた。


「! あった!」


 まだ研磨前の原石に近いような宝石の群れだが、しかし確かな輝きをもってその存在を主張していた。


「アンタロー、もう、ひんやりキラキラ、たべちゃダメ、だからね!」


「ぷいぃい…」


 何かに懲りたらしいアンタローが、こくんと頷く。


 私はその宝石たちを服の裾に溜め込むように抱え持ったが、ハタとその動きを止めた。

 どうしよう、どうやって持って帰ろう?

 抱えてたら、穴をくぐるのって難しいよね?


 うーん、かといって、アンタローに持たせたら食べちゃうし…。

 ポシェットは……全部は入りきらないし…。

 考え事をしながらポシェットを開けて、そういえば、と、マグに持たされたハンカチを広げてみる。


 あ、これを風呂敷にすれば大丈夫そう。


「アンタロー、ユウたちのようす、みてこれる?」


「ぷいいっ! お任せください、何せボクがリーダーですからね! なんでもできますよ!」


「じゃあね、だいじょうぶそうだったら、ロープのはしっこ、かして、って、でんごん、おねがいできる?」


「ぷいぃいい!」


 ぴゃーっと、返事の代わりにアンタローが穴の向こうへと走り出した。

 その間に私は、ハンカチに宝石たちを乗せて、風呂敷に包んでいく。

 このやり方だと表面にかなり傷がついちゃうけど、仕方ないよね。


 私は穴の傍で、アンタローが戻ってくるのを待っていた。

 ……ちょっと遅いな。

 どうしちゃったのかな?


 そういえば、こうやって一人きりになるのって、随分と久しぶりかもしれない。

 いつも、ユウかマグのどちらかが、さりげなく傍にいてくれたんだ…。


 天井を見上げると、相変わらず手抜きの背景か、良く言えば下手な水彩画な感じにぼやぼやしているが、慣れというのは怖いもので、もうそれが当たり前に感じる。

 気が付けば、ユウとマグが傍にいるのも、それくらい当たり前に感じている。


 ………。


 暇な手が、服の裾をいじいじといじって時間をつぶす。


 まだかな。

 …ひょっとして、何かあったのかな?


 まさかね。

 あの二人なら大丈夫だし、アンタローは死にそうにないし、大丈夫だよ。


 もしかして、このまま置いて行かれるなんて、ないよね?


 一個不安になってくると、急に全部がぶわーっと不安になってきた。


 違う違う、これは小説のナツナの不安な気持ちであって、私の気持ちじゃない…!

 というか、周りが暗いから、余計不安になってるだけで!

 何度もそう自分に言い聞かせるのだが、全然コントロールできずに、いきなりぼたぼたと涙がこぼれた。


「おまたせしましたっ」


「!」


 ロープの端を咥えたアンタローが、ぴょこぴょこと穴の奥からやってきた。

 私は慌てて手の甲で涙をぬぐい、


「お、おか、えりっ」


 ちょっと声が裏返ったが、平静を装い、そのロープに、風呂敷の端を結び付けた。


「アンタロー、もどって、このロープ、ひっぱってって、ユウに、つたえて?」


「了解ですっ」


 アンタローはぴゃーっとまた穴の方に走っていく。

 今度はそんなに待たないうちに、ずり、ずりと、ゆっくり風呂敷が引っ張られていく。


 私はその動きに合わせて、ゆっくりと風呂敷についていった。

 もし解けたり、中身がこぼれたりしても、すぐに対処できるように。


 穴の先に、カンテラの光が見えてくる。

 すっかり暗闇に慣れてしまった目を、まぶしげに細めた。


「ただ、いま…っ!」 


 穴から出て、開口一番にそう言った。


「おかえりツナ、悪いな時間かかっちまって! グロそうな作業は先に終わらせようぜってことになって、もう、すぐに先に進めるぜ!」


 立ち上がって周りを見渡すと、蝙蝠とネズミの死骸が散乱していた。


「で、これは?」


 ユウが、ロープの先にぶら下がった風呂敷を不思議そうに見ながら聞いた。


「あ、あのね、それ、ほうせき、みつけたよ!」


「マジか、すげーじゃんツナ! これならいい儲けになりそうだ! よーし、この勢いで、待ってろよ、ファイア・ファイア・カラー・マネー!」


 嬉しそうに息巻くユウの横から、マグがずいっと顔を近づけてきた。


「あ、マグ、もう、わらうの、なおった…?」


 マグは何も答えず、親指でぐいと私の目元をぬぐう。


「泣いたのか……?」


「え? あ、えっと…!」


 何と答えたものか、言い淀んでしまう。

 マグの言葉で、ユウは私の方を見直した。


「よし……帰るぞ……もう十分な……儲けになった」


「…そうだな、俺ももう疲れたし、風呂入りてーや。ツナ、よく頑張ったな、おつかれ」


 ユウが私の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。


「え? でも、まだ、いらい、残ってる…!」


「いやいや、全部やらなくていいんだよ、別に。ほらアンタロー、俺の頭の上にこいよ」


「ぷいぃいいっ!」


 アンタローが、もはや慣れた感じでぴょんぴょんとユウの上によじ登っていく。

 私が帰路を行くユウの背中を見ていると、いつまでも動こうとしない私の手を、マグが無理やり引っ張った。


「ほら、行くぞ……」


 見ると、マグの手は動物のひっかき傷の跡がたくさんついていて、血が滲んでいる。

 ここからでは見えないが、ユウも多分そうなんだろう。

 私の視線に気づいたのか、振り返ったマグが、少し冗談めかして笑った。


「狭い坑道は……オレもこりごりでな……もう二度とごめんだ」


「……、……うん!」


 私は、泣きそうな、笑いそうな、そういう顔でマグに頷いた。


 帰り道に、一度だけ、来た道を振り返る。

 ファイア・ファイア・カラー・マネー…どんなのだったんだろう?


 ……ん?


 ファイア…火?

 ひ・ひ・いろ・かね?

 ヒヒイロカネか!!!


 私はなんだかすっきりした気持ちで、宿に帰ることができた。




<つづく>



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