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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
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レッドホワイト・ソングバトル

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気が付けば夜になっていた。


 夕食を済ませた私たちは、部屋の中でテーブルを囲んで、メッシドール周辺の地図とにらめっこしている。


「やはり2択だな……海路でニヴォゼまで行くか……少し遠いが陸路でフリュクティドール……まで行くか」


「ニヴォゼは反対だね、俺は。王国を名乗る場所にロクなとこはねーし、今までだって王族が居そうなトコは避けて通ってきただろ」


「……だな。砂漠というところも……ネックだ……こっちの大陸は……常春の気候が多いが……日中ずっと酷暑では……ツナの体力が心配だ」


「ただまあフリュクティドールも、もうちょーっと近くにありゃ即決だったのにな…」


「山越えも……心配だ」


 マグとユウがウンウン唸りながら話し合っている。


「わたし、ながめの、たびとか、はじめてだから、たのしそうで、いいなって、おもってるよ! がんばれるよ?」


「うーーん……まあ、ツナはチビだから、抱えていきゃ行けそうではあるよな」


 ユウが改めて私をじろじろと観察してくる。


「アンタローは……邪魔になりそうだし……荷物に入れるか……」


「ぷいぃぃい、呼びましたか?」


 部屋の隅で、壁に向かって一人ボール遊び(ボールは自分)をしていたアンタローが、いそいそとやってくる。


「アンタローが、じゃまだなって、はなしだよ!」


「ぷういぷいっ、照れますねっ」


「いや褒めてねーから」


「あらかじめ地図に……休憩ポイントを書き込んで……旅に臨むか」


 だんだん話し合いが横道にそれていくのを肌で感じてきたころに、ユウが椅子の背に凭れて、うーん…! と伸びをした。


「気分転換ついでに風呂入っとくかー」


「…おふろ!」


 商人さんが紹介してくれたこの宿は少し高級で、珍しく宿内に大浴場がある。

 お湯を張った桶を部屋に持ってきて体を拭く生活に慣れてきたところだったので、正直すごく嬉しい。


「悪かったなツナ……そんなに風呂が好きだったとは……知らなかった……次からはどの街でも……木賃宿じゃなく……ちゃんと湯のある……宿をとるからな」


「ぷぃいいい、お風呂ということは、ボクはお留守番ですねっ、お土産お願いしますねっ」


「ああ、ちゃんと質がよさそうなゴミを持って帰ってくるから楽しみにしとけよな!」


「(ぱあぁあああっ)」


 三人のやり取りを横目に、私はいそいそと着替えなどを袋に詰めて、風呂準備を進める。


「さきに、いってくるね!」


「ああ、オレたちもすぐ行く……まあ、どうせ同じ湯には入れないから……あがったら先に……部屋に帰るんだぞ」


「そうそう、マグは長湯なんだから、あんなもん待ってたら湯冷めしちまうよ」


「風呂で泳ぎ始めるようなヤツに……長湯がどうのと……言われたくないが?」


「ぷいぷいっ、呼びましたか??」


 みんな仲良さそうで、にこにこして見守りたくなる気持ちはあるが。

 お風呂の誘惑には勝てず、「いってきます」と言って、私は部屋を飛び出した。



-------------------------------------------



「ひゃあっ…!」


 廊下を小走りに行く足が、たたらを踏んで止まった。

 もう少しで、目の前にいる人にぶつかりそうになった。


「ご、ごめんなさ…」


 その人を見上げた瞬間、全身の筋肉が硬直したようにこわばった。

 目の前にいるのは、黒いコートスタイルにゴーグルをつけた、20代くらいの男の人。

 偶然通りかかったわけではない。

 その人はじっと、誰かと待ち合わせでもしていたかのように、微動だにしていない。


   ―――ドッ


 反射的に逃げようとすると、無造作に腕をつかまれて壁に押し付けられた。

 抱えていた荷物が床に転がる。

 あまりのことに目を白黒させてバタついてしまった。


「………ッ」

 

 帽子…は部屋の中だ、どうしよう!

 いや、まだ掴まれただけで何かされたわけじゃないから、何か友好的なことを喋ったほうがいいのかな!?

 話せばわかる人なのかな!?

 お風呂気分からいきなりこんな状況だと、テンパってしまう…!


 そう思って視線を相手の顔に定めて、私は驚いてしまった。

 ゴーグル男の砂色のハリネズミヘアーは、近くで見ると淡く輝いている。魔力持ちの証だ。

 彼は空いているもう片方の手で、なぜかゴーグルの横の方をいじっている。


「なるほど、昼間のは見間違いじゃなかったようだな。大した魔力量だ。その年ではありえないほどの…な」


 ゴーグルから、小さくピピピ音がしている。


 あ、それそういう感じのアイテムなんだね!!?

 えーーーー好きそういうの!

 そのうちすごい量のエネルギーを感知して、ボンって壊れる展開だよね!!


 いきなり恐怖が消え去って、興味津々にゴーグルの方を見てしまう。


 ゴーグル男は、私の視線に気づいて、フッと笑った。


「怯えた小鹿の目をしていたかと思えば、随分と好奇心旺盛のようだな。まずは大人しくしたことを褒めてやる。キイキイわめかれたら、乱暴に扱わざるを得ないだろうからな」


「………いま、わたし、おどされてる…?」


 思わず聞きながら、視線は部屋の方をちらっと見る。

 ユウとマグはまだ出てこない。

 当然だ、まだ私が出てから3分も経ってない。


 バレないように見たつもりだったが、ゴーグル男は鼻で笑ってきた。


「随分と飼い慣らされているようだな、嘆かわしい」


「ど、どういういみ…?」


 試しに掴まれている手にググっと力を入れてみるが、ゴーグル男はびくともしない。

 やっぱり懐に入り込まれたら詰むんだ、この身体だと…!


「珠玉の宝が路傍の石に汚されるのは我慢ならん…という話だ」


「…? わたしは、だいじに、されてるよ」


 ゴーグル男を睨む。


「虐待を受けている児童はだいたいそういうことを言う」


 はああああああ???

 私がユウとマグに虐待を受けてるってこと!? ヘソで沸かしたジャスミンティーが美味しくなるわ!!!

 って口で言えたらいいのに!

 うぐぐぐぐ、このページを戻される世界が憎い…!!


「安心しろ、助けてやる」


「いみわからない! はなして! ひつようない!」


 足も使ってキイキイ暴れる。


「チッ…!!」


 ゴーグル男は私の扱いに困ったような間をあけたが、結局は乱暴に口をふさぐという結論になったらしい。


「むぐぐ…!!」



   バンッ!!



 騒ぎを察知したのか、勢いよく扉を開けて、ユウとマグが出てくる。


「ツナ!!?」


   ―――ジャッ!!


 一瞬の出来事だった。

 ゴーグル男が片手を振ると、蛇のような動きで、細い何かが飛んでいく。

 それは鉄の鎖でできた鞭だった。

 鎖鞭は熟達された技術に従うように、廊下の灯りのすべてに向けて薙ぎ払われた。

 パリパリと、飴細工のように割れていくカンテラたち。


   ガァンッッ!!


 ものすごい轟音が響く。

 一拍の後、それが銃声だと気づいたのは、マグの隣にあるカンテラだけが、守られたように残っていたからだ。

 弾かれた鎖鞭が一度地面に落ちる。


 銃弾が当たったにもかかわらず、鎖鞭は傷一つないように見える。

 このゴーグルの人は魔力持ちだし、ひょっとして、エンチャントでもかかっているのだろうか。


「ツナを放せよクソ野郎!!」


 ユウの声が驚くほど近くで聞こえた。

 ゴーグル男が鞭をふるった時には、すでに駆け出していたのだろう。


   ―――ビュッ!!


 私の耳の横を、剃刀のように鋭い風の音が通りすぎる。

 ユウの飛び回し蹴りは、しかしゴーグル男が大きく後ろに飛んでかわしたことで、空振りに終わった。

 ゴーグル男の体制が崩れるかと期待したが、彼は片手で私の口を塞いだまま抱きかかえるという器用な姿勢を保ったままだった。


   ガァンッッ!!


 間髪入れずに二発目の銃声。

 タイミング的に、ゴーグル男の着地の瞬間を狙ってのものだった。


 パン、と私の目の前で火花が散る。

 読んでいたとでもいうように、ゴーグル男が鎖鞭をふるって、銃弾を相殺したのだ。


 一つだけ残ったカンテラの灯りの中で、驚くことにマグは片手で銃を撃っていた。

 反動など存在しないように、水平を保った腕はびくともしない。意外に力でねじ伏せるパワーファイターだったらしい。


 空気の中に硝煙の匂いが混じる。

 口を塞がれていなければ、私は悲鳴を上げていただろう。

 そう、喜びの悲鳴を!


 すごいすごい、ユウとマグ、息ぴったりだよ!

 これがレッドホワイトソングバトルか~!

 

「こんな狭い所でそんなものを撃つなよ、娘に当たるだろう?」


「人攫いが笑わせてんじゃねえよ!!」


 次はユウの波状攻撃だった。

 ザザザ、と、靴が床を滑る摩擦の音。

 いつの間にかゴーグル男の後方に回っていたユウは、低い姿勢から足払いを放っていた。


   タッ、タン!


 間一髪、ゴーグル男は飛び上がり、着地先は廊下の突き当たりにある、開いた窓の桟だった。ふわりとカーテンが揺れる。


「人攫いはお前達の方じゃないのか?」


「あ? なんだと?」


 マグの構えた銃口はこちらを向いているが、目を細めてまぶしそうにした。

 窓に居るゴーグル男は、ちょうど満月を背に、逆光の位置を保っている。


「この娘の魔力量はなんだ? よほど幼い内から、ぎりぎりまで魔力を搾り取って回復を繰り返し、無理やり成長させでもしない限り、ありえない数値だ。これが虐待の跡と言わずしてなんと言う? こんなバカげた真似をする輩は、古代王国の時代に全て滅びたと思っていたがな」


 えっ、そういう設定だっけ!?

 フードファイターファンタジーⅡ、略してFFF2とか、サガガガ2~秘密伝統~、の成長システムのヤツだよね、使えば使うほどってやつ!

 じゃあひょっとして、原文を読むのがずいぶん楽になってきたのは、私の魔力が成長したせい!?


「それは本当か……?」


 初めてマグが会話に加わった。


「とぼけるなよ。お前たち、その気配は何だ? 少し歪な変質をしているが、その波形には覚えがある。古代王国の関係者だろう? パワー、回復力、凡夫の…いや、人間のそれではない。何かを犠牲に能力のブーストをしているタイプか」


 ゴーグル男は、ピピピとゴーグルを操作しながら、二人の能力を分析しているようだ。

 二人は何か思うところがあるように、ぐっと押し黙った。


「むむむーー…!」


 なんとか隙を作って逃げられないかと、ゴーグル男の腕の中で暴れてみる。


「ツナ、いいから大人しくしとけ、危ない…!」


 ユウが焦ったように言葉を投げかけてくる。

 隙を狙っているのは、ユウも同じらしい。


「安心しろ、娘。これほどの魔力の持ち主なら、妃として我が王家に迎え入れるも可能だろう」



 ロリコンじゃん!!!!!?


 えーーーかわいそう!! この人アウトローな感じでかっこいいのに!!

 さては私、この頃ロリコンって概念を知らなかった!!!!?

 ユウとマグなら5歳差くらいだけど、このゴーグルマンは10歳くらい違うよ!!?

 いや、10年後くらいに出会ったらもうロリコンとかいう感じじゃないんだけどさあ!

 私が10代だと世間の目は厳しいよ!?



「とにかく、あんたにその子に危害を加えるつもりがないのは分かった、よくわかった! ツナを放してくれ、誤解があるみたいだ、一度話し合おう」


 ほら、と今は素手であるユウは、両手を広げて敵意がないのを示してきた。

 するとゴーグル男は、クッと皮肉な笑いを浮かべる。


「随分と笑わせてくる。なるほどお前たちがこの娘を保護する立場だと仮定して、今この状況を見てみろ、守りきれてなどいないではないか。そういった意味でも、俺の手元に置いておくのが安全というものだ。どうせ旅の身なのだろう? こんな吹けば飛ぶような娘を付き合わせるつもりか?」


「それは……」


「俺はニヴォゼ国王、フィカスラータ・ニヴォゼ。名にかけて誓おう、我が手元にある限り、この娘に不自由はさせまいと。庶民では成し得ぬ力で守り切ってみせよう。日常のみならず、褥・湯浴み・不浄場に至るまで」



 ストーカーじゃん!!!!!!!!?


 この人かわいそううううううううううう!! やめたげてよぉお!!

 これは私、間違いなく知らなかったよ!!

 だって私が中学? くらいに上がっていきなり出てきたような概念だったもん、ストーカーって!!

 まあ私がそれまでほとんどニュースとか見てなかっただけかもしれないけど…!

 たぶん、『いっしょに居て守ってくれるって優しい!』みたいな単純な気持ちだったんだろうなあ、いたたまれない…!!



「わかった……」


「おいマグ!?」


 私はびっくりして、ユウと一緒にマグの方を見た。すがるような目をしてしまったと思う。


「ツナに怪我をさせたくない……ここは一度引こう……だが、王族を名乗った責任は……取ってもらう」


「ほう、どういう意味だ?」


「明日、あの船に……謁見を申し込みに行く……まさか断るまいな? ニヴォゼが群民に開かれた……国であること……見せてくれよ」


「…ハハハハッ! 冒険者とは存外小癪なようだ、いいだろう!」


「くそっ…!!」


 ユウが悔し気に拳を握る。すぐに顔を上げた。


「おい、俺からも条件がある」


「なんだ?」


「明日までにツナの言い分も聞いてやってくれ。それで全部わかるはずだ、これに頷かない限り、俺は引かねー」


「………」


 ゴーグル男……フィカスラータは私に目を向けてきた。


 まって、じゃあユウとマグと、離れ離れになるということ?

 ぜ、絶対嫌だ、寂しすぎる…!!

 なんだか泣きそうになってきた。 


「いいだろう、造作もないことだ」


 さっき全然言い分聞いてくれなかったじゃん!!


「ならば今宵はこの宝、貰っていくぞ! そうそう、トルイヌを責めるな、俺が無理やりこの宿を聞き出したのでな! さらばだ!」



   ジャッ!


 フィカスラータが腕を振ると、鎖鞭が遠くの樹木に巻き付いた。

 そのまま振り子のように、空中ブランコのように、街中を移動していく。


「やだやだ、やだよ!! ユウ、マグーーーッ!!」


 私はフィカスラータの小脇に抱えられたまま、どんどん遠くなっていく宿の窓に手を伸ばす。

 窓辺に駆けよる二人の顔が、どんどんどんどん遠くなっていった。




<つづく>



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