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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
23/159

小夜鳴き鳥の羽休め(上)

「っあーー、スッキリした!」


 ユウがザバっと川から上がってくる。

 服を着たまま飛び込んで、体中に付着した魔物の体液を全部流してきたようだ。


 犬のように体を震わせ、水気をきっているユウへ、マグがレザーグローブの手入れをしながら言う。


「バカだなお前……革製品に水は大敵なのに……痛むぞ」


「はあ!? おっ前、それ早く言えよ!!」


「気が付いたら……飛び込んでたんだろ」


「え~マジか、グリップんとこ持ちやすくてこりゃいいやって思ってたんだが」


 ユウは慌てて手を振って、グローブの水気を飛ばしている。


 私はその光景を、ぐったりと木に寄り掛かって見ていた。

 疲労から会話に加われない。

 アンタローは足元ですやすやと寝ていた。


「ツナ、どうだ……具合の方は」


「ン……さっきよりは、マシ…」


 戦闘が終わると、私はその場にへたり込んでしまった。

 一歩間違えば二人が死ぬかもしれないという恐怖が、ずっと隣り合わせだった緊張…にやられたらしい。

 別に病弱という設定ではないので、休憩をしていれば回復をするはずなのだが、思った以上に疲れていた。


「んじゃ今日はちょっと早いが、ここで野営すっか」


 ユウが見上げる空は、夕暮れに差し掛かる直前くらいの時間帯の色をしていた。

 ユウは髪からボタボタと水を滴らせたまま、うざったそうに前髪をかき上げ、適当な石の上にドッカと座り込んだ。


「にしても、あのいきなりの大群は何だったんだ? 魔物なんて昨今じゃ割と珍しい方だろうに」


 ユウの言葉に、マグは考え込むように黙り込んだまま、今度は銃の手入れを始める。

 私は原文の内容を思い出していた。


「まぞく…とか?」


 控えめに意見を言うと、二人は少し驚いたようだった。


「そうか、まあそうなるよな。でもなんで急に?」


「いや、急でもない……実はツナと出会う前くらいから……魔族の動きが……活発になってきているという……噂はあった」


「マジか、俺は初耳だぜ」


「お前は自分の……興味のある話しか……集めないだろ」


「えー。んじゃマグは魔族の話を集めてたってワケか?」


「ああ……テルミドールの図書館で……学者の考察による……文献が一つだけあった」


 そういえば、マグはあの時、調べ物があると言って別行動だったな…と思い出す。


「本になってるってことは、今現在の話じゃなくて古ーい話じゃん、参考になんのか?」


「まあ、ならないが……どういう種族なのか……今まで興味はなかったからな……調べてみただけだ」


「どういう、かんじだったの?」


 私は興味に負けて、疑問符を差し挟む。

 マグは手元の作業を止めないまま、


「魔族とは……魔王の卵を大なり小なり……持って生まれた者を……そう呼ぶらしい」


「魔王の卵?」


「その学者が仮に付けた……概念であり……物質ではない。その卵を……感情の爆発か、果てなき研鑽か……で、孵化させた者が……魔王となるのではないか、と」


「あーなるほどな、それが魔王が数百年単位くらいで定期的に生まれる理由になるわけだ」


「えっ、ていきてきに、でてくるの?」


「そうそう、だから英雄譚とかも1つじゃなくてたくさんあるんだよ。今んとこ最後の魔王は100年か200年前…くらいの世代なんじゃなかったっけ」


「らしいな……オレたちには……関係ない話だ。だが今日の魔物が……魔族の仕業だとしたら……少しまずったな」


「? どういうことだ?」


「ツナを……見られたかもしれない」


「えっ…」


 二人がこちらに目線を向けてくる。


「確かに不味いな、魔力の高い娘を魔王復活のいけにえに~とか、ありそうな話じゃねえか?」


「ちょっと古臭いイメージだが……ないとは言えないな……ツナ、不必要に怖がらせる気はないが……オレたちから離れるなよ」


「う、うん…」


「そうなると、ツナはあんまり俺らのために魔法を使うのはやめた方がいいのかもな。イザって時に自分を守るために使えるようにしとかねーと」


「えっ、で、でも、きょう、やくにたてたの、うれしかったよ!」


 マグが手入れの終わった銃を組み終え、空撃ちをして具合を確かめた。

 マグは普段はダブルアクションだが、空撃ちをするときはシングルアクションになるらしい。

 癖のようなものが分かるというだけで、なんとなく嬉しくなった。


「普段なら……ユウに賛成をしたいところだが……報告がある。実は銃弾を……さっきの戦闘で……使い果たした」


「マジか、次の町までまだまだあるぞ。まあ、あの数の魔物だったからな……不可抗力っちゃそうなんだが」


「ああ。だから次の戦闘があれば……オレも前衛か……中衛で行く……ツナの魔法を頼ることもある……かもしれない」


 マグの言葉に、私は相好を崩した。


「うん! そのときは、がんばるね!」


「そうかー、まあ魔物が出るなんて異例中の異例だからな、大丈夫だとは思いたいが。よしツナ、今度の活躍のために、今日はそこでじっと休憩してるんだぞ。俺は薪を拾ってくらあ」


 ユウは、前髪をいじって乾いているかどうかを確認しながら、立ち上がる。


「ユウ、果物か木の実があれば……」


「わかってるって! それよりマグは、そいつの調理を頼んだからな! マジで頼むぜ、魔物食うなんざ初めてなんだからさ!」


 そう言ってユウは、皿代わりの大きな葉っぱの上にデーンと乗っている、シャコ肉の山を指さした。


「ああ、任せろ……美味そうな部位だけ取ってきたからな……血抜きして煮れば……大体の物は食える……不味かったらアンタローに活躍してもらおう」


「………」


 私はそれを見ながら、動物性たんぱく質はあんまり食べられない設定にしておいて本当に良かったと思った。


 その日のキャンプは、ユウとマグが久々にお腹いっぱいモノが食べられて満足そうにしていた。



-------------------------------------------



 もうこの旅にもだいぶ慣れてきたと思う。

 今日も午前中は二人に抱き上げられて移動していく、その時間を考え事にふける時間にあてがうことができる程度には、慣れてきた。


 魔族かー。

 私がリアルに知っている魔族的な人というと、一人しかいない。

 100万と24歳の、デーモンしぐれ煮閣下だ。

 世を忍ぶ仮の姿で芸能活動をしているらしい。


 まさか、それをそのまま出さないよね?

 ほんと、頼むよ私!!

 リアル世界に居る人を小説にそのまま出して悪役をやらせた挙句、戦って剣で斬り殺すとかやった日にはもう、本当にヤバいからね!!?


 本当に昨日からこの部分だけが気になって気になって仕方がないよ!

 それ以外だったらなんでもいいから、頼むからオリジナリティを見せてほしい、頼む…!


 天ではなく自分に祈るのは、なかなか初めての経験だ。



 お昼ご飯の時間になると、マグはまた難しい顔で地図とにらめっこをしている。

 私はドライフルーツ、ユウは干し肉、マグは干し魚、アンタローはゴミで休憩していた。


「マグ、よてい、くるってる?」


 私は心配になってマグを窺うと、マグは難しい顔をやめてこちらを見る。


「いや、ギリギリ大丈夫そうだ……ただ、このままだと……目標の水車小屋に着くのは……夜になりそうでな」


「すいしゃごや!」


 私は目を輝かせて話題に食いつく。

 マグは私の反応を予想していたように、ふっと柔らかく笑った。


「そういうのが……好きだろうと思った……できれば明るいうちに……見せてやりたいんだが」


「あーまあ、ああいうのって夜に見ると音もうるせーし、怖いもんな。くそっ、昨日の魔物さえなけりゃなあああ。けど水車小屋って、確か山の麓のヤツだよな? かなり目的地には近づいてるわけだし、いっそ明日の朝にたどり着くくらいの予定にするっていう手もあるんじゃねーか?」


「それも思ったが……そうすると保存食がギリギリになる……できれば余裕を持たせたい……昨日のように……何があるかわからないからな」


「わたし、よるでも、だいじょうぶだよ! カンテラの、あかりの、あたたかいかんじ、すき。ふるい、はしらどけい、の、おとが、にあうかんじ。さいきんは、ほしあかり、の、したで、すごす、かんじが、おおかったから。こやで、よるを、すごすの、たのしみ。ユウと、マグがいれば、ぶきみでも、こわくないよ」


 ついついうきうきしながら言うと、ユウは笑った。


「そんじゃ、決まりだな。じゃあせっかくだし、ついでにゲームしようぜツナ!」


「ゲーム?」


 ユウは干し肉を食べ終わると、足元の手ごろな石を拾い上げた。


「水車小屋まで、この石を交互に蹴って行って、ずっと無くさずにたどり着いたら俺ら不老不死な!!」


 小学生か!?


「ぷいぃいいい!!(その石に飛びついて食べる)」


「うわバカなにすんだよ俺の賢者の石が!!?」


「賢者とは大それた名前ですね!(もぐもぐ)…味は普通です…」


「アンタローよくやった……ユウ、危ないから普通に歩け……ツナが転んだらどうするんだ」


 マグがアンタローの頭を撫でるところなんて初めて見た気がする。

 この二人も地味に仲良くなっていっているんだろうか。


「ちぇー、いいさいいさ、ほらそうと決まったら出発しようぜー」



 私は近場に目標ができたので、特に苦痛もなく、足取りも軽く、えっちらおっちらと歩いていく。


 流石というかなんというか、マグが言う通り、水車小屋にたどり着いたのは、ちょうど陽が沈んだ時だった。



-------------------------------------------



「うわあーー…」


 水車小屋の中はほんの少し黴臭かったが、それよりも材木の匂いの方を強く感じた。


「まだ使われているだけあって……手入れはされている……ようだな」


 マグが、粉挽きの機材に残った小麦粉のカスをつまんで、一口舐めた。


「おっ、美味いか?」


「美味いわけないだろ……粉だぞ……物欲しそうな顔をするなよ……かき集めたら一食分になるか……検証しようと思っていた……だけだ」


「ぷいぷいっ、マグさんは貧乏くさい発想をさせたら右に出る者はいませんねっ」


「お前な……」


「そういうなよアンタロー、俺は一切メシに関して努力する気はねーからな、マグが頼みなんだよ!」


「お前な……」


 私はマグから借りたカンテラを持って、小屋のあちこちを物珍し気に照らしていく。

 前もって聞いていた話では、高山の街フリュクティドールの人たちは、一週間に一度ここに降りてきて、小麦粉などを挽いて帰っていくそうだ。

 この水車小屋は旅人も自由に使っていいらしく、ザイルやツルハシなどの道具置き場の横に、雑魚寝ができるように敷き茣蓙が敷いてあったりした。


 窓から見える外の水車は水苔で覆われた年代物だが、音は覚悟していたほどうるさくはない。

 昨日の地獄絵図を脱した自信からちょっと心に余裕があるので、風流すら感じる。


 ん…?

 よく見ると、壁に釘が打ってあり、そこに紐で閉じたノートがぶら下がっていた。


 なんでここにノートがあるんだろう。

 一人だったら怪談みたいに感じていたかもしれないが、今はみんな居るので、そこまで警戒せずにノートを取り、開いてみた。


===========================================


「良い思い出ができました、ありがとう!」


    『ここでプロポーズされましたvv』

         ↑

       おめでとう、お幸せに!


  「すてきな隠れ家発見!(^‐^)」


===========================================


 旅館とかにある旅の思い出ノートか!!!?


 何ページめくってみても、同じような文言が並んでいる。


 確かに旅だし、わからないでもないけど…!!

 ないけど、もうご近所ファンタジーじゃないかコレ!?

 頼むからこういうところにリアルのモノを混入させるのやめてよぉ!!


「おっ、ツナが面白そうなモン発見してんじゃーん」


 ユウが私の肩を掴み、後ろから覗き込んでくる。


「ぷぃいいいっ、なんですか、旅の思い出って書いてありますよっ」


 アンタローがユウの頭でぴょんぴょん跳ねる。


「独り言特集……みたいなものか……?」 


 マグのまとめが元も子もない。


「えーーいいじゃんいいじゃん、書こうぜせっかくだし!」


 ユウが私の手からノートを取り上げて、ノートに紐でぶら下がっている鉛筆を手に取った。


「またバカなことを……」


「ユー・レ・タ・イ・ド、見参!」


「ユウ、もじ、おおきい、スペースつかいすぎ!」


 私は思わず勿体ない精神が発動してしまう。


「えーー、こういうのはちまちま書いても盛り上がらねーじゃんか」


「マグさんマグさんっ、ボクのメッセージも書いてくださいっ」


「いいぞ……なんて書けばいい?」


「ふふふっ、それはもちろんですね!(もろもろ、もろもろっ) おっと粒が…」


「『おっと、粒が…』(書く)」


「ぷぃいいい?????????」


「マグもなんか書けよ!」


「めんどくさいな……」


「お前な、こういうのに乗ってこないと付き合いわりーって思われるんだぞ」


 マグはめんどくさそうに、『本気の宿屋を、応援したい』と書き込んだ。

 マグは変わったセンスをしているな、と私が思っていると、それを見たユウが、ツボに入ったのか、めちゃくちゃ笑い始めた。


「ぶっひゃっひゃっひゃ!!! なんで宿屋はお前に応援されなきゃなんねーんだよ!! ぜってー全国の宿屋にとっちゃ予想外だろコレ!!」


「うるさいな……」


「ユウのわらいのツボ、よくわからない…!」


 私が思わず言うと、今度はマグが私にノートごと鉛筆を回してきた。


「ほら、今度は……ツナの番」


「えっ、えっと…!」


 咄嗟のことに、私は思考が停止してしまう。

 困っていると、ユウが横から口を挟んできた。


「ほらツナ、願い事でも何でもいいんだよ! 記憶が戻りますように~、とか…あっ」


「ユウッ!」


 マグが咎めるような声を出した。

 やはり前にフィカスに言われた通り、二人の中では、私は虐待者から逃げ出してきた時に記憶をなくした、という認識になっているようだ。


 場が、シンと静まりかえる。


 私はこの雰囲気をどうにかしようと、さらに焦ってきた。


 ど、どうしようどうしよう、願い事って…!

 そうだ、もうこの際、「リアルに帰れますように」でいいんじゃないか?

 リアルって何だって聞かれたら、おまじないの言葉って返せばいいし、とにかくこの場の雰囲気を変えるならなんだっていいはず!


 なのに、どうしたことだろう。

 ノートにあてがった鉛筆が、ピクリとも動かない。

 別に物理的に止められているというわけではなく、私の手が動かない。


 なぜだろう、リアルに帰るのは、私の目標だったはずだ。

 そもそも、こんなノートに書いたって、実現するようなミラクルが起こるわけでもないのに。

 二人の視線が、私の指先に注がれているのが分かる。

 私の指は、震えていた。


 まさか私、リアルに帰りたくなくなってる……?


 そう思った瞬間、心臓がドキドキする。

 そんな馬鹿なと何度も思う。

 泣きそうな顔で、マグとユウの方を見上げた。


「マグ、ユウ、…もし、わたしが、みんなでずっと、いっしょにいたいって、ここに、かきこんだら、どうする……?」


 私はなぜこんなことを聞くのだろうか。

 否定してほしいのだろうか。

 二人とも、少し驚いた顔をした。


「それは……」


「ぷいぷいっ、ツナさんは面白いことをおっしゃいますねっ、それは普通のノートですよ? 願い事が叶うノートじゃないんですから、あのですね…教えてあげます…メルヘンは…卒業できますよ??」


「お前の存在はどう見てもメルヘン寄りだよな!?」


「ぷいぃいいい!!」


 ユウとアンタローが格闘バトルを始めた横で、マグが私の手からノートをそっと取り上げた。


「あ…」


「ツナ、悪かった……急がなくていい……ゆっくり考えればいい……大事なことだから、なおさらな」


「そうそう、せかして悪かったよツナ! 時間はたっぷりあるんだから、リラックスリラックス!」


 二人とも、そう言って笑いかけてきてくれた。

 はぐらかされたと感じるのは、私のワガママだろうか。


「ン……」


 ぽんぽんと、マグに撫でられる感触の下で、なぜか私はとても心細かった。




<つづく>



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