ルグレイの話
姫様は、おれの生きがいだ。
フェザールには、物心ついたときに初めて認識した相手へ、無条件に信頼を寄せる習性があるという。
鳥類のインプリンティングのようなものだ。
おそらく、姫様が刷り込みをした相手は、3人。
おれと、そして、記憶を失ってから始めて目にした、ユウ様とマグ様だ。
正直に言うと、ちょっと嫉妬はしている。
してはいるが、ユウ様とマグ様は尊敬できる方々だ。
姫様の周りにああいう方々が居てくださることは、喜んで受け入れなければならない。
フィカス様もそうだ。
フィカス様には、迷っていたおれの心を導いていただいた恩義がある。
フィカス様になら、姫様を安心して預けられる。
しかし、おれはたぶん、サディスティックなのだと思う。
なぜなら最近、フィカス様の前で姫様を構うのが楽しくて仕方がないからだ。
フィカス様のお気持ちに気づいていないのは、おそらく姫様だけなのではないだろうか。
フィカス様は王族なので、感情を表に出すことはない。
だけど、姫様を構っているおれの方を、じっと見てくる。
フィカス様の、そういう部分が隠しきれていないところは、失礼ながら、なんだかお可愛らしくて好きだ。
ハイド様も愛らしい。
アンタロー様と同じくらいのマスコットさを感じるほどだ。
フィカス様はよく、ハイド様の嫌がるところを見たくて、ちょっかいをかけていらっしゃるが、実はおれもそういうことをしてしまうタイプだ。
おれは、本当に皆様のことが大好きだ。
姫様が誰と絡んでいても、なんだかうれしくて、にこにこしてしまう。
おれの中で、姫様の傍に居てはいけない人物は、二人居る。
一人はティライトだ。
怪我でもして5代表を退いてくれないものだろうか。
今は身分上、ティライトの動向に口出しはできないが、ティライトがおれと同じくらいの身分になれば、姫様に近寄ることを全力で阻止できるのに。
例えば姫様にピンチが訪れたとして、ティライトはきっと、姫様が心配で庇うわけではない。
姫様を庇う自分に酔いしれるために、あいつは姫様を庇う。
そういう輩は許せない。
アイツは絶対に姫様に近づけてはならない。
あと一人は……おれだ。
ユウ様たちとおれとで、一点だけ、明確に違う部分がある。
それは、幽閉されていた姫様と、あの静かな日々を過ごしたかどうかだ。
今も、時々、あのころの夢を見る。
そして、あの充足した日々に帰りたいと思ってしまう。
事実、隙間時間に、よくそういうことを考えてしまう。
つまりおれが騎士という立場ではなくなった時、おそらく姫様をあの部屋に閉じ込めに行く可能性が高い…ということだ。
姫様は、おれにとても甘い。
どんなに外に出たがっても、おれが真正面からお願いをすれば、きっと受け入れてくださるだろう。
そして、外の世界を諦めて、ずっと二人で暮らしてくださる。
それだけは、絶対にあってはならない未来だ。
だからこそ、おれは絶対に姫様の騎士で居なければならない。
それ以外に、この生活を続けていく方法はないのだから。
姫様は、外の世界で、ようやく幸せを手に入れられた。
それを邪魔する者は、許さない。
それが例え、自分自身だとしても。
おれは姫様のものだが、姫様はおれのものではない。
大丈夫だ、この暖かな日々を続けるために、おれはずっと騎士として、姫様を見守っていける。
なぜなら姫様は、おれの生きがいなのだから。




